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「音楽歳時記」 第六十九回 10月26日 サーカスの日 文・深民淳

10月26日は「サーカスの日」なのだそうです。1871年(明治4年)、東京九段、招魂社(靖国神社)で、フランスの「スリエサーカス」が日本で初めて洋風のサーカスを興行したのに因み制定された記念日だそうです。このスリエサーカスは小規模の興行で、我々が想起するようなスタイルのサーカスが日本で行われたのは1886年(明治19年)のチャリネ曲馬団が最初だったそうな。

いきなり脱線しますが、同じ10月26日、TVCMでもお馴染みのアサヒ緑健が青汁の日に制定しております。10をアルファベットのIOに見たてて「青」と読み、26を「汁」と読む語呂合せ。10をIOに見立てるんですか・・・In/Outとか二進法が思い浮かびます。なんか青汁、デジタルっぽい。

さて、サーカスの日。サーカスというバンド・グループ、結構ありますね。日本にもあります。サーカス、「ミスター・サマータイム」ね。昭和歌謡の世界ですね。

海外に目を向けるとまぁ、ありがちな名前だけあって多いです。レア盤アナログ・ブーム黎明期の人気盤だった“K”のCIRKUS、現在もクリムゾンのメンバーとして元気に活動中のメル・コリンズのCIRCUS、スイスのジャズ/プログレッシヴ・ロック・バンド、CIRCUS、70年代初めにはアメリカにもCIRCUSいましたし、イタロ界にはCIRCUS 2000があって、どちらかとフォーク系アーティストが多かったアメリカのVangurdレーベルから60年代後半アルバムを2枚出したCIRCUS MAXIMUSなんてバンドもありました。このバンドは67年という時代を反映したBUFFALO SPRINGFIELD風のサウンドを持ったバンドで、「Mr. Bojangles」のヒットで知られるシンガー・ソングライター、ジェリー・ジェフ・ウォーカーが在籍していました。フランスにはMARTIN CIRCUS。ヘヴィ・メタルの世界ではW.A.S.P.がデビュー前CIRCUS CIRCUSを名乗っていたという話もあります。他にも相当数CIRCUSもしくは何とかCIRCUSなるバンドが存在します。

そんな中から今回はメル・コリCIRCUSを取り上げます。メル・コリCIRCUSはコリンズがKING CRIMSONに参加する前に在籍していたジャズ・ロック・バンドとして知られています。

コリンズがCIRCUSから移籍したCRIMSONのThe King Crimson Collectors’Clubアーカイヴに残された数少ない1969年ライヴ音源の中に1969年8月9日PLUMPTON FESTIVAL公演(ちなみに土曜日)というのがあるのですが、この日付が正確なものなのかちょいと疑問でした。というのもCRIMSON以外にも69年のPLUMPTON FESTIVAL音源いくつかあるのですが、フェスってくらいなので週末に行われたんでしょうが、同じ8月でも別の週の週末の日付のものがある。これ正しいのかというのがよく分からなかったわけ。添付の写真はPLUMPTON FESTIVALのプレス・リリースで裏面がPLUMPTON FES.を主催しているMARQUEE CLUBの8月の出演予定一覧なのですが、ちょうどCRIMSONがMARQUEEのレジデント・バンドになっていて、毎週日曜に定期出演している時期。土曜にPLUMPTON FESTIVALに出演して日曜はロンドンに戻ってMARQUEEに出演。The King Crimson Collectors’Clubアーカイヴに記された日付は正しいのでしょう。

それにしても出演予定アーティスト、豪華です。!付き表記のYES、オリジナルのRENAISSANCE、COLOSSEUM、FAMILY、BLODWYN PIGなんていうそそられるラインナップの中にCRESSIDAの名前があったり、LOVE SCULPTUREとGROUNDHOGSのカップリングなんていうのもあります。そんな中にメル・コリCIRCUSの名前もあります。最初は8月1日USツアーに出る前のCOLOSSEUMの「しばらくイギリスを離れます公演」のサポート。その後毎週水曜にMARQUEEが「New Path/新たな道」と題した当時のジャズ・ロック最前線を紹介といった企画イベントとしてKEITH TIPPET GROUPと4回競演しています。盟友キース・ティペットのMARQUEEクラブへのシリーズ出演を観にきたロバート・フリップはこの時のCIRCUSの演奏を観て、翌70年『ポセイドンのめざめ』制作時にコリンズに声をかけるわけですから、彼にとってはこの時のMARQUEE出演はその後の彼の人生を考えると重要なイベントだったわけです。

