2014年6月20日 | カテゴリー:プログレ温故知新,世界のロック探求ナビ
タグ: プログレ温故知新
クラシカルなヴァイオリンをフィーチャーしたプログレをテーマに、南米はブラジルのシンフォ・グループSAGRADO CORACAO DA TERRAの『FAROL DA LIBERDADE』、新鋭からはロシアのLOST WORLD『SOLAR POWER』をご紹介いたします。
プログレッシヴ・ロックを特徴づける楽器というのはいくつかあると思いますが、皆さんなら何を想像されるでしょう。フルート、サックス、ハモンド、シンセ、メロトロン・・いろいろありますよね。そんな中で特にクラシカル系のプログレには欠かせない楽器と言えばやはりヴァイオリン。時に優雅に時に分厚くシンフォニックに演奏を盛りたてるストリングスから流麗に舞うソロプレイまで、バンドサウンドに優美さや格調高さを与えてくれます。
そんなヴァイオリンのポテンシャルをフルに使ったスケール感いっぱいのサウンドを楽しませてくれるのが、ブラジルのシンフォ・グループSAGRADO CORACAO DA TERRAです。
SAGRADOは、数々のバンド/ユニットに参加し、TV/映画音楽家としても確立した評価を得るクラシック畑出身のヴァイオリニストMarcus Vianaが79年に結成したグループ。SAGRADOでのプレイの他に名演としてよく知られるのが、彼と同じミナス地方出身のミュージシャンでO TERCOや15BISなどで活躍したSSW/key奏者Flavio Venturiniの81年ソロ作における客演です。これがクラシック出身者らしい格調高さ優雅さと南米音楽に由来するちきれんばかりの叙情性が一つとなった素晴らしいプレイなんですよね。これだけでも彼が才能豊かなヴァイオリン奏者であるということは十分お分かりいただけると思います。
そんなViana率いるSAGRADOはこれまでに5枚のオリジナルアルバムを発表しており、いずれの作品でも南米ブラジルらしいパッションと艶やかな叙情美をいっぱいに含んだスケール感溢れるシンフォニック・ロックを聴かせてくれます。今回はそんな中でもバンドの最高傑作に挙げられることも多い91年作『FAROL DA LIBERDADE(自由の灯)』から、ヴァイオリンの鮮やかなプレイが冴える躍動感いっぱいのシンフォニック・チューン「FAROL DA LIBERDADE」をどうぞ。
序盤のミナス音楽を思わせる柔らかでファンタジックなピアノ伴奏に乗る優しげな歌声、そこに気品のあるヴァイオリンの音色が重なると一気にエネルギッシュでスケール感いっぱいのSAGRADOらしいシンフォニック展開へと突入!サビでは歌に呼応するように炸裂するエレクトリック・ヴァイオリンのキレのあるフレージングが素晴らしいですよね。この南米らしい艶やかな叙情を持ちつつもキャッチーでヌケの良いサウンドは、SAGRADO以外にはあり得ない魅力です。
リーダーのVianaが数々のプロジェクト・バンドやユニット、映画/TV音楽製作で多忙なせいもあるのか、00年以降スタジオ作品をリリースしていない彼ら。これだけのメロディセンス、演奏技術、そしてオリジナリティを兼ね備えたバンド、実力派ひしめく現在のプログレシーンにもそうはいません。またブラジルらしいパッションみなぎる作品が届けられるのを期待したいところですね!
さて、そのSAGRADOにも匹敵する新世代のヴァイオリン入りシンフォニック・ロック・バンドと言えば、やはりこのロシアの新鋭グループでしょう。
LOST WORLDは、ロシアの音楽院でクラシックを学んでいた学生たちによって90年に結成されたグループ。ヴァイオリン/ギター/ベースを兼任するAndy Didorenkoを中心に3人~4人で活動、90年代に7枚の自主制作アルバムを発表し、03年よりメジャーデビューを果たして以来、現在までに4枚のアルバムをリリースしています。
ショスタコーヴィチ、ラフマニノフ、 チャイコフスキーなどのクラシックの音楽家は勿論、ビートルズ、キング・クリムゾン、EL&P、イエス、ジェントル・ジャイアント、スーパートランプなどのロック/プログレまで愛聴するという彼らのサウンドは、まさにクラシックの格調高さとロック(プログレ)のダイナミズムの融合という言葉がふさわしいもの。
70年代のキング・クリムゾンを受け継ぐヘヴィで緊張感溢れる鋭角的なアンサンブルの上をクラシカルなエレガンスに満ちたヴァイオリンが疾走するスタイルを基本に、硬質にも叙情的にも自在な表現力で綴られていくサウンドの完成度は、90~00年代に登場した新鋭たちの中でも間違いなくトップクラスと言えるでしょう。
今回ピックアップする13年リリースの4th「SOLAR POWER」は、そんなヘヴィな緊張感を全編でみなぎらせていた従来の作風からより優雅で叙情的なパートが増え、アンサンブルにおける表情の幅が格段にレベルアップした快心作。その中からヴァイオリンの豊潤な音色が楽しめるスケール感溢れるシンフォニック・ナンバー「VOYAGE」をどうぞ♪
ヘヴィでタイトなリズムセクションと、メロディアスにフレーズを紡ぐギター、そしてストリングスばりに厚みのあるヴァイオリンの優雅でパワフルなプレイが一体となって押し寄せてくる、硬軟自在の極上シンフォニック・チューンに仕上がっています。これは先にご紹介したSAGRADOにも肩を並べるクオリティとポテンシャルをひしひしと感じさせるサウンドですね。
本作までおよそ3年ごとにリリースされている彼らのスタジオアルバム。次回作への期待はまだ早いかもしれませんが、きっと本作すらも上回る驚異の新作を届けてくれることでしょう。是非楽しみにしたいですね!
