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「音楽歳時記」 第六十八回 追悼:ピーター・グリーンとThen Play On 文・深民淳

お暑うございます。時期的には残暑お見舞い、そろそろ秋風がなどと言っていたのは30年も前の話。地球温暖化が進み、今日現在夏真っ盛り、摂氏35℃は最早当たり前の世の中はやっぱりどうかしています。今年はこれに加えてコロナ禍第二波騒ぎ。先月の原稿書いていた時期は毎日ほとんど陽も当たらない長梅雨の真っ只中、で今月は熱中症警戒。なんだか全てが極端な世の中になってきました。世の中極端だからってことではないのでしょうがここのところアーティストの訃報続き。今月はしんみり追悼原稿です。

 

ピーター・グリーン、亡くなってしまいました。7月25日就寝中に息をひきとったとのこと。享年73歳と伝えられています。

ジョン・メイオールのBLUESBREAKERSではエリック・クラプトンの後を継ぎ、クラプトン参加の『Blues Breakers(Beano Album)』と並び人気の高い『Hard Road』に参加。享年から逆算するとこの『Hard Road』に参加時は二十歳代前半。実際にはその数年前からクラブ・シーンでは注目を集めていたわけですからティーンエージャーの頃から活躍していたことになります。     

67年にBLUESBREAKERS時代のバンドメイト、ミック・フリートウッド、エルモア・ジェイムスばりのギター・プレイが注目を集めていたジェレミー・スペンサーらと共にFLEETWOOD MAC(以下MAC)を結成。結成直後はベースがボブ・ブラニングでしたがすぐに『Hard Road』の制作時に一緒だったジョン・マクビーに交代。

スタン・ウェッブのCHICKEN SHACK、キム・シモンズのSAVOY BROWNと共に60年代末のブリティッシュ・ブルース・ムーヴメントの立役者として活躍。また、CREAM同様、ブリティッシュ・ロック爆音化の急先鋒として活躍、ブリティッシュ・ハード・ロック時代の先駆者としても忘れられないギタリストでした。

とはいうものの、個人的にはブリティッシュ・ハード・ロックを聴き始めた頃には既LED ZEPPELINもDEEP PURPLEも全盛期を迎えていた時期なので、ブルース時代のMACは歴史を遡って聴くことになり、それでもその知名度と、聴き始めた頃にはほとんど失踪状態にあったことから、妙にミステリアスな存在だったため、当時入手が容易だった『English Rose』から入り、脱退後のソロであの豹が牙をむき出し吠えているアートワークのインパクトが強かった『The End Of The Game』と彼のMACでの最終作でありこれもまたアートワークが印象的だった『Then Play On』の2枚を探して入手したことを思い出しました。

その頃は『Then Play On』からシングル・カットされた偉大なる空耳邦題「マイコさん」のシングルに既にプレミアがついていた時代ですから、数年前に発売された作品といえども入手するにはそれなりに苦労が伴った時代でした。

で、どっちも最初の印象は敷居高かったなぁ。『English Rose』はガキの耳にもストレートに刺さる内容だったわけですが、『The End Of The Game』はほぼ絶句状態。『Then Play On』はガキなりの印象でなんだかどんよりしたGRATEFUL DEADみたい。この最初の印象、ガキはガキなりに良いところついていたことを後に知るわけですが、なにせ血気盛んなハード・ロック&プログレ好きだったものですから、2作ともこちらが思っていたものとはかなりかけ離れた作風だったこともあり、どちらも敷居が高い印象でしたね。

『The End Of The Game』は未だその敷居の高さは解消されず、なのですが、『Then Play On』は今でもかなり頻繁に聴く愛聴盤となり、ピーター・グリーン脱退後もアルバムが出るたびにMACを買い続けるきっかけなった1枚になったわけですが、MACの長い歴史と膨大な作品群の中にあって、この作品は特異点でありアウトスタンディングな1枚だったように思います。

今回はこの『Then Play On』に関して書こうと思うのですが、『Then Play On』って現行CDにおいてUSフォーマットとEUフォーマット曲順・内容が微妙に違うんですね。まずはこれを一回整理してみたいと思います。

