2015年5月15日 | カテゴリー:ユーロ・ロック周遊日記
タグ: プログレ
シンフォニックでいてスペーシー、エキゾチックな躍動感とともに圧倒的な構成のダイナミズムを持ったハンガリー屈指の一枚であり、80年代に日本のプログレ・ファンの目を東欧に向かせた傑作『ソラリス/火星年代記』をピックアップいたしましょう。
バンドが結成されたのは1980年。ハンガリーの首都ブダペストの大学で、音楽とSF好きの学友たちによって結成されました。中心メンバーは以下の3人。バンド名は、ポーランドの作家スタニスワフ・レムのSF代表作『ソラリスの陽のもとに』からソラリスと名づけられました。
地元のバンド・コンテストで高い評価を得て、80年に1stシングル(他バンドとのスプリット盤で、ソラリスはB面「Rock Hullam」)と81年に2ndシングル(「Eden」「Counterpoint」)をリリース。満を持して84年にリリースされ、社会主義体制下の国のバンドのデビュー作では異例と言える4万枚を売り切った作品が『Martian Chronicles 火星年代記』です。
メンバーのうち、ベーシストをのぞく4人に「キーボード」のクレジットがある通り、バンドの最大の持ち味が多彩なキーボード・ワーク。時にクラシック・ミュージックの金管楽器のように勇壮に鳴り響き、時にクラウト・ロック的にスペーシーに空間を無機的に彩り、時にミュイーンと発振しながら重厚なトーンでリードを奏でるなど、幾重にも重なりながら荘厳な音空間を描きます。そこに、全編でリードを奏でるフルートが土着のエキゾチズムとメランコリーを、様式美HR/HM的なギターがスピード感とドラマを、ドラムとベースが舞踏音楽の地ならではの躍動感を盛り込むと、ハンガリーならではの唯一無比の壮大なるシンフォニック・ロックが鮮やかに鳴り響きます。
本作のハイライトと言えるのが、「I」から「VI」までの構成で23分に及ぶ「火星年代記」組曲。
無機的なシーケンサーの音をバックに、時にムーグシンセが高らかなトーンで壮麗に鳴り、時に、宇宙人の声をモチーフにしたSEが入る、ピンク・フロイドのイマジネーションとEL&Pの外連味が合わさったかのような「I」。
気品たっぷりのクラシカルなピアノをバックに、いよいよフルートによるリードが入って物悲しさたっぷりに進んだかと思うと、突如ハード・エッジなギター・ソロが入り、ドラムがシャープに走りだして勇壮に畳み掛け、ラストに向けて男性コーラスが入って、荘厳さを極めていく「II」「III」。
そして、ギターが涙溢れんばかりの泣き(日本にも通ずる叙情感!)のリードを炸裂させるパート、同一の旋律をベース、ムーグ、フルート、ギターとスイッチしていきながら、ドラマティックに上りつめ、ここぞで炸裂する様式美ツイン・ギターに感動ひとしおなパートへと続き、フィナーレに向け、時にアコギとフルートの物悲しいパートを織り交ぜながら、リズム隊は躍動感を増し、フルートとギターのリードには熱が入り、いよいよ到達するラストでは男女混声コーラスが入って荘厳な幕切れを迎える「IV」「V」「VI」。
アメリカのSF作家レイ・ブラッドベリの作品「火星年代記」をモチーフに、オール・インストゥルメンタルながら圧倒的な表現力でスケールの大きな世界を描ききっています。東欧のみならず、ユーロ・ロックを代表する名曲でしょう。
それにしても、彼らが描き出す独特の「物悲しさ」や「壮大さ」や「エキゾチックな躍動感」はいったいどこから生まれてくるのでしょうか。ハンガリーなればこそなのでしょうか。その由来に迫るべく、ハンガリーという国、そこで生まれた音楽について簡単に俯瞰してまいりましょう。
ヨーロッパに属する国なので意外ですが、民族的には「アジア系」のマジャール人の国(日本と同じく、姓→名、市→町→村の順に書き記します)。16世紀初頭にオスマン・トルコに敗北を喫して以来、150年ほど国土の一部をトルコに支配され、その後は、ハプスブルク家の支配下に入り、オーストリアやチェコやスロヴァキアなどとともにハプルブルク帝国の一部を形成するなど、長く他国の支配に屈した歴史を持ちます。
そんな異国の文化が入り乱れたハンガリーの地で生まれた音楽が、ロマのジプシー楽団による舞踏音楽「ヴェルブンコシュ」。インド北西部から移り住み、ハンガリーに定住したロマ達が、ハンガリーの中で社会的な居場所を確保するべく、上流階級のために演奏した伝統音楽が「ヴェルブンコシュ」で、自分たちのためではなく、上級階級を喜ばせるため、という目的が根底にあったため、時に情熱的で時に哀感たっぷりに、めまぐるしく畳み掛けるアンサンブルが特徴となりました。
他国に支配された経験からくるメランコリー、文化の重層性が生むエキゾチズム、ジプシー楽団の特徴だった、畳み掛けるような「情熱」とまるですすり泣くような「哀感」、そして、その両面が生む緩急のダイナミズムは、確かにソラリスのサウンドの中に流れていると言っていいでしょう。