なお、LOST WORLDへのインタビュー記事もございますので、彼らのサウンドに興味を持たれた方は是非こちらもお楽しみいただければ幸いです!
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キング・クリムゾンからの影響が感じられる硬質でアグレッシヴなサウンドをベースに、クラシカルなヴァイオリンやフルートが疾走するテクニカル・アンサンブルが痛快な、現在最も注目すべき新鋭の一つですLOST WORLDの魅力に迫るインタビュー!
クラシカルなヴァイオリンをフィーチャーしたプログレをご紹介してまいりましたが、お楽しみいただけましたでしょうか。時に優雅にも情熱的にも響くヴァイオリンの音色の魅力は、言葉に言い表し難いものがあります。是非ご自分の心に格別の響きを残すヴァイオリン・プログレを探求していただければと思います。
ヴァイオリニストMarcus Viana率いるグループ、85年作1st。流麗なヴァイオリンとキーボードを中心とした、ラテン音楽出身ならではのおおらかな味わいを持ったシンフォニック・ロックを特徴としており、その個性は既に本作で確立されています。優しく包み込むようなピアノと幻想的で情緒溢れるヴァイオリンを中心に、フルート、アコースティック・ギターが加わるファンタステイックなアンサンブルが魅力的。甘い歌声の男性ヴォーカル、裏声を巧みに使い、美声を響かせる女性ヴォーカルの二人は時にリードを分け合い、時に混成コーラスとしてロマンティックな楽曲を見事に装飾しています。スケールの大きな南米シンフォの逸品。
現代ロシアを代表する3人組プログレ・バンドによる13年作4th。シャープで安定感のあるドラム、テクニカルに躍動するベースを土台に、キーボードがリズム隊とは異なる変拍子でミニマルかつエスニック調のフレーズをかぶせ、緊張感を生み出す。そこにどこまでも伸びやかに、そして鮮烈に奏でられるヴァイオリン!芯のある太いトーンのギターやフルートもからみ、「静」と「動」を対比させながら流れるように畳みかけます。目の覚めるような完璧なオープニング・ナンバー。ただただ心が躍ります。2曲目以降も、切れのあるヴァイオリンが疾走するクラシカル・シンフォから、ヘヴィーにうねるギターが炸裂する70年代中期クリムゾン的ヘヴィー・プログレ、フルートをフィーチャーした民族調テクニカル・アンサンブルまで、1曲の中でめくるめく展開しながら、ハイテンションで駆け抜けます。終始テクニカルで展開が多いながらも、決して大味になることなく、精緻で格調高く気品に満ちているのがこのバンドの凄いところ。その点で、ジェントル・ジャイアントをも凌駕していると言っても決して過言ではありません。傑作3rdをさらに上回る、素晴らしすぎる傑作!
