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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第六十八回:KIN PING MEH『KIN PING MEH』

ネットで中古本を買おうとすると、商品説明のところに「カキコミあり」と書かれていることがある。つまり、その商品の前所有者が、何をか書きこんでいるということ。モノによっては出来るだけ美品が欲しいというのもあるだろうから、その情報は必要だろう。でも、その「カキコミ」によって、その本の前所有者の人柄とか人生が少し透けて面白いことがある。今は手元にないので不確かな記憶だけど、古本屋で手に入れた垣芝折多『偽書百撰』の最後のページに、「この本を京大に受かった甥の◯◯君に贈った。堅物にならないことを願って」と書かれていた。女性の字。自分の持っている本に、こういう一言コメントをいつも添えていたのかもしれない。それにしても、なんだか知性の高そうな、気品溢れる一族の姿が思い浮かびませんか?

ものすごい怒っている「カキコミ」もあった。それがなんと、ある文庫本の後半数ページが落丁して白紙になっているというもので、その本の最後のページに、「買った本屋に交換してくれと訴えたが、聞いてもらえなかった。変人扱いされた。腹立たしい」など恨みつらみが書かれていた。男性の字。確か20ページぐらいの落丁で、「こんなことあるんだ」と僕もビックリしたけど、前所有者も相当ビックリしたんだろう。気持ちはわかるけども、本屋に抗議しちゃダメ。出版社に言わないとね。その文庫本、ちょっとした官能小説だったんだけどね。

官能小説といえば、中国の四大奇書のひとつである古典的作品『金瓶梅』ですよね。ということで、いつものように半ば強引ですが、今回は『金瓶梅』というバンド名を持つドイツのハード・ロック・バンド、KIN PING MEHをとりあげたい。

KIN PING MEHは、ドイツのマンハイムで1970年に結成された。メンバーは、ヨアヒム・シェーファー(g)、ヴァーナー・シュテファン(vo)、トーステン・ヘルツォーク(b)、カレ・ヴェーバー(ds)、フリーダー・シュミット(kbd)の五人。いくつかのバンド・コンテストなどで優勝したのを契機として、ポリドールとの契約を獲得。早速1970年内にレコーディングを行ない、翌年にデビュー・シングル「Everything’s My Way / Woman」を発表する。

ギターのヨアヒム・シェーファーが脱退し、後任にヴィリー・ヴァグナーが加入。1971年にデビュー・アルバム『KIN PING MEH』を発表。本作からはシングル「Too Many People / My Dove」が発売されているが、「Too Many Peoople」はアルバムに収録されたライヴ・ヴァージョンではなく、スタジオ録音されたヴァージョンだった。

ロリー・ギャラガーやURIAH HEEPのサポートでツアーを行ない活躍の場を広げた彼らは、1971年にシングル「Every Day / Alexandra」をリリース。いずれもアルバム未収録曲。よりURIAH HEEPに近づいたメロウなナンバーの「Every Day」、軽快なポップ・ソング「Alexandra」と、いずれもジャーマンらしさや初期のサイケデリックな雰囲気は少なくなり、洗練されてきている。

なのに、なのにだよ!1972年に発表された2作目のタイトルが『NO.2』という何のヒネリもないものであるばかりか、ジャケットに豚がドン!というものすごいデザインに。ポリドール傘下のゼブラから発表された『NO.2』だけど、このレコーディングではヴィリー・ヴァグナーが途中で脱退し、ギターにウリ・グロースとTWENTY SIXTY SIX AND THENのゲルハルト・ムロツェクがクレジットされているなど、色々と困難なこともあったようだ。本作からは「I Wanna Be Lazy / Sometime」がシングル・カットされる。B面はアルバム未収録だが叙情的な良曲。

1973年には3作目『3』を発表。タイトル、もっとひねりなさい! 本作での正式メンバーは、フリーダー・シュミット(kbd)、ゲルハルト・ムロツェク(g)、カレ・ヴェーバー(ds)と、新たに加入したアラン・ジョー・ロー(b)の四人になっている。ヴォーカルは、ヴァーナー・シュテファンが「Love Is The Day」のみに参加で、ほかの曲はTWENTY SIXTY SIX AND THENのジェフ・ハリソンが歌っているものの、まだこの時点ではクレジット的にゲスト扱い。裏ジャケットにはメンバーと一緒に写っているけども。本作のレコーディングも色々と難しい状況だったのかもしれない。

