2014年4月3日 | カテゴリー:ユーロ・ロック周遊日記
タグ: プログレ
一日一枚ユーロロックの名盤をピックアップしてご紹介する「ユーロロック周遊日記」。
本日は、プログレ不遇の80年代にドイツの地でリリースされたAMENOPHISの83年作『AMENOPHIS』をピックアップいたしましょう。
バンドの結成は78年。ギターのMichael Roessmann、ドラム&KeyのStefan Roessmann、Vo/ベースのWolfgang Vollmuthの3人を中心に結成されました。プログレ不遇の時代ながら、イエス、ジェネシス、キャメルに強い影響を受け、彼らのDNAを継ぐシンフォニック・ロックを目指して結成されたようです。
結成時は学生だったため、借金をして機材をそろえ、メンバーのアパートをスタジオにして、作曲、リハーサルを重ねつつ、79年から82年にかけては精力的にライヴ活動を続けます。
ただ、80年代という時代はプログレにとって不遇で、ラジオでプログレは掛からず、客数は減る一方で、資金をギリギリでやりくりしながらの活動でした。
82年にはいよいよ資金的に先が見通せなくなり、機材を売却しなければいけない状況に陥ります。そんな中、なんとかバンドを継続するための起死回生の一発を狙い、83年の夏に自主制作されたアルバムが『AMENOPHIS』です。
バンド名はエジプトのファラオの名から取られていますが、世界中のリスナーをターゲットに、一人でも多くのリスナーになんとかして聴いてもらい、という願いのもと、国・言葉の壁を越えてポピュラーな名前から選んだようです。
売れるためによりコマーシャルな音楽性に変えていく、ということも議論されたようですが、やはり自分達が好きなプログレッシヴ・ロックで勝負しよう、ということで制作。そんなメンバーの当時おかれていた状況も踏まえると、ジェネシスやキャメル直系の叙情的なメロディやアンサンブルが、より一層悲哀に満ちたものに聴こえて、涙が溢れそうになります。
ほとんどの曲は82年に作曲されたようですが、唯一80年作曲のオープニング・ナンバー「Suntower」を聴いてみましょう。
キーボードのクレジットは、ドラムとともにStefan Rossmannに付いていますが、ピアニストとしての腕前にびっくり。
瑞々しく格調高いトーンで流麗に、しとやかに奏でられるピアノは絶品の一言です。
ギターも素晴らしく、スティーヴ・ハケットゆずりの精緻なタッチのリードを軸に、ここぞではフル・ピッキングによる早弾きも交えてアグレッシヴに、さらに饒舌なフラメンコ・ギターまで飛び出して、恐るべしなテクニックを聴かせます。
ピアノ、ギターともに自主制作のレベルをはるかに超えた腕前。
気品に満ちたもの悲しい構成も見事ですし、ジェネシス、キャメルのファンは胸を鷲づかみにされること間違いなしと言える逸品でしょう。
もの悲しいソリーナ、線の細いハイトーンによるセンチメンタルなヴォーカルは、これぞ中部ヨーロッパならではと言える奥ゆかしい叙情に溢れています。ドイツの古城に幽閉された中世の国王たちの姿が目に浮かぶようです。
クラシカルな趣で丁寧に紡がれるエレキ・ギターが絶品で、ジェネシスのファンはたまらないでしょう。
ドラムはバタバタしているのがご愛敬ですが、そのB級っぽさが、このバンドの魅力である「悲哀」を一層引き立てている印象。
キーボードによる音響的な色づけなどは、ギリシャが誇るアフロディテス・チャイルドも彷彿させます。
後半は、ドラムが手数多く走り出し、歪みを増したギターがまるでNWOBHMばりにスピーディーかつ泣きに溢れたリード・ギターを炸裂させます。センチメンタルなパートからのハード・ロック的なパートへのダイナミックなスイッチもまたこのバンドの大きな魅力です。
メンバーの願いむなしく、アルバムは思ったように売れず、機材の売却が免れなくなり、84年のはじめにバンドは解散してしまいます。
87年はじめに2ndアルバムのレコーディングのオファーがあり、再結成し、88年はじめに2nd『YOU AND I」をリリースしますが、これもまた残念ながら売れずにバンドは解散となりました。
メンバーは音楽業界で生きていくことを断念し、それぞれ職を見つけ、音楽とは離れた生活をしていたようですが、なんと2010年に再結成し、なんとなんと2014年に復活作をリリース!
これが結成当時からの不遇を吹き飛ばすような、叙情そのままにフレッシュな力みなぎる作品で、クリアな音質でようやく彼らの実力がくっきりととらえられた叙情派シンフォの名作に仕上がっています。
ジェネシスやキャメルのファンは、83年とともに、結成から35年の彼らの思いが詰まった2014年作も必聴です!
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