2020年9月11日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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前々回に、ヒマワリを植えようと思っているという話を書いた。まっすぐ天に向かって伸び、太陽に向かって大輪の花を咲かせるヒマワリ。その堂々とした姿が好きで、植えたいとずっと思っていたけど、枯れた時の姿がなんだか怖いと妻に言われ、これまで植えずにきた、という話でした。
ところが今年は新型コロナウイルス感染症が大流行し、ステイ・ホームが奨励されるなか、家での楽しみが増えるのはいいことと、ついにヒマワリを植えることに。しかし新型コロナウイルス感染症による生活パターンの変化が、日々に少しは存在していたはずの趣味にかける時間をギュッと圧迫。気がついたら、いつのまにか8月に突入していた。今年も無理かとあきらめていたら、秋咲きヒマワリという品種があるということがわかった。8月上旬に種を蒔いたら、秋にきれいな花を咲かせるらしい。「これだ!」と秋咲きヒマワリの種を購入。種を蒔いて、子どもと成長日誌をつけるか!なんて大盛り上がり。「芽が出たぞ!」「わー伸びてきた!」なんて毎日楽しみに水やりしていた。ところが、なんか茎がヒョロヒョロになって、上に全然伸びない。日に当たる時間が短いと、そうなるらしい。慌てて日当たりの良い場所に移すが、5つほど種を蒔いたうち、まっすぐ伸びたのは1本のみ。「この1本だけでも、キレイな花を咲かせてくれ!」と願っていたら、ようやく15センチぐらいの高さまで伸びたところで、よくわからない幼虫に葉を食べられ、茎だけの状態にされてしまった。ああっ、ヒマワリひとつで、こんなに一喜一憂させられるかね?!余計に疲れてしまいました。
ヒマワリをコワイという人がいるみたいに、感じ方というのは千差万別。僕はチョウが好きで、伊丹市昆虫館や橿原市昆虫館にある、チョウの群れ飛んでいる温室へ行くとテンションが上がるんだけど、その温室の前で「いやー、気持ち悪い!絶対入らん!」と叫んでいる女性を見たことがある。
じゃあ『GANDALF』のジャケットはどうだろうか。花とチョウで飾られた女性の顔が中央にドーンと描かれている。これを美しいと思うか、怖いと思うか。女性の目が黄色くて、こちらをギロリと凝視する表情は、どこか怖い感じがする。この顔の造形だが、ほぼ完全な線対象になっている。周りの赤いモヤは違うが、顔部分に関しては、ごく小さな黒いシミのような部分も左右対称になっている。完璧に均整のとれた顔なのだ、というところに気がつくと、なんだかこの世のものじゃない感じが強まり、怖さの方がムクムクと増してくる気もする。
僕の手元にあるサンデイズトからの再発CDジャケではナカナカわかりにくいけれど、向かって右側、女性のアゴの左下あたりに、「A LOCKART THING」と書かれている。これは、GANDALFと同じキャピトル所属アーティストのアルバム・ジャケットをいくつか手掛けたロバート・ロッカートのこと。彼はB.B.KINGが1970年に発表した『INDIANOLA MISSISSIPPI SEEDS』のジャケット・デザインでグラミー賞を受賞している。KISSのデビュー作『KISS』でもアルバム・デザインを担当している人物だ。サイケデリックなイラストから、パッと目を惹くようなデザインを得意としている。
本作も一目見ただけでインパクト抜群のジャケットになっていて、今ではアメリカの名サイケ・ロック作として、この『GANDALF』のジャケットを知っている人も多いと思うが、発売当時はそれほど話題にならなかった。というか本作が発売された時に、GANDALFはバンドとしての活動を停止していたのである。
GANDALFの中心メンバーは、ニュー・ジャージー出身のピーター・サンドである。彼のおばさんがドリー・ドーンという有名なジャズ・シンガーだったこともあって、彼も幼少期から音楽に慣れ親しんで育ったという。高校生になったピーター・サンドは、ボブ・ミューラー(ds)、ディック・ギャレット(g)の二人とTHUNDERBIRDSを結成する。ボブ・ミューラーが家庭の事情でニュー・ジャージーを離れることになり、活動を停止していた時期もあったそうだが、ボブが戻って来たことでTHUNDERBIRDSの活動を再開。1964年には、ピーター・サンド、ボブ・ミューラー、ジョー・リナルディ(b)、ポール・ヴェンチュリニ(organ)というメンバーになり、BEATLESやZOMBIESの曲をレパートリーに活動を本格化。その頃にRAHGOOSと改名している。
