2023年7月14日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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前回は、イギリスの画家、版画家、詩人として知られるウィリアム・ブレイクの作品をジャケットに使ったアルバムとして、ATOMIC ROOSTER『DEATH WALKS BEHIND YOU』を紹介した。それに代表されるように、ブレイクの作品は、どちらかというとダークなイメージのものが多い。そのなかでも明るく力強いイメージで知られているのが「歓喜の日(アルビオンの踊り)」だ。英ジャズ界の巨人マイク・ウェストブルックに、そのもの『GLAD DAY』というタイトルで、同作をジャケットに使ったアルバムがあるが、ここで紹介したいのは、イギリスのSTRAWBS『GRAVE NEW WORLD』だ。
STRAWBSもジャケット・デザインに関しては微妙なもの、特に80年代以降は「これはどうなんだろう?」というものが多いけれど、70年代には『GRAVE NEW WORLD』を筆頭に、優れたデザインのジャケットもある。ネコ好きの私には、2006年に発売された彼らのボックス・セット『A TASTE OF STRAWBS』が一番だけども。
ネコの話はさておきSTRAWBSです。デビュー以来の中心人物デイヴ・カズンズの高齢による体調不良等が心配されるが、なんと先日に新作『THE MAGIC OF IT ALL』が発売された。なんでもドキュメンタリー映画を制作中で、それに伴うものだという。まだ未聴だけど、日本盤は発売されるのかな?
STRAWBSはオリジナル・アルバムも多いし、メンバーの出入りも激しいし、それぞれのメンバー関連作とかも多いしで、なかなかヒストリーやディスコグラフィーの全体が把握しきれない。それもあって、日本ではなかなか人気が出ないのかも。ということで、今回はSTRAWBS概説(前編)を。
STRAWBSの始まりは1964年。デイヴ・カズンズとトニー・フーパーでSTRAWBERRY HILL BOYSというブルーグラス・バンドを結成。やがてロン・チェスターマン、女性シンガーのサンディ・デニーが加わり、1967年には『ALL OUR OWN WORK』をデンマークで録音する。英フォーク・ファン必聴と思える名作だけど、これはお蔵入りになってしまう(1973年になって発売される)。
サンディ・デニーは脱退してFAIRPORT CONVENTIONへ。残された3人はA&Mと契約し、STRAWBSとして1969年にデビュー・アルバム『STRAWBS』を発表する。レタスを盛りつけたサラダボウルに、花柄の布が置かれているという、フラワームーヴメントの名残を感じさせるデザインは、初期の彼らのフォーク・サウンドにはピッタリかもしれない。
1970年には2作目『DRAGONFLY』を発表。アレンジが多彩になり、10分に及ぶ「The Vision Of The Lady Of The Lake」など、フォーク・プログレへの一歩を踏み出したアルバム。タイトル曲そのままのトンボ・ジャケット。細かく描かれた羽の模様が美しい。虫が苦手な人には辛いかも?
前作にゲスト参加していたリック・ウェイクマンが正式メンバーとして加入。さらにELMER GANTRY’S VELVET OPERAのリチャード・ハドソンとジョン・フォードが加わったバンド編成となる。1970年にライヴ録音中心の『JUST A COLLECTION OF ANTIQUES AND CURIOS』を発表。中世の頃の静物画を思わせる優美なたたずまいのジャケット。面白みがあるかというと、それほどでもないけれど。
続く『FROM THE WITCHWOOD』(1971年)では、リチャード・ハドソン、ジョン・フォードも曲を提供。後にHUDSON FORDとして活動する彼らのポップな味わいが加わり、STRAWBSが、よりロック&ポップ・バンドらしい作風に変化していく第一歩といえるだろうか。ジャケットは、なんか抽象的すぎるというか、あまり印象に残らない。
リック・ウェイクマンが脱退してYESへ。後任にAMEN CORNER~FAIR WEATHERのブルー・ウィーヴァーが加入する。この新編成で1972年に発表されたのが、ウィリアム・ブレイクの「歓喜の日」をジャケットにあしらった『GRAVE NEW WORLD』だった。英11位のヒットを記録する本作については後述します。
