2014年4月8日 | カテゴリー:MEET THE SONGS,世界のロック探求ナビ
今日の「MEET THE SONGS」は、カンタベリーの名盤として愛される、KHANの72年唯一作『SPACE SHANTY』をピックアップいたしましょう。
KHANの中心人物は、GONGでの活躍やVirginレーベルからのソロ作でもお馴染みの名コンポーザーでありギタリストのスティーヴ・ヒレッジ。
ヒレッジの出世作であるとともに、エッグ~ハットフィールド~ナショナル・ヘルスで知られる名オルガン奏者、デイヴ・スチュワートが全面的に参加していることでカンタベリー・ファンからも愛される作品です。
まずは、ヒレッジとスチュワートとの出会いなど、ここまでのヒレッジの活動を振り返ってまいりましょう。
バンド活動のはじまりは、EGGの母体として知られるURIEL。
デイヴ・スチュワート(Org)、モント・キャンベル(B/Vo)、クライヴ・ブルックス(Dr)の3人にヒレッジが加わり、68年にURIELが結成されました。クリームやジミ・ヘンドリックスやナイスをカヴァーしながら腕を磨き、ロンドンを中心に活動していましたが、ヒレッジはケント大学進学のためにグループを脱退。残った3人は、DERAMと契約し、EGGと改名してデビューします。
ヒレッジはやはり音楽を捨てきれなかったのか、大学を辞めてロンドンに戻り、デイヴ・スチュワートが主宰していたロック・オーケストラ「オタワ・ミュージック・カンパニー」に合流。EGGのメンバー全員の他、ハットフィールド専属のコーラス隊ノーセッツとなる3人や、ヘンリー・カウのメンバーらと活動を共にします。そして、「オタワ・ミュージック・カンパニー」と並行してヒレッジが71年に結成したバンドがKHANです。
この時のメンバーは、スティーヴ・ヒレッジ(G/Vo)の他、
ここから、ピップ・パイルが抜けて、代わりにエリック・ピーチェイが加入。ディック・ヘニンガムが脱退し、その代わりとしては、正式メンバーではないものデイヴ・スチュワートがサポートで加入します。
こうして、元URIELの2人が合流して72年に制作された作品が『Space Shanty』です。
録音時のメンバーは、
サウンドを一言で表すなら、「サイケデリック・ロック」と「カンタベリー・ミュージック」とを柔らかなグラデーションでつなぐ橋渡し。
URIELやCRAZY WORLD OF ARTHUR BROWNという出自を感じさせるブルージー&サイケデリックで骨太なロック・アンサンブルとともに、デイヴ・スチュワートの陰影あるファズ・オルガンと抑制されたトーンのジャジーなギターによるこれぞカンタベリーと言える淡いアンサンブルを織り交ぜたサウンドが魅力です。
その中で、表現豊かに楽曲を彩るヒレッジのギターはさすがの一言。ブルージーで粘っこいギターリフ、GONGへとつながるディレイを効かせたスペーシーなリード、ハットフィールドのフィル・ミラーなどにも通じる滑らかなジャズ・ギターなど出色です。コンポーザーとしても見事に才能を開花させていて、9分を超えるオープニング・ナンバーなど、後にソロ作でも特徴的な組曲風の楽曲を披露しています。
引きずるようなリズム隊に粘っこいギター・リフが炸裂するサイケデリック・ハードなイントロから、一転して、ファズ・オルガンとナチュラルなトーンのギターによる淡い幻想世界が浮かびあがるパートへと展開するオープニング・ナンバー「Space Shanty」は、この作品の代名詞と言える一曲。ヘヴィにうねりながらアグレッシヴに畳み掛けるエネルギッシュなオルガン・ハードなパート、左右チャンネルに散りばめられた断片的なギターがディレイ音とともに木霊するスペーシーなパート、コロコロとユーモラスなパートなど、イマジネーション豊かに転がっていく展開も見事です。
2曲目「Stranded」もまた名曲で、クリムゾン1st収録の「風に語りて」やマクドナルド&ジャイルスの歌世界を彷彿させる、リリカルなメロディが印象的。やわらかに奏でられるアコギをバックに、しとやかに叙情がこぼれるワビサビを感じさせるピアノが絶品です。ヒレッジによるハートウォームなヴォーカルも切なく、MATCHING MOLEの「O Caroline」などと並び、カンタベリーの歌もの屈指の名曲と言えるでしょう。
4曲目「Driving To Amsterdam」も代表曲と言える出来映え。ハネたリズムのオルガン・ハードからはじまり、柔らかなトーンで紡がれるジャジーなギターの後、左右に配置されたギターとオルガンが精緻なタッチでドリーミーなリードを掛け合います。もう言葉を失う美しさ。ヴォーカルもドリーミー&ジェントルで、親しみやすいメロディも英国的で心震えます。時にオランダのトレースばりのクラシカルなオルガン・パートをさらりとはさんだり、ディレイをまぶしたギターが浮遊したり、熱気ムンムンのファズ・オルガンのリードが炸裂したり、とめどなく溢れるイマジネーションには圧巻の一言。
スティーヴ・ヒレッジとデイヴ・スチュワートという2人の才能が柔らかに絡み合って生み出された、時に水彩画のように優美で、時に英国的にセンチメンタルで、時にヘヴィでエネルギッシュな一枚。ハットフィールドの1st/2ndやギルガメッシュやナショナル・ヘルスなど、カンタベリーが誇る名作に比べると知名度は落ちますが、クオリティ的には勝るとも劣らない傑作です。
なお、ベースのニコラス・グリーンウッドは72年にソロ作をリリースしています。マイナーな作品ですが、Vertigoの人気作と比べても遜色ないオルガン・ハードの逸品。KHANからもエリック・ピーチェイ(Dr)、ディック・ヘニンガム(Org)が録音に参加しています。
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