そんな悠久のハンガリーならではと言える楽曲が6曲目の名曲「Apokalipszis」。踊りだしたくなるようなシャッフル・ビートを様式美ハード・ロック的な性急さで早回しにしたようなリズム隊を土台に、ギターとムーグ・シンセとフルートが次々にドラマティックなリードを繰り出す展開は、「ヴェルブンコシュ・ロック」とでも言いたくなるようにサービス精神たっぷり。音のニュアンスは異なりますが、このサービス精神は、EL&Pを彷彿させます。スピーディーでアグレッシヴなのに、全体のイメージとしては、ほの暗く荘厳でメランコリックなのはやはりハンガリーという国で生まれたからこそで、その対照こそソラリスの魅力と言えるでしょう。
英国プログレやハード・ロックをはじめ、ドイツのロマン主義的エレクトリック・ミュージックからの影響を下地に、ハンガリー伝統の舞踏音楽であるジプシー音楽が持っていた躍動感と構成のダイナミズムを盛り込み、歴史が生んだメランコリーとともに醸成された、スペーシー&ドラマティックなシンフォニック・ロック傑作です。
同じくハプスブルク帝国支配下にあった国で生まれたプログレはこちら。「共産圏だった国のプログレ」ではなく、ハプスブルク帝国によるゲルマン文化やマジャール文化やスラヴ文化やイスラム文化がモザイク状となった悠久の歴史に思いを馳せながら耳をかけると、また違ったサウンドに聴こえるかもしれません。
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全編に渡って荘厳に響き渡るOldrich Veslyによるムーグ・シンセ。そして、スラヴ的な哀感たっぷりのメロディとヴォーカル。東欧を代表する傑作のみならず、チェコはボヘミア地方の出自を持つ彼らだからこそ出せた濃厚なサウンドを持つユーロ屈指と言えるシンフォニック・ロック傑作。
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なお、ソラリスは、2ndに向けてレコーディングも行いますが、アルバムをリリースすることなく解散。女性ヴォーカルをフロントにNAPOLEON BOULEVARDとして再編され、本国で続々と大ヒットを放ち、トップバンドとなりました。
80年代末にはソラリスとしての活動が再開され、未発表音源を中心とした2枚組の作品『1990』を90年にリリース。95年に出演した米プログレ・フェス「PROGFEST」出演時の音源を『LIVE IN LOS ANGELES』としてリリース。その後、98年にギターのIstvan Cziglanが病気で亡くなってしまいますが、活動を継続し、99年にノストラダムスをコンセプトとした『NOSTRADAMUS』をリリースしました。その後もメンバーによる別働バンドSOLARIS FUSIONなど、活動を広げています。
ハンガリーを代表するプログレッシヴ・ロック・グループ。04年のメキシコでのライヴを収録したCD+DVD。
ハンガリーを代表するシンフォニック・ロック・バンド。ユーロ・ロック屈指の傑作と言えるデビュー作『火星年代記』をメインにした2014年のライヴ音源。2014年リリースの『火星年代記』の続編『II』からも演奏しています。オリジナル・メンバーのRobert Erdescによるクラシカルなピアノやスペーシーで荘厳なキーボード、そしてAttila Kollarによるエキゾチックかつメランコリックなフルート。東欧らしい奥ゆかしさと重厚さと民族舞踏音楽的な躍動感とが混ざり合ったマジカルなサウンドが明瞭な音質で時を超えて蘇っています。『火星年代記』のファンは必聴の逸品です。
名実ともにハンガリー・プログレを代表するバンドと言える彼らの2019年作。99年にリリースされた『NOSTRADAMUS』の続編となっています。いやはや今作も怒涛の熱量とスケール!!女性ヴォーカルも伴ってエネルギッシュに渦巻くコーラスが全編に配された壮大なサウンドで聴き手を飲み込むようなスタイルは99年作そのまま。終始力みっぱなしで生真面目なまでに厳粛なサウンドにもかかわらず、テーマも反映してかどこかMAGMAにも通じる呪術的な世界観が形成されていくサウンドが印象的です。デビュー作『MARSBELI KRONIKAK』からの持ち味である尺八のように鳴らされる激しいフルートと太くうねりのあるシンセサイザーのコンビネーションももちろん冴えわたっておりやはり素晴らしい。冒頭34分の大作が圧巻ですが、哀愁を帯びたメロディアスなギターも活躍する他の曲も魅力的です。有無を言わせぬ迫力で押し寄せてくる、唯一無二のSOLARISワールドを堪能できるシンフォニック・ロック傑作です。おすすめ!
