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「音楽歳時記」 第六十六回 追悼・K.ティペット+サラウンド問題 文・深民淳


キース・ティペットが亡くなりました。カケレコ・ホームページでも追悼文が掲載されていまし、Webニュース等でも伝えられていましたので周知のこととは思いますが、72歳、心臓発作だったそうです。

昨年、DGMのデヴィッド・シングルトンがヒィヒィ言いながら毎週更新していたクリムゾン・デビュー50周年企画「KC50」の第36週で公開された「Cat Food」のフューチャリング・キース・ティペット・ヴァージョンが話題となり、今年の3月にはそのヴァージョンも収録された「Cat Food」のシングルが発表された矢先の訃報でした。カケレコ・ホームページの追悼文に続く試聴リンクの最初に載っているのがまさにその「KC50」第36週のキース・ティペット・ヴァージョンです。その週のシングルトン氏のコメンタリー訳をここに引用しておきます。

「“Catfood”は1970年3月にシングル・リリースされました。

その際、キング・クリムゾンとしては最初で最後、BBCのトップ・オブ・ザ・ポップスに出演したのですが…

この変則ビートは、いわゆる一般オーディエンスには、まるでビートが足りないように映ったはずです。ロバートは今でもその時の不思議な光景を語ります。合わせて踊ろうとするダンサーたち。カメラ用にへたくそなアテ振りをするバンド・メンバーたち!

この時の映像はBBCが消去し、失われたと長年思われていました。実際、彼らは他のどの会社よりも貴重な映像を消してきたと思われます。でも、ありがたいことに、ドイツのヒッツ・ア・ゴーゴーという会社がライセンス契約を結んでいました。おかげで最近になってふたたび世に現れたのです。

“Catfood”の付加価値という点では、その数ヶ月前、グレッグ・レイク、マイケル・ジャイルス、イアン・マクドナルドが一斉に脱退を表明しました。が、このシングルをリリースすることで、ロバート・フリップとピーター・シンフィールドから続投表明がされたと言えます。

もちろん、シングルにもアルバム『In The Wake of Poseidon』にも、グレッグとマイケルは参加していますが。

今回のこのミックスには、オリジナル・ヴァージョンとは違う要素が含まれている一方で、最後のエレクトリック・ギターラインが取り除かれています。しかし何より、キース・ティペットの、素晴らしくラウドで威厳に満ちたピアノ・パートにスポットライトが当たるのはとても喜ばしいことです」

自分の仕事柄、どうしてもクリムゾン側から見たキース・ティペットになってしまうのですが、僕はキース・ティペットの存在が1969年12月に起きたロバート・フリップにとっての最初の決定的バンド崩壊の危機を救った存在だったと思っています。若く自由闊達なこの表現者の存在は、図らずもキング・クリムゾンの存続を背負うことになったフリップにとって、クリムゾン固有のアイデンティティーを構築する上でキース・ティペットの存在は輝かしく、希望という言葉で置き換えても過言ではない存在だったと思います。

THE KING CRIMSON COLLECTORS’ CLUB DATA BOOK Vol.2に掲載した原稿を拙文ではありますがここに引用させていただきます。(そのまま引用しているためアルバム名等が全てカタカナ表記になっています)

『ポセイドン〜』から『アイランズ』に至るまでキース・ティペットはロバート・フリップにとって重要なアーティストであった。他のメンバーはどうだったかというと、ゴードン・ハスケルは「キース・ティペットが帰った後のリハーサル・ルームでロバートに“あれじゃ猫がピアノの上歩き回っているみたいにしか聴こえない”と言ったんだ。すると彼は“ああ、だがキースは自分が何をやっているかわかっている。猫は違う”と言うから、“でも音は同じじゃないか”と私は言ったよ(『セイラーズ・テールズ』ブックレットより)」と発言。

いい話である。まるで禅問答のようだ。その猫が鍵盤の上を歩き回るかのようなピアノをフリップはことの他重用した。当時ティペットと結婚したジュリー・ティペット(ドリスコール)共々、クリムゾンの共同パートナーとして参加しないかと打診までしている。結局、丁重にお断りされたのではあるが・・・。

