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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第八十三回:MADDY PRIOR『WOMAN IN THE WINGS』

「女性フォーク・シンガー」という言葉を耳にすると、「はかなげ」とか「かよわい」というイメージをしてしまうという人は多い? 今のご時世ではアウトでしょうか? イメージするだけだったらいいのかな? それを価値基準として良し悪しを決めつけたりするのが良くないのかな? いずれにせよ、よくよく考えてみるとですね、僕が好きなイギリスの女性フォーク・シンガーには、そんなに繊細な感じの人って少ないように思う。サンディ・デニー、クレア・ハミル、アン・ブリッグス、シャーリー・コリンズ、ジャッキー・マクシーと、思いつくままに名前を挙げても、実は芯が強いというか、気が強そうというか、負けん気が強そうというか、そんな感じがしませんか? ということで(?)、今回はイギリスの女性フォーク・シンガー、マディ・プライアを紹介したい。昨年末に彼女のソロ1作目&2作目が紙ジャケット再発CD化! これはめでたい!

マディ・プライアは1947年8月14日生まれ。10代後半でセント・オールバンズのパブに出入りし、ドノヴァンなどのフォーク・シンガーたちと交流。マック・マクロードとMAC & MADDYというデュオで活動をスタートする。1966年からティム・ハートとのデュオで活躍し、1968年には二人で『FOLK SONGS OF OLD ENGLAND VOL.1』、1969年に『同2』を発表する。両作ともに、モノクロの写真ジャケット。若々しいマディの写真が使われています。

FAIRPORT CONVENTIONを脱退したアシュリー・ハッチングスに誘われ、マディ・プライアとティム・ハート、アイルランドのゲイとテリーのウッズ夫妻というメンバーでSTEELEYE SPANを結成。1970年にデビュー作『HARK! THE VILLAGE WAIT』を発表。これがエレクトリック・トラッド超ド級の名盤となる。ウッズ夫妻が離脱するが、マーティン・カーシー、マルチ奏者のピーター・ナイトが参加し、1971年に『PLEASE TO SEE THE KING』、続けて『TEN MAN MOP, OR MR.RESERVOIR BUTLER RIDES AGAIN』を発表し、バンドもマディもイギリスのフォーク・ロックを代表する存在となる。

ところが創始者のアシュリー・ハッチングスが脱退。新たにリック・ケンプ、ボブ・ジョンソンが参加する。人気は衰えないどころか右肩あがりで、1972年の『BELOW THE SALT』では英43位、1973年『PARCEL OF ROGUES』で英26位、1974年『NOW WE ARE SIX』で英13位を記録する。1975年『COMMONERS CROWN』の英21位に続いて、1975年の『ALL AROUND MY HAT』では英7位の最高位を記録する。

成功の階段を駆け上がっていくSTEELEYE SPANだが、ジャケットにポートレート写真が使われているのは、ほとんどない。マディは以降もSTEELEYE SPANに関わっていくが、彼女のポートレートが表紙を飾るというジャケットは、たぶんなかったんじゃないかな、確かめていないけど。おそらくマディ・プライアは、自らのヴィジュアル面で注目されたい、そこで自己表現したいという想いは、それほど強くないのだろう。

それを証明(?)しているのが、1976年にジューン・テイバーと組んで発表した『SILLY SISTERS』のジャケットで、もうこわくないですか。互いに握手、肩を掴みあい、髪を振り乱してふりかえっている場面をきりとっている。なんでこの写真? 二人が笑顔のアーティスト写真も存在しているのに、よりによってこれ。気の強い感じというか、繊細さとは無縁の写真が使われている。

だがソロ作となれば、そこはちょっと変わるだろうということで、1978年のデビュー・ソロ作『WOMAN IN THE WINGS』です。モノクロのトーンのなか、マディは右隅にたたずんでいる。十分に残された左の余白部分に目をやり、何かにおびえているのか、胸の前で両手を握っている。ぶりっこポーズ? あざといですか? わかっちゃいるけど、キュンときます。

同年のソロ2作目『CHANGING WINDS』では、写真は写真でも、急に貫録を感じさせるたたずまいに。1982年にMADDY PRIOR BAND名義で発表した『HOOKED ON WINNING』は、顔のアップだけどイラストでした。1983年にMADDY PRIOR AND THE ANSWERS名義で発表した『GOING FOR GLORY』では、左側にいるマディが扇子を広げて掲げ持ち、目を閉じている。なんでこの写真? ちなみに同作収録曲「Deep In The Darkest Night」は名曲です。ちなみに、過去に「ロックで泣け」でもとりあげていたので、聴いてみてくださいませ。


