2020年10月6日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
タグ: ハード・ロック
スタッフ増田です。
ハード・ロック好きのスタッフ増田が大好きなギター・リフをご紹介するコラム、「このリフを聴け!」。
前回から間が空いてしまいましたが、第三回をお送りしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです!
私はいい意味で「時代錯誤」な音楽に魅力を感じます。そもそも、約半世紀前のロックに惹かれている時点で時流に乗ってはいないのですが・・・それとは別に、「かつて先駆的すぎて誰にも理解されなかった音楽」もしくは「あえて古臭い時代に回帰しているような音楽」が大好きです。
ただ後者はともかく、前者のアーティストの多くは当時、辛酸を舐める思いをしていたことでしょう。同時代の人々に評価され、アルバムが買われなければ、音楽を続けることもままならなくなってしまうからです・・・。
1970年代。ロックにおける新たな表現が毎日世界のあちこちで開拓されていた当時でさえ、その最先端をポンと飛び越えてしまったバンドが存在しました。現在ハード・ロック好きから確かな支持を得ているSIR LORD BALTIMOREも、そんな「早すぎたバンド」の一つです。
SIR LORD BALTIMOREは米国ニューヨークで結成されたハード・ロック・バンド。70年と71年に2枚のアルバムを残したものの、商業的な成功を掴むことなく解散してしまいました。
しかし、彼らはロック史に一つ確かな功績を残しました。71年のCream誌における彼らの紹介文にて、「ヘヴィ・メタル」が音楽を表す言葉として初めて使用されたのです。
そんな正真正銘の「元祖ヘヴィ・メタル」、SIR LORD BALTIMORE。スタッフ増田のオススメするリフは、1st『KINGDOM COME』の8曲目「Hell Hound」です。
まだパンクもメタルも登場していない1970年に、このギターの攻撃性、「重金属」感。同年にBLACK SABBATHの『PARANOID』も発表されていますが、やっぱりこちらの方が正気でないというか、ぶっ飛んでますね。
ガラスの破片でガリガリと金属板を引っ掻いているみたいに凶暴なギター・リフはもちろん、アンサンブル全体も危なっかしさ満点。「正確性なんていらねえ!」と言わんばかりに荒々しくかき鳴らされるパワーコード、「歌う」でも「叫ぶ」でもなく「吠える」ようなヴォーカル、勢い任せなドラムにベース。持ちうるエネルギーを本能のままに叩き付け、破綻してもお構いなし、という感じ。
この野蛮な攻撃性はメタルというよりもパンクに近いのかもしれませんが、どちらにしても、時代を先取りしていたことは確かです。今聴いても、ここまでハチャメチャな曲はなかなかないと思いますから・・・。
サウンドに衝撃を受けたのはもちろんなのですが、さらに驚いたのは、彼らが3人編成だということ。SIR LORD BALTIMOREは当時としては珍しかった、ドラム&ヴォーカル兼任のバンドなのです。
SIR LORD BALTIMOREは1968年、ブルックリンの高校生だったジョン・ガーナー(Vo&Dr)、ルイス・ダンブラ(Gt)、ゲイリー・ジャスティン(Ba)によって結成されました。彼らに目を止めたのが、後にブルース・スプリングスティーンを世に送り出す敏腕プロデューサーのマイク・アッペル。アッペルは曲作りや歌詞にも貢献し、彼らのデビュー作『KINGDOM COME』をマーキュリー・レコードからリリースする事に成功します。1970年、メンバーが弱冠18歳の時でした。
アッペルの手腕により、彼らはデビュー直後から名門フィルモア・イーストのステージに立ったり、BLACK SABBATHの米国ツアーに同行したりなど、活躍の機会を与えられます。しかし経験不足から、ステージの評判はあまり芳しくなかったとか・・・。
1971年に彼らは2nd『SIR LORD BALTIMORE』を発表。2人目のギタリストとしてルイス・ダンブラの弟ジョーイを加え、作風の幅を広げるなど新たな試みを見せたものの、アルバムの売上は散々。追い討ちをかけるようにメンバーの麻薬使用が大ごとになり、SIR LORD BALTIMOREはマーキュリー・レコードを追い出されてしまいます。
彼らは3rdアルバムの制作も視野に入れつつ活動を続けましたが、ついに彼らを受け入れるレーベルが見つからず、76年に解散。メンバーは音楽業界を離れ、SIR LORD BALTIMOREの名前は人々から忘れ去られていきました。
そんな「ボルチモア卿」が再び浮上したのは90年代のこと。BLACK SABBATHなど70年代のヘヴィなハード・ロックに影響を受けた「ストーナー・ロック」のバンド達が、SIR LORD BALTIMOREをヘヴィ・メタルのパイオニアとして再評価し始めたのです。
さらに解散から30年経った2006年、ジョン・ガーナーとルイス・ダンブラの2人が再会し、SIR LORD BALTIMOREが復活。作りかけのまま終わってしまった幻の3rdアルバムの制作に着手し、『SIR LORD BALTIMORE III RAW』として通信販売限定で配布しました。現在、このアルバムは1st〜3rdの全スタジオ作品を収めた、19年リリースのボックス『COMPLETE RECORDINGS 1970-2006』にて聴くことができます。
昨年7月、ギタリストのルイス・ダンブラがお亡くなりになったというニュースがありました。ガーナーも15年にこの世を去っており、ゲイリー・ジャスティンは音楽業界に戻っていません。再評価はあったものの「知る人ぞ知るバンド」として終わってしまったSIR LORD BALTIMOREですが、当時評価されなかった分、この先も長く評価されていって欲しいと思います。
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アメリカを代表するヘヴィ・ブルース・ロック・バンド。70年作の1st「KINGDOM COME」と71年作の2nd「SIR LORD BALTIMORE」との2in1CD。重厚なリズム、鋭角なファズ・ギター、野太くシャウトするエキセントリックなヴォーカル。70年代初期とは思えないヘヴィ過ぎるサウンドは圧巻の一言。
ニューヨークはブルックリン出身の轟音ハード・ロック・バンド。71年作の2nd。デビュー作はトリオ編成でしたが、ギタリストが加わり、ツイン・リード編成の4人組で録音されています。荒々しくかっ飛ばす轟音ハード・ロックのデビュー作から一転、アコギによる幽幻なパートやハードさの中に叙情性を感じさせるスローなパートを織り交ぜるなど、ドラマ性を増した重厚なハード・ロックが印象的。凄まじいテンションで鋭角に切れ込むリード・ギターやツェッペリンにも負けないような轟音リズム隊など「元祖ヘヴィ・メタル」と言えるヘヴィネスも健在で、デビュー作に負けず劣らずのハード・ロック・クラシックと言えるでしょう。名作です。
オリジナルと異なるデザインの再発ジャケット(黄色い文字が円形に配置されたオリジナル・ジャケットの【BIGPINK619】と同一タイトル。収録内容は同じなのでご注意ください。)
盤質:無傷/小傷
状態:良好
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