2022年7月7日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
ロック・ファンの皆さまを魅惑の音楽探求へとご案内する月間企画、7月のテーマは【奥深き英国ジャズ・ロックの世界】!
第1回目はBRAND Xの『UNORTHODOX BEHAVIOUR』から出発し、「米フュージョンと英国的要素の化学反応」をキーワードに、英国ジャズ・ロック作品をご紹介いたします。
BRAND Xの魅力と言えば、フィル・コリンズ&パーシー・ジョーンズが務める鉄壁のリズム隊ですよね。スムーズでいてうねりをあげるフレットレス・ベースと、手数多くタイトに攻め立てるドラムの機知に富んだ技巧派アンサンブルは、他ではなかなか味わえません。
そこにハードなエッセンスを加えるギターの速弾き、スペーシーな浮遊感をもたらすキーボードも加わるわけですが、決して飛び出すことなく絶妙な位置でバランスを保ち、バンドの個性をより強力に光らせています。
そんな彼らが生み出す英国ジャズ・ロック・サウンドの原点はどんなものだったのでしょうか?
まず感じたのは、米フュージョンからの影響。神秘的な浮遊感をもたらすシンセやエレピ、爆発力のあるギターの早弾きなど、特にRETURN TO FOREVERへの意識を感じます。
そこに陰影のあるメロディーやフレーズ、予想を裏切るような展開や隙あらば変拍子を差し込むプログレ精神などがプラスされ、知的でいてイタズラ心もある、英国ジャズ・ロックへと昇華させているのではと思われます。
計算式で表すならば、「RETURN TO FOREVER + 英国的な知的なクールネス + プログレ的偏屈さ」といった式はいかがでしょうか?
今回はそんな彼らのデビュー作、『UNORTHODOX BEHAVIOUR』をご紹介させていただきます。
オープニング・ナンバーの「Nuclear Burn」から凄まじいアンサンブルが火花を散らします。
テクニカルながらソフトなベースラインは、リズム隊の域を越え、歌うようなメロディーも奏でます。リードとリズムを兼任したような異次元のプレイには開いた口が塞がりません。隙間なく詰め込まれたドラム・フレーズの数々も圧巻です。
そこに飛び込んでくるハード・ロックとジャズの中間を行くようなギターの早弾きは、キャッチーさも相まって耳に残る印象的なメロディー。神秘的に揺らめくエレピが心地よい浮遊感で彩ります。
タイトル曲、「Unorthodox Behaviour」は英国的要素が特に感じられる1曲。
時計の針にも似た正確なリズムとうねうね動き回るベースを主軸に、鳥の鳴き声やベルの音など様々なSEも挿入され、英国紳士的なユーモアもたっぷりと感じていただけることでしょう。
2曲目「Euthanasia Walts」はクラシック・ギターとエレピが妖しく絡む大人のワルツ、最終曲「Touch Wood」はトラッドな空気が漂ったりと、激しく技巧的なサウンドはもちろんのこと、叙情的な一面も聴かせてくれる、英国ジャズ・ロックを代表する名盤です。
さて、BRAND Xのように米フュージョンからの影響を英国流儀で聴かせるグループは、メジャーどころからニッチなグループまで他にも多く存在します。その中でも屈指の知名度と人気を持つのがこのグループ!
