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【ユーロロック周遊日記】タイ・フォン『恐るべき静寂』

本日のユーロロック周遊日記は、フランチ・シンフォ屈指のグループ、TAI PHONGによる75年デビュー作『TAI PHONG 恐るべき静寂』をピックアップいたしましょう。

リリース後まもなく日本でも伊藤政則さんにより紹介され、レコード会社にユーロ・ロック・ファンからの問い合わせが殺到し、国内盤もリリースされるなど、日本でのユーロ・ロック人気の火付け役の一つにもなった作品。

イエスやジェネシスからの影響を感じさせるファンタスティックなドライヴ感、ウィッシュボーン・アッシュばりのメロディアスなリード・ギターやドラマティックな構築美、そして、このグループの最大の魅力である美しいヴォーカルとメロディ。ハイ・トーンのセンチメンタルなヴォーカルが幻想のコーラス・ワークに包まれながら美旋律を時にしっとりと、時に劇的に歌い上げ、とめどなく魂を揺さぶります。

バンドの中心は、ベトナム人の兄弟で、ギター&ヴォーカルのカーン・マイ(Khanh Mai)とベース&ヴォーカルのタイ・シン Tai Sinh。父親は、ゴ・ディン・ジエム政権の閣僚の一人だったようです(オフィシャル・サイトのバイオグラフィより)。

フランスの植民地だったベトナムでは、戦後の混乱の中で、共産主義的なベトミンにより独立宣言が発せられました。それに反発した旧宗主国フランスにより建国されたベトナム国(後にベトナム共和国、略称が南ベトナム)の初代大統領がゴ・ディン・ジエムです。

どういう経緯でいつ頃に兄弟がフランスに渡ったかは分かりませんが、父親が政治的な人物だったこともあり、1960年にはじまったベトナム戦争の影響でフランスに渡ったのかもしれません。

兄弟は、8~9歳の時にピアノを習い始め、その後ロックに目覚め、ギターとベースをそれぞれ手に取りました。音楽活動に批判的な両親の強い勧めで学業をこなしながら、音楽活動を続ける道も探っていたようです。英国にも渡ってライヴ活動も行った後、72年にTAI PHONGを結成。この時のメンバーは、ドイツ出身のイギリス人(オルガン)、アメリカ人ギタリストとの4人で、純粋なフランス人は居ませんでした。

レコーディング時の兄弟の徹底した完璧主義や、プロデューサーとの折り合いの悪さによりなかなか契約がまとまらない状況などに嫌気がさし、イギリス人とアメリカ人の2人は脱退。メンバー募集の末に加わったのが、Jean-Jacques Goldman(ギター/ヴォーカル/ヴァイオリン)とJean-Alain Gardet(Key)です。

J.J.Goldmanは、5歳からヴァイオリンの英才教育を受け、TAI PHONGの後にはフランスの国民的人気歌手となる才人。そして、J.A.Gardetは、ジャズ・ミュージシャンの息子で、クラシックのジャズの素養があるKey奏者。彼らの加入でTAI PHONGサウンドが確立し、メジャーのワーナーと契約を果たします。そして、17歳の若きドラマー、Stephan Caussarieuが加入し、1st、2ndの傑作をものにするラインナップが揃い、デビュー作のレコーディングをスタート。こうして75年にリリースされたデビュー作が『TAI PHONG 恐るべき静寂』です。

Khanh Mai(G/Vo)
Tai Sinh(B/Vo)
Jean-Jacques Goldman(G/Vo/Vln)
Jean-Alain Gardet(Key)
Stephan Caussarieu(Dr)

シングルカットされた「Sister Jane」がヒットし、アルバムも高い評価を得ます。

シンフォニックなロックを緻密に練り上げることを持ち味として磨くと同時に、それを3分間に凝縮し、プロコル・ハルム「青い影」のようなロック・クラシックを作る野心も持っていたようで、「Sister Jane」はそんな彼らの音楽的野心のまさに結晶。

しとやかな残響音がメランコリックな情感を生むピアノのバッキング、叙情が柔らかにたなびくキーボード。そして、ハイ・トーンのエモーショナルなヴォーカル、10ccやコーギスにも通じるポップ・フィーリングも持ったハーモニー、そして、聴き手を恍惚へと導くとめどない美旋律。

彼らの代表曲であり、ユーロ・ロック屈指と言える名曲。

Sister Jane

試聴 Click!

