2014年11月27日 | カテゴリー:ユーロ・ロック周遊日記
タグ: プログレ
チェコ共和国はブルノ出身のプログレッシヴ・ロック・バンドSYNKOPY & OLDRICH VESELYによる東欧シンフォ屈指の傑作と言われる81年作『Slunecni Hodiny』をピックアップいたしましょう。
バンドの中心人物は、プラハに続くチェコ第二の都市ブルノにて1948年に生まれたキーボード奏者のOldrich Vesely。
60年代末からバンド活動を行い、チェコだけでなくドイツやオーストリアでも活動をするとともに、地元ブルノの人気バンドSYNKOPYに楽曲を提供するなど活躍。その後、74年には、SYNKOPYにメンバーとして正式加入し、プログレ度を増した名作3rd『Formula 1』を75年にリリースします。
『Formula 1』リリース後にSYNKOPYを脱退し、プラハへと向かい、チェコを代表する人気バンドModry Efektに加入。75年から79年の在籍期間に東欧プログレの名作と言われる『Svitanie 』(77年5th)、『Svet Hledacu』(79年6th)をリリースしました。
80年に地元ブルノに戻り、自身が中心となってSYNKOPYを再編し、新たにSYNKOPY & OLDRICH VESLYとしての活動をスタートさせます。
そして、81年にリリースされたのが、東欧プログレ屈指の傑作と言える『Slunecni Hodiny』です。
全編に渡って荘厳に響き渡るOldrich Veslyによるムーグ・シンセ。そして、スラヴ的な哀感たっぷりのメロディとヴォーカル。
宗教的な崇高さとともに民族的な熱情を持ったサウンドは、アルベルト・ラディウス率いるイタリアのフォルムラ・トレ~イル・ヴォーロも彷彿させます。
彼らの出身のブルノは、モラヴィア地方の中心都市。
チェコ共和国は、プラハのある西部のボヘミア地方と東部のモラヴィア地方に大きく分けられますが、モラヴィア出身の作曲家ヤナーチェクが「モラヴィアの伝統文化こそが、西スラヴ民族であるチェコ人の音楽を象徴するものである」と述べた通り、文化的にも異なる特色を持ちます。
ヤナーチェク「シンフォニエッタ」
そんなモラヴィア生まれのSYNKOPY & OLDRICH VESLYは、神聖ローマ帝国~ハプスブルク帝国~オーストリア=ハンガリー帝国の地方都市時代の格調高き残り香とともに、スラヴ的なエキゾチズムを持った濃厚なシンフォニック・ロックを聴かせます。
スラヴ的な哀愁たっぷりの歌メロがいきなり感動的。同じくスラヴ系の国である旧ユーゴを代表するバンドBIJELO DUGMEも彷彿させます。
分厚いトーンで荘厳に鳴らされるムーグ・シンセも印象的で、ハプスブルク帝国の遺産が息づく濃厚なるバロックの香りが漂います。
ムーグ・シンセの音色はミュイーンと「スペーシー」なんですが、「スペーシー」とは言い切れず、宗教的儀式のような、バロック建築が目に浮かぶような、そんな崇高さに包まれているのがいかにもこの地ならではのニュアンスと言えます。
シャープなドラムもまた素晴らしく、舞踏音楽が中心のスラヴ民族に共通する持ち味。
後半に向けてドラマティックさを増していき、フォルムラ・トレ~イル・ヴォーロにスラヴ的な叙情と哀愁を加えて煮立てたような感動的なフィナーレへと向かいます。
アコースティック・ギターと幻想的なトーンのキーボードが織りなすマイク・オールドフィールドも彷彿させる精緻なアンサンブルで幕開け。アルベルト・ラディウス的なパーカッシヴなアコギのカッティングにあわせ、熱気をほとばしらせていくムーグ・シンセによるリードが実にカッコよし。
エネルギッシュなヴォーカル、こってりと情感たっぷりなメロディもまた印象的です。
4分過ぎには、ヴァイオリンが登場し、自由奔放に舞い上がるとともに、ドラムも加速度を増し、これでもかと乱れ打ってはドラマティックさを極めていきます。
5分過ぎには、キーボードとヴァイオリンのユニゾンが炸裂し、ドラマも最高潮。ラストには、2曲目「Hul V Slunecnich Hodinach」のメロディが再び登場し大団円を迎えます。
ドヴォルザークやヤナーチェクを生んだチェコの伝統がなせる圧倒的な構築美とスラヴの情熱。
6世紀にスラヴ人が定住し、9世紀に大モラヴィア王国を建設して以来、数多くの大国に翻弄されながらも、彼らが残した文化的遺産とともに、民族的アイデンティティを凝縮させていった悠久なる歴史がそのままサウンドの厚みや荘厳さになっているような印象を受けます。
東欧を代表する傑作のみならず、チェコはボヘミア地方の出自を持つ彼らだからこそ出せた濃厚なサウンドを持つユーロ屈指と言えるシンフォニック・ロック傑作です。
—–
同じスラヴ系に属するスロヴァキアや旧ユーゴの名品も特集していますので、あわせてチェックください。
【関連記事】
これはずばりハプスブルク帝国ロック!? 共産圏のロック、というより、ハプスブルク帝国の文化遺産が息づくブラチスラバという土壌で育まれたロック・ミュージックという方がしっくりくる豊穣な名作を特集!
【関連記事】
旧チェコスロバキア(現スロバキア)を代表するプログレ・バンドFERMATAの75年デビュー作『Fermata』をピックアップ!
【関連記事】
旧ユーゴを代表するプログレ・グループ、ビエロ・ドゥグメの最高傑作と言われる79年作5th『Bitanga i Princeza』をピックアップ!
ギタリストRadim Hladikを中心に68年に結成され、チェコ・プログレの最高峰バンドとして活躍したグループによる79年作。前77年作で見せたプログレ然とした構築性を持つシンフォニックなサウンドを推し進めつつ、ハード・ロック的なキレ味を持つタイトなアンサンブルで突き進むスタイルは、フランスの名バンドTAI PHONGを引き合いに出したい素晴らしさ。タイトで重厚なリズム・セクションを土台に、名手Radim Hladikが泣きのフレーズ満載のギターワークで畳みかけ、シンセがスケール大きく広がり、哀愁みなぎるチェコ語ヴォーカルが切なくも雄々しい表情で歌い上げます。プログレ好きにもハード・ロック好きにも是非聴いて欲しい東欧屈指の傑作です。オススメ!
コメントをシェアしよう!
カケレコのWebマガジン
60/70年代ロックのニュース/探求情報発信中!