2023年11月13日 | カテゴリー:ユーロ・ロック周遊日記,世界のロック探求ナビ
タグ: プログレ新鋭
カケレコ・ユーザーのみなさん、こんにちは!
いきなりですが、プログレッシヴ・ロックといえばスケールの大きな「コンセプト・アルバム」ですよね。
THE BEATLESが、1967年に発表した『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』で初めて(THE BEACH BOYSの66年作『Pet Sounds』が初めてという説もあり)取り入れて以降、コンセプト・アルバムがプログレ・アーティストたちの創造力を刺激し、数々の名盤を生み出すきっかけのひとつになったことは広く知られています。
コンセプト・アルバムのテーマに選ばれるのは現実の出来事からオリジナルのストーリーまで様々でしたが、今回注目したいのは「文学作品」。
後ほど、ハンガリー/ルーマニアのYESTERDAYSによる2023年作『Saint-Exupery Alma』をご紹介しますが、このアルバムはフランスの小説家サン=テグジュペリに関するテーマを持っているようです。
というわけで、まずはプログレッシヴ・ロックにおける「文学作品とコンセプト・アルバム」について見ていきましょう!
文学作品をテーマに掲げたコンセプト・アルバムは、プログレッシヴ・ロックの歴史を振り返るとたくさん思い浮かびますね!
最も有名なのは、イギリスのCAMELが75年に発表したサード・アルバム『白雁(スノーグース)』でしょう。
ポール・ギャリコによる同名小説をテーマに掲げた本作は、CAMELにとってまさに出世作と言える作品。
一部スキャットが入る以外はインストゥルメンタルで構成されていて、原作のストーリーにフィットするファンタジックなシンフォニック・ロックが収められています。
特にギタリストAndrew Latimerの奏でるフルートが素晴らしい「醜い画家ラヤダー」は、文学作品をテーマにしたプログレッシヴ・ロック曲の最高峰!
ちなみにCAMELは91年作『ダスト・アンド・ドリームス~怒りの葡萄』でも、ジョン・スタインベックの小説「怒りの葡萄」をテーマにコンセプト・アルバムを制作しました。
イギリスからもうひとつ、YESのキーボーディストRick Wakemanの74年作『地底探検』も有名ですね!
彼が幼い頃から繰り返し読み耽ったという、ジュール・ヴェルヌによるSF小説「地底旅行」をテーマにしたライブ作で、ロンドン交響楽団を従え贅沢なシンフォニック・ロックを披露しています。
全英チャート1位、全米でもベスト10入りを果たす成功を収めた本作は、Rick WakemanがYESから脱退する引き金となりました。
ユーロ・プログレでは、ドイツのANYONE’S DAUGHTERが81年に発表した『ピクトルの変身』!
こちらもRick Wakemanの『地底探検』と同じライブ・アルバムで、ヘルマン・ヘッセの同名小説をコンセプトにした作品です。
ロマンティックなシンフォニック・ロックの合間に朗読が挟まれる構成で、「最終曲のエンディングでオーディエンスの拍手が聞こえるまでライブ・アルバムとは気づかないほどのクオリティー」とプログレ・ファンから絶賛されています。
ハンガリーでは、SOLARISの84年作『火星年代記』が、レイ・ブラッドベリによる同名SF小説をコンセプトに作られていますね!
SOLARISもCAMELと同じくフルートが活躍するシンフォニック・ロックですが、CAMELと異なるのはサウンドの切れ味がとても鋭いこと。
特にエレキ・ギターなどはヘヴィー・メタル的と言ってもいいほどのアグレッシヴなスタイルで、スペーシーなキーボードと共に非現実的なSF世界を表現しています。
特に有名な作品を挙げてみましたが、他にもご紹介したい作品が定番から新鋭までたくさんあります。
カケレコでは「文学作品をテーマとする世界のプログレ・コンセプト・アルバム特集!」と銘打ったwebマガジンもアップしていますので、そちらも是非お読みください!
