2015年3月10日 | カテゴリー:ユーロ・ロック周遊日記
カンタベリー・ミュージックのみならず、ブリティッシュ・ジャズ・ロックを代表する言わずと知れた名グループ、ソフト・マシーンによる73年作の6枚目となるアルバム『6th』をピックアップいたしましょう。
前作『5th』を最後にサックス奏者のエルトン・ディーンが脱退し、代わりに元ニュークリアスのカール・ジェンキンス(オーボエ、Key)が加入。メンバーは、下記の4人組となりました。
マイク・ラトリッジ(Key)
ヒュー・ホッパー(B)
カール・ジェンキンス(Oboe、Key)・・・元ニュークリアス
ジョン・マーシャル(Dr)・・・元ニュークリアス
ニュークリアス組が2人となったことで、『3rd』から『5th』までに磨き上げた硬派でクールなフリージャズ・ロックを軸に、初期ニュークリアスでのカール・ジェンキンス作の曲で印象的だったミニマルな反復リフとたゆたうホーンとが織りなす幻想美が加わり、緊張感の中にもベールに包まれたような優美さがただようイマジネーション豊かなサウンドへと進化しています。
新生ソフト・マシーンのサウンドを解きほぐすために、カール・ジェンキンスの経歴をチェックしてみましょう。
出身はウェールズで、1944年生まれ。教会の聖歌隊長を務めていた父親の影響で、幼少期からピアノやオーボエを始めます。
高校時代にはすでにウェールズの国立ユース・オーケストラでオーボエ奏者として活躍し、その後、カーディフ大学、ロンドン王立音楽院にてクラシックの教育を受けるとともに、ジャズに没頭。グラハム・コーリアーのグループに参加した後、1970年にイアン・カーとともにニュークリアスを結成し、70年のデビュー作『エラスティック・ロック』、同じく70年に2nd『ウィル・トーク・アバウト・イト・レイター』、71年に3rd『ソーラー・プレクサス』にて、メイン・コンポーザー、オーボエ奏者として才能を発揮しました。
カール・ジェンキンスと言えば、ミニマルなフレーズが幾何学模様のように組み合わさってできたリフの反復と、たゆたうように優美なオーボエによるリードが生み出す浮遊感ある叙情的なジャズ・ロックが持ち味ですが、すでにニュークリアスのデビュー作でその特徴を聴くことが出来ます。
同じく元ニュークリアスで、前作『5th』からソフト・マシーンに合流したジョン・マーシャルのドラムもまたニュークリアス時代から魅力的で、ホーンやエレピが醸す幻想性にはおかまいなしに、手数多く細かくシャープなドラミングで、フリー・ジャズ/ジャズ・ロック的な推進力を生み出すのが持ち味です。
ニュークリアス時代に磨いたカール・ジェンキンスとジョン・マーシャルの個性は、ソフト・マシーンに合流してからも健在で、ソフト・マシーンのサウンドに色彩と重層性をもたらしました。そんな4人の個性が「ぶつかりあう」というより「折り重なり」生まれたサウンドが『6th』です。
アルバムは『3rd』と同じく2枚組の大作で、1枚目が新曲中心のライヴ、2枚目がスタジオ録音という構成。従来の硬派なソフト・マシーン・サウンドにニュークリアス組が色彩を添えた、という感じのライヴ・サイド、よりカール・ジェンキンス色が強まり、ジャズというより現代音楽のエッセンスが濃厚となったスタジオ・サイドという印象。
スタジオ・サイドの幕を開ける「Soft Weed Factor」から「新生」っぷりにびっくり。左右チャンネルにいくつも配置されたエレピによるミニマルなフレーズ。まるでベル音のような綺羅びやかなトーンのエレピが幾何学模様のように絡み合い、浮遊感と幻想性を生み出します。幻惑するようにゆったりと吹かれるサックスとそこにユニゾンで重なるファズ・オルガン。硬質なトーンのシャープなドラムがエネルギーを増していくと、クールなミニマル・ミュージックとジャズ・ロックとが奇跡的に融合した新生ソフト・マシーンならではのサウンドが現れます。
