2014年4月14日 | カテゴリー:ユーロ・ロック周遊日記
タグ: プログレ
本日の「ユーロロック周遊日記」は、ゴングの73年作3rdで、ラジオ・ノーム三部作の第一弾『フライング・ティーポット』をピックアップいたしましょう。
バンドのブレーンは、言わずと知れた永遠のヒッピーでありボヘミアンのデヴィッド・アレン。
アレンは、1938年オーストラリア生まれ。10代でケルアックやギンスバーグなどのビートニク文学に夢中になり、厳格だった父親への反抗もあって、20代前半にヨーロッパへと放浪の旅へ出ます。フランスでは、ビートニク文学の旗手だったウィリアム・バロウズとも交流。アメリカから興ったヒッピームーヴメントにも刺激を受けながら放浪を続け、スペインのイビザ島などを経て、イギリス東南のドーバー海峡沿いの町、カンタベリーへと流れ着きます。
そこで知り合ったロバート・ワイアットらと共同生活をしながら、ソフト・マシーンで活動していきます。アレンがカンタベリーに流れ着かなければ、もしかするとカンタベリー・ミュージック・シーンは違ったものになっていたかもしれませんね。フランス公演の後、ビザの関係で英国へと戻ることができなくなったアレンは、フランスにそのまま残ることとなり、ソフト・マシーンを脱退。アレンを追ってイギリスからフランスに戻った恋人のジリ・スマイスとともに表現活動を続けます。68年5月に起こった学生運動の5月革命で学生側に付いたことで政府からにらまれ、マジョルカ島へと逃げます。そこで知り合ったサックスのディディエ・マレーブらとフランスに戻り、結成したのがゴングです。
こうした諸国への放浪を通して、アレンは、精神主義、快楽主義、共同幻想などのヒッピー・カルチャー=カウンター・カルチャーに影響を受けつつも、厭世的、排他的になることはなく、ボヘミアンならではの楽観主義やファンタジー趣味をベースにした開放的な内宇宙を構築していきます。
そうした彼の内宇宙をサウンドとして具現化したものがゴングであり、内宇宙が描き出した幻想世界=理想郷が「ラジオ・ノーム」三部作と言えるでしょう。
「ラジオノーム・インヴィジブル」=「見えない電波の精の物語」では、惑星ゴングからの妖精、主人公の英雄ゼロ、変名で登場するバンドメンバー達が入り乱れながら、妄想と現実、過去・現在・未来とがネジ曲げられ、理性や合理性を超越した幻想世界が描かれます。
サウンドのオリジナリティも圧倒的で、1st『マジック・ブラザー』や2nd『キャマンベール・エレクトリック』でのサイケなジャズ・ロック・サウンドから脱却し、スティーヴ・ヒレッジ(G)やディディエ・マレーブ(Sax)やティム・ブレイク(Key)による宇宙との交信のような効果音的フレーズと猥雑なジリ・スマイスのスペース・ウィスパーが自在に飛び交う、「構築する」=「型を持つ」ことを否定するような、奔放なサウンドが展開されています。さらに、プログレッシヴ・ロックとしての強度も持ち合わせているのがこのバンドの特筆すべきところで、恐らくこれは、アレンの意志とは離れ、バンド内のメンバーの化学反応が生みだした突然変異による奇跡のバランスと言えるでしょう(三部作の最終作『ユー』では、テクニカルな面がアレンの幻想を凌駕してしまいバランスが崩れ、結果、アレンは脱退してしまいます。)
反物質文明の精神主義に根ざしているところは同郷のマグマと共通していますが、彼らのような強迫観はなく、理性や合理性が幻想の中へと解体されるような、ゆらゆら、うねうねとしたサウンドが特徴。
マグマが神秘主義や非アングロ・サクソンのバーバリズムに立脚しているのとは対照的に、より開放的で平和的なユートピア思想をベースにしているからでしょう。
「世界中の全員がマリファナを吸えば、平和な世の中になるのに」と本気で信じていたデヴィッド・アレンそのもののようなオプティミスティックさが心地良い名曲です。
惑星ゴングから妖精たちが地球にやってきて、チベットに降り立つ、という場面を描いた楽曲。
スペーシーかつスピリチュアルな音の渦が約2分半続いた後、ベースのうねうねとしたリフに乗って、ギターとキーボードとサックスが浮遊するスペース・ロックへと展開します。そこから、ギターが粘着的なギター・リフを奏でると、アンサンブルの強度が増し、ドラムもここぞでビシバシとしたキメもきめ、まるで逆さまの世界に紛れ込んだような摩訶不思議なゴング流ロックが炸裂!