フリップにしてみれば、『宮殿』クリムゾンで確立した英国産ジャズ・ロックの頂点を越えフリップ・クリムゾン固有のアイデンティティを確立する上でこの「猫鍵盤」キース・ティペットをはじめとする英国フリー・ジャズ・シーンのインプロヴィゼーションが重要なファクターとなると考えていたのだろう。ハスケルに「猫鍵盤」と言われようが、そんなことはどうでも良いのだ。フリップはそこに目をつけ、自分の頭の中で鳴っているものの中から、しっかり『太陽と戦慄』を拾い上げたのだから。(中略)

『ポセイドン〜』から『アイランズ』に至るまでキース・ティペットはロバート・フリップにとって重要なアーティストであった。他のメンバーはどうだったかというと、ゴードン・ハスケルは「キース・ティペットが帰った後のリハーサル・ルームでロバートに“あれじゃ猫がピアノの上歩き回っているみたいにしか聴こえない”と言ったんだ。すると彼は“ああ、だがキースは自分が何をやっているかわかっている。猫は違う”と言うから、“でも音は同じじゃないか”と私は言ったよ(『セイラーズ・テールズ』ブックレットより)」と発言。

いい話である。まるで禅問答のようだ。その猫が鍵盤の上を歩き回るかのようなピアノをフリップはことの他重用した。当時ティペットと結婚したジュリー・ティペット(ドリスコール)共々、クリムゾンの共同パートナーとして参加しないかと打診までしている。結局、丁重にお断りされたのではあるが・・・。

フリップにしてみれば、『宮殿』クリムゾンで確立した英国産ジャズ・ロックの頂点を越えフリップ・クリムゾン固有のアイデンティティを確立する上でこの「猫鍵盤」キース・ティペットをはじめとする英国フリー・ジャズ・シーンのインプロヴィゼーションが重要なファクターとなると考えていたのだろう。ハスケルに「猫鍵盤」と言われようが、そんなことはどうでも良いのだ。フリップはそこに目をつけ、自分の頭の中で鳴っているものの中から、しっかり『太陽と戦慄』を拾い上げたのだから。(中略)

1971年から1973年までの3年間の間にロバート・フリップはキース・ティペット関連の作品を3作プロデュースしている(総プロデュース数は5作)。クリムゾンへのティペットのゲスト参加への返礼という意味もあったのだろうが、それ以上に、英国フリー・ジャズ最前線で活躍するティペットのインプロヴィゼーション手法を見てみたいという興味が先立っていたのだろうと思う。

最初の作品は1971年RCA傘下に設立されたネオン・レーベルから発表されたセンティピード(ムカデ)。ティペット作のビッグ・バンド用4楽章構成の楽曲『セプトバー・エナジー』をソフト・マシーン、ニュークリアス、クリムゾンら英国ジャズ/ジャズ・ロック・シーンで活躍するメンバーが集結し演奏するという、イベント性の強いプロジェクト。1970年11月ロンドン、フランス、オランダでライヴを行い。1971年6月にレコーディングされ、同年10月に発売された。時期的に『アイランズ』の制作開始期に重なっていた。

続いては1972年に発表された『ブループリント』。時期ははっきりしないが72年録音とある。ロイ・バビントン(b)、フランク・ペリー(ds)、ジュリー・ティペット(vo, g)。電気楽器不使用でティペット初の全編インプロヴィゼーション作品。

この『ブループリント』制作メンバーからジュリーを除いたトリオ編成で結成されたオヴァリー・ロッジの1st『オヴァリー・ロッジ』が1973年発表。これも全編インプロヴィゼーション作品となっている。

フリップはプロデュース・クレジットはあるが演奏はどれも参加していない。実は名前貸しの可能性もあるが、特に1972年の『ブループリント』は『太陽と戦慄』制作(特に「太陽と戦慄 パート1」)、太陽と戦慄クリムゾンのライヴにおけるインプロヴィゼーションに大きな刺激、影響を与えている。『ブループリント』制作と72年3月12日サミット・スタジオにおけるスタジオ・ライヴ、どちらが先だったか定かではないが、フリップにとってより好ましく、進むべき方向への指針となったのは間違いなく『ブループリント』セッションで目にしたものであった。

