2013年3月21日 | カテゴリー:アーティスト・インタビュー
タグ: プログレ
今回より新しくスタートする「アーティスト・インタビュー」企画。
世界のロックをカケハす、というカケレコのコンセプトを胸にいだき、マイナーながら是非ともロック・ファンに広く聴いて欲しいバンドを世界中から発掘し、その魅力を伝えてまいります。
記念すべき第一回目は、ピンク・フロイドやアラン・パーソンズ・プロジェクトを彷彿させる、緻密なスタジオ・ワークとクールなポップ・センスとが絶妙にバランスした知性豊かなプログレッシヴ・ポップが魅力のベルギーのユニット、FISH ON FRIDAY(FOF)!
今回は、中心メンバーであるWilliamとFrankの2人にメールでのインタビューに応じてもらいました。すでに彼らの作品を楽しまれた方も未聴の方も、彼らの魅力的なサウンドの秘密の一端を、FISH ON FRIDAYというバンドの魅力を感じていただけたら嬉しいです!
William Beckers
1960年生まれ
キーボード、ドラム
Frank Van Bogaert
1962年生まれ
ヴォーカル、キーボード、ギター
ウィリアム:「何年も前からこの名前が頭の片隅にあったんだ。響きが好きだし、F.O.F.と省略しても良い感じだしね。フランクに提案したら、すぐに気に入ってくれたよ。カトリックの風習で、金曜日には魚を食べるとかあるみたいだけど、それとは関係ないからね!」
―― サイトの紹介文ではアラン・パーソンズ・プロジェクトからの影響が語られていますが、その他にプログレ・バンド/ロック・バンドからの影響というのはあるのでしょうか?フランク:「アラン・パーソンズ・プロジェクトはもちろん最も影響を受けたバンドと言えるよ。ピアノやキーボードで作曲されたプログレッシヴ・ロックが好きなんだ。ウィリアムも僕もキーボード・プレイヤーだし、アラン・パーソンズ・プロジェクトのような歌心に溢れたプログレを心から愛してるんだ。でも、僕らはBLACKFIELDやPORCUPINE TREEやIT BITESなど現代的なプログレ・バンドも聴くよ。それに、TEARS FOR FEARSやBUGGLESなんかのポップなサウンドにも影響を受けているんだ。そんなプログレとポップとの融合がFISH ON FRIDAYのサウンドと言えるね。」
―― 「WOMEN FRIENDLY PROG ROCK」を目指しているとのことですが、詳しく教えてくれますか?ウィリアム:「フランクも僕もあらゆるプログレが好きなんだけど、僕らの妻達はスーパートランプやピンク・フロイドやジェネシスやアラン・パーソンズ・プロジェクトなど、よりメロディが綺麗なプログレが好きなんだ。だから、複雑なプログレを僕らが演奏したら、彼女達に嫌われちゃうだろうね。なんたって長いギター・ソロが嫌いで、テクニック重視のバンドが好きじゃないんだよ。このことには僕らも同意するけどね。最近のバンドはテクニカルに寄りすぎだと感じるし、もっと、メロディを重視するべきだと思うな。「Woman Friendly Prog Rock」というコンセプトは、僕らの妻達に気に入ってもらえる音楽と言えるね。とにかく、僕らの音楽を気に入ってくれる女性ならみんな大好きさ!」
―― 何か制作秘話のようなものがあれば是非お聞かせください。フランク:「レコーディングは楽しかったし、終始スタジオでリラックスしてたよ。だって、僕らみんなプロフェッショナルなミュージシャンだからね。みんながどう演奏するべきか、どう演奏するべきではないか完璧に分かってたよ。でも、何か面白いことを話さないといけないね・・・『Airborne』のオープニングの「Welcome」を録音していたとき、ベースに満足できていなかったんだ。ウィリアムに、Nick Beggs(KAJAGOOGOOでプレイしていて、今はSteve WilsonやSteve Hackettと演奏しているベーシスト)だったら、僕らの思い描く演奏をしてくれるはずだよ、と言ったんだ。ウィリアムはまさかニックが僕らのために演奏してくれるなんて思ってなかったようだけど、僕が彼に曲を送ったら、とても気に入ってくれて、すぐにゲスト・プレイヤーになるよ、と言ってくれたんだ。信じられなかったよ。」