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その後のマディです。彼女は古楽を演奏するTHE CARNIVAL BANDとの新しいプロジェクトを始動。1987年の『A TAPESTRY OF CAROLS』以降10枚以上のアルバムを発表しているが、ポートレート写真のジャケットはゼロ。1988年にはジューン・テイバーと再び組んで『NO MORE TO THE DANCE』を発表するが、英盤は文字だけのシンプルなデザインに。米盤は写真だけど、またコンセプトのよくわからないデザインです。ジューン・テイバーなんて、ふてくされているみたい。ことごとくジャケットで損しているような気がする。

1990年には、マディの夫のリック・ケンプとの連名で『HAPPY FAMILIES』を発表。二人の家族のことを仲睦まじく歌ったプライベート色の強い内容。ジャケットも子供が写ったモノクロ写真を使用した幸福感あふれるアルバムだったけど、マディとリックは後に離婚します。夫婦って、わからんもんですね。

1993年、マディはソロ名義で『YEAR』を発表。デビュー・ソロ作と並んで良いジャケットだなあと思うのが本作。当時46歳のマディが、ここへきて顔のアップの写真をジャケットに使用。しかし、たぶんこれはスッピン。なにも飾らない、ありのままのマディ。これまでかたくなに(?)自分のポートレート写真は使わなかったけど、年を重ねた今こそ自信をもって勝負! その潔さは、セルフ・カヴァーや組曲などを含む充実の内容ともあいまって、見る者の胸に訴えかけるものがある、というとほめ過ぎか? 以降はソロ作連発期に入り、2000年代まで10数枚が発表されている。ジャケットはCGを使ったものが多く、悪くないんだけどアナログ派の僕にはグッとこない。







さて、彼女のソロ・デビュー作『WOMAN IN THE WINGS』です。同作の最大の特徴は、JETHRO TULLのメンバーがほぼ総参加していること。同じクリサリスに所属していたこともあってか、マディはJETHRO TULL『TOO OLD TO ROCK ‘N’ ROLL TOO YOUNG TO DIE!』(1976年)のタイトル曲に参加。あんまり目立ってないけど。そのお返しかな、演奏面だけでなくプロデュースやアレンジでも、JETHRO TULLのメンバーが全面バックアップ。ジョン・グラスコック、バリモア・バーロウのリズム・セクションによる歌心溢れるプレイ、「Gutter Geese」ではイアン・アンダーソンがフルートを炸裂させ、「Cold Flame」ではマーティン・バレがクリアな音色のテクニカルなギター・ソロを決めている。JETHRO TULLメンバーだけでなく、LIVERPOOL SCENEのアンディ・ロバーツ、PATTOのジョン・ハルセイなども好サポート。「Deep Water」の美麗ストリングス・アレンジなど、演奏面での充実度が高い。

それに負けないのが、マディの手による楽曲群。特にアルバムの前半は、ほぼアカペラの「Mother And Child」、郷愁を誘う「Long Shadows」など、深い陰影に富んだメロディの楽曲が耳を惹く。後半はヴァラエティに富み、ヴォードヴィル調の「I Told You So」、レゲエ調の「Catseyes」、ジャズ・タッチの「Baggy Pants」など、どれだけ才能豊かやねん!と、あなたも叫ぶに違いない。

そのなかでも特に叙情的なメロディでうっとりさせるのが、アルバム・トップのタイトル曲「Woman In The Wings」だ。ジャケットに写るマディの、どこか「はかなげ」で、「かよわい」イメージをそのまま楽曲にしたような名曲だ。マディは音楽活動の多彩さに留まらず、芸術家たちのためのアートセンターを設立したり、ガン研究に助成金を出すキャンサー・リサーチUKに関わったりと、めちゃくちゃ活動的。そう思うと『WOMAN IN THE WINGS』のジャケットの「はかなげ」や「かよわい」雰囲気は、マディの人間性と異なる気がしないでもない。どちらかというと裏ジャケのアクティヴな感じの方なのかな? ともかく祝紙ジャケ化!

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

Woman In The Wings

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