2019年6月26日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
こんにちは。スタッフみなとです。
3月より連載中の特集「ロック黄金時代回想企画【1969】」。
ちょうど今から50年前、ロックが多様なスタイルへと細分化していく転換期と言えた1969年に着目し、ロック史に名を残す重要アーティスト達による69年デビューアルバムを連載形式で取り上げていきます。
今回は、1969年5月に発表された、クロスビー・スティルス&ナッシュのデビューアルバム『CROSBY STILLS&NASH』です!
元バッファロー・スプリングフィールドのスティーヴン・スティルス、元ザ・バーズのデヴィッド・クロスビー、元ホリーズのグレアム・ナッシュ、この3人の偶然のセッションからバンドは始まりました。
1968年の7月、ロサンゼルス郊外のローレル・キャニオンにあるジョニ・ミッチェルの家(キャス・エリオットの家との説もあり)に、スティーヴン・スティルス、デヴィッド・クロスビー、グレアム・ナッシュの3人は遊びに来ていました。
当時ジョニ・ミッチェルとデヴィッドは恋仲にあり、気の置けない友人たちの集まり、といった様子。
グレアム・ナッシュはまだホリーズに在籍しており、ツアー中でカリフォルニアに立ち寄っていたそうです。
さて、その時にデヴィッドとスティーヴンが「You don’t have to cry」を歌っていて、それを聴いていたグレアムが第3パートをつけたところ、驚くほど素晴らしいハーモニーとなりました。
3人はすっかり意気投合してグループ結成を決意。
♪You don’t have to cry
スティーヴン・スティルスはその時のことを、「そこには確かに魔法のようなものがあった」と回想しています。
まさに化学反応ですね!
グループ名の「CROSBY STILLS&NASH」は、3人それぞれが独立し、グループという枠に押し込められないようにするため、また、誰か一人が欠けるとグループが成り立たないようにするために、お互いの苗字を取って付けられました。
さて、早速アルバムを作ろう、ということになった3人はレコード会社を探すことに。
最初はビートルズのApple Recordsで検討していたのですが、オーディションに落選。
後にジョージ・ハリスンは、「あの時はとても残念だった。当時、状況がとても混乱していたものだから…」とスティーヴンに話したそうです。ビートルズ自身が解散のごたごたで、とても物事を判断する状態でなかったのでしょう。
3人はデヴィット・ゲフィン、エリオット・ロバーツにマネージメントをお願いし、アトランティック・レコードと契約しました。
1969年1月に、ラヴィン・スプーンフルのジョン・セバスチャン宅でリハーサルを重ね、69年2月から3月にかけてロサンゼルスのWally Heider Studioで録音をしました。
プロデュースは勿論3人。ドラムにはジョン・セバスチャンの知り合いだったダラス・テイラーを起用。
しかしやはりグループの要になっていたのはスティーヴン・スティルスで、リードギター、ベース、そしてキーボードのほとんどを演奏しています。
1969年5月29日に今作がリリースされると、アメリカで大ヒット。ビルボードのアルバムチャートの6位となりました。
さて、それでは楽曲を聴いてまいりましょう。
このアルバムの特徴
①独立しながらも調和した、3人のハーモニー
②3者3様の特徴が表れた楽曲
③時代精神を体現したグループ性
♪Suite: Judy Blue Eyes(Stephen Stills)
低音パートを担当するデヴィッド・クロスビー、中音域のスティーヴン・スティルス、高音のグレアム・ナッシュ、この3つのボーカルが、互いに邪魔することなく見事なバランスで美しく存在しています!
スティーヴン・スティルスのオープンチューニングを施したギターの、開放的で独特な音色、意外と骨太でグルーヴィーなベース。
転調やスキャット・パートを組み込んだ4部構成という起伏に富んだ組曲形式で、7分を超えるという楽曲の長さが信じられません。
「Suite: Judy Blue Eyes:青い眼のジュディ」の背景
(1969年、スティーヴンは24歳、ジュディは30歳でした。カラー写真で見ると、ジュディの眼は青く透き通っていて、こちらを射てくるようです。)
この楽曲は、スティーヴン・スティルスが、67年頃に交際していたジュディ・コリンズとの別れを書いた楽曲です。
1968年、ウィスキー・ア・ゴーゴーでCREAMがライヴをしていた時に2人は出会いました。
ジュディ・コリンズは『WHO KNOWS WHERE THE TIME GOES』をレコーディングしている時期で、スティーヴン・スティルスもセッションに参加することに。2人の距離は縮まって行きます。
ですが、二人の関係は「花火のようなもの」だったようです。2年ほど交際したあと、別々の道を行くことになりました。
さてそれではもう1曲、特にハーモニーが素晴らしい楽曲を。
♪Helplessly Hoping(Stephen Stills)
スティーヴン・スティルスのアコースティック・ギターにのせて、3人のボーカルが決して交わることなく、且つ誰のが主旋律で誰が副旋律なのか、分からなくなるくらい複雑に絡んでいます。そしてそのあまりの美しさに圧倒されます。
こちらもジュディ・コリンズとの別れを歌った曲だそう。今アルバムでのスティーヴン作の楽曲は、全てジュディとの別れがモチーフのようです。
スティーヴン・スティルスの楽曲ばかりピックアップしてしまいましたが、デヴィッドとグレアムの楽曲もまた、それぞれの特徴が良く出ています。
♪Guinnevere(David Crosby)
ジョニ・ミッチェル含む、過去に愛した女性たちから着想を得て作られた作品。
デヴィッド・クロスビーの変則チューニングを用いたサイケデリックなメロディは、バーズ在籍中から異彩を放っていましたが、今作でもその眩惑的なサウンドを存分に聴かせてくれます。
♪Long Time Gone(David Crosby)
映画『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』にも挿入された楽曲。
ロバート・ケネディの暗殺を受けて作られた楽曲で、強い政治色を帯びています。
デヴィッドのワイルドなテナー・ボイス、鋭いギター・リフと厚みあるオルガンが、やや重たくもったりとしたリズムで響いています。
♪Marrakesh Express(Graham Nash)
グレアム・ナッシュの柔らかなボーカル、のどかで陽気な曲調にホッとさせられます。
この曲にはジム・ゴードンがドラムで参加しており、彼のブラシによるドラミングが楽曲に軽やかさを与え、ベースもキーボードもウキウキと跳ねるよう。
スティーヴン・スティルスがオーバーダビングして後付けしたユニークなギター・リフは、どこか東洋的な響きがします。
グレアムが66年にモロッコへ旅行をした時の体験がもとになっているそうです。
クロスビー・スティルス&ナッシュは、デビュー作をリリースした年に、ウッドストック・フェスティバルに出場することとなります。
映画でも大きくクローズアップされており、フェスティバルを象徴するような存在としてイメージ付けられました。
そう、彼らはまさに、69年という時代を表すグループ性を持っていたのです。
それまでは、フロント・マンやリーダーがメンバーを引っ張って行くロック・バンドが主体でした。
ところがクロスビー・スティルス&ナッシュは、そのバンド名からも読み取れるように、3人のメンバーがまず独立して存在しています。「個」としてお互い自由なメンバーが、素晴らしいハーモニーを作っています。
人びとが対立することなく「個」として自由に存在し、美しいハーモニーを生み出している。反戦や公民権運動などが大きなうねりをあげていた当時の時代精神を、まさしく体現したようなグループだったのです。
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