2020年3月4日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ,日々是ロック
タグ: 米SSW
今から50年前の1970年頃より、アメリカでシンガー・ソングライターが活躍するようになりました。
ベトナム戦争や公民権運動などで激しく揺れ動いた60年代のアメリカ。
ウッドストック・フェスティバルに象徴される「愛と平和」が幻想に過ぎないことが分かり、若者の描く理想が次第に崩れ落ちていきます。
ビートルズは解散し、ロック・スターも相次いで亡くなり、一つの時代が終わろうとしていました。
このような変革と狂騒の季節を生き抜いた人々は、やるせない挫折感と疲労感を味わい、次第に内省的に自己を見つめ直す作品が求められるようになっていきます。
SSW時代の皮切りとなったジェイムス・テイラーの楽曲、「Fire and Rain」。
70年2月リリースの『SWEET BABY JAMES』収録の楽曲で、同年8月にシングルカット。10月にはビルボード・チャートの3位を記録しています。
この楽曲は、自殺した友人、過去の挫折、自身の病気や麻薬中毒について歌っているとされています。
絶望をあるがままに表した歌詞、繊細かつ卓越したギター・ワーク、優しいボーカルが、失意の中にいる人々の疲れた心を癒していきました。
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1970年2月にリリースされ、シンガー・ソングライター時代の皮切りとなったJAMES TAYLORの『SWEET BABY JAMES』を取り上げてまいります。
ジェイムス・テイラーのアルバムにもピアノで参加しているキャロル・キング。
60年代から職業作曲家として成功していましたが、ビートルズの台頭やボブ・ディランの登場により、「ソングライター」として生き続けることが難しくなり、活動形態の変更を余儀なくされます。
ステージ恐怖症のために最初はバンド「ザ・シティ」として活動、そしてついにこの70年作で「シンガー・ソングライター」としてデビューします。
自作の『つづれおり』の陰に隠れがちな作品ですが、プロの作曲家としての実力に裏打ちされた、珠玉の名曲に溢れた名作です。
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キャロル・キングが「シンガー・ソングライター」として誕生した、記念すべき1970年作『ライター』をピックアップいたします。
CSN&Y『デジャ・ヴ』と同年の70年にリリースされた3rdソロ。
60年代をくぐり抜けた後の喪失感や孤独を、格調高くも憂いに溢れたメロディと、鼻にかかった独特のボーカルで歌っています。
体の中にいつも激情を抱えているようなローラ。
前2作では情念を思い切り噴出したような作風でしたが、今作では社会への憤りを詩的に表し、美しくソウルフルなボーカルでしっとり弾き語っています。
複雑なコード進行やリズム、ジャズやソウルにも接近して奔放に作品をリリースしたジョニ・ミッチェル。
こちらの70年作は、穏やかな日常の瞬間を高精細のカメラで写し取ったような、聴き手の時間を止める透き通った表現が印象的です。
CSN&Y『デジャ・ヴ』と同年の70年にリリースされた3rdソロ。いきなりニールのアコースティック・サイドを代表する名曲「Tell Me Why」で幕開け。ニールらしいアタック感のあるアコギ・バッキングと、対照的に憂いに溢れたメロディが胸に迫ります。リリカルなピアノをバックに切々と歌われる2曲目のタイトル・トラック、CSN&Yを思わせるハーモニーが美しい3曲目、スティーヴン・スティルスとの火を吹くギターバトルに痺れるエレクトリック・サイドを代表する名曲である4曲目「Southern Man」と畳みかけます。最後にうららかな小曲でしめるA面はニールの数ある名作中でも屈指の素晴らしさ。B面も格調高くも憂いに溢れた佳曲ぞろい。次の作品『ハーヴェスト』と並び、ニール・ヤングの代表作であり、70s米ロック屈指の傑作です。
狂騒と革命の60年代の果て、内省の70年代、即ちシンガー・ソングライターの時代を、静かなアコースティック・ギターを爪弾きながら、高らかに告げた金字塔的大名作。プロデューサーにPeter & GordonのPeter Asher。コンビ解散後はBEATLESのアップル・レーベルで新人発掘の仕事を始め、初めて契約を交わしたのがJamesだったのです。結果としては、7曲目に収録されている「FIRE AND RAIN」のヒットをきっかけに彼を一躍スターダムへと導くのですが。特筆すべきことは彼の作品世界が、ボーイ・ミーツ・ガールでもなく、直接反戦を問うプロテスト・ソングでもなくて、個人の何気ない日々の生活感情を吐露した、個々の内面描写に、その表現欲求を照射していたこと。ごく個人的な感情ほど多くの人々の胸を打つという、新しい形のシンガー・ソングライター像を、優れたギターの表現力を通して描き出していたことが重要なのです。個人心象に長けた歌には、必然的にNYMN(聖歌)のような救済が含まれ、柔らかいカントリーのフレイヴァーを基調にブルース、R&B、黒人霊歌、ブルーグラスといったアメリカン・ルーツ・ミュージックと絡ませながら、巧みなバランス感覚と都会的センスによって息づいています。大切な時間に、そっと耳を傾けたい。そんな一枚です。
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