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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第四十一回 KLAATU『3:47 E.S.T.』(カナダ)

「夏休み、短すぎるわ!」と、うちの子供たちが吠えていた。言わずと知れたコロナウイルス感染症の影響だ。夏休みこそ色々な体験をしたり、挑戦したりして、感性が磨かれたり人間的に成長したりする期間と思うだけに、それを縮められるのはかわいそうだなあと思うが、まあ仕方ないのかな、今の状況では。

休みは趣味でフル活用したい性質の僕にとって、学生時代の夏休みは、やってくるのが待ち遠しかったし、終わるのが残念で仕方がなかった。夏休みには、「今日はこれやって、あれやって」とスケジュールを立てて、いかに有意義な趣味生活を過ごすかに情熱を燃やしていた。あれは幸せな日々だったよなぁ。今は趣味に充てる時間もほとんどなくて、やりたいことは老後の楽しみに保留している。

それはさておき、ちょっと前まで夏休みといえば、テレビで映画がバンバン流れていた印象があって、特に深夜には毎日のように映画が放送されていて、それを夜更かしして見たように思うんだけど、最近は地上波の映画放送って少なくないですか?

僕がテレビの深夜映画にハマりだしたのは中学生の頃。関西出身の人なら覚えている人もいるかもしれないけど、読売テレビで「CINEMAだいすき!」というシリーズがあって、テーマに沿ったマニアックな映画を放送していた。NHKでもマイナーなアジア映画とかを放送していたし、サンテレビなどのローカル局で放送されるC級映画も楽しみにしていた。テレビ雑誌『TVブロス』が160円ぐらいで買えて、それを見て2週間のうちにテレビで放送される映画作品をチェック。確か「ぴあ」だったと思うが、分厚い映画カタログを出版していて、それを手に入れて、見た映画の欄にマーカーを入れたりもしていた。

その頃に見た映画のひとつに、1951年のSF映画『地球の静止する日』というのがある。クラトゥという宇宙人と目からビームを出すゴートというロボットが地球に来るというストーリー。この映画はSFファンにとって有名な作品で、2008年にはキアヌ・リーブス、ジェニファー・コネリーら出演でリメイクもされている。そちらは見ていないけど。この映画のワン・シーンが、リンゴ・スター『GOODNIGHT VIENNA』のジャケットでパロディにされている。リンゴがクラトゥ役で、隣に写っているのがゴート。

さて、今回紹介したいのはリンゴ・スターでなく、カナダのKLAATUのデビュー作『3:47 E.S.T.』です。クラトゥという変わったバンド名は、『地球の静止する日』の主人公クラトゥからとられている……というのを最近知った。だって、このファンタジックすぎるジャケットと、あのSF映画とナカナカ結びつかないでしょ?


ジャケットの真ん中には、顔のある太陽がドンと輝いている。大地にはキノコや花がはえていて、美しい羽をした蝶も見える。注目してほしいのは、ぷっくりとした体のネズミで、のんびりと太陽を見上げている姿がなんともかわいい。このイラストは裏ジャケットと対になっていて、表が朝、裏には夜の景色が描かれている。表ジャケットの大地を向こう側から見た光景になっていて、KLAATUと書かれた惑星(月?)が星空の中に浮かんでいる。ネズミはというと、青いストライプのパジャマ姿。キュート過ぎるでしょ?! このイラストを手掛けたのはテッド・ジョーンズなる人物。KLAATUのアルバム・ジャケットのほぼ全ては彼が担当している。

ではKLAATUのヒストリーを辿りながら、彼らのジャケットを紹介していきましょう。

KLAATUが結成されたのは1973年。カナダのトロントで、ディー・ロング(g,kbd)、ジョン・ウォロシャック(b,kbd)、テリー・ドレイパー(ds)の三人により活動を開始する。1973年にGRTレコーズからデビュー・シングル「Doctor Marvello / For You Girl」を発表。続いて「Hanus Of Uranus / Sub-Rosa Subway」を発表するが成功とはいかなかった。