以下の概略を見ていただくと、どの時点で両フォーマットが違ったものになったのかが判ると思います。


Then Play On概略
イギリス:1969年9月 アメリカ:1969年10月リリース。

因みにレコーディング・エンジニアはマーティン・バーチ。DEEP PURPLE、WHITESNAKE、RAINBOW、BLACK SABBATH、WISHBONE ASH、IRON MAIDEN等ブリティッシュ・ハード・ロック、NWOBHMムーヴメントを支えた名プロデューサーとして活躍。ピーター・グリーンの後を追うように8月9日に死去。享年71歳ということなので、この『Then Play On』時は彼もまたグリーン同様二十歳其処そこだったことになります。

1967年のデビュー時からの所属レーベルBlue Hrizon/CBSからワーナー系Repriseに移籍しての第1弾アルバム。当時Appleレーベル移籍も噂されたが最終的にはRepriseから発表された。

初期プレスのイギリス盤とアメリカ盤は収録曲数の違いはあったが、曲順がほぼ同じであったが、2ndプレス以降のアメリカ盤では当時アルバム未収録のシングル・ヒット「Oh Well」を追加した形に変更されている。またCD化の際にアメリカ盤フォーマット3でカットした2曲を復活させるのだが、この復活は妙。これについてはフォーマット曲順の後で説明する。

アルバム・タイトルはシェイクスピアの「十二夜」冒頭の公爵オーシーノーの台詞「楽の調べが恋の糧となるものならば〜」(If music be the food of love, play on)からとられたもの。

アートワークは1881年生まれ、1972年没の英国の画家マックスウェル・アームフィールドの作品。発売後著作権問題でもめたため、『Then Play On』には黒地に白抜き文字でバンド名・タイトルを印刷しただけのアートワークのものも存在する。

その1:イギリス・オリジナル・アナログ盤フォーマットおよびEUリマスターCDフォーマット。()内はクレジットにある作曲者。
1. Coming Your Way (Kirwan)
2. Closing My Eyes (Green)
3. Fighting For Madge (Fleetwood)
4. When You Say (Kirwan)
5. Show-Biz Blues (Green)
6. Under Way (Green)
7. One Sunny Day (Kirwan)
8. Although The Sun Is Shining (Kirwan)
9. Rattlesnake Shake (Green)
10. Without You (Kirwan)
11. Searching For Madge (McVie)
12. My Dream (Kirwan)
13. Like Crying (Kirwan)
14. Before The Beginning (Green)

トラック1から7がA面。8から14がB面。
現在流通している盤EUリマスター盤にはボーナス・トラックが4曲追加された18曲編成。ボートラは以下のとおり。

15. Oh Well part. 1
16. Oh Well part. 2
17. The Green Manalishi (With Two Prong Crown)
18. World In Harmony

ちなみにEUリマスターCDは日本でバッキンガム&ニックス参加以前のFLEETWOOD MAC紙ジャケット・シリーズが発売されたのと同じ2013年発売。CD番号を記しておくと8122796443。


その2: アメリカ盤フォーマット 1(初回発売フォーマット)
1. Coming Your Way
2. Closing My Eyes
3. Fighting For Madge
4. When You Say
5. Show-Biz Blues
6. Underway
7. Although The Sun Is Shining
8. Rattlesnake Shake
9. Searching For Madge
10. My Dream
11. Like Crying
12. Before The Beginning

トラック1から6がA面、7から12がB面。英国盤から「One Sunny Day」と「Without You」を抜いた12曲編成。この2曲は共にダニー・カーワン作でアメリカでは既発の『English Rose』に収録されていたためカットされた。


その3: アメリカ盤フォーマット 2
1. Coming Your Way
2. Closing My Eyes
3. Show-Biz Blues
4. Underway
5. Oh Well
6. Although The Sun Is Shining
7. Rattlesnake Shake
8. Searching For Madge
9. Fighting For Madge
10. Like Crying
11. Before The Beginning

トラック1から5がA面、6から11がB面。米オリジナル・フォーマットから「My Dream」、「When You Say」(共にダニー・カーワン作)がカットされ「Oh Well」(シングル発表時はパート1、パート2に分割されていたがアルバム収録盤は1曲に繋がったものが収録されていた)。この「Oh Well」を含む改定曲順版は1969年11月以降にプレスされたものから採用とされているが、1970年に入ってから変更されたという説もあり。