さて、それではYESTERDAYSについて見ていきましょう。
YESTERDAYSは西ルーマニアのハンガリアン・マイノリティーたちによって結成され、ルーマニアの都市カレイに拠点を置いて活動するプログレ・バンド。
彼らは2006年に『Holdfenykert』でレコード・デビューを果たし、女性ヴォーカリストを擁する編成を生かしたアコースティックなシンフォニック・ロックで話題となりました。
半年後にはアルバムのストックがすべて完売したそうですから、滑り出しは上々だったのでしょう。
その後、2011年にセカンド・アルバム『Colors Caffe』、2018年にはサード・アルバム『Senki Madara』を発表。
高い評価を得たシンフォニックな音楽性に、磨きをかけていきました。
ちなみにサード・アルバム『Senki Madara』は『あの鳥のゆくえ』のタイトルでカケレコ・レーベルから国内盤もリリースされています。
しかし2020年、メンバーのキーボーディストZsolt Enyediが急逝。
今後の活動に心配の声が寄せられていました。
YESTERDAYSの4作目となる2023年作『Saint-Exupery Alma』は、キーボーディストZsolt Enyediの死去を経て初めてリリースされる彼らのスタジオ・アルバム。
Zsolt Enyediの不在は、ギター類やキーボード類、リズム楽器までプレイできるマルチ・プレイヤーBogati-Bokor Akosが埋めています。
バンドの紹介によると、本作は“フランスの小説家サン=テグジュペリと「星の王子さま」のコンセプト・アルバム”とのことですが、このコンセプトについては一癖あるようです。
というのも、本作は「サン=テグジュペリの夢」というタイトルが示す通り、単純に「星の王子さま」の各シーンに音楽を付けたという作品ではないためです。
ちなみに本作のコンセプトは亡くなったキーボーディストZsolt Enyediの発案で15年前から構想が練られていたとのことで、本作は彼に対する追悼盤という側面もあるようですね。
それでは、まずはオープニングを飾る「Rajzolj at」を聴いていきましょう!
YESTERDAYSが音楽的に大きな影響を受けたのはYESやGENESIS、CAMELやGENTLE GIANTだそうですが、その影響はアルバム冒頭からすでに感じられます。
ベースやギター、シンセサイザーの一瞬のフレーズがChris SquireやSteve Howe、Rick Wakemanを思い出させますね。
特にマルチ・プレイヤーBogati-Bokor Akosが、先人からの影響を上手く昇華しているということなのでしょう。
上記のバンドたちと異なる成分として、ふたりの女性ヴォーカリストStephanie SemeniucとTarsoly Csenge、そしてフルート奏者Kecskemeti Gaborの存在があります。
Stephanie SemeniucとTarsoly Csengeの歌声は、その安定した歌唱力もさることながら、ハンガリー語の個性がとにかく圧倒的!
Kecskemeti Gaborの奏でるフルートも、もちろんGENESISやCAMEL的な成分もあるものの、お国柄もあってか単純なCAMELフォロワーでは済ませられない独自性を感じます。
では続いて、3曲目に収められた「Estekek」を聴きましょう!
この楽曲の序盤が良い例ですが、物静かな雰囲気になるとYESでもGENESISでもないYESTERDAYSの個性が表れますね!
それはハンガリー語の響きによって誘われる、幽玄な音空間。
アイスランドのBJORKを引き合いに出すのは大袈裟かもしれませんが、Stephanie SemeniucとTarsoly Csengeというふたりのヴォーカリストたちが、歌声ひとつで空気を一変させてしまうだけの実力を持っていることは間違いありません。
では続いて、7曲目に収められた「A mereg」を聴きましょう!
ジャム・セッションのようなフリーなスタイルが強調されていますね。
無線の音声などが入る、とても映像喚起的な楽曲です。
本作の歌詞には、サン=テグジュペリが経験した砂漠での飛行機事故を想起させるフレーズが頻繁に登場するので、そういった効果音かもしれません。
上記の通りYESTERDAYSは、メンバーのキーボーディストZsolt Enyediを2020年に失いましたが、本作の中で唯一Zsolt Enyediの演奏が聴けるのがこちら。
では最後に、アルバムのエンディングを飾る「Rajzolj ujra at」を聴いてみましょう!
オープニングと対をなす楽曲という位置づけのようですが、キーボード・オーケストレーションを筆頭にやはりYESからの影響を感じますよね!
時期としては、74年作『海洋地形学の物語』あたりの雰囲気があります。
アコースティックなアンサンブルにフルートが彩りを添えると、GENESISの「Firth Of Fifth」を彷彿とさせる幻想的なサウンドに変化します。
駆け足で聴いていきましたが、いかがでしたか?
実は本作には20分を超える大曲「Esotanc」が収められており、間違いなく本作のハイライトと言える素晴らしい楽曲です。
しかし、ここではあえて取り上げておりません。
是非CDを手に取っていただき、この驚くべき新鋭のサウンドを体感してください!