―― あなたをプログレッシヴ・ロックに導いた一枚とは何だったのでしょうか?またそれを初めて聴いた時、どんなことを感じましたか?フランク:「ジェネシスの『トリック・オブ・ザ・テイル』だね。今でも時々演奏するよ。メロディは素晴らしいし、演奏も最高だし、何よりすべての歌に語るべきストーリーがあるのが良いね。」
ウィリアム:「ずいぶん昔の話だけど、ジェネシスをはじめて聴いた時の衝撃は今でも覚えているよ。フランクが挙げた『トリック?』ももちろん好きだし、『そして3人が残った』はもっと好きだよ。このアルバムはよく演奏するしね。やっぱり歌が最高だよ・・・そうだ、まさに「Woman Friendly」だね!」
―― 最近の愛聴盤とその理由を教えてください。フランク:「PRODUCERSの『Made in Basing Street』だよ。バグルスのトレヴァー・ホーンと10ccのロル・クレームのバンドだよ。」
ウィリアム:「僕もPRODUCERSは大好きさ。良いメロディ、良いアレンジ、そしてすばらしいプロダクション。すべてが揃ったアルバムだよ。この作品に出会えたことは、ここ数ヶ月で最もインパクトを受けたと言えるよ。本当に最高さ。」
―― あなた方の国であるベルギーの音楽シーンというのは、なかなか日本では情報が得られません。現在はどういうタイプのサウンドが注目を集めているのでしょうか。また、注目しているバンドがあれば是非教えてください。フランク:「ベルギーの音楽シーンは大きいものではないし、プログレッシヴ・ロック・バンドにとっては難しい状況だよ。ラジオで流れる音楽はすべてが同じに聞こえるし、正直なところ退屈なものばかりだ。ラジオ局が求める以外の音楽はまるでやってはいけないかのようだよ。音に個性があるからこそラジオに流れるのが普通だと思うけど、今はラジオ局の意のままで、どれも同じようだし個性がないよね。でもその中でも優れたバンドやアーティストはベルギーにもいるよ。Ozark HenryとMindgamesは本当にオススメだよ。」
―― 遠く離れた日本という国であなた方の音楽が聴かれていることをどう思われますか?ウィリアム:「とても誇りに思うよ。僕らは日本のリスナーの音楽に対する姿勢に共感してるんだ。日本のリスナーは本当に聴かれるべき音楽、メインストリームとは異なる音楽にもきちんと耳を傾けるし、ロック探求を本当に楽しんでるよね。」
―― 日本という国の印象をお聞かせください。また日本の音楽で知っているもの/好きなものがあれば是非教えてください。フランク:「僕はYMOとともに育ったんだ。最初の頃から彼らを追っているよ。坂本龍一も大好きだし、ずいぶん前だけど、ブリュッセルで彼に会ったこともあるんだ。アルバムだと『テクノデリック』が一番好きだね。今まで聴いたどんな音楽とも違うんだ。いつ聴いても、インスピレーションを与えてくれるよ。」
―― 日本のリスナーにメッセージをお願いします。ウィリアム:「僕らの音楽で日本のリスナーがハッピーになってくれたら嬉しいし、楽しんでくれることを願っているよ。音楽を聴くと誰もが幸せな気分になれるし、悲しい気分も音楽が癒やしてくれる。僕らの音楽も日本のリスナーにとってそうであったらいいな。ベルギーより愛を込めて。さようなら!」
メールでのインタビュー依頼に快くオーケーしてくれたフランクとウィリアム。
彼らの回答からは誠実さや温かさやユーモアや音楽への愛が溢れていますよね。
こちらの問いに対する返答をメールで受け取った数日後、彼らから封筒が届きました。
中には直筆メッセージ付きのポスターが!
ジーンときました。
封筒の裏に書いてあったイラスト。彼らの人柄が滲んでいます。
フランク、ウィリアム、こちらこそ本当にありがとう!