その4: アメリカ盤フォーマット 3 (CD発売フォーマット)
1. Coming Your Way
2. Closing My Eyes
3. Show-Biz Blues
4. My Dream
5. Underway
6. Oh Well
7. Although The Sun Is Shining
8. Rattlesnake Shake
9. Searching For Madge
10. Fighting For Madge
11. When You Say
12. Like Crying
13. Before The Beginning

1990年のCD再発に伴い「Oh Well」を収録するためカットされた2曲を復活させたのは良いが、オリジナル・フォーマットでは前半に置かれていた「When You Say」が後半に配置。逆に「My Dream」が前に来たため、オリジナルと比べ妙な曲順となる。2013年発売の国内盤紙ジャケット・フォーマット等日本のワーナー・ミュージック盤はこの曲順に準じている。

というわけで、元々はイギリス盤もアメリカ盤も収録曲数が多いか少ないかの違いはあってもアーティストというかピーター・グリーンの考えたアルバムの流れはほぼ同じだったのが、アメリカでこのアルバムがヒットし、シングルとして人気のあった「Oh Well」を入れて更に上を目指そうとしたあたりからちょっと風向きが変わり、CD化の際に更に妙な塩梅になったというのが正味の話。

というわけで、このアルバムに関してはオリジナルの曲順に忠実でありかつこの時期の重要楽曲4曲をボートラとして追加したEU盤を推奨したい。思いの他曲順が重要な作品だと思うのでね。

次にピーター・グリーン在籍時のMACのアルバムって何枚あるのかといえば、これも英米共通、英米別フォーマット作品が入り乱れており、整理するとこうなります。

ピーター・グリーン在籍時のオリジナル・アルバムは『Fleetwood Mac』(1968年UK: Blue Horizon/US: Epic)、『Mr. Wonderful』(1968年UK: Blue Horizon)、『English Rose』(1969年US: Epic これもコンピ盤として扱われているが、実際には曲目違いの米盤『Mr. Wonderful』という位置付け)、『Blues Jam At Chess』(1969年2LP UK: Blue Horizon。アメリカ盤は『Blues Jam In Chicago』というタイトルでVol.1、2の2枚に分けて発売された)そして『Then Play On』となるわけです。

『Blues Jam At Chess』はMACとセッションに参加した黒人ブルースメンの並列表記になっているアルバムなので、スピンアウト的作品。1969年にはイギリスで『The Pious Bird Of Good Omen』が出ていますがこれはアメリカに於ける2ndアルバム『English Rose』の英国仕様盤的コンピレーションなので実際のオリジナル・アルバムは3枚プラス『Blues Jam At Chess』となります。1967年後半には活動を開始していたバンドなので、当時のアルバム制作のスタンダードを考えると決して多産なバンドではありませんでした。戦略的にはアルバムで稼ぐよりライヴをこなして金を稼ぐタイプだったかと思います。実際、ライヴの数は相当数に登り、多忙を極めた過密スケジュールによって元々内省的な性格だったピーター・グリーンは神経衰弱状態に陥ったとされています。

またアルバムとツアー時に手っ取り早く公演エリアのラジオ局でかけてもらえるシングルを分けて考えていたようで、初期の代表曲のひとつで後にSANTANAがカヴァーして本家MACヴァージョンより有名になる「Black Magic Woman」やインストの名曲「Albatross」、名バラード「Need Your Love So Bad」、先に書いたように後にアメリカ盤『Then Play On』に収録されることになる「Oh Well」や脱退直前に発表された「The Green Manalishi (With Two Prong Crown)」などの有名曲はすべてシングル由来でした。また、エディ・ボイドやオーティス・スパンらがBlue Horizonからリリースした録り下ろしのアルバムのバックを努めることも多く、オリジナル・アルバムの枚数は少なくともシングル・オンリーやセッション音源が多かったことも『English Rose』や『The Pious Bird Of Good Omen』といった準コンピ、コンピ盤制作を容易にしたと言っても過言ではないでしょう。



