2014年12月10日 | カテゴリー:MEET THE SONGS,世界のロック探求ナビ
タグ: プログレ
美しいアートワークとともに英国プログレファンから愛されるFANTASYの唯一作『Paint A Picture』をピックアップいたしましょう。
FANTASYは、イギリス南東部はケント州にある、テムズ川の北海への河口近くにある町グレーブセンドで70年に結成された5人組グループ。
オリジナル・ギタリストが交通事故で亡くなるなどの不幸を乗り越え、メジャーのPOLYDORレーベルと契約し、73年にリリースしたデビュー作にして唯一作が『Paint A Picture』です。
まず牧歌的でいてファンタスティックなジャケットが印象的ですが、サウンドの方も美しいジャケットの世界そのままと言える、アコースティックな温かみと幻想的でリリカルな歌心が特徴。メンバー5人の全員のヴォーカルのクレジットがある通り、流麗なメロディを柔らかに包み込み、切々と響くコーラス・ワークもまた絶品です。
オープニングを飾るタイトル・トラックは、彼らの代名詞とも言える名曲。
柔らかなトーンで幻想的に鳴るハモンド・オルガン、そこに夢見心地な効果音を加えるギター。そんなリリカルなアンサンブルに導かれ、穏やかでいてセンチメタルな歌声のヴォーカルが優美なメロディをしっとりと歌い上げていきます。
タイトなドラムが入るとともに、アコースティック・ギターがゆったりと奏でられ、ツイン・ヴォーカルによる豊かなコーラス・ワークも入り、切々と英国叙情を奏でていきます。サビへと移る時に、3拍子から4拍子へとさりげなくリズムチェンジするなど、目立たないながらも歌心にそっと寄り添うアレンジも見事。よく動くベース・ラインもまた流麗でメロディアスです。
サビが終わると、タメの効いたちょっぴりブルージーな香りもするファズ・ギターが入って、おっ、バークレイ・ジェームス・ハーヴェストに似てる!引きずるようにメロウなギターフレーズもまた英国ならではの味わいです。
2番に入るとメロトロンが登場して、優しくもドラマティックな展開がただただ至福の一言。3分過ぎの展開部では、キーボードが金管系のトーンの浮遊感あるフレーズを奏でるとともに、デイヴ・スチュワートをパストラルにしたようなカンタベリーも彷彿させるオルガンが糸をひくような繊細なリードが紡がれます。3番では、人声メロトロンと言えるような多声のバッキング・コーラスも入り、荘厳に盛り上がる展開にグッときます。
まさに絵画に次々と色をつけていくように音が折り重なっていくタイトル通りのアンサンブルが出色。派手なキメなどはありませんが、溢れる歌心と歌に静かに寄り添うアレンジに心温まります。
英国ならでは!と言えるファンタスティックすぎるブリティッシュ・フォーク・ロック屈指の名曲でしょう。
静かに紡がれるアコギの爪弾きと朝もやのようにたゆたうハモンド・オルガン、霧の向こうから聞こえてくるような幻想的なツイン・ヴォーカル、そのさらに奥からそっと鳴り響くエレキ・ギター、そして、静謐な楽曲をタムを中心とした巧みなスティックさばきでドラマティックに演出するドラム。
この曲を聴くといつもピンク・フロイドを思い出します。『原子心母』のB面の小品にも通じるリリカルな音世界。
目立たないながらも、耳を澄まして聴くと繊細な音への感性があふれていて特筆。ピンク・フロイドにも通じる音響的なセンスもまたバンドの確かな魅力と言えるでしょう。
滲み出る牧歌性と溢れる幻想性。そして、彼らならではの、音を紡ぎ、色を付けていくような、そんな色彩感覚豊かな音響的センスと歌をさりげなくもドラマティックに彩るアレンジセンス。
キャメルやグリーンスレイドがデビューしたのと同じ1973年に残された、唯一作ながら英国純度120%と言える豊かな味わいを持った愛すべき名品です。
なお、バンドは2ndアルバム用に向けてレコーディングを行いましたが、リリースはされずに解散。その音源は『Beyond The Beyond』としてCD化されています。1stの楽曲と変わらぬファンタスティックな佳曲を収めた好盤で、1stのファンにはたまらない贈り物のような逸品です。
品の良いシンフォニック・ロックを聴かせるイギリスのフォーク・ロック系プログレッシブ・ロックバンドの73年デビュー作。オルガンのシンフォニックでブリティッシュ的な旋律、牧歌的なアコースティック・ギターとボーカルの素朴な味わいなど、マイルドで緩やかなシンフォニック・ロック寄りのサウンドを聴かせており、メロトロンも効果的に組み込まれた作風です。楽曲によってはブラス・セクションによるドラマティックなアプローチなども見られるものの、一貫して感じられるのは適度にファンタジックでほのぼのとした英国叙情であり、穏やかな旋律を放つ名盤と言えるでしょう。
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