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現在キース・ティペット関連商品で最も入手しやすいのは拙文にも出てきた『Septober Energy』。昨年ソニー・ミュージックから紙ジャケットで再発されています。当時の英国ジャズ/ロック・シーンを代表する楽器奏者、ヴォーカリストが一堂に会したフリー・ジャズとヴォーカリーズを合体させた壮大なジャズ・オーケストラ作品。今回の訃報で年齢を知り、この作品の製作総指揮を担当したときはまだ20歳代前半だったことに驚いています。同作品のクレジットを見てもらえばわかりますが参加人員が半端なく多い上アクの強うそうなミュージシャン揃いです。

それにも増して聴いていただきたい作品は1972年発表の『Blueprint』と1973年の『Ovary Lodge』。『Blueprint』はクリムゾンの『Larks’〜』を聴いてから聴くとそのフリーフォームの表現の中に『Larks’〜』アルバム、特に「Larks’〜Part1」へ繋がっていく断片があちらこちらにあることが分かりますし、『Ovary Lodge』は『Starless And Bible Black』とセットで聴くとインプロヴィゼーション「Trio」や『Starless And Bible Black』の最重要収録曲と言っても過言ではない「Fructure」に通じるアイデアの断片が見て取れますし、そこから20年以上先に出てくる『THRAK』にもその影響は及んでいます。ダブル・トリオ・クリムゾン活動当時、そのブートレグ音源に収録されていた「Thrak」を初めて聴いた時、僕は「クリムゾンなんでOvary Lodgeの“First Born”のカヴァーやっているんだろう?」と思いましたから。『Ovary Lodge』のオープニング・ナンバー「First Born」はホント、モロに「Thrak」です。

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クリムゾンに比べかなり敷居が高い作品が多く、手を出しづらいアーティストかもしれませんが、追悼の意を込めより多くの人に聴かれることを望みます。音楽家は作品聴かれてナンボの商売ですから。聴くことが最大の追悼になると思います。

 


 

さて、話は変わります。緊急事態宣言発令中の軟禁状態を利用して音源ゴミ屋敷と化していた部屋を7年ぶりくらいに片付けました。石筍のごとく乱立するCDの塔、下手に触ってしまうと雪崩てしまうLPの塊、雑誌および本、何年前のかよく分からない郵便物、楽器関連の機材、整理整頓を是とした瞬間にこんな無駄にでかいものを作りやがって、メーカーはバカなのかと怒りがこみ上げるCD、LPのボックスセットを1週間かけ大整理を敢行。

大掃除前は自由に動けるスペースがほぼ半畳状態だったのが、久々に部屋で生活可能なくらいまで回復。掃除前のイメージはよくTVとかで取り上げられているゴミ屋敷・ゴミ部屋そのものと思っていただければほぼ間違い状態でしたね。ゴミ屋敷・ゴミ部屋との大きな違いは、床を覆い尽くし、空間を滅茶苦茶にして入るものの、ほとんどのものは金銭化できるという点。ゴミなら捨てればそれまでなんですが、捨てちゃうと差し障りがあるものが多く、スペースを確保するためには、どう収納するかが勝負だったこともあり、結構時間が掛かりました。

LPはこの10年くらいどんどん売り飛ばしてきたにもかかわらず、まだ壁一面占拠状態。ただそんなものは手っ取り早く良い金になるから売り飛ばしてだろう、と思っていたものがあちこちから出てきて、かなり楽しかった次第。なぜかLPの背の部分を反対にして突っ込んでったENGLAND『Garden Shed』は何故反対と考えてみれば、レア盤扱いで売られているオリジナル盤の背の部分がほとんどものが日焼けして色が抜けていたのを見たから反対に入れてあったことを思い出し、5枚もあったデヴィッド・ボウイ『Ziggy Stardust』は表も裏も結構変化があるので、見た目違いで集めたことを思い出しました。『Ziggy Stardust』はボウイのプロダクションが変わるタイミングで出た作品なので裏面がGEM名義のものとMAINMAN名義のものがあるのは有名ですが、表の写真も時期によって微妙にトリミングが違うんです。左右の見切りの位置が微妙に異なっています。