さて、この『Then Play On』。MACがイギリスのみならず、アメリカでも注目を集め、1968年から頻繁にアメリカ・ツアーを行う内に、ブルース一辺倒の音楽性が多種多様なアメリカのロック・バンドと共演することで、特にピーター・グリーンは強い影響を受け、MACの音楽性を発展させていこうという意思が芽生えた時期の作品だったと言えるでしょう。

アメリカでツアーするようになったグリーンはこれまで以上にアシッドにのめり込み、キリスト教に対する依存が強くなり、性格的にはより内向き傾向、その反面音楽的にはGRATEFUL DEADやCCRといったブルースのみならずカントリー、ブルーグラス、ジャグなどルーツ・ミュージックを自由に取り込んだアメリカのロック・シーンの柔軟性を目の当たりにして、強い影響を受けたわけです。とりわけジャム・バンドの草分けとも言えるGRATEFUL DEADのインプロヴィゼーション・スタイルやノートが次々に生まれ空間を浮遊していくようなジェリー・ガルシアのプレイスタイルやトーン・コントロールからは強い影響を受けたと思います。

『Then Play On』がBlue Horizonを離れ、ワーナー系列のRepriseに移籍しての発売だったことも、グリーンが目指した変革の一端でした。1969年1月、先に書いたようにMACはチェス・スタジオで黒人ブルースメンとのセッション・アルバム『Blues Jam At Chess』をレコーディングしますが、これがMACのBlue Horizonにおける最後のオリジナル・アルバムとなります。BLUESBREAKERS時代から深い繋がりがあったマイク・ヴァーノンの影響下から離れる意図を感じますし、『Blues Jam At Chess』はブルース・バンド時代のMACの卒業記念アルバムといった側面もあったと思います。

3人目のギタリストとしてダニー・カーワンを参加させたというのも次世代MACのサウンドをクリエイトする上では重要な選択だったと思います。グリーン、スペンサーより若く、年代的にオリジナル・ブルース、R&B、ロックン・ロールからの直接影響以上にTHE BEATLES、THE ROLLING STONESに代表されるブリティッシュ・ビート系サウンドからの影響を受け、作曲面でも脱ブルースを推進する上では必要な人材であったと思いますし、ギターのパートナーとしても既にスタイルが完成されており、グリーンとのコントラストがMACの持ち味となっていたスペンサーではなく、GRATEFUL DEADに於けるガルシアとボブ・ウェアのように互いの欲するものを瞬時に汲み取りジャム・セッションを創造していく上でのパートナー像をカーワンに期待していたように感じます。カーワン加入前の放送音源、ブート音源に残された楽曲でもジャム展開というのはあったのですが、グリーンとスペンサーのジャム・スタイルは対峙型、常にどこかギター・バトル的な側面を感じるのです。

ブルース主体から脱却したバーサタイルな音楽性。GRATEFUL DEADを手本とした調和を是とする新たなMACジャム・スタイル確立のためのダニー・カーワンの抜擢。ブリティッシュ・ブルース・ロックの総本山Blue Horizonからアメリカ資本メジャー・レーベル、ワーナー傘下のRepriseへの移籍。1968年後半から1969年初頭にかけピーター・グリーンは新しいMACサウンドを創出すべく準備周到にアルバム制作環境を整えて行きました。

『Then Play On』のレコーディングは1969年4月にロンドンでマーティン・バーチをエンジニアに迎え開始されました。バーチ起用はグリーンが新作ではオーヴァーダブやスタジオでのギミックも率先して取り入れたいという思いがあったからと言われています。ミック・フリートウッドは当時を回想して「何をどうしたいのかはグリーン以外分かっていなかった」と語っていますが、一方ではスタジオに入る前にフリートウッドの部屋などで頻繁にジャム・セッションを繰り返していたという証言も残しています。(ドラム・セットを用意した本格的なものではなくスネア、パーカッション程度の簡単なセッションだったそうです)また、グリーンはカーワンに対しレコーディング用の楽曲を用意しておくように指示します。英国オリジナルの14曲フォーマットには当時、英国未発売だった『English Rose』に収録済みだったカーワン作「One Sunny Day」、「Without You」も収録されていますが、ブルースに縛られずグリーン、スペンサーとは明らかに色合いの違う曲を書くことのできるカーワンが次世代MACサウンド創出のキーマンになるとグリーンは確信していたのでしょう。しかしながらカーワンはグリーンから作曲の方向性などは告げられず、とにかく作れとのオーダーは若いカーワンにとってはかなり大きなプレッシャーとなったそうな。それでも彼は「Coming Your Way」、「When You Say」、「Although The Sun Is Shining」、「My Dream」、「Like Crying」と計5曲を提供。内1曲「My Dream」はインストですが、これは元々、歌詞を載せる予定だったが歌詞が思いつかずインスト曲となったそうです。当時のカーワンは曲想は浮かぶものの歌詞を書き上げるのがまだ得意ではなく、どの曲も歌詞作りに苦労していたそうです。