メル・コリンズ自身、この「New Path/新たな道」出演時ことを2017年に発表されたKING CRIMSONの『Sailors’ Tales』ボックスのブックレットの中でこう語っています。

「私たちはジャズをやろうとする若造ロッカーだった。客が全員、知的で本格的なジャズ・ファンだったらどうしようと思っていたよ。そんな人たちを満足させられるわけがない。私たちはジャズ・ロック・フォーク・バンドと紹介されていたが、ジャズ・ロックを演っているとは思っていなかった。夢中になっていた好きな音楽を演っていただけだった」

MARQUEE側がキース・ティペットとCIRCUSのカップリングをブッキングしたのは、前衛最前線のティペットとフォークの総本山とも言えるTRANSATLANTICレーベルからデビューしただけあって、フォーク・テイストも巧みに取り込んだCIRCUSをアンチ・ポップとポップ・サイドのオルタナティヴとして対比させて見せたかったという意図があったのでしょうが、キース・ティペット目当てで来るすれっからしのジャズ・ファンにCIRCUSが負い目を感じていたのはなんか良く分かります。毎週演奏の場を得られることは喜ばしいけど、ちょっとビビっていた感がコリンズの発言に滲み出ています。

さて、そのCIRCUS。1969年発表の唯一作。コリンズは「ジャズ・ロックを演っているとは思っていなかった」という発言とは裏腹にフロント・アートワークを見た瞬間にあ、これ、ジャズ・ロックとしか思えません。ツイン・バス・ドラムにツイン・タム、バス・ドラムのヘッドのイラストの雰囲気もモロにジョン・ハイズマンに寄せているドラム。首からテナー・サックス提げてフルートを吹くコリンズ。これで演っている音楽がジャズ・ロックじゃなかったら逆に凄いといった趣の鉄板の演出です。

しかし、コリンズ発言の中に「私たちはジャズ・ロック・フォーク・バンドと紹介されていた」とあるようにCIRCUSのサウンドは当時のジャズ・ロックの主流だったCOLOSSEUM流れ、アメリカのBLOOD, SWEAT & TERAS流れを汲んだ音圧高め、演奏傾向暑くるし目とは異なるアコースティックな響きとサイケデリック・ムーヴメントの空気感をほんのり漂わせたサウンド傾向を持ち、そこがMARQUEEが企画した「New Path/新たな道」イベントに抜擢された要因となるわけです。

フォークのテイストを持ち込んだジャズ・ロックが他になかったわけではなく、同じ69年デビュー組でDERAMとDECCA/DERAM NOVAから2枚のアルバムを発表したGALLIARDなんかも管楽器が活躍ジャズ・ロック然としたサウンドとアコースティック・ギター主体のフォーク・タッチの楽曲が同居するサウンドを打ち出していました。ただGALLIARDの場合は管入り圧高めのジャズ・ロックとフォーク系楽曲がパッキリ2系統に分かれており、それに比べるとCIRCUSはその境界が曖昧で、よりフレキシブルなサウンドでしたし、かなりポップを意識した普遍性も持ち合わせていました。

アルバム、トップに置かれたTHE BEATLESのカヴァー曲「Norwegian Wood」こそ、COLOSSEUMを想起させる重量感溢れるジャズ・ロック展開ですが、続く「Pleasures Of A Lifetime」は一転、サイケデリック・ムーヴメントのミスティな空気を前面に打ち出した楽曲。気怠いジャズ/フォーク展開のヴォーカル部からテンポアップしてコリンズのサックス・ソロへ移行の後、再びテンポダウンしヴォーカル・パートのヴァリエーションとなり、そこに今度はフルート・ソロが入り、再びヴォーカル・パートに戻るのですが、バックのリズムは最初のヴォーカル・パートとは違ったものになっているという、かなりしっかり構成された楽曲。メロディもブリティッシュ・ロック然とした霧がかったムードを醸し出しておりいます。