ご存じ名実ともにハンガリー・プログレを代表するバンド。彼らの代表作である『火星年代記』の続編的楽曲「Marsbeli Kronikak III」を収録した22年リリース4曲EP。19年作『NOSTRADAMUS 2.0』を聴いた時にも思いましたが、約40年を経ても彼らは脇目も振らず全力でSOLARISたろうとしているのだな、と思わせてくれるサウンドが詰まっています。哀切極まるフルート、アグレッシヴに疾走するオルガン、ここぞで炸裂する泣きのギター、そしてドラマティックに押し寄せるシンセ!どこまでも荘厳で張り詰めたSOLARIS節とも表現すべきパフォーマンスを本作でもブレることなく展開。その生真面目なまでのプロフェッショナル精神に、感動やら微笑ましさやらが入り混じった思いがこみ上げてきます。中でもやはりM4「Marsbeli Kronikak III」は素晴らしく、アコースティック・ギターを効果的に用いた民族フレイヴァー香る序盤の展開から、多声コーラス&ハンドクラップが沸き起こる圧倒的な終盤の展開まで、12分弱というのが信じられないほどに濃密な一曲となっていて必聴です!
彼らのライヴで配布された特典DVD。残念ながらフルのライヴ映像ではなく、90年代のライヴ映像やヴィデオ・クリップなどをダイジェスト編集した16分強の映像集です。コアなSOLARISファン向け。
80年代から活躍するハンガリーを代表するプログレッシヴ・ロック・グループ。95年のLAでの「PROGFEST」出演時、名作『火星年代記』の楽曲を中心とする熱狂のライヴDVD。バンド結成30周年を記念してのバンド自主制作によるオフィシャル・ブートレッグ。全14曲、90分を越えるフル収録。
80年代から活躍するハンガリーを代表するプログレッシヴ・ロック・グループ。95年のLAでの「PROGFEST」出演時のライヴ音源。
SMP004/5(SOLARIS MUSIC PRODUCTIONS)
2枚組、デジタル・リマスター、街と青空のジャケット(オリジナル盤とはジャケット違い)
レーベル管理上、盤にキズが多めにある場合・ジャケットに若干折れが場合がございます。ご了承ください。
東欧のみならずユーロ屈指と言えるシンフォニック・ロック傑作『火星年代記』を84年に残したハンガリーの名グループによる、『火星年代記』の続編として制作された2014年作。オリジナル・メンバーのRobert Erdesz(Key)、Attila Kollar(Flute)、Laszlo Gomor(Dr)を中心に録音されていて、深淵なトーンで荘厳に鳴り響くシンセ、時に幻想的に流れ、時に躍動するフルートなど、往年の重厚なるサウンドが見事に蘇っています。力強くタイトなリズム隊、伸びやかに奏でられるギターなどによるモダンなサウンドとのバランスも絶妙。スラヴ的なエキゾチズムも盛り込みつつ、これでもかとドラマティック&エネルギッシュに展開していく壮大なシンフォニック絵巻が圧巻なさすがの傑作と言えるでしょう。
ハンガリーを代表するシンフォニック・ロック・バンド。ユーロ・ロック屈指の傑作と言えるデビュー作『火星年代記』をメインにした2014年のライヴ映像。2014年リリースの『火星年代記』の続編『II』からも演奏しています。オリジナル・メンバーのRobert Erdescによるクラシカルなピアノやスペーシーで荘厳なキーボード、そしてAttila Kollarによるエキゾチックかつメランコリックなフルート。東欧らしい奥ゆかしさと重厚さと民族舞踏音楽的な躍動感とが混ざり合ったマジカルなサウンドが明瞭な音質で時を超えて蘇っています。『火星年代記』のファンは必聴の逸品です。
5998272703307(SOLARIS PRODUKCIOS)
DVD、PAL方式、リージョン記載なし、ブックレット元から無し
レーベル管理上の問題により、盤面にキズが多めについております。予めご了承ください。
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