Although The Sun Is Shining

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My Dream

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そして、グリーンが考える次世代MACサウンド創出のための最大の決断はレコーディングをジェレミー・スペンサー抜きで行うことでした。オリジナル・アナログ盤の見開き部分に掲載されたモノクロのメンバー写真にはスペンサーも写っていますが、レコーディングにはほぼ不参加、制作終盤にレコーディングされた「Oh Well」ではピアノを弾くなどしたらしいですが、レコーディングの根幹部分に関わることはありませんでした。この決定はグリーンによって決められ、当初の予定ではスペンサーが前年に制作したルーツ・ロックン・ロール、ロカビリー、サイケデリック系楽曲5曲入りEPを『Then Play On』に付けるはずでしたが、Reprise側から反対され、この時の楽曲は後にスペンサーの1stソロ・アルバム等で発表される結果となりました。

英国オリジナル・フォーマットを基に収録曲を見ていくと、まずスタジオではなくメンバーの部屋で行ったセッション成果ともいうべき楽曲群がまず見てきます。アルバムのメインライターであるグリーン、カーワン以外のクレジットがある「Fighting For Madge」、「Searching For Madge」は共にスタジオでのジャム・セッションから切り出された曲で「Searching For Madge」の方はTHE BEATLESの「Revolution 9」のようなサウンド・コラージュも盛り込まれています。因みに両曲に共通する女性名マッジはMACが英国ツアーを行うとヒッチハイクで全公演ついてくるロイヤル・ファンのマッジに由来しています。彼女はグルーピーではなく、純粋にMACのサウンドが好きだったそうです。この長いジャムから曲を切り出す手法はMAC脱退直後に発表されるグリーンの1stソロ・アルバム『The End Of The Game』に於いて全面的に採用されていることはいうまでもありません。ジミ・ヘンドリックスのアグレッシヴ・サイドではなくメローなジャズ・フュージョン展開曲に着想を得た思われる「Underway」も部屋ジャムの成果だった思いますし、ただ曲を書けと戸惑ったカーワンも部屋ジャムの傾向から曲想も発展させていったのだとおもいます。

『Then Play On』の印象というと大体の人はアメリカ・フォーマットで作られたCDが定着しているため「Oh Well」、「Rattlesnake Shake」、「Show-Biz Blues」、「マイコさん」が入っているアルバムと答える方も多いかと思いますが、この4曲もやはり元のアイデアはジャム・セッションの中から生まれたものだったのです。そしてこのジャムから曲を練り上げていくという手法はMACにとって定番の制作スタイルとなり、バッキンガム/ニックス加入前までこのスタイルは続いていくことになります。

『Then Play On』のもう一つの魅力として挙げられるのが組曲効果です。まずアルバムのオープニング、カーワン作の「Coming Your Way」。「I hope you don’t mind ‘cause I’m coming your way」という歌詞が何故「マイコさん」になるのかは謎です。「マイコ」までは分かるけど、「さん」の要素は歌詞にはないしねぇ。まぁ、いいや。奇妙な曲でブルース・ベースなのですが、ドラムとは別にオーヴァーダブで被せたコンガがエスニック風味を醸し出し、終盤はグリーン在籍時のMACに多かった曲調が大きく変化するインスト・パートに移行、ベースの余韻が残る中、間髪入れずグリーン作の黄昏バラード「Closing My Eyes」がスタート。「Coming Your Way」自体ダークな印象を持ったナンバーなのですがここに「Closing My Eyes」を繋げることで効果は倍増。MACらしさを損ねることなく、しかし大きな変化が起きていることを知らしめる秀逸な導入部と言っていいでしょう。ここに如何にもMACといったブルース・ジャム「Fighting for Madge」当て、更にカーワン作のフォーク・タッチのバラード「When You Say」持ってくることで全体にミステリアスなムードを漂わせ聴く者を惹きつけます。4曲めに「When You Say」が置かれていることはかなり重要なポイントだと思います。僕が英国オリジナル・フォーマットを薦める理由の一つがここにあります。

