2022年10月14日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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前回の当コラムで「めんどくさい」についての話を書いた。その昔、所ジョージと明石家さんまのトーク番組で、所ジョージがある女性タレントに、「めんどくさいことが楽しいんだよ」という発言をして、それがすごく胸に響いたという話。「めんどくさいことは楽しい」、これぞ趣味に生きる人の格言だと思うけれども、そんな時に思い出すのがロイ・ウッド。この人も相当にめんどくさいことが好きなのではないかと思う。そこで前回は、彼が率いたTHE MOVEの紹介をした。THE MOVEはロイ・ウッドが始めたバンドで、数々のヒット・シングルを飛ばす。ところがメンバー・チェンジがおこり、ロイとドラムのベヴ・ベヴァンの二人だけになる。そこに新たなメンバーとしてジェフ・リンが加入。1970年に3作目『LOOKING ON』を発表する。前回紹介したのはここまでで、今回はその続き。めんどくさいことが大好き(と思われる)ロイ・ウッドの本領発揮はここから。
THE MOVEは、『LOOKING ON』発表後、ストリングスをふんだんに導入したロック・オーケストラ・ユニットELECTRIC LIGHT ORCHESTRA(以下ELO)への発展を目指す。ところが、THE MOVEで発表したシングル「Brontosaurus」が英7位のヒットを記録したことなどから、THE MOVEの活動も継続することに。1970年の6月ごろからレコーディングに入るが、THE MOVEとELOの楽曲を同時並行でレコーディング。その結果として、1971年6月にTHE MOVEの4作目『MESSAGE FROM THE COUNTRY』がリリースされ、そのわずか半年後の12月にELOのデビュー作『ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA』がリリースされる。この2枚は兄弟作といって良い内容で、いずれも名盤と思うが、商業的にはTHE MOVEの方はチャート圏外、ELOは英32位を記録している。
レコード会社のプロモーションの力の入れ方に違いがあったのでは?と思う以上に、ジャケットの影響もあったんじゃないか?と思ってしまう。ELO『ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA』のジャケットは、デザイン集団ヒプノシスが担当。格調高さを感じさせる室内に置かれた豆電球。ロックがアートになっていく時代にも呼応するシュールさとユーモアを感じさせるジャケットになっている。一方のTHE MOVE『MESSAGE FROM THE COUNTRY』はどうだろう。メンバーの顔が空に浮かび、岩の間の滑走路から、戦闘機みたいに胸を開けた鳥が手前に向けて飛んできて、岩の上にはシタールを弾く人がいてって、何それ?! このイラストを描いたのはロイ・ウッド自身。前回にも紹介したけど、THE MOVEのアルバム・ジャケットは、あまりパッとしないものが多かった。「だったら、俺が描いたっていいじゃん!」と思ったかどうか、ロイはついに自分でジャケットを描いたのでした。
順調なスタートを切って、THE MOVEからELOへ移行したはずが、1972年になってロイ・ウッドが脱退。ジェフ・リンとの競争意識もあったとのことで、ロイが手を引いた形での脱退だった。ロイは新たにWIZZARDを結成して1973年3月に『WIZZARD BREW』を発表するが、その4か月後にはソロとしてのデビュー作『BOULDERS』も発表する。
今回紹介したいのが、この『BOULDERS』。ほぼすべての楽器をロイ・ウッド自らが担当している。手拍子、コーラス、水のはねるピチャピチャという音をリズムに使ったり、強烈に弾きまくるマンドリン等々、ほぼ全部が自作自演。実は、1969年から1971年という、THE MOVEとELOの二つのバンドを動かしたりと、ものすごく忙しい時期に本作をコツコツと作り続けていたのだというから、めんどくさいこと大好き人間だと思う。『BOULDERS』の内ジャケットには、各楽器を操るロイの写真が掲載されているが、実に楽しそう。
『BOULDERS』のジャケットを手掛けたのは、もちろんロイ・ウッド自身。THE MOVE『MESSAGE FROM THE COUNTRY』に続く自作ジャケ。THE MOVEのジャケは意味不明なイラストだったが、ここでは白いバックの中央に自画像をポンと据えるという、いたってシンプルなデザインになっている。よく見ると、向かって右の髪が炎のように赤く、左が水のような緑で、それがロイの頭の上で握手するように描かれている。彼のポップ・マエストロなところと、エキセントリックな性格の二面性を表した、という解釈は飛躍しすぎかもしれないが、以降に続くロイのソロ作ジャケットの中でも、一番マトモなのが、この『BOULDERS』のように思う。実は未完成だが、所属レーベル(ハーヴェスト/EMI)の提案で、このデザインでいくことになったと言われている。レーベルが止めなかったら、戦闘機みたいな鳥やシタールを弾く人がゴチャゴチャと描かれたかも?? タイトルのBoulderというのは、大きな丸石、巨礫のことを表し、裏ジャケットでは巨礫の横にチェロを弾くロイ自身がコラージュされているけども、何か隠喩があるのかな?