このインタビューをきっかけに、一人でも多くのリスナーがFISH ON FRIDAYの音楽を聴き、ハッピーになってくれれば嬉しいです。
FISH ON FRIDAY -BIOGRAPHY-2009年に、キーボーディスト/ドラマーのWilliam Beckers(1960年生まれ)とプロデュース/キーボーディストのFrank Van Bogaert(1962年生まれ)が共通の友人を通じて出会い、意気投合し、バンドの構想が立ち上がります。当初は専属ヴォーカリストを探していたものの、デモ録音で仮にフランクが歌った歌声をウィリアムが「そのままでクールだよ!」と気に入り、フランクがヴォーカリストに。そしてギター、ベース、ドラム、2人の女性バック・ボーカルをメンバーに迎え、7人組プロジェクトとして2010年にデビューしました。現在までに2010年デビュー作『SHOOT THE MOON』、2012年作2nd『AIRBORNE』の2作品を発表しています。中心人物2人がキーボーディストということから、SEから分厚く壮大な音の壁まで多彩なキーボード・ワークが特徴。「Woman Friendly Prog Rock(女性にも聴きやすいプログレ)」を標榜する彼らのサウンドは、空高く抜けるような爽快さとドラマティックさに満ちており、プログレ・ファンのみならずより多くのロック・ファンに訴えかける普遍性を持っています。
FISH ON FRIDAY -DISCOGRAPHY-AIRBORNE (2012)
スタジオ・ミュージシャンとして活動していた1960年生まれのWilliam Beckers(キーボード、ドラム)と、80年代にはニュー・ウェイヴ・バンドで活躍もしたFrank Van Bogaert(ヴォーカル、キーボード、ギター)によるベルギーのユニット。2012年作2nd。デビュー作からピンク・フロイドやアラン・パーソンズ・プロジェクトから影響を受けた、緻密なスタジオ・ワークとポップ・センスが光る知性的なプログレ・ポップはかなりの完成度でしたが、この2ndではさらに突き抜けています。青空へと飛翔するジャケの通り、オープニング・ナンバー「Welcome」から、ベテラン・スタジオ・ミュージシャンならではのクールで落ち着いた佇まいと、その中で確かに鼓動するポップな躍動感とが淡くも瑞々しい音像を描く彼らならではのオリジナリティ溢れるサウンドが全開。シンプルなビートを刻むドラム、青空や星空へと散らばっていくようなディレイを効かせたギター、伸びやかに広がるキーボード。ヴォーカルとメロディは淡々とクールで特別にドラマティックということはないものの、力強いリズムとまぶしいぐらいに広がり豊かなアンサンブルに乗り、切々と聴き手の心に浸透してきて、じんわりドラマティック。この静かな躍動感がなんとも心地よく、癖になります。ユーロならではのメランコリックさと往年の英プログレに通ずる知性とが絶妙にブレンドしたデビュー作の魅力そのままに、一気にスケールと緻密さを増した傑作。メロディの美しいプログレのファン、ニッチ・ポップのファンは必聴。カケレコ・レコメンド!デジパック仕様。
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SHOOT THE MOON (2010)
スタジオ・ミュージシャンとして活動していた1960年生まれのWilliam Beckers(キーボード、ドラム)と、80年代にはニュー・ウェイヴ・バンドで活躍もしたFrank Van Bogaert(ヴォーカル、キーボード、ギター)によるベルギーのユニット。2010年デビュー作。スペーシーかつ爽やかに広がるキーボードと、対照的にソリッド&ヘヴィに壁を築くギターとが見事な対比を描く、洗練されたスタイリッシュなアンサンブル。その間をしなやかに流れるメランコリックなヴォーカル&メロディ。『アニマルズ』や『ウォール』あたりのピンク・フロイドに通ずるスケールの大きなアンサンブルとメロディ・センスが印象的です。ディレイをかけたシャープでヌケの良いリズム・ギターがまるで青空へと飛翔するように鳴り、ヴォーカルがクールさを保ちつつもキャッチーなメロディで聴き手を包み込むポップ・フィーリング溢れる楽曲も魅力。アラン・パーソンズ・プロジェクトに多大な影響を受けたようですが、なるほど緻密なスタジオ・ワークと透明感あるポップ・センスは彼らゆずり。歌詞は全曲英語。ユーロならではのメランコリックさと往年の英プログレに通ずる知性とが絶妙にブレンドした逸品。聴けば聴くほど緻密に構成された音に驚きます。これは素晴らしい作品です。デジパック仕様。
2010年デビュー、ベルギー出身のベテラン・スタジオ・ミュージシャンが結成した新鋭プログレ・ポップ・グループ、23年作6th。2ndアルバム以降参加する、元KAJAGOOGOOで近年はSteve Hackettとの活動でよく知られるNick Beggsが今作もベース/スティックをプレイしています。彼らがリスペクトを公言するALAN PARSONS PROJECTへの憧憬に溢れた、ファンタジックさとブリティッシュな薫り高さすらも感じさせる端正かつ緻密な音作りが魅力のプログレッシヴ・ポップを、本作でも存分に楽しませてくれます。エッジのある攻撃的な音は一切登場せず、淡く幻想的なサウンドで終始メロディアスに聴かせるスタイルは、ただただ「心地よい」の一言に尽きます。ずばり「現代のAPP」と呼んで差し支えない、非常に高品質な職人的プログレ・ポップ好盤!
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