2016年2月25日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
タグ: プログレ
プロテスタントの敬虔主義が息づくドイツならではの勤勉でいてファンタスティックなジャーマン・シンフォニック・ロックを特集いたしましょう。
中世から近代にかけて、隣国フランスではカトリック信仰を土台にした強力な王国が築かれましたが、ドイツでは、神聖ローマ帝国の弱体化の中で300を越える諸侯に分裂し、ルターの宗教改革の後には、各諸侯ごとにカトリックとプロテスタントが選択されるなど、宗教的一体感にかける状況が続きました。
宗教的情熱を傾けることができなかったドイツの人々は、そのエネルギーを世俗信仰という形に変化させます。職業に振り向ける中で、職業的ストイシズムが根付き、もう一方で哲学や芸術に振り向けるなかで、人間の内面性に光を当てるロマン主義が生まれ、理性では汲み尽くしえないものに対する憧憬の文化が育まれました。
そんなバックグラウンドを持つドイツだからこそ生まれた、手工業ギルドの職人のような演奏の細やかさとともに、神秘的なものへの憧れが生み出す幻想美やリリシズムを持ったシンフォニック・ロック。
その代表格と言える2つのバンドが、73年にデビューしたNOVALISと79年にデビューしたANYONE’S DAUGHTERと言っていいでしょう。
ジャーマン・シンフォの名作が多数生まれたのが70年代末。NOVALISをその母体としてジャーマン・シンフォニック・ロックの胎動がはじまり、ANYONE’S DAUGHTERがデビューした70年代末に本格的に産声を上げた、ということができるでしょう。
まずは、NOVALISの作品を2作品挙げるとともに、同時期の名作を1枚ピックアップいたします。
73年にデビューしたノヴァリスによる75年リリースの2nd。
ブルースとクラシックが融合したプロコル・ハルム、情景描写的なリリシズムを持つキャメルに影響を受けつつ、ドイツ・ロマン主義を代表する詩人ノヴァーリスの詩を採用し、ブルックナーの交響曲をメロディに織り込むなど、ドイツらしい神秘的で敬虔的なシンフォニック・ロックを確立した名作。
専任のヴォーカリストを迎え、キャッチーになった77年作の5th。
デビューからのドイツらしいロマンティシズムと思索的な繊細さはそのままに、同時期のキャメル(『Rain Dances』)に通ずるポップさも増したファンタスティックなサウンドは絶品の一言。
ジャーマン・シンフォの名グループによる円熟の名作でしょう。
73年のデビュー作で、NOVALISと並ぶ、ジャーマン・シンフォ最初期の傑作。
ゲルマンの深い森の奥からひっそりと聴こえてくるような神秘性、そして、深く内省へと沈み込んだような、はたまた中世の古城にとらわれてしまったかのような暗鬱なメランコリー。
この繊細に紡がれるロマンティシズムこそジャーマン・シンフォの醍醐味。
そして、パンク/ニューウェイブの台頭によりプログレッシヴ・ロックが下火となった70年代末、ドイツでは各地から自主制作を中心に優れた作品が続々と生まれます。
そうした流れの中心に居たバンドが、79年デビューのANYONE’S DAUGHTER!
ドイツを代表する幻想のシンフォニック・ロック・バンドによる記念すべきデビュー作。
ギリシャ神話に登場するアドニスをテーマにしたコンセプト作で、ギターとシンセが繊細に紡がれ、折り重なりながら壮大なシンフォニック絵巻を繰り広げるデビュー作にして傑作。
81年作の3rd。本作より歌詞がドイツ語となったのが特筆。
ヘルマン・ヘッセの小説「ピクトルの変身」をテーマにしたコンセプト作で、ライヴ録音ながら、演奏終了後に聴衆の歓声が聴こえるまでライブとは気付かないほどの完璧な演奏を聴かせます。
同じく小説をコンセプトにしたキャメルの『スノーグース』に勝るとも劣らないと言っても過言ではない、ジャーマン・シンフォ屈指の傑作です。
理性ではとらえられないものにロマンを求め、非現実的な演劇やファンタジーに自身を投影したドイツ・ロマン主義が息づく、ドイツでしか生まれ得ないシンフォニック・ロックを奏でた名グループがGROBSCHNITT。
イエスとジェネシスからの影響を強く感じる明朗でシンフォニックなエッセンスを中心に、それを霧で覆うようにドイツらしいロマンティシズムで包み込んだ、幻想性たっぷりなサウンドは絶品の一言。
ジャーマン・シンフォ屈指の傑作といえる77年リリースの4th。
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70年代末に生まれたその他の作品も時代を追いながらピックアップしていきましょう。
ツイン・キーボード編成で、メロトロン、アナログ・シンセ、ピアノから美旋律が溢れ、極めつけはアニー・ハズラムをよりクラシカルにしたような美声女性ヴォーカル!
