珠玉のメロディが次々と溢れだす美旋律プログレをテーマに、ジャーマン・シンフォニックを代表するバンドANYONE’S DAUGHTERの79年1st『ADONIS』と、フランスの新鋭ALAN LOOの01年デビュー作『MEMORIES』をご紹介したいと思います。
プログレのどこに良さを見出すかのは人によって様々だと思いますが、メロディが良いかどうかという点は多くの方が注目するところではないかと思います。そんな中で個人的にメロディが素晴らしいプログレとして真っ先に思い出すのが、ドイツ出身のシンフォニック・ロック・バンドANYONE’S DAUGHTERです。
プログレ全盛期だった70年代には、ヨーロッパの各地でCAMELやGENESISに続けと言わんばかりに美しいメロディを持つシンフォニック・ロック作品が生まれました。ただしドイツにおいてはシンセサイザー・ミュージックを始めとして実験性の強いサウンドが主流となっており、他の国々のプログレ事情と比べても少々異質と言えるシーンが形成されていました。
シンフォ系バンドとしては当時NOVALISやGROBSCHNITT、WALLENSTEINなどが活動していましたが、ジャーマン・プログレと言うとやはりTANGERINE DREAMであり、CANであり、FAUSTである、というのが現在でも大方の見方かもしれません。
そんな70年代の終盤には英国ではパンクブームを経てニューウェーヴが台頭、ユーロ各国のプログレも下火となっていました。そこに突如として現れたのがこのANYONE’S DAUGHTERであり、彼らの79年デビュー作『ADONIS』だったのです。そのサウンドは主にCAMELからの影響を感じさせる美旋律と、時に繊細で叙情的特にテクニカルでキレのある自在の演奏が冴えわたる、ロマン溢れる王道的シンフォニック・ロック。それでは、『ADONIS』より冒頭の20分以上に及ぶ名作組曲をお聴きいただきましょう。
まろやかに響くヴォーカル、シンセを中心に幻想的な世界観を作り出すキーボード、そしてハードにもメロウにも緩急自在にメロディアスなフレーズを生み出すギターらが一体となった、美しさと力強さを兼ね備えたシンフォニック・ロックですよね。
ジャーマン・プログレから本来イメージされる硬質感や武骨さは全く感じられず、繊細に、そして叙情的に紡がれていくメロディが実に魅力的です。何度聴いても、素晴らしい旋律とそれを包むドラマティックなアンサンブルに耳が釘付けになってしまいます。
最初に触れたように、CAMELの優美なシンフォニック・サウンドを受け継いだバンドは当時よりユーロシーンに数多く存在しましたが、それを最も完成度の高いサウンドとして鳴らしたのは彼らだったのかも知れません。そう思えるくらいに豊かなメロディセンスと演奏能力の高さが際立つ名バンドであることは、この組曲からも感じていただけたのではないかと思います。
ANYONE’S DAUGHTERは、86年までにライヴ盤を含めて6作品を残しました。通算3作目、ヘッセの短編小説を音像化したライヴ・アルバム『PIKTOR’S VERWANDLUNGEN(ピクトルの変身)』は特に人気の高い一枚として知られます。『ADONIS』が気に入られたならこちらも是非お聴きいただきたいところです。
さらに00年以降には、ギタリストのUWE KARPAとキーボード奏者MATTHIAS ULMERを中心に再結成され、現在は黒人ヴォーカリストを加えてソウルフルなシンフォニック・ロックという新境地を打ち出しています。現時点でこの体制で2枚の作品が発表されていますが、いずれも聴き応えたっぷりの力作ですので、こちらもぜひお試しいただければと思います。
さて、続いては新鋭の紹介にまいりましょう。新鋭の中にも素晴らしいメロディ・センスを発揮する好バンドが数多く登場しているのですが、そんな中で今回ご紹介したいのはALAN LOOというフランスのアーティストです。
このALAN LOOというアーティストについては決して情報が多くないのですが、フランス出身の新鋭ギタリストの個人名で、バンド編成によるインストアルバムである本作『MEMORIES』を01年にリリースしています。
基本的にはCAMELを下敷きにしたたおやかなシンフォニック・ロックのスタイルなのですが、とにかく素晴らしいのが、汲めども尽きぬ泉のごとく次々と溢れてくる優美なメロディの数々。ALAN LOOによるアンディ・ラティマー直系のエモーショナルなギタープレイがメロディをドラマティックに歌い上げていきます。CAMELファンならこのサウンド、間違いなくグッと来てしまうはず。
ヴォーカル不在&打ち込みではあるものの、決してニューエイジ系のようなさらりとした聴き心地ではなく、しっかりとロックならではのコシとダイナミズムが息づいているのが特徴です。百言は一聴にしかず。では本作からのナンバーをお聴きいただきましょう♪
いかがでしょうか?「SPANISH HIGHWAY」なんていうとあの超絶ギタリストの代表曲を思い出してしまいますが、こちらは粛々と湧き上がるシンセや煌めくようなピアノ、ALAN LOOによるメロディアスなエレキギター&マイルドかつ芳醇に響くアコギによって織り上げられる珠玉のシンフォニック・ロック。アルバム全編、まるでどこまでも続くなだらかな丘陵地帯を旅するかのようなイマジネーション溢れるナンバーが詰まった完成度の高い名作となっています♪
CAMELファン及び叙情派シンフォニック・ロックのファンの方なら、これは避けては通れない逸品なのではないでしょうか。
今回は新旧の美旋律プログレをテーマにお送りしてまいりましたが、いかがだったでしょうか。ご紹介した2つのグループを比較すると、一言にメロディアスと言ってもいろんなタイプのメロディアスさがあることがわかりますよね。皆さんもぜひとも生涯胸に残り続けるような珠玉のメロディを探求してみていただきたいと思います。
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72年にシュトゥットガルトで結成されたジャーマン・シンフォ・グループ。79年のデビュー作に続く、80年作2nd。幻想的に鳴り響くムーグ・シンセやハモンド・オルガン、泣きまくるハード&メロウなギター、ゴリゴリとよく動くベースとタイトなドラムによる安定感あるリズム隊、そして、叙情みなぎるメロディと豊かなハーモニー。ジェネシスとキャメルからの影響たっぷりなキーボードとリズム隊を軸に、ハード・ロック的なエッジと劇的さのあるギターが織りなす、鉄壁と言える泣きのシンフォニック・ロックが印象的です。それにしても、アンサンブルと歌メロからこれでもかと滴り落ちるリリシズムは圧巻。ユーロ・ロック屈指の名盤です。
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