2018年7月14日 | カテゴリー:KAKERECO DISC GUIDE,世界のロック探求ナビ
タグ: プログレ
スタッフ増田です。
皆様グリーンランドという国、どこにあるか知っていますか?
グリーンランドは北米大陸のさらに上、北極圏に位置する世界最大の島。面積の80%が雪と氷に覆われており、10世紀頃にアイスランド等から渡ってきたヴァイキングがここに定住を始めたのが国のはじまりとされています。
今回ご紹介するのはそんな極北の地、グリーンランドにてロック・ムーヴメントを打ち立てた歴史的なグループ。SUMEの73年デビュー作『SUMUT』です。
SUME(スミ)はヴォーカル&12弦ギター兼作詞担当のMalik Hoegh、ヴォーカル&リード・ギター兼作曲担当のPer Berthelsen、ベースのErik Hammeken、ドラムのHans Fleischerによって結成された4人組グループ。皆グリーンランド出身ですがデンマークへの留学中にSUMEを結成、その後もデンマークを拠点に77年まで活動しました。
彼らの作品は、当時としては非常に衝撃的なものでした。なぜなら、それまで「グリーンランド語で歌われたロック」は世界に存在していなかったからです。
グリーンランドは1917年以降、長らくデンマークの植民地下に置かれていました。53年にデンマークの憲法改正により植民地支配は終了しますが、統治権はデンマークが保有。政治・経済面での決定権を握られ、学校教育はほとんどがデンマーク語。グリーンランドの若者の多くはデンマークで就職することを目指し、「グリーンランド人」としてのアイデンティティは失われつつありました。
そんな状況の中、SUMEが作り上げた本作『SUMUT』。その内容に当時のグリーンランド人たちは驚き、困惑し、肝を冷やしました。「先住民族イヌイットが侵略者デンマーク人を殺戮し、その腕を切り取って掲げている」過激なジャケ。攻撃的なロック・サウンドに、グリーンランド語で「俺たちは囚われの身」「グリーンランドは俺たちの島だ」と主張する歌詞。
常にデンマーク人の顔色を伺いながら暮らしていたグリーンランド人たちにとって、そんなSUMEの挑戦的な姿勢は少なからず不安を覚えるものでしたが、同時に「自分たちのアイデンティティ」を歌ったその革新的内容に強く魅了されずにはいられませんでした。彼らのレコードはグリーンランドにも行き渡り、またたく間に国内で大ヒットを飛ばします。
アルバムの1曲目、「新しい時代」と名付けられた楽曲。自分たちが不安定な状況にいること、そして自分たちグリーンランド人の新たな時代を生み出さねばならないことを比喩を交えて暗示させています。
ただもちろん歌詞も重要ながら、驚くのはそのサウンドの鮮烈さ!叙情的にフレーズを奏でる歪んだギター、アコギから放たれる哀愁、思わず体を動かしたくなるリズム、ちょっぴりいなたくもキャッチーなヴォーカルのメロディ。そして中間部では90年代のインディー・ポップにも通じそうな、空間的なエフェクトをかましたギターが光るパートも。
強い政治的主張を持っていた中心人物Malik Hoeghの才のみならず、作曲担当のPer Berthelsenによる優れた音楽センスも彼らのヒットに欠かせぬ要素であったことがうかがえます。
英国をはじめとする欧州のサイケやフォーク・ロックをベースとしつつ、そこへグリーンランドならではのエキゾチム溢れる要素を盛り込んでいるのも大変ユニーク。このナンバーでは独特のハーモニーを持った民族的合唱が響くアカペラ・パートがリズミカルなフォーキー・ロックの中に混ぜ込まれています。
雪と氷に覆われた険しい環境の中で屈強に生きるイヌイットたちの姿が浮かんできそうな、部族風の力強い雄叫び。グリーンランドに生まれた彼らにしか生み出せないオリジナリティ溢れる音楽性は見事という他ありません。
さて公民権運動など世界的な政治的運動の波を受け、70年代にはグリーンランド内でも徐々に独立の機運が高まりつつありました。そんな折でのSUMEの登場によって、国内外での自治権獲得運動に急激に火が付きます。忘れかけていた自分たちのアイデンティティに目を向けさせ、現状を打開する。そんなSUMEの歌に一般市民のみならず政治家も奮起され、78年にはついに自治権を獲得。長かったデンマーク支配からの独立を果たします。
SUMEは本作の後、74年に2nd『INUIT NUNAAT』、77年に3rd『SUME』を発表。グリーンランドのみならずドイツ、北欧などヨーロッパ各国にツアーに赴き高い評価を得ますが、留学の終了と共にバンドは解散。しかしながらSUMEの影響を受け、グリーンランドではその後次々と良質なロック・グループが誕生。SUMEをきっかけに、グリーンランド・ロックの幕が開けることとなったのです。グリーンランドのロックは別の記事でも特集していますので是非ご覧ください。
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そして本年、そんなSUMEを描いたドキュメンタリー映画「サウンド・オブ・レボリューション〜グリーンランドの夜明け」が日本で公開。現在はDVDも発売中です。SUMEのメンバーや関係者によるインタビューのみならず、グリーンランドの当時の文化・社会状況、そしてSUMEを理解する上で重要な歌詞内容をじっくり味わうことのできる大変魅力的なドキュメンタリーとなっています。SUMEに興味を持った方、当時のグリーンランドの背景をお知りになりたい方は必見です。
映画公式サイトはこちら
http://www.mplant.com/sume/
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