KLAATUはダッフォディル・レコーズに移籍し、1974年に「California Jam / Dr.Marvello」を発表。このシングルをプロデュースしたのが、RUSHを手掛けて名を馳せるテリー・ブラウンだった。1975年には「True Life Hero / Hanus Of Uranus」をリリース。続いて1976年に発売されたのが、KLAATUのデビュー作『3:47 E.S.T.』である。「米国東部標準時間で3時47分」という不思議なタイトルは、『地球の静止する日』で、クラトゥとゴートが地球に来た時間だとか。僕は覚えてないけれど。

翌1977年には、あのCARPENTERSが『3:47 E.S.T.』のトップに収録された「Calling Occupants Of Interplanetary Craft」をカヴァーしてヒットさせている。同年には、KLAATUも2作目『HOPE』を発表。ジャケットはテッド・ジョーンズ。前作同様にファンタジーの要素はあるものの、退廃的で寒々しい雰囲気のイラストになっている。

1978年には3作目『SIR ARMY SUIT』を発表。顔のある太陽に向かって人々が歩いているイラスト・ジャケット。デビュー作との関連を思わせるが、本作のジャケットを手掛けたのはテッド・ジョーンズではなく、後にRUSHやDREAM THEATERなどを手掛けるヒュー・サイム。裏ジャケットは表ジャケットと対になっていて、人々が手前に向かって歩いてくるイラストになっている。裏ジャケットの隅にはネズミも描かれている。このジャケットに描かれている人物はKLAATU関係者で、KLAATUのメンバーは裏ジャケに描かれている。表ジャケットで人々の列の先頭を歩いているのがテッド・ジョーンズ、右端でこちらを振り返っているのがヒュー・サイムだとか。

続く4作目『ENDANGERED SPECIES』は1980年の発表。本作ではテッド・ジョーンズが牧歌的なイラストを提供している。よく見ると岩の上にネズミの姿も!左上に未確認飛行物体が飛んでいて、どこか非現実的な、SF的な印象を与えるものになっているのがテッド・ジョーンズらしい。

81年には『MAGENTALANE』を発表。ジャケットはもちろんテッド・ジョーンズ。薄いピンクを基調にした美しいジャケットだ。デビュー作に描かれていた太陽のマークが入った帆を持つ乗り物(?)が描かれている。まるでファンタジー映画のワン・シーンのような幻想性と、KLAATUの楽曲の背景にあるSF趣味が見事に合致したイラストになっている。だが本作はカナダのみの発売にとどまり、KLAATUも本作を最後に解散してしまう。テリー・ドレイパーは1990年代以降もソロ作をリリースしていて、彼のジャケットのいくつかはテッド・ジョーンズが手掛けている。




さて、KLAATU『3:47 E.S.T.』だ。彼らといえば、この顔のある太陽を思い出すという人も多いと思う。発表当時は「BEATLESの覆面バンドか?!」という噂もあった、というのはよく知られた話。確かにアレンジなどに後期BEATLESらしさもあるが、ファンタジーとSF趣味のある歌詞、牧歌的なメロディ・ライン、柔らかで透明感のあるサウンド・アレンジで表現されたポップな音楽性は、BEATLES云々を抜きにしても十分に魅力的な作品になっている。暑い夏にも最適です。さて、ここではCARPENTERSもカヴァーした「Calling Occupants Of Interplanetary Craft」を聴いてもらいたいと思います。ジャケットのファンタジックなイメージにぴったりの音楽性ということがわかってもらえるはず。

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

Calling Occupants Of Interplanetary Craft

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  • KLAATU / KLAATU and HOPE

    カナダ出身、ビートルズの遺伝子を受け継いだニッチ・ポップの代表格、76年1st/77年2nd

    BEATLESの覆面バンドと噂されたカナダのグループ。雑誌などのビートリッシュなポップ・アルバム企画では常連中の常連と言える76年作の名作1stと、よりプログレッシヴなサウンドを聴かせる77年作2ndをカップリングした2in1CD。やはり1stが出色の出来で、PILOTなどにも通ずるパワー・ポップなバンド・アンサンブルと、メロトロンやストリングスをフィーチャーした優美なアレンジとが絶妙にブレンドしたサウンドは絶品。

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