Coming Your Way

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When You Say

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グリーン作「Underway」からカーワン作「One Sunny Day」への流れもまた秀逸です。『Mr. Wonderful』から『Then Play On』へ移行する上でターニング・ポイントとなったアンビエント感満載のギター・インスト曲「Albatross」の流れをくんだ「Underway」にはジミ・ヘンドリックスとジェリー・ガルシアがグリーンの個性の上で合体したかのような独特の浮遊感を持っている曲ですが、ここにまた間髪入れず重心の低いヘヴィなブルース・ロック「One Sunny Day」を当てることで劇的な効果を上げることに成功しています。このアルバムが歴代MACの傑作の一つに数えられている要因はグリーンの考えた曲配置の妙によるところが大きかったと思うのです。

Underway

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One Sunny Day

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こうしたことを踏まえると、MACはグリーン脱退によってサウンドが変化したという一般的な認識は疑問です。確かに『Then Play On』は前作『Mr. Wonderful』ともこれ以降の作品とも趣が異なるアウトスタンディングな作品ではあるものの、本作以降のMACが向かうべき方向性はグリーンによってこのアルバムではっきり提示されていると思うのです。本作を最後にグリーンはMACを脱退。次作『Kiln House』では残されたジェレミー・スペンサーのルーツ・ロックン・ロール指向が爆発してもグリーンによって後継者指名を受けたカーワンがMACらしさをキープ。スペンサーが拉致られ失踪した後は、アメリカ人のボブ・ウェルチを迎えるわけですが、カーワンは『Then Play On』でグリーンが撒いた種子をしっかりと育て上げ、そのミステリアスでどこか黄昏たサウンドを継承するばかりでなく、グリーンが「Albatross」で作り上げたギター・アンビエントの世界も発展させ「Earl Gray」、「Sunny Side Of Heaven」を作り上げます。結局、カーワンも『Bare Trees』制作後にグリーン同様神経を病んで燃え尽き脱退しますが『Then Play On』で提示された方向性を発展させていった功績は大きかったと思いますし、何よりもグリーンがカーワンの可能性こそMACの未来と『Then Play On』制作時点で確信していた点が凄いなと思う次第。

Earl Gray

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ピーター・グリーン、どこか預言者のような人でした。間違いなく自分が取り仕切るバンドにドラムとベースの名字からバンド名を付けたこと自体が不思議です。まるで自分が去った後大きな成功を収めることが判っていたかのよう。地球レベルで成功を収めた『Fleetwood Mac』も『Rumour』も『Then Play On』に於けるグリーンの大胆かつ用意周到な方向転換がなければ幻に終わっていたかも知れません。お釈迦様ではなく、全てはピーター・グリーンの掌の上、そんな妄想すら抱くミステリアスな傑作を聴きながら故人のご冥福をお祈りいたします。そしてマーティン・バーチにも祈りを。筆者の音楽的嗜好はマーティン・バーチ作品によって作り上げらたものだったことを今更ながら痛感。『Then Play On』から始まって『Mystery To Me』までのMAC作品、PURPLE、RAINBOW、WISHBONE ASH追悼も兼ねて聴いていこうと思います。でもその前に・・・。

今月の2枚。何も言わずに爆音で聴きます。筆者の場合はこの2枚。UFO『Lights Out』とあまり評価されていないけど、ヘヴィで埃っぽいサウンドに惹かれるWAYSTED『The Good The Bad The Waysted』。ピート・ウェイまでいなくなっちゃうとは今年はUFO災難以外のなにものでもないですね。縦縞パンツとサンダーバード・ベースの勇姿が見られないのは淋しい限りです。


Lights Out

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