強度はそのままに、ウィスパー・ヴォーカルがグルグルと渦巻いたり、ゴングでしか味わえない音世界に理性がねじ曲げられていって、心地良いこと限りなし!
いかがでしたか?
ヒッピー気質とボヘミアン気質とが渦を巻くデヴィッド・アレンの内宇宙に凄腕の名ミュージシャン達が吸い込まれて、ねるねるねるねと混ぜこまれながら化学反応を起こして飛び出たヘンテコ音楽「ラジオノーム・インヴィジブル」。
その第一弾を飾ったユーロ・ロック史上に残る傑作ですね。
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スティーヴ・ヒレッジの75年作1stソロ『FISH RISING』をピックアップ。サウンドを一言で言うならば、ずばりKHAN meets GONG!
デヴィッド・アレン率いるGONGが71年にリリースした2ndアルバム。Pip Pyleの悶絶ドラミング、サックス&オルガンのアグレッシヴかつジャジーな演奏、Gilli Smythのスペース・ウィスパー、David Allenのユーモア溢れる弛緩ヴォーカルなど、すべてが聴き所。(ジャズ+サイケ+ロック)÷David Allen=Gongという公式が見事に確立したジャンル不問の大傑作。
ご存知サイケデリック・ジャズ・ロックの最高峰バンド。71年の3rdで、バイク・レースに関するドキュメンタリー映画用のサントラ。リリースは3rdですが、2nd『Camembert Electrique』のセッション最初期に録音されたもの。キーボードやシンセは使われておらず、アグレッシヴに暴走するリズムの中を、ファズ・ギターとサックスが渦を巻き、デヴィッド・アレンのフリーキーなヴォーカル、ジリ・スマイスのウィスパー・ヴォーカルが炸裂!クリムゾンやカンにも対抗できる、理性的かつ粗野なグルーヴに溢れたサウンドは圧巻のスケールです。スペース・ジャズ・ロック3部作も素晴らしいが、この初期の剥き出しのエネルギーも凄い。ヘヴィ・サイケデリック・ロックの傑作です!
David Allenを中心に結成され、個性的な浮遊感を持ったサイケデリックなスペース・ロックを確立。メンバーの出入りの多さからその人脈図は幾重にも枝分かれし、ファミリーバンドも多く存在し、プログレッシブ・ロックシーンに留まらず、エレクトロシーンなどにまでその影響を与えるグループの73年作。「Radio Gnome Invisible」と題されたシリーズの第2弾であり、前作に続いて浮遊感のあるスペース・ロックサウンドを構築。Steve Hillageのギターが広く空間を埋め、Tim Blakeのキーボードがジャジーなテイストを加味、Didier Malherbeのサックスも素晴らしいアクセントとなっており、多くのスペース・ロックフォロワーの原点を見ることが出来ます。
紙ジャケット仕様、デジタル・リマスター、「ラジオ・ノーム・インヴィジブル」ブックレット封入(英文・翻訳の2冊)、定価2700+税
盤質:傷あり
状態:不良
帯有
シール帯付き、カビ多め
David Allenを中心に結成され、個性的な浮遊感を持ったサイケデリックなスペース・ロックを確立。メンバーの出入りの多さからその人脈図は幾重にも枝分かれし、ファミリーバンドも多く存在し、プログレッシブ・ロックシーンに留まらず、エレクトロシーンなどにまでその影響を与えるグループの74年作。「Radio Gnome Invisible」と題されたシリーズの第3弾であり、3部作の完結編に位置づけられる本作は、サイケデリック・スペース・ロックバンドとしてのGONGの集大成的な一枚であり、バンドの代表作との評価も高い名盤。特に、執拗な反復の上でDidier Malherbeのサックスが響き、Steve Hillageのサイケデリックなギターが空間を支配する様は圧巻です。
リマスター、ボーナス・トラック1曲、CCCD
盤質:傷あり
状態:良好
ビニールソフトケースの圧痕あり、若干折れあり
David Allenを中心に結成され、個性的な浮遊感を持ったサイケデリックなスペース・ロックを確立。メンバーの出入りの多さからその人脈図は幾重にも枝分かれし、ファミリーバンドも多く存在し、プログレッシブ・ロックシーンに留まらず、エレクトロシーンなどにまでその影響を与えるグループの76年作。前作にはゲスト参加していたSteve Hillageも完全にバンドを離れたあとの作品であり、鮮やかなジャズ・ロックサウンドを基本にヴィブラフォンやパーカッションで彩を加えた作風となっていますが、後任ギタリストにAllan Holdsworthが参加しており、個性的なうねりを持った流れるようなギターワークでバンドに新風を吹き込んでいます。PIERRE MOERLEN’S GONGへの布石も多く見られる好盤です。
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