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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第四十三回 DELIRIUM『LO SCEMO E IL VILLAGGIO』(イタリア)

8月の上旬ごろだったか、ある日突然ノートパソコンのモニター右端に黒い点のようなシミが表れた。ゴミかと思って爪でモニターをこすると、黒い点が横に伸びて、1センチぐらいの黒い線になった。「なんやこれ?」と、さらに強くこすったら、厚さ5ミリ、幅2センチほどの黒いシミに広がってしまい、そこで初めてモニターの液晶がクラッシュしていることに気がついた。購入して6年目。使用頻度からしても、そろそろ弱ってくる時期かもしれない。ある電気屋の店員に、「パソコンの寿命は5年ですよ」と言われたこともある。でも、まだちゃんと動いているし、画面上の小さな黒いシミぐらいだったら作業にも支障をきたさない。それでしばらく放置していたら、つい先日、画面中央に新たな黒いシミが登場! なるべく衝撃を与えないようにしていたが、今では幅2センチにまで広がっている。この先ドンドン広がっていくんじゃないか?そういえば、最初に表れた黒いシミもジワジワと広がっているように思える。いつか黒いシミがモニター全体を覆いつくすかもしれない。買い替える?まだ使える? ああっ憂鬱だ。

長いこと生きていれば、色んな局面で「あ、ジワジワ追いつめられてるな」と思うことがある。真綿で首を絞められているような、出口のない迷路を歩いているような不安。このコロナ渦のなかで、息苦しさや憂鬱さを感じている人も多いに違いない。ということで、今回はジワジワ追い詰められる憂鬱さを表したかのようなジャケットのDELIRIUM『LO SCEMO E IL VILLAGGIO』を紹介したい。

ジャケットの右下に人物のシルエットが見える。その人物の向こうには、サイケデリックかつアバンギャルドな光景が広がっている。プラカードを掲げて行進する人たち、寄りそう男女、口から火を噴いて戦っている奇妙な怪物、城のように積み上げられたカード、飛び交う鳥たち……など、平和と混沌を象徴するようなものが画面を埋め尽くしている。イタリア語がよくわからないので翻訳サイトでタイトルを直訳してみたら、『愚か者と村』と出た。かつて日本盤CDが発売された時の邦題は『愚者の住む村』だった。このシルエットの人物が「愚者」だろうか。

シルエットの人物の両サイドから迫って来ているのは赤茶けた砂だ。本作のジャケットは見開いて初めて全体像が分かるが、赤茶けた砂も人型になっている。この砂が左右からジワジワと押し寄せてきて、シルエットの人物を埋めてしまうかのように思える。言い知れない孤独や迫り来る憂鬱な気分を掻き立てるジャケットといえるだろう。

さて、このDELIRIUM、日本ではイタリアン・プログレのひとつとして知られているが、本国イタリアでは、後にイタリアン・ポップ・シーンで大活躍するシンガーのイヴァノ・フォッサーティが在籍していたグループとしても有名だ。

DELIRIUMの前身バンドといえるのが、SAGITTARIである。1962年にジェノヴァで結成されたSAGITTARIは、1967年にメジャー・デビューを飾るが、メンバーはなかなか安定しなかった。この1967年にオリジナル・メンバーがリカルド・アンセルミだけになってしまったことから、エットーレ・ヴィゴ、ミンモ・ディ・マルティーノ、後にNEW TROLLSのメンバーとなるニコ・ディ・パロが在籍していたBATSからペピーノ・ディ・サントとマルチェロ・レアーレを加えて活動を継続。ところがオリジナル・メンバーのリカルド・アンセルミが脱退するという事態に。そこへ加入したのがPOETIというバンドで活動していたイヴァノ・フォッサーティだった。

オリジナル・メンバーの誰もいなくなったSAGITTARIは、DELIRIUMと改名して再デビューを目指し、1971年にデビュー・シングル「Canto Di Osanna / Deliriana」を発表する。A面はイヴァノ・フォッサーティとニコ・ディ・パロの共作。B面はニコの単独作になっている。それもあってイヴァノ・フォッサーティもBATSのメンバーだったのでは?とも言われているが、確かではないようだ。元BATSのメンバーがDELIRIUMに参加していることや、同じジェノヴァ出身ということもあっての曲提供だったのかもしれない。