Norwegian Wood

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Pleasures Of A Lifetime

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しかし、ここからが中途半端というか、やりたい事をまとめて詰め込みましたみたいな感じに変化。まさにコリンズ発言の「夢中になっていた好きな音楽を演っていただけだった」を地で行く展開の中間部に突入。

まず最初がジャズ・ファンならほとんどの人が知っている「St. Thomas」。サックス奏者ソニー・ロリンズの鉄板の名盤『Saxophone Colossus』のオープニング・ナンバーとしてあまりにも有名。ジャズに詳しくなくてもメロディを聴けばほとんどの人があ、これかと分かるのではと思います。元々はイングランド民謡「The Lincolnshire Poacher」の旋律がヴァージン諸島に伝わり子守唄に変容。ロリンズは母が歌ってくれた子守唄のメロディを思い浮かべこの曲を録音。元はイングランド民謡でもヴァージン諸島に伝わった事でカリプソの味付けがのった形になるのだが、そのカリプソ風味はオリジナルにもこのCIRCUSヴァージョンにも残されています。またこの曲を取り上げた事でコリンズはソニー・ロリンズから影響を受けていることも判ります。これに続くのがサックス・メインのイージー・リスニング・ジャズ「Goodnight John Morgan」。尺も2分弱と短くオリジナルのアナログ盤ではA面の終わりに置かれているので、インターミッション的役割を持ったナンバーなのだろうけど、直前の「St. Thomas」と続けて聴くと、MARQUEEの企画イベント「New Path」向きというよりほとんどオールド・スクールのジャズ・バンドといった印象。

最初の2曲との落差はかなり激しいですね。タイトルにあるJohn MorganはSPIRIT OF JOHN MORGANを率いたキーボード奏者ジョン・モーガンのことなのでしょうか?

St. Thomas

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アナログではB面1曲めに当たるTrack 5「Father Of My Daughter」は非トラッドのポップなフォーク・ナンバー。作曲者はコリンズ。ボケっと聴いていると「何聴いていたんだっけ?」と思うくらいジャズ・ロックからは遠くに飛ばされてしまうナンバー。

そしてこれに続くのがチャールズ・ミンガス1964年作『Mingus Mingus Mingus Mingus Mingus』に収録されていた「II B.S.」これもジャズ・ファンには馴染みの深い曲。無難な演奏ではあるのだけれども、コリンズ以外のメンバーは一杯一杯の感じが濃厚。曲調からしてかなり熱を帯びるタイプの曲なのだが、後半のコリンズ、サックス・ソロまで何と無くフラットな印象。ここから想像されるのはコリンズがやりたくて無理に突っ込んだということ。これもメル・コリンズのプレイスタイルのオリジンを確認できるナンバーでしょうね。

「II B.S.」に比べると遥かにリラックスしており、コリンズ以外のメンバーの演奏も地に足がついた感があるラスト2曲はどちらもカヴァー曲。そしてまさにジャズ・ロック・フォーク・バンド然とした演奏を披露しているナンバー。「Monday Monday」はTHE MAMAS & THE PAPAS 1966年作『If You Can Believe Your Eyes And Ears』収録曲。ラストの「Don’t Make Promises」はティム・ハーディン、こちらも66年作『Tim Hardin 1』に収録されていたナンバー。

Monday Monday

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こうしてアルバムの構成を再確認していくとこのCIRCUS、決してジャズ・ロックの新しい道を切り開くタイプのバンドではなかったし、バンドの能力的にも決して秀でたものを持ったバンドではないですし、収録楽曲同士の整合感も今ひとつ。それを差し引いてもどこか魅力的に聴こえてしまう最大の要因はやはりメル・コリンズのプレイに人を惹きつける魅力があった。これに尽きると思います。メル・コリンズの出発点であり、彼が受けた影響が素直に出た作品でしょう。かなりとっ散らかった影響の受け方なんですが、これだけとっ散らかりながらも最後まできっちり聴かせるのは逆に至難の技だと思います。