現代ロシアを代表するのみならず、ヴァイオリンをフィーチャーした新鋭プログレ・バンドとして屈指と言えるクオリティを持つトリオ、2016年作5thアルバム。オープニングから、舞踏音楽も取り込んだ躍動感いっぱいのリズム・セクションをバックに、ヴァイオリンが鮮やかなトーンでまるで天空を駆け抜けるかのように鳴り、エレキ・ギターが追随しながら疾走感を加える。イマジネーションいっぱいにめくるめく鳴り響く管楽器も凄いし、アコギとフルートによる静謐なパートの奥ゆかしさも特筆。ロシアが生んだクラシック音楽の巨匠ストラヴィンスキーが蘇り、交響楽団とテクニカルなプログレ・バンドを従えた、といった感じのまばゆすぎるアンサンブルにただただ心躍ります。何という完成度。2016年のプログレ作品の中で間違いなくトップ3に君臨することでしょう。ずばり傑作です。
ヴァイオリン/ギターetc.のAndy Didorenkoを中心に結成、現ロシアを代表するプログレ・グループにして、全世界的に見て最もスリリングなヴァイオリン・プログレを聴かせる実力派グループ、3年ぶりとなる19年作6th。Vln&G/fl/dr/perの4人編成だった前作発表後に、パーカス奏者が脱退しベーシストと女性キーボーディストが加入。バンドとして安定した5人編成で制作されたのが本作です。1曲目からアクセル全開!舞踏音楽を思わせる気品に満ちたフレーズを切れ味鋭くスリリングに紡ぐ圧巻のヴァイオリンを中心に、パーカッシヴな打音も織り込んだダイナミックなリズム隊、テンション高くアンサンブルに絡みつつもあくまでしなやかな音色のフルートがスピーディに駆け抜ける緻密にして猛烈にテクニカルなアンサンブルには、プログレ・ファンなら血沸き肉躍ること必至。キーボードが大活躍する2曲目は新境地で、テーマを豪快に奏でるシンセとオルガンがカッコいい骨太なテクニカル・シンフォ。Andyはキーボードに負けじとヴァイオリンをギターに切り替えて音数多くキレのあるプレイで応じており、火花を散らすような応酬が見事です。さらに、クラシック畑のメンバーらしい静謐な空間の中でヴァイオリンやピアノが優雅に奏でられるクラシカル・チューンも流石で、疾走感あるプログレ曲との間にあまりに鮮やか対比を生み出しており素晴らしいです。トリオ編成だった頃に比べて、アンサンブルに確かな厚みと密度が生まれ、サウンドにズシリとした重みが加わった印象を受けます。3年待った甲斐のある貫禄の傑作!
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ロシア出身、ヴァイオリン/ギターetc.のAndrey Didorenkoを中心に90年代初頭に結成され、現在はアメリカを拠点に活動するテクニカル・シンフォ・バンド、24年作!今作ではAndriiがギター/ベース/ヴァイオリン/パーカッション/キーボードを兼任するソロ・プロジェクト的形態となり、フルート奏者/ヴォーカリスト/ドラマーらをゲスト・ミュージシャンに迎えての制作となっています。最長でも3分台というコンパクトな全16の楽曲群で構成される本作ですが、注目すべきはその恐ろしいまでの攻撃性。テクニカルでエッジの効いた音ではありつつも、あくまでクラシカルな気品高さが先立っていた従来の彼らを払拭するかのように、リズム・セクションとギターを中心にこれでもかとヘヴィかつタイトに攻め立てるサウンドに驚かされること必至。デビュー時より内包していたKING CRIMSONの影響が、むき出しの狂暴性となって襲い掛かってきます。バンドを特徴づけてきたヴァイオリンも狂気を露わにしながらスリリングに弾きまくっていて圧巻。荒れ狂うようなヘヴィ・プログレ・チューンが数曲続くと、かつての彼らを思わせる優美なクラシカル・シンフォニック・ロックが悠然と立ち上がって来る構成も見事で、その振れ幅が素晴らしい対比を生み出しています。クラシカル・サイドではゲストの女性ヴォーカルによる麗しくも憂いを帯びた歌声が絶品。KING CRIMSONファン、特に『太陽と戦慄』が好きな方はきっとニンマリとしてしまうでしょう!
下記ページで全曲試聴可能です!
https://lostworldband.bandcamp.com/album/a-moment-of-peace
90年代初めから活動するロシアのシンフォ・グループ。高い評価を得た06年作2ndに続く09年作。ヌケが良く疾走感溢れるリズム・ギターとアグレッシヴなリズム隊が築くスケールの大きなキャンバスの上を、ヴァイオリンとギターが奔放に美しいメロディを描き、そこに流麗なピアノが鮮やかな色を付ける。聴いていて思わず笑みがこぼれる躍動感いっぱいのアンサンブル。まさに「鮮烈」の一言。ただ、ゴリ押しで畳みかけることは決してなく、どんなにアグレッシヴなパートでも、静謐とも言えるような格調高さを常に感じさせるのが特筆もの。前作同様に「静」と「動」の対比鮮やかで、「静」のパートでは、フルートが柔らかに舞い、優美なメロディを描く。ファンタスティックなシンフォを軸に、「太陽と戦慄」期クリムゾンのような硬質なヘヴィネスや、ディシプリン期クリムゾンのような浮遊感とサウンドのエッジをうまく織り込み、なおかつ全体的には優美さでまとめ上げるセンスは超一級。サウンド・プロダクションも抜群で、モダンなビビッドさとビンテージな温かみとのバランスが絶妙。これは傑作です!
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