DELIRIUMは、1971年にデビュー・アルバム『DOLCE ACQUA』を発表。同作のジャケットは、かなりサイケデリック・テイストの強いイラストになっている。内容的にもそれに見合ったカラフルな内容で、プログレへの注目が高まっていたイタリア本国でヒットを記録。そのヒットを後押ししたのが、1972年に発表した彼らのセカンド・シングルA面曲の「Jesahel」だった。DELIRIUMは、1972年のサンレモ音楽祭に「Jesahel」を引っ提げて出場して6位を獲得。シングルは本国イタリアだけでなくヨーロッパ各国で大ヒットを記録。その追い風を受けて、デビュー・アルバムもヒットしたのだった。

続くシングル「Haum! / Movimento Ⅱ:Dubbio」もヒット。さらにテレビ番組のテーマ曲となる「Treno」をA面にしたシングルを1972年に発表するなど、イタリアでは一躍人気バンドとなるが、中心的存在だったイヴァノ・フォッサーティが脱退してしまう。サンレモ音楽祭に出た1972年の映像がYou Tubeにアップされているが、イヴァノ・フォッサーティの存在感にはかなりのものがあるだけに、バンドにとって彼の脱退は危機的状態だったはずだ。

このピンチを救ったのが、BO BO’S BANDなどで活動していたイギリス人のマーティン・フレデリック・グライスだった。この新編成で1972年に発表されたのが、『LO SCEMO E IL VILLAGGIO』である。

1974年には、同メンバーで3作目となる『Ⅲ:VIAGGIO NEGLI ARCIPELAGHI DEL TEMPO』を発表。ストリングスを効果的に用いるなど、より練り込まれた感の強い本作を彼らの代表作に推す声は高い。ところが当時は、2作目も3作目も商業的には成功といかなかった。

レコード会社をアグアマンダ・レコーズへと移籍して2枚のシングルを発表。その頃にはマーティン・グライスに代わってリノ・ディモポリが参加していた。しかし「Jesahel」に匹敵するヒットを出すことが出来ず、1975年にチェトラ・レコーズから発表したシングル「Cow Boy / Corri Bambino」を最後に活動停止してしまう。

1996年になって、マルチェロ・レアーレ、ペッピーノ・ディ・サント、リノ・ディモポリの3人で再結成し、再録と新曲を収録した『JESAHEL : UNA STORIA LUNGA 20 ANNI』を発表している。2000年代には、ペッピーノ・ディ・サント、エットーレ・ヴィゴ、マーティン・グライスらによる再々結成を果たし、オリジナル・アルバムもリリースしている。

DELIRIUMといえば、日本では特に3作目の評価が高いが、ジャケットの魅力も含めた総合点では、セカンド・アルバム『LO SCEMO E IL VILLAGGIO』に軍配が上がるのではないかと思う。前作よりもフォーク的なしっとり感、フルートのリリカルさが増していて、ジャケットのジワジワと迫って来る孤独感、閉塞感を繊細なサウンドで表現したかのような美しい作品だ。前作に比べるとイタリア特有の臭みが薄れているのは、マーティン・グライス加入の影響とみる。サウンド的にも親しみやすいし、彼ららしいポップなメロディの「La Mia Pazzia」もあるなど、イタリアン・ロック初心者にもおススメ。ここではメロトロンの活躍ぶりも印象的なアルバム・ラスト曲「Pensiero Per Un Abbandono」を紹介しておきたい。この世にはまだまだこういう美しい曲がどこかに隠れているかもしれないわけで、コロナだろうがパソコン・モニターの黒いシミだろうが、憂鬱になっている時間はないです!

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

Pensiero Per Un Abbandono

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  • DELIRIUM / LO SCEMO E IL VILLAGGIO

    フォーキーな音楽性を取り入れたイタリアン・プログレ好バンド、72年発表2nd

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