2014年9月19日 | カテゴリー:プログレ温故知新,世界のロック探求ナビ
タグ: プログレ温故知新
奇才DAEVID ALLEN率いるサイケデリック・ジャズ・ロック・グループGONGの74年作『YOU』と、エストニアの新鋭WRUPK UREIによる12年作『KOIK SAAB KORDA』をご紹介いたします。
サイケデリック・カルチャーは60年代後半にアメリカ西海岸を中心に広がったムーブメントで、ファッション、アートなどとともにその中核を担ったサイケデリック・ロック(サイケデリック・ミュージック)は、幻覚剤であるLSD服用時の幻覚作用を音楽によって表現しようと試みられたのが起源と云われます。BEATLESやROLLING STONESなどロックの礎を築いた多くのバンドが、サイケデリックな音楽性を取り入れた名作を残していますよね。
さてこのサイケデリック・ロック、実はプログレとも深い関連を持っており、後に英国プログレッシヴ・ロックの代表的バンドとなるPINK FLOYDやSOFT MACHINEなども、60年代後半においては色彩感を持つギターやキーボードを中心に据えたサイケデリック・ロック/サイケ・ポップを演奏していたのでした。
そんなSOFT MACHINEの最初期メンバーであったDAEVID ALLENがパリ公演からの帰国時、麻薬所持のためにイギリスへの再入国が許可されなかったことでフランスに残留、現地のミュージシャンを集めて結成されたのがGONGです。
そのサウンドは、サックスとギターがリードするテクニカルなジャズ・ロック・アンサンブル、英国のカンタベリー勢とも共通するユーモア感覚も交えた人懐っこいメロディ、GILLI SMYTHによるウィスパー・ヴォイスなどが渾然一体となって繰り広げられる、サイケデリック・ジャズ・ロックというべきもの。いたるところに飛び交うスペーシーなSEも楽しい、遊び心満載のプログレを聴かせてくれます。
ご紹介する『YOU』はALLEN在籍時の最後となる作品であると同時に、彼が構想する壮大なスペースオペラ「RADIO GNOME INVISIBLE三部作」の最終章でもあります。
作品を重ねるごとに強化されていった演奏技術をフル活用したテクニカルなアンサンブルと、執拗なまでに続く反復によって生まれるトリップ感という通常相容れないとも思われる2つの要素を、高次元で融合させた彼らの音楽は、時代をはるか先取りしたものであり、ある意味でプログレッシヴ・ロックの一つの到達点とも言うべきものです。
それでは本作での彼らの持ち味が存分に発揮されたこちらの2曲をお聴きください。
スペイシーなSEで満たされた音空間を切り裂いて疾走するサックスが何ともカッコいいナンバーですよね。STEVE HILLAGEによる変幻自在なサイケ・ギターもお見事。スペース・ジャズ・ロックという形容がふさわしいスピード感たっぷりの名曲です。
こちらはクールかつシャープに刻まれるテクニカルなリズムワークが絶品の一曲。その上を行き来するスペイシーなシンセ音や囁き声、しなやかなサックスにサイケデリックにうねりまくるギターが、次第に巨大な音塊となって迫ってきます。まさにこの時期のGONGサウンドの粋が集められた圧巻の一曲!
お遊びいっぱいながらも演奏ではテクニカルに決めるというスタイルが痛快だった前作までと比べ、今作では演奏重視のややシリアスな面が強調されている印象があります。そのバランスの若干の変化によってこれほどの緊張感のある傑作が生まれたのは事実ですが、ALLENが理想と見ていた従来のGONGらしさというものが失われてしまったのが、この作品を最後に彼がGONGを去ってしまった理由だったのかもしれません。実際、ALLENは当時「みんな上手くなりすぎた」と脱退の理由を語っています。
とはいえ、ALLEN脱退後のGONGのテクニカルなフュージョン/ジャズ・ロック路線の諸作やドラムのPIERRE MOERLENがリーダーとなった後のパーカッシヴなジャズ・ロック作品も、それぞれに個性的な魅力を持った名作揃いなので、ぜひ楽しんで頂きたいところです。
さて、このGONGの音楽性を受け継ぐ新鋭バンドとなるとそうそういるものではありませんが、新鋭の中に「おっ、これは・・・」と思わせるバンドを発見しましたのでご紹介いたします。
バルト三国の一つとして知られるエストニアは、古くはRUJAやIN SPE、近年ではPHLOXのような実力派が登場してきた、東欧でも注目すべきシーンと言えます。そのエストニア発の新たな注目すべき新鋭が、このWRUPK UREIです。
編成はKey奏者、サックス奏者、トロンボーン奏者、トランペット奏者を含む7人。
配信のみで12年にリリースされた『KOIK SAAB KORDA』は、各国のチェンバー/レコメン系新鋭を中心に扱うイタリアの新興レーベルALTROCKより14年にCDとしてリリースされました。
そのサウンドは、ノイ!などのクラウト・ロックやエルドン、そしてゴングなどサイケ・ジャズ・ロックからそれぞれ受け継いだDNAを融合させたような、近年の新鋭のなかでも極めて個性的なもの。
浮遊感たっぷりのミニマルなフレーズで幾何学模様を描くエレピ、エスニックな香りを漂わせながらも凛と透明感のあるマリンバ、スコーンと突き抜けるようなドラム、ゴングでのスティーヴ・ヒレッジばりにエッジの立ったトーンでエキセントリックに炸裂するエレキ・ギター。ベクトルの異なる各楽器が、時に有機的に絡み合い、時にアヴァンギャルドに狂乱する、変幻自在の演奏に圧倒されます。
それでは、本作からのナンバーをお聴きいただきましょう☆
厚みのある重厚なブラス隊を伴って進行するアンサンブルは、例えるならゴングをノイ!やエルドンばりに重く無機質にして疾走させた感じと言えるでしょうか。リズム隊を中心にロック本来のダイナミックな骨太さが土台としてあるのもポイントで、アヴァンギャルド感と肉感的なロック・サウンドとのバランスが絶妙。基本はブラスを伴ったジャズ・ロックですが、随所で顔を出すサイケデリックなフレイヴァーが存在感たっぷりに本作のカラーを決定づけています。往年のGONGを踏襲しながらも、独自のサウンドを練り上げたサイケ・ジャズ・ロックの新たな傑作ですね。
今回はサイケデリック・プログレをテーマにお送りしてまいりましたが、いかがだったでしょうか。全く異なる性質を持ちながらも互いに引かれ合うプログレッシヴ・ロックとサイケデリック・ロック。この2つが合わされば、これからも聴いたこともないような音楽が生まれていきそうで何だかワクワクしませんか?
コメントをシェアしよう!
カケレコのWebマガジン
60/70年代ロックのニュース/探求情報発信中!