ドライヴ感と彼らならではのセンチメンタリズムが絶妙に折り重なったプログレ・ハードもまた彼らの魅力。オープニング・ナンバー「Going Away」が屈指の名曲なのですが、動画がないため、同テイストの3曲目をピックアップいたします。

ゴリゴリとアグレッシヴに疾走するベース、幻想的に鳴り響くリリカルなキーボード、そして、スティーヴ・ハケットゆずりの繊細なタッチが光る歌心いっぱいのリード・ギター!

イエスやグリーンスレイドを彷彿させる躍動感いっぱいのキャッチーなイントロにニンマリ。

そこから、一転してゆったりとしたパートとなり、ハイ・トーンのヴォーカルがはちきれんばかりにエモーショナルに歌い上げます。この巧みなリズムチェンジもこのグループの魅力で、細やかに気配ったタイト&シャープなドラミングがバンドの持つ歌心を最大限に引き出しています。

Crest

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旧アルバムB面の大曲も聴き所で、多彩なキーボードがクールかつ幻想的にたなびくアフロディテズ・チャイルドやイル・ヴォーロにも通じる音響的なアンサンブルが特筆。

しとしと雨が降るようなピアノから、ロマンティシズム溢れるハモンド、そしてもの悲しいトーンで切々と響くソリーナなど、色彩豊かな音色がまるで絵画のように敷き詰められています。そこに、時に淡く、時に鮮やかに奏でられるギターも出色で、オブリガードやソロで聴き手のイマジネーションを刺激。さらにそこに、ささやくように歌われる泣きの美メロが入って、ユーロ・ロック史上に残るメランコリックなシンフォニック・ロックが柔らかに浮かび上がります。

アルバムのどこを切っても溢れ出す美旋律。そして、一音一音が水彩画のような柔らかなタッチで紡がれた幻想のアンサンブル。

「叙情派」シンフォの中でもメロディの切なさでは屈指の一枚で、「プログレ」という枠をはずしても、普遍的といえる「歌」を持った稀代の傑作です。

もしかすると、フランスに住みながらベトナムという由来を持った兄弟のアイデンティティの揺らぎが、聴き手の魂に届く旋律と音のイマジネーションを生んでいるのかもしれません。

—–

20年の時を経て2000年に作品をリリースし復活したTAI PHONGが自主制作で2014年作をリリース!

変わらぬ美旋律が溢れていますよ~。

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ハードロック魂を宿すフレンチ・プログレの名バンドTAI PHONGの76年2nd『WINDOWS』 - 【ユーロロック周遊日記】

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一日一枚ユーロロックの名盤をピックアップしてご紹介する「ユーロロック周遊日記」。
本日は、フランス随一のハード・プログレ・グループTAI PHONGによる75年リリースの第2作『WINDOWS』をピックアップいたしましょう。

TAI PHONGの在庫

  • TAI PHONG / TAI PHONG

    ベトナム系フランス人兄弟を中心とするフレンチ・プログレの代表的グループ、75年デビュー作

    ベトナム系フランス人を中心に結成され、ASIA MINORと並び、混血グループの強みを生かした無国籍な魅力を持ちながらも、フランス産らしいシンフォニック・ロックと独特の哀愁、そしてテクニカルなバンド・アンサンブルで有名なグループの75年デビュー作。どこを切っても美しいメロディーが滲み出す傑作であり、その音楽性はストレートなハード・ロックに甘んじない構築力と演奏力、プログレッシブ・ロックとしての旨みにあふれたものです。甘美なメロディーが胸を打つ彼らの代表曲「シスター・ジェーン」などを収録した名盤です。

  • TAI PHONG / WINDOWS

    フレンチ・シンフォを代表するグループ、76年作、繊細な幻想美、泣きの叙情、ハードロックの哀愁が同居する大名作!

    ベトナム系フランス人を中心に結成され、ASIA MINORと並び、混血グループの強みを生かした無国籍な魅力を持ちながらも、フランス産らしいシンフォニック・ロックと独特の哀愁、そしてテクニカルなバンド・アンサンブルで有名なグループの76年2nd。基本的な路線は前作と変わらず、普遍的なメロディーと哀愁を放ちながら、ハードに、そしてシンフォニックに盛り上げる作風となっていますが、前作以上に幻想を帯びた楽曲構成とアレンジの上手さが見て取れ、彼らの持ち味である美しいメロディーと絶妙に絡みついた、デビュー作と並ぶ傑作となっています。

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