管弦楽器が時に艶やかに時にスリリングに鳴り響くチェンバー・ロックをテーマに、チェンバー・ロックの大家UNIVERS ZEROの第3作『CEUX DU DEHORS』と、00年代以降のイタリアン・プログレ・シーンを牽引するバンドの一つYUGENによる2010年作『IRIDULE』をご紹介してまいります。
チェンバー・ロックは「室内楽」を意味する「CHAMBER」という名の通り、ヴァイオリンやヴィオラ、チェロなどの弦楽器、またクラリネットやフルートなどの管楽器らによる、いわゆる管弦重奏を取り入れたプログレッシヴ・ロックの一ジャンルです。
元々はレメコン系バンドの元祖としてRIO運動の中核を担った英国のグループHENRY COWがチェンバー・ロックの始まりとされていますが、デビュー時より明確にチェンバー・ロック・バンドとして分類されるサウンドを持ち、さらに活動の中でそのチェンバー・ロックを独自にを発展させていったグループが、先にご紹介するUNIVERS ZEROです。ベルギーはブリュッセルにて結成されたこのバンドは、ドラム/パーカッション担当のDANIEL DENISを中心として活動、77年に第一作『1313』を発表しています。
このデビュー作が、不穏さと緊張感が漂うアンサンブルの中を狂気を孕んだ管弦楽器がヒステリックに暴走する、チェンバー・ロックとしての一つの完成形を示した内容を持つ傑作で、ここから更なる発展を目指すべく以後彼らはロック的なダイナミズムを強調する路線に舵を切っていきます。
個人的にこの狂気に駆られた管弦アンサンブルとロック本来の躍動感が最も理想的に融合していると思われるのが、80年リリースの第三作『CEUX DU DEHORS』です。ではその中から代表曲と言われるこちらの曲をお聴きください。
前作までのスリリングながらも暗鬱な空気に満たされていたサウンドから室内楽としての管弦による艶やかな音色とロック的ダイナミズムが見事に調和しながら進行していく序盤、リズムを失ったヴァイオリンやバスーンが密やかに、しかし暗澹と狂気を滲ませながら交信する中盤、そして序盤より一層加速してスリリングに駆け抜けるラスト、という巧みな構成で聴かせる13分の大曲となっています。うーん、これぞチェンバー×ロックのチェンバー・ロック!と言いたい見事な一曲です。ちなみに次作の『UZED』はさらにロック色を強めた傑作となっています。こちらももちろんオススメです。
UNIVERS ZEROは87年に解散しますが、90年代後半には再始動し、以後コンスタントに作品を発表し続けています。そしてついに12年には来日公演も果たしたとあって、プログレ・ファンにとっては今後も注目せざるを得ない存在となっていますよね。今後もチェンバー・ロックのリヴィング・レジェンドとして君臨を続けていくことでしょう。
さて、それでは新鋭紹介へとまいりましょう。UNIVERS ZEROを源流として現在も世界中に拡散し、オリジナリティー溢れるバンドが数多く登場しているチェンバー・ロック・シーンですが、その最先端を行くバンドこそイタリアの新鋭チェンバー・ロック・グループYUGENです。
04年にイタリアの実力派ジェネシス・フォロワー・バンドNIGHT WATCH(現WATCH)のギタリストFRANCESCO ZAGOと、RIO再興を掲げるMARCELLO MARINONEの二人を中心に結成されたYUGEN。バンド名は日本語の「幽玄」から名付けられたそうです。
このYUGEN、PICCHIO DAL POZZOやSTORMY SIXと言ったバンドたちとのコラボライヴも行っており、その実力は往年の名バンドにも認められています。
また、現在世界の良質なアヴァン/チェンバーの新鋭バンドを輩出しているイタリアの新興レーベルALTROCKは、実はこのYUGENをデビューさせる目的で設立されたんですよね。それほど現代のチェンバー・ロック・シーンにとってYUGENは重要な存在なんです。
となれば、どれほどのものなのか当然音のほうが気になりますよね?2010年にリリースされた『IRIDULE』からのナンバーをお聴きください♪
のっけからのギター、ピアノ、サックス、マリンバがあまりに複雑に絡みあう変拍子まみれの超絶チェンバー・アンサンブルにまずぶっ飛びます。現代のバンドらしいヘヴィネスを内包したズシリとした重みを持つリズムも相まって、内包する緊張感は半端ではありません。中盤一糸乱れずにスリリングに転調を繰り返していく演奏には圧倒されますよね。まるでヘンリー・カウの1stと太陽と戦慄クリムゾンを足しあわせたような強烈無比な一曲です。
どこまでも美しくリリカルなんだけど沸々と緊張感が高まっていくような静のパート、そしてそこからスリリングかつダイナミックに畳み掛けていく動のパート。とにかくこの静と動の対比から生まれるダイナミズムを巧みに操る演奏力/構成力には脱帽ですよね。チェンバー・ロックと呼ぶにはあまりに瑞々しく映像喚起的な名品。
このバンドならではの特徴と言えるのが、暗闇の中でたゆたうかのような静謐なパートは勿論、リズムやギターがヘヴィに炸裂するパートにすら、サウンドに特有の美が宿っている点。なぎ倒すように破壊的なサウンドの中にも彼方から聞こえるようなピアノやマリンバが凛とした美しさを保っており、そのへんに対する配慮が行き渡っているところに彼らのクレバーさが感じられます。この部分が数多のチェンバー・ロック・バンドとこのYUGENを決定的に分かつポイントなのではないでしょうか。
なお、YUGENは他にもメンバーのサイドプロジェクトとして、SKE、NOT A GOOD SIGN、EMPTY DAYS、SPALTKLANGなどといったバンドから平行してハイクオリティな作品を発表しています。つまり、あのFabio Zuffantiファミリーにも匹敵するYUGENファミリーが既に形成されているということなんですよね~。これは今後の動向に期待が高まります。
今回はチェンバー・ロックをテーマにお送りしましたが、いかがだったでしょうか。室内楽と言うとどうしても取っ付きにくさが感じられるものですが、そこはやはりロックバンド。リズムセクションに乗せて時にスリリングに時にパワフルに、そして時には瑞々しくリリカルに自在な演奏で楽しませてくれます。このYUGENのクリエイティビティの高さを目の当たりにするにつけ、今後もチェンバー・ロックのますますの発展が期待できそうですね!
00年代以降のチェンバー・ロック〜アヴァン・ロックの筆頭格と言えるイタリアのバンド、2016年作のスタジオ盤としては4枚目となるアルバム。アルバムの1秒目からレッドゾーン吹っ切れまくり!いきなりビブラフォンとサックスがユニゾンで切れ込み、ギターがまるでマシンガンのようにザクザクとしたフレーズを叩きつけ、リズム隊が高速変拍子で荒れ狂う。脈絡なくフレーズをぶつけあっているようでいて一糸乱れぬようでもあり、アブストラクトのようでいて緻密に計算されているようで、何という凄まじさ。クリムゾン『太陽と戦慄』やヘンリー・カウやユニヴェル・ゼロなどに一歩も引けを取らない、というか、硬質さとテンションでは凌駕しているといっても過言ではないでしょう。一転して、静謐なパートでの透明感もまた見事だし、カンタベリーに通じる叙情的な「歌」も心に響くし、何という表現力。チェンバー・ロックの大本命バンドによる、リスナーの期待をはるかに凌駕した大傑作!
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