本作でのラトリッジの曲は基本的には、これまでのソフト・マシーンのサウンドを引き継いだフリージャズ・ロックを聴かせていますが、「Chloe and The Pirates」はラトリッジの曲とは思えないアブストラクトさに驚きます。シンセを逆回転にしたような音が時にキラキラと輝き、時に柔らかに減衰しながら生み出される非現実感たっぷりなウネリ。対照的に温かなトーンのエレピの反復と、詩情を紡ぐようなオーボエの静謐なリード。カンタベリー・ミュージックらしい精緻でいて緊張感あるリズム・チェンジを経ると、ふくよかなベース・ラインと夢想的なエレピをバックに、オーボエがこれでもかとイマジネーション豊かなメロディを奏でます。少しずつエネルギーを増していきながら、いつのまにかアンサンブルの要の位置に入り、フリーフォームなドラミングを炸裂させるのはジョン・マーシャルの真骨頂。柔らかに登りつめると、またも変拍子のキメとともに、現実が去ったようにドラムが消え去り、残響音のようなエレピの反復とともに、またも夢の世界へ。
溢れるイマジネーションの音像化とも言えるサウンドは、ギルガメッシュ~ナショナル・ヘルスを率いたアラン・ガウエンにも影響を与えたでしょうし、カンタベリー・ミュージックの新たなるベースとして、後のカンタベリー発の作品に大きな影響を与えたはずです。
後にアディエマスを組んで全世界を席巻するコンビとなる、カール・ジェンキンスとマイク・ラトリッジが組んだ記念すべき初の作品であり、同じ1970年に生まれた2つの作品、ソフト・マシーン『3rd』とニュークリアス『エラスティック・ロック』とが切り開いたブリティッシュ・ジャズ・ロック・シーンが、必然のようにその2つのバンドのメンバーが融合することで新たな地平へと進み出た記念碑とも言える傑作と言えるでしょう。
CARAVANと同じWILD FLOWERSを母体にRobert Wyattらによって結成されたグループであり、サイケデリック・ロックからその音楽性を変化させカンタベリー・ジャズ・ロックの代表的存在へと飛躍していったバンドによる70年3rd。Elton Deanに加えて、Nick Evans、Lyn Dobson、Rad Spail、Jimmy Hastingsという管弦奏者を充実させた8人体勢で録音された本作は、20分に迫る大曲4曲で聴かせる意欲作であり、初期のサイケデリック・ロックの音楽性を下地にしながらも、構築されたジャズ・ロック・アンサンブルと適度なアヴァンギャルド志向が融合した傑作です。
2枚組、デジタル・リマスター、ボーナス・トラック3曲
盤質:傷あり
状態:良好
側面部に色褪せあり、小さいケースツメ跡あり
CARAVANと同じWILD FLOWERSを母体にRobert Wyattらによって結成されたグループであり、サイケデリック・ロックからその音楽性を変化させカンタベリー・ジャズ・ロックの代表的存在へと飛躍していったバンドによる71年5th。ついにRobert Wyattが脱退しMATCHING MOLEを結成へと動く中、新ドラマーにPhil Howardを迎えるも収録中に脱退、アルバムの後半はNUCLEUSのJohn Marshallがドラムを担当しています。その内容は前作までの管弦楽器を撤廃、Elton Deanのサックスのみという最小限に抑えたアンサンブルで聴かせるフリー・フォームなジャズ・ロックとなっており、剥き出しになったバンド・アンサンブルの醍醐味が堪能できる傑作となっています。
CARAVANと同じWILD FLOWERSを母体にRobert Wyattらによって結成されたグループであり、サイケデリック・ロックからその音楽性を変化させカンタベリー・ジャズ・ロックの代表的存在へと飛躍していったバンドによる71年4th。前作にも参加していたElton Deanが正式にメンバーとしてバンドに加入した本作は、前作よりもアヴァンギャルド志向と即興色を打ち出した作品であり、フリー・ジャズの音楽性の色濃いものとなりました。ジャズ色を急激に進化させたバンドと音楽性が合わなくなったRobert Wyattは本作を最後に脱退、MATCHING MOLEを結成することになります。
カンタベリー・ミュージックのみならず、ブリティッシュ・ジャズ・ロックを代表する言わずと知れた名グループ。1枚目が新曲中心のライヴ作、2枚目がスタジオ作という2枚組でオリジナルはリリースされた73年作6thアルバム。前作でサックス奏者のエルトン・ディーンが脱退し、代わりにカール・ジェンキンス(オーボエ、Key)が加入。メンバーは、マイク・ラトリッジ(Key)、ヒュー・ホッパー(B)に、元ニュークリアス出身のカール・ジェンキンスとジョン・マーシャル(Dr)という4人となりました。ニュークリアスでも作曲センスを披露していたジェンキンスは、本作でも約半数の作曲を担っているのが特筆。