ライヴ活動する中でオリジナル曲もやるようになっていたようだが、音楽性の違いでポール・ヴェンチュリニが脱退。SOUL SURVIVORSへと加入する。RAHGOOSもメンバー・チェンジを行ない、ピーター・サンド(g)、ボブ・ミューラー(b)、デイヴィ・ボウアー(ds)、フランク・フバック(kbd)の四人となった。ガレージ・ロック・バンドMAGICIANSのゲイリー・ボナーとアラン・ゴードンの二人を介して、LOVIN’ SPOONFUL、ティム・ハーディンらと契約していたコッペルマン&ルービン・アソシエイツのチャーリー・コッペルマンとドン・ルービンに引き合わされる。彼らはホット・ビスケット・ディスク・カンパニーというレーベルも運営していた。ディストリビュートを担当していたのはキャピトルで、そこからリリースするサイケ・ロック・アルバムの制作のため、RAHGOOSが起用されることになった。
1967年、コッペルマン&ルービン絡みのティム・ハーディン、ボナー&ゴードンの曲を中心としてRAHGOOSのレコーディングが行われた。コッペルマン&ルービンは、RAHGOOSというバンド名が気に入らず、KNOCKROCKERSにするよう促したが、デイヴィ・ボウアーが当時読んでいたJ・R・R・トールキン『ホビットの物語』に登場する魔法使いの名前からとってGANDALF AND THE WIZARDSを提案。最終的にGANDALFとなった。
ところが肝心のキャピトルがGANDALFのアルバム発売を棚上げにしてしまう。GANDALFはRAHGOOSに戻って活動を続けていたというが、1968年には解散してしまう。ピーター・サンドは、コッペルマン&ルービン絡みのセッション・バンドとして、MAGICIANSのメンバーとBARRACUDAを名乗り、1968年にシングル「The Dance At St. Francis / Lady Fingers」を発表している。
1969年になって、突如キャピトルが『GANDALF』を発売することに。バンドの実態がないこともあって、あまりプロモーションされなかったようだ。ピーター・サンドは幾人かのメンバーとGANDALFを名乗って1971年頃までライヴ活動を続けたが、メジャー・シーンに浮上することはなかった。
そのまま忘れ去られるには、さすがにこのインパクト絶大なジャケットである。もちろん内容も含めてだが、サイケ・ロック・ファンの間で再評価され、1990年代以降には何度か再発CD化もされている。2007年にはGANDALF『2』もリリースされた。こちらのジャケットも美しく目を惹くものだが、内容はピーター・サンドのソロやGANDALFのライヴ音源、BARRACUDAの音源などを集めたものだった。
さて『GANDALF』だが、先述したように大半はカヴァー曲。演奏自体はガレージ・バンドらしいストレートさもあるが、深いエコーのかかったヴォーカルや夢見心地にさせるドリーミーなアレンジが濃厚に効いたサイケ・ロックに仕上がっている。ジャケットの二つの目に見据えられたまま、心奪われてウットリと聴ける一作です。ここでは本作中2曲ある彼らのオリジナル曲から、ラストに収録された「I Watch The Moon」を聴いてもらいましょう。
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
I Watch The Moon
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69年作、USメロウ・サイケの傑作。霧の向こうで歌っているような幻想的なヴォーカル。オルガン、ハープシコードによるドリーミーなアンサンブル。小川のせせらぎのように美しく清らかなメロディー・ライン。これぞレイト60s!ゾンビーズ『オデッセイ&オラクル』に対するアメリカからの回答!
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