そんな苦労してゼブラから出した3作目なのにだよ! タイトルだけでなく、ジャケット・デザインもシンプル過ぎない?! 14分に及ぶ大作でブラス・アレンジ強めの「Circus」、女性コーラスが導入された「Come On In」は興味深いし、飛び道具的なモーグ・シンセなど前2作よりもアレンジが多彩になっている。ポピュラー性も備えた良作なのにジャケットがシンプル過ぎる。

1973年にシングル「Sunday Morning Eve / Come Down To The Riverside」を発表。B面は『NO.2』収録曲、A面はアルバム未収録のブギー。同シングルを最後にゼブラから離れ、ノヴァへと移籍する。

1974年に4作目となる『VIRTUES & SINS』を発表。フリーダー・シュミット(kbd)、カレ・ヴェーバー(ds)のオリジナル・メンバーと、ジェフ・ハリソン(vo)、ゲルハルト・ムロツェク(g)、アラン・ジョー・ロー(b)といった前作参加メンバーによる五人が正式メンバーとしてクレジットされている。ハード・ロック路線に変わりはないが、ちょっとレイドバックした雰囲気とか、ブルージーなナンバーとかがあって、音楽性としてはFACESに近づいていっている。時代的にフィットする方向性と思うが。思うがだよ?!このジャケットです。これはレジに持って行きにくいよね。同作からは「Good Time Gracie / You’re A Liar」がカットされている。

1975年にはシングル「Me And I / Blue Horizon」を発表。AB面曲ともにアルバム未収録。音楽的には、よりFACESぽくなっている。さてツアーだ!という段階で、オリジナル・キーボーディストのフリーダー・シュミットが脱退してしまう。後任にはCURLY CURVEのクリス・クローバーが加入する。その1975年のツアーで録音された音源を収録した2枚組のライヴ・アルバム『CONCRETE』を1976年にリリース。どうしても自由の女神をモチーフにしたかったのかな? 同作からは「Dancing In The Street / Light Entertainment」がシングル・カットされている。

同シングルを最後にノヴァも離れたKIN PING MEHは、プロデューサーのピーター・ハウケが設立したバシラスへと移籍。1977年に『KIN PING MEH』をリリースする。ここで大幅にメンバー・チェンジしていて、カレ・ヴェーバー(ds)とゲルハルト・ムロツェク(g)以外が、チャック・トレヴァー(b)、HARDCAKE SPECIALのロン・シープメイカー(kbd)、後にLUCYやTOKYO BLADEで活躍するマイケル・ポッズ(vo)という編成になっている。ちょっとファンキーなノリも増した音楽性で、70年代中後半らしいハード・ロックといえるかも。タイトルにバンド名を冠するなど再出発に燃えていたと思われるが、このジャケットはチープすぎないか。バンド名をレタリングしている途中みたいな、という狙いはよくわかるけれども、どうにもパッとしない。と、ここで解散してしまう。


さてデビュー作『KIN PING MEH』です。東洋的な顔立ちの太った裸のおじさんが寝そべり、その周りで西洋絵画に登場する女神のような女性たちが楽しそうにしている。歴代ジャケットの中では、『金瓶梅』の世界観に近いものになっているかな。このバンド名にしたんだから、そのモチーフはジャケットに応用しないともったいない。同世代のドイツ産ハード・ロック・バンドのSCORPIONSや、以前に当コラムでとりあげ、現在まで息の長い活動をしているBIRTH CONTROLとか、ハード・ロックの邪悪&背徳的イメージを逆手にとっての危険なジャケット・センスが、話題作りとしては成功していたと思う。だけどKIN PING MEHのジャケットは、このデビュー作のようなエレガントさとユーモアのある路線でいくのか、ダーティなイメージなのか、エロなのか、全部中途半端に思えてしまう。その後徐々に音楽性を変えていきながらもクオリティの高さを保持しているのにかかわらず失速したのはなぜか。そこにはジャケット選びの失敗もあったんじゃないかと。

そんなKIN PING MEHのデビュー作だけど、内容的には、これはもう70年代の英ハード・ロックとか、ヨーロッパの70年代B級ハード・ロック好きにはたまらない好物になること請け合いです。ここでは、『KIN PING MEH』のトップを飾った「Fairy-Tales」を聴いていただきましょう。サイケ時代の匂いも込められた最高の一曲です。

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

Fairy-Tales

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