同一タイトルで最も数が多かったのはYES『Close To The Edge』。高く売れるので米盤プロモ・オンリーのモノ盤と英盤マト1/1は売り払った後ですが16枚ありました。英盤マト違いおよびレーベルにワーナー・マーク有無のコレクションが5枚、米盤ステレオ・プロモ盤他米盤関係3枚、モービル・フィデリティ盤やらFRIDAY MUSIC盤やら高音質・重量盤関連4枚、残りが国内盤という感じでした。CDメインのウェブショップのコラムでアナログ盤の事書いてもしょうがないのですが、YESのラジオ局用プロモ盤は結構侮れないです。『Close To The Edge』とか曲が長いのでプロモ盤にはかけて欲しい部分に針を落とせるようによく見ると通常の商品盤とは溝幅が違う部分があるんですね。プロモ用と商品盤はメタルマザーが違うという事なんでしょうね。

話がアナログ方面に流れたので元に戻します。大掃除によりスペースが確保でき、数年前から調子が悪かったCDプレイヤーが遂に要交換となり、非力だったサラウンド環境も仕事柄テコ入れしなきゃならんという必要に応じ、AVアンプを大幅にグレード・アップ。スピーカーは使っていないのが結構あったので、それを活用しつつ、サブ・ウーファーを1台追加し7.2ch化すると同時にTHE BEATLES『Abbey Road』50周年盤で話題になっていたDolby Atomos用のイネーブルド・スピーカーも追加。Dolby Atomosミックス鳴らしてみました。

その前に出た時に買って5.1chミックス聴いたもののなんだか騒々しくてグッタリ感があった『Sgt. Peppers』を再試聴。アンプを変えた効果絶大で以前の安いアンプの時に感じたギスギスした印象は払拭され、このアルバム固有の華やかな印象はしっかり伝わってくるものの、やはり騒々しい印象までは払拭できず。

で、『Abbey Road』Dolby Atomosミックス。発売されてから何ヶ月経っているんだよ、って話ですが、鳴らしてみました。いやぁ、凄いことになってました。5.1chでは多少無理があったリスナー頭上の音像も楽々クリアーしてドーム状音空間状態。2chではなんだか結束バンドで括られていたような印象だった個々の音もそれぞれの居場所が確保できましたみたいになっており、ステレオ・ミックスでは気がつかなかったことが色々と判ったのも収穫だとは思いましたが、如何せん、ドッと疲れた。『Abbey Road』聴いて疲れる日が来るとは思わなかったねぇ・・・。オリジナルが制作された年度を考えると、その今の常識で考えるとあまりにも非力なマルチトラック・マスターからこのミックスを作り出したことは偉大な作業であったことは認めますが、今後、このミックスが『Abbey Road』聴く時のプライオリティになるかと問われたら、ならないだろうねぇ。

理由としてはまずこのミックス、一定以上の音量と音圧が確保できないとそのポテンシャルが十分に発揮されない点。防音と一定以上の広さが確保できるリスニング・ルームがないと再生できるタイミングが限られて来るでしょうね。ハイト・スピーカーや天井スピーカーの必要性、もしくは天井に音をぶつけるタイプのイネーブルド・スピーカーが要求されますから、これをリヴィングに設置した日には、世の奥様方はハッピーじゃないよね。掃除の邪魔だし、見た目悪いし。

まぁ、そんな印象だったのですが、『Abbey Road』Dolby Atomosミックス聴いてちょっと気になったのは、『Sgt. Peppers』のサラウンド・ミックスがもう古臭い感じに思えてしまったこと。こういう印象を受けるのは気のせいなのか、それともサラウンド・ミックス自体のトレンドが変わってきているのか? 疑問に思い最近発売のサラウンドもの、過去発表されたサラウンドもの集中して聴き倒した結果、気のせいじゃないみたいです。確実に派手になってきているというかサラウンド効果がエグいものが確実に増えてきていますね。

僕自身も関わりのあるクリムゾンの40thアニヴァーサリー、50thアニヴァーサリー・シリーズ、YES、JETHRO TULLの一連のサラウンドものを手がけているスティーヴン・ウイルソンものなど、『Abbey Road』の後に聴くとおとなしめでパンチに欠ける印象を受けてしまうんですね。派手な方が良いんだ、ということではないのですが、時代は大盛り傾向にあるみたいですね。YESとかは発表された当時、特に『Close To The Edge』なんかは音が頭上を斜めに移動していくところや、コーラスが一括りにされずスペースに余裕があるものだから、スティーヴ・ハウ、コーラスはあんまり上手とは言えないみたいなギミックとツッコミどころ満載ミックスという印象でしたが、今回聴き直したら、あれ?こんなもんだった?といった印象。耳も次第に派手ミックスに慣らされていくのでしょうかね?