自主制作でリリースされたジャーマン・シンフォニックロック・アイテムの中でも、飛びぬけたクオリティーで有名な名品。
ジェネシス・フォロワーの名グループIVORYと同じJUPITERレーベルからリリースされた唯一作。
オルガンが醸し出すひなびた哀愁には、イギリスの牧歌性とは違う、古城が目に浮かぶような陰影と気品があります。
NEUSCHWANSTEINと同じRACKETレーベルよりリリースされた唯一作。
ドイツ産らしい深みと翳り、そして格調高いフルートが木霊する様はまさにジャーマン・シンフォ!
12弦ギターによるロマンティシズム溢れる幽玄な調べもたまりません。
75年にデビューしたグループの77年作2nd。
クラシカルなキーボードと泣きのフレーズを丁寧に紡ぐギターによる幻想性溢れるパート、そして、手数多い性急なリズムやキレのある変拍子によるGENTLE GIANTばりにテクニカルなパート。
この2つのパートを巧みに配したドラマティックかつダイナミックな展開が持ち味の快作。
Dirk SchmalenbachとMichael Dierksを中心に結成され、70年代後半から80年代初頭のジャーマン・シンフォニック・ロックシーンを代表する名盤を作り上げたグループによる78年デビュー作。
イエス直系のダイナミズムを軸に、フルートやヴァイオリンなど管弦楽器が音像を広げ、アニー・ハズラムを彷彿させる女性ソプラノ・ヴォーカルが歌いだす。
間違いなくジャーマン・シンフォの名作!
ドイツの古城をバンド名に据えたジェネシス・フォロワー屈指の名バンド。
初期、中期ジェネシスを土台にしつつも、内省的な響きのシンフォニックなキーボードが加わると、ジャーマン・シンフォニック・ロック独特の音の深み、そしてブリティッシュとはまた質感の違うロマン派の翳りが見えてきます。
BELLAPHONレーベルより79年にリリースされた唯一作。
ツイン・キーボード編成で、ピアノ、オルガン、メロトロンが織り成すドラマティックなサウンドは絶品の一言。
フルート奏者を擁し、その肌触りの滑らかさとファンタジックなサウンドで、ドイツを代表するCAMELフォロワーの地位を確立、名作を生み出したグループの80年デビュー作。
本家キャメルと比べると、技術、構築美はさすがに劣りますが、それを補うドイツらしい叙情的で静謐なロマンティシズムが印象的。
優美な名品です。
ツイン・キーボード体制でギタリストを含む5人組のジャーマン・プログレ・バンド、80年のデビュー作。
EL&Pからの影響は感じますが、ドイツというお国柄か奇抜さはなく、ロマン溢れる詩情が溢れ出てて、グリーンスレイドのファンにもオススメの逸品。
なんと、オーケストラの指揮者Ulrich Sommerlatteがジェネシスのサウンドに感銘を受け、息子Thomas Sommerlatteとはじめたグループ!
この時、Ulrichは60歳を越えていたというからさらに驚き。
NEUSCHWANSTEIN同様、初期・中期ジェネシスへの憧れが詰まったサウンドで、Ulrich Sommerlatteの飽くなき探究心が結実したジャーマン・シンフォニック・ロックの愛すべき名品。
71年から活動を続け、一時はインド音楽へと傾倒していながら、シンフォニック・ロックのフィールドへとたどり着いた個性派による82年デビュー作。
何と言っても特筆なのが、美声のハイ・トーンがルネッサンスのアニー・ハズラムを彷彿させる女性ヴォーカル!
派手な技巧はありませんが、ピアノを中心にしたアコースティックな雰囲気、キャメルに負けず劣らずの叙情的なギター、ピンポイントで楽曲に彩りを添えるサックスが印象的な好作です。
78年に結成されたドイツのプログレ・バンドによる83年のデビュー作。
スティーヴ・ハケットゆずりの繊細なタッチのメロディアスなフレーズ、ゴリゴリと高速ピッキングで畳みかけるフレーズ、さらにフラメンコ・ギターまでこなすテクニック抜群のギター。そして、いかにもジャーマンらしい古色蒼然とした味わいのキーボード、涼やかなフルート、線の細いセンチメンタルなヴォーカル。
泣きの美メロとドラマティックなアンサンブルに溢れた叙情派シンフォの名品!