ラトリッジのクールなエレピとホッパーのずしりと重いベースによるリフの反復を軸に、ジェンキンスのオーボエが涼やかなトーンで幻想的なリードを奏で、その後ろでは、マーシャルがウワモノとは対照的に手数多くシャープに疾走。『3rd』から『5th』で磨き上げた硬派でクールなフリー・ジャズ・ロックを軸に、初期ニュークリアスで聴けたミニマルな反復リフとたゆたうホーンとが織りなす幻想美が加わり、同じく1970年にリリースされた英ジャズ・ロック傑作、ソフツ『3rd』とニュークリアス『エラスティック・ロック』との融合とも言えるサウンドを聴かせています。ジェンキンスに負けじと、ラトリッジもジャズに収まりきらない独創的な楽曲を生み出していて、特に「Chloe And The Pirates」は、90年代以降のポスト・ロックと言えるような流麗かつ浮遊感たっぷりなキラメく名曲。『3rd』にも負けない、イマジネーションに満ちた英ジャズ・ロック・シーン屈指の傑作と言えるでしょう。
オリジナル・メンバーのKevin Ayers以来のギタリスト、Allan Holdsworthが加入し、『6』『7』と推し進めてきたフュージョン色をより強めた作品。75年作の8thアルバム。Karl JenkinsとMike Ratledgeによる叙情性と浮遊感のあるキーボード・ワーク、そしてその上をテクニカルに疾駆するHolldsworthの流麗なギター。John MarshallのドラムとRoy Babbingtonのベースによるロック的ダイナミズムに溢れたソリッドなリズム隊も特筆もの。圧巻のテクニカル・ジャズ・フュージョン・ロック!Holldsworthの唯一の参加作となった傑作。
デジパック仕様、2枚組、リマスター、DISC2には75年10月11日 のライヴ音源収録!
レーベル管理上、デジパック側面部に折れ線がある場合がございます。ご了承ください。
紙ジャケット仕様、デジタル・リマスター、内袋・ブックレット付仕様、定価2800+税
盤質:無傷/小傷
状態:良好
帯有
軽微なケースツメ跡あり
最後のオリジナル・メンバーMike Ratledgeが脱退。新たに元Darryl Way’s WolfのギタリストJohn Etheridgeが加入。John Etheridge (G)、Karl Jenkins (Piano)、John Marshall (Dr)、 Roy Babbington (B)、 Alan Wakeman (Sax)という布陣で制作された76年作。シャープなリズム隊をバックにJohn Etheridgeの超絶ギターが炸裂するパートと、柔らかく広がるキーボード&ピアノとサックスによる優美なパートとがダイナミックに交差するアンサンブルが聴き所。圧倒的なテンションと浮遊感の間を超絶技巧とセンスで行き交う後期ソフト・マシーンの代表作。
英ジャズ・ロックを代表するグループ、SOFT MACHINEの最終作となった通算11作目。81年作。Karl Jenkinsがイニシアチブを取り、John Marshall、Jack Bruce、Alan Holdsworthらが参加して作られた作品。テクニカルなジャズ・ロックを期待して聴くと肩すかしですが、イージー・リスニング的な浮遊感のあるジャズ・ロックとして聴けばかなり完成度高いです。
2ndアルバム発表後の69年3月、アムステルダムはパラディソでのライヴ音源。ワイアット、ラトリッジ、ホッパーによる緊張感に満ちたアンサンブルが素晴らしい傑作。
収録曲は、1.Hulloder 2.Dada Was Here 3.Thank You Pierrot Lunaire 4.Have You Even Bean Green? 5.Pataphysical Introduction PtII 6.As Long As He Lies Perfectly Still 7.Fire Engine Passing With Bells Clanging 8.Hibou Anemone And Bear 9.Fire Engine Passing With Bells Clanging(Reprise) 10.Pig 11.Orange Skin Food 12.A Door Opens And Closes 13.10:30 Returns To The Bedroom
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