2021年5月28日 | カテゴリー:ユーロ・ロック周遊日記,世界のロック探求ナビ
名盤からディープな作品まで、ユーロ諸国で誕生した様々なロック名作を掘り下げていく「ユーロ・ロック周遊日記」。
今回は、21年に新規デジタル・リマスターにて紙ジャケ再発された、ジャーマン・プログレ・フォークの逸品EMTIDIによる72年2nd『Saat』を取り上げたいと思います。
ジャーマン・プログレと言うと真っ先に想起されるのが、TANGERINE DREAMやKlaus Schulzeらエレクトロニックなサウンドや、CANやFAUSTなど実験性なサウンドを聴かせるいわゆるクラウト・ロック勢という方も多いのではないでしょうか。
クラウト・ロックに一度ハマると抜け出せなくなる底知れぬ魅力があるのは間違いないものの、時にロックの枠組みから逸脱するような挑戦的な音楽性はややとっつきにくさを感じることもあるかもしれません。
その点で今回のEMTIDIは、若干の実験的要素は持ちつつも、スパイロジャイラをはじめとする英国フォークやトラッド・ミュージックに通じる音楽性を軸とする比較的聴きやすいサウンドを繰り広げます。
EMTIDIはドイツ人メンバーを含みドイツを拠点に活動したグループですが、純粋なジャーマン・ロック・バンドかと言えば実はそうでもありません。
ロンドンで出会った、ドイツの男性ヴォーカリスト/ギタリストMaik Hirschfeldと、カナダ出身の女性ヴォーカリスト/キーボーディスト/ギタリストDolly Holmes。ともに音楽活動を行なうことに決めた2人で渡独してEMTIDIを結成、トラッド・フォーク系のグループとして活動を開始します。
70年の1stは、フォーク系レーベルTHOROFONよりリリースされ、この2ndは、71-72年という短い運営期間の中で、WALLENSTEIN、POPOL VUH、HOELDERLINなどの名作を世に送り出したPILZレーベルよりリリースされました。
彼らの音楽は、男女ヴォーカルである点も含め英国のスパイロジャイラに近いトラディショナルでメランコリックなフォーク・ロックを土台として、そこに宗教的な格調高さやケルティックな優美さを溶け込ませたようなスタイル。
おもにチャーチ風のオルガンが演出する神々しいまでの宗教的なエッセンスは、レーベルメイトであったPOPOL VUHの名作『Hosianna Mantra』を思い出させるもの。両作品は同じ72年作、何らかしらの共通する宗教的なテーマ性があったのでしょうか。
そこはかとなく香り立つケルト要素は、多くのスコットランド人が入植した歴史を持ち、地域によってはケルト文化の影響が色濃いカナダを故郷とするDolly Holmesがもたらしたものなのかも、と想像されます。
それでは、彼らの音楽性がよく表れた注目のナンバーを聴いてまいりましょう♪
M1. Walking in the Park
幻想的なオルガン独奏に続いて淡くエフェクターがかかったギターが爪弾かれると、バーバラ・ガスキンばりのソプラノでドリーが歌い出す冒頭から鳥肌もの。ゲルマンの薄暗く深い森が浮かぶトラディショナルな哀愁メロディが絶え間なく胸を打ちます。後半はテンポアップしてインプロ風のギターが疾走。スパイロジャイラと共に、Pilzから同年に出たHOELDERLINのデビュー作1曲目も想起させるナンバーです。
M3. Touch The Sun
本作中、最も宗教的色合いが強いのがこの曲。物悲しくも慈愛に満ちたオルガンが寄せては返す波のように去来します。それに合わせ彼方で木霊する女声スキャットも天上の美しさ。やがてオルガンに代わりメロトロンが押し寄せ、それをバックに切々とした男女ヴォーカルに響く展開には涙を禁じ得ません。名曲です。
M5. Saat
このタイトル曲には個人的にケルティックな神秘性を感じます。アコースティックギターの絹織物のようにきめ細かなプレイとしっとりした美声女性ヴォーカルの組み合わせが至上。小曲ながらも不思議な存在感を持つ一曲です。
いかがだったでしょうか。
スパイロジャイラをはじめとする英フォーク三種の神器や英国のアシッド・フォーク系作品がお好きな方がユーロものも聴いてみたい、となった際には、ぜひ思い出していただきたい一枚です。
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