新しめのところでは、サラウンド・ミックス含有率が高かったカタログ・アイテムが豊富なユニバーサル・ミュージックの箱物行政が一段落して、最近は英チェリーレッドのエソテリックが一大勢力になってきてますね。BE BOP DELUXEの諸作品、BARCLAY JAMES HARVEST、ALAN PARSONS PROJECTの『Ammonia Avenue』もソニー・ミュージックではなくここから出ています。RENAISSANCEのBTM、ワーナー時代のカタログも当時のライヴ音源追加が基本となっていますが『Turn Of The Cards』のみ5.1chサラウンド収録のDVDが付いています。



まずBE BOP DELUXE。現在までに『Futurama』、『Sunburst Finish』、『Modern Music』の3作がデラックス・エディション形態で発売済み。1st『Axe Victim』がスタンバイ状態で夏には発売になる予定。元々カルテット編成でキーボードもいるけど主役はビル・ネルソンのギターとヴォーカル。サウンドもプログレっぽい部分も若干あるけど基本はグラム・ロック流れで後のフューチャリスティック系バンドや80’sブリティッシュ・インヴェイジョン・バンドへ繋がっていくサウンド指向。オリジナルのステレオ・ミックスでもそれほどギチギチに音が詰まった感じではなく、どちらかと言えば隙間もありのサウンドをどうサラウンド化するのか興味ありだったのですが、結構苦労してました。フロントではなくサラウンド・スピーカーにコーラス振り分けたり、様々な工夫が施されているのですが、持て余し気味感を感じました。個人的にはタイトルになっている組曲が話題なった『Modern Music』がサラウンド向きかなと思ったのですが、『Futurama』、『Sunburst Finish』の2作品が健闘しており、個人的には代表曲「Maid In Heaven」、「Sister Seagull」、個人的に大好きな「Jean Cocteau」以外の曲の印象が薄かった『Futurama』がこのサラウンド・ミックスで大分印象変わりました。今回のデラックス・エディション仕様はサラウンドを収録したDVD部分にボーナス映像も収録されており、映像にはあまり興味がないのでそう言えばあまり見たことのない彼らのライヴ映像の方がサラウンド音源より衝撃的でありました。ビル・ネルソンの顔色の血の気の無さ、その不健康っぷりたら他に類を見ないね。実は400年生きてますって言われても「へぇ、そうなんですか」って即答しちゃうレベルでした。

BARCLAY JAMES HARVESTはいっぱい出ているんだよねぇ。1stはBE BOP DELUXEの諸作品と同じ仕様の10インチ・レコード・サイズのケースにハードカバーのブックレット付きスタイル。他はフォールドタイプの紙パッケージにトレーが貼り付けてある通常のプラケ・サイズのパッケージ。トレーを張っている紙の強度が問題で2枚組でも背の部分にシワというか折れが生じることが多いのに、平均3枚組なので新品で買っても背の部分にシワ入りのものがやたらと多い。同レーベルではPROCOL HARUMのエクスパンド盤とかGREENSALDEのエクスパンド盤で採用していたヤツです。僕のところもCD製造していますがこのタイプの背の仕様はトレーなしの紙ジャケ・スタイル以外は絶対に採用しません。輸入盤は仕方ないにせよ、それ国内盤でやったら完全に不良品でしかないからです。まぁ、人のところの商品ディスっても仕方ないのですが、この仕様だと購入意欲が著しく減退、ということで逆に無駄に立派な1stのみしかまだ聴いていません。

1970年発表作品ということで、マルチトラックのチャンネル数も8あれば立派という時代ですし、このバンドの初期はオーケストラのトラック含めて8chですから、そこからサラウンドを再構築するのはなかなかの難事業。

今でもオリジナル・アナログ盤を持ってますがずっと聴いていませんでした。記憶が定かではないのですがEMIでCD再発した際ライナー書いたような気もしており、おそらくその時以来聴いていないと思います。