結局、メル・コリンズは翌70年にはフリップに誘われCIRCUSを脱退したものの、『ポセイドン〜』制作後、CRIMSONはライヴ活動を再開できなかったため、再びCIRCUSに出戻るのですが、出戻った直後に『Lizard』の制作が開始され、再び脱退しCRIMSONに移籍。うちのバンドの中心人物何するんじゃ!と怒り心頭のTRANSATLANTICはEGマネージメントに2000ポンドの賠償金を請求しますが、話し合いの結果賠償金は500ポンドとなり、半分の250ポンドをEGがそして残り半分をメル・コリンズ本人が払う結果となります。コリンズ抜きのCIRCUSは自然消滅に近い形で解散してしまいます。

最初の方で名前を出したCIRCUSの中で最も馴染みがないのがアメリカのCIRCUSかと思います。Discogsによれば1974年にアルバム『Circus』1枚を残したのみのバンドです。ウィスコンシン州マディソンのローカル・バンドで当時はローカル・エリアではそこそこ人気があり、メジャー・バンドのサポートも度々務めたそうですが、ほとんど記録は残っていません。サウンドは典型的なアメリカン・ロック。B級アメリカン・ロックの鏡みたいなバンドで軽快なブギー・スタイルのナンバーからカントリー・ロック、サザン・ロック風、果てはパワー・ポップ風までと節操無くというかオールラウンドでこなすバンドでした。その後他のバンド等で名を成したメンバーもいません。

にも関わらず僕はなんでこのバンドのLPを持っているかと言えばこのアルバム、THE KINKSの「Skin & Bones」のカントリー・ロック・アレンジのカヴァーが収録されているから。まぁ、オリジナルの「Skin & Bones」自体カントリー・ロックっぽい作風なのですが、このCIRCUS USヴァージョン。メイン楽器がバンジョーという思い切り振り切ったアレンジが施されているわけです。オリジナルの持つあの洒脱な味わいには遠く及びませんが、このCIRCUS US版も結構C調で良かったりします。まぁ、CIRCUSと言えばということで思い出した作品ですが、20数年ぶりに聴いたらそれなりに楽しめてしまいました。中でも12分を超える「Old Age」は中間延々と続くシンセサイザー・ソロが結構新鮮で楽しませてもらいました。こんな細かいものはCD化されていないだろうと思ったらロシア盤でどうもあるらしいです。正規のリリースかどうかは不明ですが、これをブートでCD化というのも考えづらいしねぇ・・・・。

Monday Monday

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今月の1枚はCIRCUS繋がりでARGENTの『Circus』を聴きたいと思います。1975年発表、ライヴ・アルバムを含め7作目の作品です。

ARGENTは元ZOMBIESのロッド・アージェントとラス・バラードが在籍した時代の作品の人気が高く、ラス・バラード脱退後ヴォーカル&ギターにジョン・ヴェリティ、ギターにジョン・グリマルディが参加したこの『Circus』、ARGENTとしての最終作『Counterpoint』は一ランク下に見られているように思いますが、なかなかどうして、2作とも完成度高いです。

サウンド的にはプログレ度が上がり個人的な印象としてはSTACKRIDGEとGREESLADEとBRAND X(ついでにELOまぶしも少々)が合体したかのようなイメージを抱いています。この『Circus』は収録曲も「Highwaire/綱渡り」、「Clown/ピエロ」、「Trapeze/空中ブランコ」、「The Jester/道化師」とサーカス由来の楽曲で纏めたコンセプト・アルバム仕立てになっており、ハーモニー・ポップからハード・フュージョン寄りのプログレ楽曲までじっくり聴かせる素晴らしい仕上がりになっています。これもまた捨てがたい魅力に溢れた『Counterpoint』と併せてお楽しみいただければと思います。

Trapeze

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