フォークから離れていくSTRAWBSになじめず、オリジナル・メンバーのトニー・フーパーが脱退し、後々までデイヴ・カズンズの相棒となるデイヴ・ランバートが加入する。よりロック色とポップ色が強まった『BURSTING AT THE SEAMS』を1973年に発表。同作からは、ハドソン&フォード作の「Part Of The Union」が英2位、カズンズの「Lay Down」が英12位のヒットを記録している。楽曲のメロディの魅力、ヒット性がグッと高まっていて、アルバムは英2位を記録する。ジャケットはメンバーの写真を使ったオーソドックスなもの。このタイミングでサンディ・デニー在籍時に録音された音源が、『ALL OUR OWN WORK』として発売されている。
リチャード・ハドソンとジョン・フォードが脱退し、HUDSON FORDを結成。さらにブルー・ウィーヴァーも脱退してしまう。STRAWBSはデイヴ・カズンズとデイヴ・ランバートの二人になるが、RENAISSANCEのジョン・ホウクン、STEALER’S WHEELのチャス・クロンク、ロッド・クームスという黄金の補強を完成させ、新章へと突入していく。
1974年、新体制で新作『HERO AND HEROINE』を発表。冒頭の組曲「Autumn」をはじめ、クラシカルかつ上品なたたずまいが増した良作。ジョン・ホウクンのセンスだと思うんだけど。ジャケットでは白い鳥が羽ばたいていて、そこに手が伸びているという、一見美しいけれどコンセプトはよくわからないジャケットです。
続く1975年『GHOST』も組曲からスタートする。ジャケットには女性と子供の古い写真が使われている。裏ジャケットにも同じ写真が掲載されているが、そこには子供が写っていなくて・・・あ、この子供がゴーストなのか?!というサプライズ感のあるジャケット。このジャケットは、雰囲気があって好きです。ただし、STRAWBSのピンチを救った(と僕が思っている)ジョン・ホウクンが同作を最後に脱退してしまう。ここが初期プログレ時代のピークだったかもしれない。続きは次回。
さて、今回紹介するのは、ウィリアム・ブレイクの「歓喜の日」をジャケットにあしらい、音楽的にも初期プログレ・スタイルのSTRAWBS最高峰といえる『GRAVE NEW WORLD』だ。1998年にA&Mから再発CD化された時のブックレットにデイヴ・カズンズがコメントを寄せていて、それによると本作は「ゆりかごから墓場まで、ある男の人生の物語」を描いたものだという。そのトップを飾る「Benedictus」は、まさに生命の誕生やこの世のすべてを祝福するムードに溢れた曲。この曲とウィリアム・ブレイク「歓喜の日」の生命力溢れるイメージがピタッとあっている。
物悲しいメロディが胸に迫るトラッド調の「The Flower And The Young Man」も美しい。「New World」は、アイルランド紛争を経験したベルファストの子供たちが、兵士の死体の絵を描くことを紹介した報道番組に触発されて書かれた曲だという。ドラマ性豊かな曲からファニーな曲、フォークなど、曲調はヴァラエティに富み、楽曲のメロディは粒ぞろいと、まさに名盤。ラスト曲「The Journey’s End」で、人生の終りを静かに告げる。ウィリアム・ブレイクが、「歓喜の日」をどういう意図で描いたのか定かではないし、STRAWBSの『GRAVE NEW WORLD』がそういう意図で作られたのかどうかもわからないが、このジャケットと音楽から人間賛歌のようなものが感じられる。生きていると、辛く、苦しく、厳しいこともあるけど、そこに立ち向かって生きていることは、いや立ち向かっていなくても、生きているということ、それ自体が素晴らしいことなのだと。ジャケットと音楽の力強さが、そう思わせてくれる。そういえば、「Benedictus」の邦題は「勇気を失わんものすべてに祝福あれ」だった。ぜひ、ウィリアム・ブレイク「歓喜の日」を見ながら聴いていただきたいと思います。
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
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デジパック仕様、2枚組、全28曲
盤質:傷あり
状態:良好
1枚は無傷〜傷少なめ、1枚は傷あり、軽微なスレ・軽微なウォーターダメージあり
プログレ・ファンにも愛される英国フォーク・ロック・バンド、長年所属したA&Mからオイスターに移籍しリリースされた76年作。SAILORやSPARKSを手掛けたルパート・ホルムスをプロデューサーに迎えた本作は、前作で示したアメリカ志向のポップ・ロック・サウンドをさらに押し進め、AORフィーリングを取り入れたサウンドを展開します。ウエストコースト風の伸びやかなメロディとギターが美しい「I Only Want My Love To Grow In You」、スプリングスティーンが歌ってもハマりそうな力強い「Turn Me Round」、持ち前の甘いハーモニーが素敵な「Hard Hard Winter」と、3曲目までの流れが特に秀逸。
盤質:傷あり
状態:良好
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