Andrew Latimerを中心にファンタジックなアプローチでプログレッシブ・ロックの重要バンドに位置づけられるイギリスのバンドの75年3rd。オーケストラ・セクションを迎え、ポール・ギャリコの小説「白雁」をコンセプトに掲げたアルバムであり、全編インストルメンタルによる彼らの代表作の1つです。特にAndrew Latimerによるフルートの優しげな調べが印象的な「ラヤダー」は、澄んだシンフォニック・ロックのお手本として有名であり、同じくフルートを扱いながらもアプローチの全く違うJethro Tullとの比較で論じられています。決して派手さはないものの優しさとロマンに溢れており、肌触りの良いギターやPeter Bardensによるキーボードの音色、リズムセクションの軽快さ、そしてインストルメンタルのハンディを感じさせないメロディーとアレンジの上手さで御伽噺の世界をマイルドに表現しきった名盤です。
盤質:無傷/小傷
状態:良好
1枚は無傷〜傷少なめ、1枚は傷あり
盤質:無傷/小傷
状態:良好
スリップケース無し側面部に色褪せあり、小さい角潰れあり
イギリスを代表するプログレッシブ・ロックバンドYESの全盛期を支えたキーボーディストであり、そのクラシカルで大仰なキーボードワークで「こわれもの」や「危機」の多難な楽曲を彩ってきたアーティストの74年作。Jules Verneの同名小説にインスパイアされたコンセプトアルバムである本作は、ロンドンシンフォニーオーケストラを従えてロイヤルフェスティヴァルホールにて録音されたライブ盤となっており、オーケストラ参加作という事もあって前作よりも純クラシカルなテイスト。ロック的なダイナミズムこそ少ないものの、彼の大仰なサウンドはやはり圧巻です。
ハンガリーを代表するプログレッシヴ・ロック・グループ。84年作の1st。クラシカルで荘厳なシンセ、格調高いピアノ、たおやかなフルート、スリリングな泣きのギターを中心に、1音1音が有機的に結びついたダイナミックなアンサンブルは雰囲気抜群。叙情性と緊張感が見事に調和した圧倒的な構築美。シンフォニック・ロックの一大傑作。
プログレッシブ・ロックが衰退し死滅しかけていた79年に彗星のごとくデビューを果たし、甘く深みを持ったファンタジックなサウンドとジェントルな歌声、そしてジャーマン・シンフォニック・ロックらしいロマンを兼ね備えたドイツを代表するシンフォニック・ロックバンド。81年作の3rd。ヘルマン・ヘッセの小説「ピクトルの変身」をコンセプトに製作された本作は、演奏終了後に聴衆の歓声が聴こえるまでライブ盤とは気付かないほどのクオリティーを持った名演であり、甘いキーボードをバックにヘルマン・ヘッセの作品が朗読され、耳によく馴染むフレーズ、シンフォニックな楽曲群で叙情的に盛り上げていきます。同じく小説をコンセプトにしたという意味においてはCAMELの「Snow Goose」に勝るとも劣らない名盤と言えるでしょう。
スリップケース・ポスター付仕様、ボーナス・トラック1曲、デジタル・リマスター
盤質:傷あり
状態:良好
スリップケースに圧痕・スレあり、ポスター付いていません
歴史的にはトランシルヴァニアとしても知られる、ルーマニアのハンガリー人居住地域出身の人気シンフォ・グループ、4年ぶりのスタジオ・アルバムとなった22年作4th!ギターとキーボード類をメインに十数種類の楽器を演奏するリーダーBogati-Bokor Akosを中心に、2人の女性ヴォーカル、フルート奏者、パーカッション奏者らを含む7人編成での制作です。バンドが憧れの存在に挙げるYESを彷彿させるテクニカルかつアコースティックな牧歌性も織り込んだアンサンブルを、女声voとフルートが作り上げるドリーミーな幻想世界が包み込むシンフォニック・ロックは、ただただ至上の完成度。タイトに変拍子を叩き出すドラムと存在感あるリッケンバッカー・ベースによるYESを思わせるリズム・セクション、Peter Banksに近いセンスでジャジーかつスリリングなフレーズを決めるギター、躍動感いっぱいに疾走するシンセ、柔らかく広がるメロトロンのヴェール…。それだけでも素晴らしいところに、リリシズム溢れるフルート&淡い美声を重ね合わせるW女性voが加わると、もうそれは天上の音楽と言っても過言ではありません。特に2人の女性ヴォーカルはハンガリー語という事を忘れてしまうくらいにスッと耳に馴染む感じが本当に素晴らしい。YESで言えば、Peter Banksが在籍した『TIME AND A WORD』期のサウンドに、『TALES FROM TOPOGRAPHIC OCEANS』の神秘性を加えて幻想度を大幅アップさせたような印象でしょうか。いやはやさすが今作も圧巻の傑作です!
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