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最後は70年代末に活動をしながら当時アルバムを残せなかったバンドによる30年越しのデビュー作をピックアップ。
ずばりイングランド『ガーデン・シェッド』やロッカンダ・デッレ・ファーテのファンにオススメ!
これは明瞭で突き抜けてドラマティックなシンフォニック・ロック快作です。
いかがでしたか?
ジェネシスやキャメルなど英国プログレの影響を受けつつも、中世から続くドイツならではの文化が流れるサウンドをお楽しみいただけたのなら嬉しいです。
76年に結成されたジャーマン・シンフォニック・ロック・バンド、77年にわずか数百枚のプレスで自主制作された唯一作(94年に再結成作をリリース)。ギターレスのツイン・キーボード編成で、全編に渡って鳴り響くメロトロンをはじめ、ハモンド・オルガンやムーグなど、ヴィンテージ・キーボードがこれでもかとフィーチャーされています。格調高いクラシカルなピアノ、たゆたうリリカルなフルート、アタック感の強いベース、ふくよかでいてキレのあるドラムも印象的。各楽器の音色はどこか霧の向こうから聴こえてくるようで、ジェネシスを奥ゆかしくしたような、そんないかにもジャーマン・シンフォと言える幻想性に溢れています。そして、何と言っても特筆なのが、初期ルネッサンスのジェーン・レルフを彷彿させるようなクリアなハイトーンの女性ヴォーカル!アンサンブルの「奥ゆかしさ」は、女性ヴォーカルによりさらに幻想度を増し、神秘的とすら言えるでしょう。旧アルバムA面とB面でドラマーが異なり、シンフォニックなA面から一転、B面ではジャズ・ロック的な切れ味鋭いドラムとともに、夢想性はそのままに、フュージョンばりのテクニカルなアンサンブルも織り交ぜつつ、シャープに畳み掛けていきます。ラスト曲は、無機的でミニマルなシンセ・シーケンスも飛び出し、メロトロンとともに、観念的に鳴り響くシンフォニック・サウンドはこれまたドイツならでは。自主制作とは思えないテクニックと完成度を誇るジャーマン・シンフォ屈指の名作です。
70年代のドイツを代表するシンフォニック・ロック・グループ。前作で転換を果たしたシンフォニック・ロック路線をさらに推し進めた77年リリースの4th。イエスとジェネシスからの影響を強く感じる明朗でシンフォニックなエッセンスを中心に、それを霧で覆うようにドイツらしいロマンティシズムで包み込んだ、幻想性たっぷりなジャーマン・ファンタスティック・ロックが印象的です。手数多くもタイトなドラムとクリス・スクワイア的なベースによる安定感抜群のリズム隊を土台に、糸をひくように繊細に紡がれるギター、流麗なキーボードがメロディアスなサウンドを織り成していきます。ヴォーカルのシアトリカルさは健在ですがアクは薄まり、ピーター・ガブリエルに比肩するような個性でサウンドの持つファンタスティックな要素を増幅させています。ジャーマン・シンフォニック・ロック屈指の傑作です。
78年に結成されたドイツのプログレ・バンドによる83年のデビュー作。スティーヴ・ハケットゆずりの繊細なタッチのメロディアスなフレーズ、ゴリゴリと高速ピッキングで畳みかけるフレーズ、さらにフラメンコ・ギターまでこなすテクニック抜群のギター。そして、いかにもジャーマンらしい古色蒼然とした味わいのキーボード、涼やかなフルート、線の細いセンチメンタルなヴォーカル。自主制作ということもあって、音質はクリアではありませんし、多少バタバタとしたところもありますが、それがまたこのグループの持つメランコリックな質感を引き立てている印象。キャメルやジェネシスのファンは間違いなくグッとくるでしょう。泣きの美メロとドラマティックなアンサンブルに溢れた叙情派シンフォの名品です。
ドイツらしい神秘性とナチュラルに澄み切った世界観で聴かせるクラシカル・シンフォニック・ロックバンドの82年デビュー作。ピアノを中心にしたアコースティックな雰囲気と、CAMELに負けず劣らずな叙情的なギター、ピンポイントで楽曲に彩りを添えるサックスが印象的な好作ですが、最も特筆すべきはAnnie Haslam系の女性ソプラノボーカルMarion Weldertの存在であり、そのアコースティックなバンド・アンサンブルも相まって、RENAISSANCEが引き合いに出されるのは必至。非常にクオリティーの高いジャーマン・シンフォニックロックの名盤です。
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