久々の再会がサラウンド・ミックス。これ結構新鮮でした。この時期のBJHは後のまったり系叙情派プログレ路線+泣きのギターの萌芽は12分超えの「Dark Now My Sky」等に見て取れるのですが、基本は60年代のサイケ・ポップを通過してきてプログレに移行する過渡期のデビュー作。外人がよく使うバロック・ポップ的サウンドがメインのバンドで、大々的にオーケストラをフィーチュアした黎明期プログレ寄りポップと、ビート系に傾いたハード・ポップが同居する本作固有のサウンド傾向を持った作品。プログレ・ファンだけではなくEYES OF BLUEやENDなど60年代末から71年くらいまでいくつか存在したクラシカル・エッセンスも取り込んだビート/R&B系バンドのファンにも強くアピールするサウンドでした。

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オーケストラ・アレンジ部分に関しては専任ミュージカル・ディレクターとしてクレジットされているロバート・ゴドフリー(ロバート・ジョン・ゴドフリー)によるところが大きかったのでしょうが、このオーケストレーションのサラウンド展開がかなり良い感じです。個人的にはこれまでその他大勢みたいな位置付けだった4曲めの「When The World Was Woken」にどハマり。バロック風のハモンド・オルガンと重厚なホーン・アンサンブルとストリングスが印象的なクラシカルなポップ・ナンバーなのですが、サラウンド化したことで広がりが出て、思わず、こんな良い曲入っていたか?とまさに再認識の体験となりました。このデラックス・エディション、オリジナル・ステレオ・ミックス、新規ステレオ・ミックス、BBC音源がバンドルされた3CD+1DVDでちょっと重めのパッケージ構成ですがお薦めです。

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カケレコの新品CDで『Octoberon』、『Gone To Earth 』、『XII』といった70年代中・後期のオーディオDVD付きパッケージを売っているようなので、どちらかというと苦手な時期ではありますが、1stのサラウンド・ミックスで新たな発見があったことを鑑み、この原稿書き終わったらオーダーしようかと思っています。



今月の1枚は先にも出てきましたが、キース・ティペットやっぱりこれが好き!ということで1973年発表OVARY LODGE名義の最初アルバム『Ovary Lodge』を挙げておきます。メンバーが誰も演奏に参加していない『Larks’〜』アコースティック版デモ・ヴァージョンと言った趣もある『Blueprint』も捨て難いのですが、作品全体ではやはりこちらが好きです。カケレコ追悼ページにもあったように真っ当なジャズ・ロック路線でないと、という方にはヴァーティゴから出ていた『Dedicated To You, But You Weren’t Listening』が無難なんでしょうが、これなんだか作らされた感が強い印象なんだよねぇ。「ほら、NUCLEUSとか話題になっているからそういう路線で1枚やっておこう、フリー・ジャズはちょっと休んでさ」みたいな第三者の意思が入っているような感じね。

そこいくとこの『Ovary Lodge』は完全ディス・イズ・キース・ティペット。しかも『Blueprint』もこれも天下のRCAから出ているから凄いよね。フリー・ジャズ系で当時のニューウェーヴと言われていた連中はヴァーティゴやハーヴェストといったメジャー傘下のプログレッシヴ・レーベルよりむしろ老舗のRCAやCBSのジャズ部門から出ているものが多かったんです。キーパーソンが居たんでしょうね。

先にも書いたように『Ovary Lodge』、僕の耳にはもはや「Thrak」にしか聴こえないオープニングの「First Born」から燃えます! ティペット超弩級の乱気流ピアノの舞いで一気にテンションが上がります。そして収録曲の中では世の中的には最も真っ当なピアノ・バラード、トラック5「Come On In」が良い!甘々のピアノ・バラードからは180度反対の位置にあるがこの硬質で研ぎ澄まされた美しさは絶品!

でも、フリー・ジャズなんでしょう? ま、そうですがクリムゾンの『Starless〜』最後まで聴ける人ならなんの問題もありません。

それにしても、ティペットにしろフリップにしろ70年代前半は20歳代前半・中盤だったはずなのになんか歳食ったみたいな顔してますよねぇ。







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