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FERMATA『FERMATA』 ~旧チェコスロバキア屈指のグループによる75年デビュー作~ ユーロ・ロック周遊日記

旧チェコスロバキア(現スロバキア)を代表するプログレ・バンドFERMATAの75年デビュー作『Fermata』をピックアップ。

FERMATAの中心人物は、スロバキアを代表するギタリストの一人と言えるフランシス・グリグラク(Frantisek Griglak)。

現スロバキアの首都ブラチスラヴァで53年に生まれたフランシス・グリグラクは、小学生の頃、ビートルズやシャドウズに憧れ、祖父に買ってもらったギターの練習に明け暮れます。ティーンエイジャーの頃の憧れは、60年代のスロバキアを代表するミュージシャンDezo Ursiny率いるビート・バンドのBEATMANやSOULMEN。自分でもバンドを結成し、ジミ・ヘンドリックスやキンクスなどをカヴァー。オリジナルを作るようになりデモテープを制作すると、そのデモが人気ビートバンドPRUDYを率いていたPavol Hammelの目に留まり、彼のバックバンドに抜擢され、スロバキアの音楽シーンに活動の場を得ます。

Pavol Hammel & Prudyとしての最大のヒット曲が「Medulienka」!

Medulienka

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その後、71年から72年までは、東欧が誇る名Key奏者&コンポーザーのMarian Varga率いる旧チェコを代表するキーボード・ロック・バンドCOLLEGIUM MUSICUMに加わり、代表作とも言われる71年作2nd『Konvergencie』に参加。

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アルバム・リリースにともなうツアーに参加した後、脱退し、73年に結成したのがFERMATAです。

そして、結成メンバーからドラムとベースのリズム隊が入れ替わり、75年にリリースされたデビュー作が『Fermata』。

当時のメンバーは、

Frantisek Griglak(ギター)
Tomas Berka(Key)
Anton Jaro(ベース)
Peter Szapu(ドラム):後にCOLLEGIUM MUSICUMでも活躍

フランシスのキャリアからもわかる通り、リアルタイムで影響を受けた英国のビート・ロック、サイケデリック・ロック、ブルース・ロック、ハード・ロックをベースに、COLLEGIUM MUSICUM時代のクラシックのエッセンス、結成時にブームだったマハビシュヌ・オーケストラらのフュージョンのエッセンス、そしてスラヴの舞踏音楽が持つ熱情を盛り込みつつ、圧倒的なテクニックで畳み掛けるプログレッシヴ・ロックを指向したのがFERMATA。

1曲目「Rumunska Rapsodia」から、あまりに爆発的なテンションにしびれます。

T1: Rumunska Rapsodia

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な、なんなんだ、この強力なリズム隊!ザ・フーのジョン・エントウィッセルやイエスのクリス・スクワイアをフュージョンの時代に呼応させたようなゴリゴリとアグレッシヴに突き進むベースのうねりの強靭なこと!ドラムも特筆で、EL&Pのカール・パーマーの手数をさらに増やしたようなドラミングはこのバンドの大きな魅力といえるでしょう。

東欧やバルカンのバンドにはテクニックに優れたドラマーやベーシストが多いですが、ドヴォルザークの「スラヴ舞曲」やブラームスの「ハンガリー舞曲」やバルトーク「舞踏組曲」に象徴されるように、この地の民族の踊り好きにもその源流があるような気がします。

さてさて、そんな強靭すぎるリズム隊をバックに、ギターとキーボードも負けじとユニゾンでクラシカルな高速のキメを一閃!

ディープ・パープルとオランダのトレースを合体させて倍速にしたような凄まじいテンション・・・。

エレピが入ってくると、硬質なテクニカル・アンサンブルに淡くベールがかかる感じで、フランスのアトールを彷彿させます。アトールは72年結成でデビューが74年なのでほぼ同期。本作リリースの75年には、アトールは2nd『組曲「夢魔」』をリリースしています。ただ、影響を受けた、というよりは、同時代性から同じようなサウンドへと至ったのでしょう。どちらも、英プログレからの影響をベースに、フュージョンの時代に呼応しつつ、民族的なエッセンス織り交ぜながら作り上げたサウンドと言えると思います。

後半に入るとこれでもかと変拍子を配しつつ、ギターとキーボードが攻撃的なインタープレイを応酬し、上り詰めていきます。濃密な6分間。凄い曲です。

T5: Perpetuum III

アルバムのラストを飾るナンバーがこちら。

波や風の音とキーボードによる効果音が散りばめられた不穏なイントロ。そこに浮遊するギターのアルペジオが入ってくると、アトールに近い淡い色彩の音像が広がります。

ゴリゴリのベースが入ってきますが、「紡ぐ」という言葉がぴったりのナチュラルなトーンのジャジーなギター、夢想的なエレピがたゆたいながら交差する優美なパートも印象的。

ギターがタメの効いたフレージングで切れ込むと、リズムが走りだし、『ポセイドンのめざめ』の頃のクリムゾンを彷彿。タイトでふくよかでいてシャープなドラミングは、まるでマイケル・ジャイルス!

ギターも熱を帯びていくと、ピッキングにも力が入ってきて、まるでジョン・マクラフリンばりのエッジの効いたソロでスパークしていきます。にじみ出る哀愁やエキゾチックなウネリは、この地ブラチスラヴァが発祥のジプシー音楽のエッセンスも感じることができます。

ヨーロピアンならではの淡い色彩感覚と民族的なエキゾチズムともに、プログレ~フュージョンの硬質なテクニックが絶妙にバランスしたアンサンブルは、フランスのアトールやイタリアのイル・ヴォーロに比肩していると言って過言ではないでしょう。

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彼らの出身の現スロバキアは、6世紀頃にスラヴ人が居住した土地。10世紀にハンガリーに滅ぼされた後は、1918年に現チェコと合併する形でチェコスロバキアとして独立するまで、なんと約1000年にも渡ってハンガリーに支配されました。バンドの出身地であり、現スロバキアの首都であるブラチスラヴァは、1536年から1784年までハンガリーの首都にもなります。ハンガリーを通して、マジャール文化やロマ文化が流入する一方で、ウィーンまで55キロという近さもあって、ベートーベンやモーツァルトが訪れるなど、ドイツ/オーストリアの文化も入り込むなど、文化的水準の高い街でした。また、ロマ文化の中で、ジプシー楽団が生まれた土地でもあり、すぐれた演奏家を多数輩出しています。

彼らの音楽が持つ躍動感と色彩感とテクニックは、そんなスラヴ文化とドイツ・オーストリア文化とマジャール文化(ハンガリー)とロマ文化が幾重にも折り重なった歴史を持つ街だからこそ生まれた、と言えるでしょう。

スラヴ、ハンガリー、ドイツ、そしてロマの人々が交錯した街、ブラチスラヴァならではの多彩な魅力に溢れた東欧屈指の名作がこの75年デビュー作『Fermata』です。

スラヴ民族つながりで、旧ユーゴBIJELO DUGME、SMAKの記事もあわせてご覧ください。


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