『BOULDERS』は英15位を記録。同じ1973年には、WIZZARDで「See My Baby Jive」「Angel Fingers(A Teen Ballad)」と英1位シングルを連発。現在もイギリスではクリスマス時期の定番曲だという「I Wish It Could Be Christmas Everyday」も英4位を記録するヒットとなった。この頃にはTV番組にも頻繁に出演。ロイは顔にペイントを施し、髪を七色に染めて、自らウィザード(魔法使い)に扮した。まあ、めんどくさいこと好きだよね! そのヴィジュアルとTV露出によって、子供世代にもロイの人気は広がっていく。
ところが、この人気絶頂期の1974年にWIZZARDが発表したアルバム『INTRODUCING EDDY AND THE FALCONS』は、往年のロックンロールにオマージュを捧げるというコンセプト作で、シングル曲のようなポップチューンも少ない。実は当初はジャズ・ロック色強めのディスク2との二枚組とする計画もあったそうだが、それはレコード会社の判断もあって取りやめになっている。ちなみに、そのジャズ・ロック・サイドの音源は、2000年に『MAIN STREET』としてリリースされている。これもまあ、何とも言えんジャケットですが。
1975年にはソロ二作目『MUSTARD』を発表。同ジャケットもロイが担当。やけにリアルなロイの自画像の顔から手足が生えてバグパイプを吹いているという、ナカナカにエキセントリックだ。子どもウケはしないと思う。今回はレーベルも止めなかったんだろうか。当時のロイの恋人アニー・ハズラムが参加していたり、楽曲は充実しているが、チャート的には不発。ロイ・ウッドは、アニーの初ソロ作『ANNIE IN WONDERLAND』(1977年)にも全面参加。そちらでもロイがほぼ一人で演奏している。もちろんジャケットもロイだが、『不思議の国のアリス』の世界を思わせるイラストで、こちらはなかなか良い出来だ。
その後のロイ・ウッドだが、まずは人気バンドのWIZZARDを解体し、新たにWIZZO BANDを結成。1977年に『SUPER ACTIVE WIZZO』を発表するもチャート入りを果たせなかった。1979年にはソロ名義で『ON THE ROAD AGAIN』を発表するが、これはイギリス本国未発売に終わってしまう。ROY WOOD’S HELICOPTERSや、THIN LIZZYのフィル・ライノットらとのTHE ROCKERSなどで活動後、1985年に久々のソロ作『STARTING UP』を発表。だからジャケット、何とかならんかったのか?! ポップな曲も多いアルバムだが、1980年代的といえるデジタリーなサウンドは、ロイにはふさわしくないように思える。以降はライヴ中心の活動となり、オリジナル・アルバムは制作していない。いつか『BOULDERS』のように、キリッとしたメロディ満載、すべて手作りのサウンドに彩られたポップ・アルバムを!と思うが、もうめんどくさいことは嫌なのかな?
さて『BOUDLDERS』です。多忙を極める時期に、複数の楽器を自ら多重録音して作り上げるという、めんどくさい作業を極めたロイ・ウッドのソロ・デビュー作。同年に発表されたマイク・オールドフィールドの『TUBULAR BELLS』に比べたら深遠さが足りないし、ポップすぎるところが軽くみられるのかもしれないが、一人でコツコツと自分が望む音を作り上げた心意気は同じ。もっと評価されてもいいんじゃないかな?バラードからロックンロール・メドレー、ロボットの悲哀を歌った「Miss Clarke And The Computer」、凄腕のマンドリン弾きおばあちゃんを描いた「When Gran’ma Plays The Banjo」といったコミカルな曲など、ロイ・ウッドの奇想天外な発想と、それをポップ・ソングに落とし込む稀有な才能が全面開花している。ここではアルバム・トップのゴスペル風ポップ・ソング「Songs Of Praise」を聴いていただきたいと思います。複数回重ねたクラップとコーラスの温かみ、ともに歌いたくなる珠玉のポップ・メロディ。これぞロイの真骨頂ではないでしょうか。
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
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