60年代初頭より英国ジャズ・シーンで活躍した名トランぺッターIan Carrを中心に、管楽器/鍵盤を操る天才Karl Jenkinsやオールラウンドないぶし銀ギタリストChris Speddingら名手が集ったジャズ・ロック・バンドの70年1st。
一聴して感じ取れるのが『Miles in the Sky』や『In A Silent Way』など、いわゆる「エレクトリック・マイルス」からの影響。
落ち着いたリズム・セクションに乗り、トランペットら管楽器がゆったりとメロディを紡ぎ、そこにエレピが密やかなタッチで絡んでいくアンサンブルは、まさに上記の2作品からの影響を強く受けた作風と捉えて間違いないでしょう。
ただ、単にエレクトリック・マイルスを模倣したサウンドに終始するかと言えば、そうはならないのが面白いところ。
どこか神経質な緊張感を放つ即興パートでの掛け合いや、マイルス作品ではムーディーな色気が滲みだしてくるのに代わり、凛とした静謐なリリシズムが常に支配しているところなんかは、彼らのサウンドを英国ジャズ・ロックたらしめるのに不可欠な要素です。
エレクトリック・マイルスというあまりに巨大な存在に対して、見事英国バンドとして回答を叩きつけた重要作と言えるでしょう。
続いても、英国ジャズ・ロックきっての実力派を取り上げましょう。
英国ジャズ・ロックきっての技巧派ギタリストGary Boyle。インド出身で英国屈指の名門リーズ音楽大学で学んだあと、ダスティ・スプリングフィールドやブライアン・オーガーのもとでプレイ。その後はマイク・ギブスやマイク・ウェストブルック、キース・ティペットら英ジャズ・シーンの重鎮らとのセッションを重ねる中で頭角を現します。
本作は、Gary Boyleが72年6月に結成したバンドISOTOPEによる74年1stアルバム。
明確にMAHAVISHNU ORCHESTRAを意識したハイテンションで迫力満点のテクニカル・ジャズ・ロックには冒頭から度肝を抜かれることでしょう。
しかし彼らもまた、MAHAVISHNU ORCHESTRAら米国勢からの影響を素直に享受しているかと言えば、そう一筋縄ではいきません。
Gary Boyleのプレイを筆頭にアンサンブルから感じられるのが「職人気質の生真面目さ」。すべての楽器が硬質なトーンでぶつかり合うように鳴らされるのが特徴で、あのMAHAVISHNU ORCHESTRAですら滑らかに感じられるほど、猪突猛進で突き進むスタイルが彼らならではの痛快さに繋がっているのです。
ある部分ではテンション高く技巧を叩き込み、別の部分ではラフに、と「押し引き」の妙を感じさせる米フュージョン勢にはないこの「生真面目」という資質は、英国ジャズ・ロックの一側面として捉えていい気がします。
最後はNUCLEUSのメンバーも参加している、英国ジャズ・ロック・シーンきっての個性派名盤をピックアップ!
英ジャズ・キーボーディスト/コンポーザーNeil Ardleyが、Ian CarrをはじめとするNUCLEUSのメンバーや英ジャズ・シーンの名手を多数迎え制作した76年作。
本作の土台として考えたいのが、Herbie Hancockの代表作『Head Hunters』。
言わずと知れたジャズ・ファンクの大名盤ですが、そのファンク由来の躍動感を受け継ぎつつ、英クラシカル・プログレにも通じる「シンフォニックな幻想性」を加えたようなサウンドを鳴らすのが本作。
硬質なようでいて「しなり」を感じさせるグルーヴィなリズムやダイナミックに鳴り響くブラス・セクションがもたらすジャズ・ファンク的要素。
そしてNeil Ardley自身によるシンフォニックでほんのりスペイシーなキーボードワークと、フルートによるファンタジックな色合い。
両者が一体となる事で、誰も聴いたことがないシンフォニック・ジャズ・ファンクとも言えるサウンドを描き出しているのです。
いかがだったでしょうか?
気になる作品が見つかりましたら幸いです!
イギリスを代表する存在であり、GENESISのドラマーPhil Collinsが参加していたことでも有名なジャズ・ロック、クロスオーヴァー・フュージョングループの76年デビュー作。その内容は技巧的な演奏の連続が素晴らしいスリリングなテクニカル・ジャズ・ロック作品であり、Phil CollinsのせわしないドラムとPercy Jonesの技巧的なフレットレス・ベースによるリズム・セクションの躍動感をベースにし、各メンバーのいぶし銀のプレイが光る名盤です。アメリカナイズされたクロスオーヴァー・フュージョンのフォーマットは用いつつも、やはり英国的な音の深みと陰影を感じさせるサウンドは彼らならではの個性と言えるでしょう。
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