2017年7月29日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
本記事は、netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』第34回 PAMPA TRASH / Ya Fue (Argentina / 2014) に連動しています
19世紀末、ラ・プラタ川の河口で多様な音楽性が絡み合い形成されたタンゴのサウンドは、プログレッシブ・ロック・シーンにもいくつかの影響を残しています。1970年代のアルゼンチンから登場したプログレッシブ・ロック・グループALASはバンドネオンを扱うキーボード奏者を擁していましたし、タンゴの音楽的特色を取り入れたプログレッシブ・ロックの楽曲も、多国籍グループSLAPP HAPPYによる名曲「Casablanca Moon」を筆頭に、数は多くないながらも存在しています。
プログレッシブ・ロックにおいて最も広く聴かれているタンゴ・スタイルの楽曲は、SLAPP HAPPYによる74年作『Casablanca Moon』のタイトル楽曲ではないでしょうか。イギリス、アメリカ、ドイツのミュージシャンたちによってハンブルクで結成された多国籍グループSLAPP HAPPYは、ドイツのクラウト・ロック・グループFAUSTをバックに従えセカンド・アルバムを製作したものの、レコード会社の判断で発表が中止されるアクシデントに見舞われます。その後、イギリスのHENRY COWと共に再録音されたのが『Casablanca Moon』であり、お蔵入りとなってしまった73年のオリジナル・バージョンは、80年に『Acnalbasac Noom』としてリリースされました。そのような事情から、タイトル楽曲「Casablanca Moon」にはふたつのバージョンが存在しています。
ドイツを代表するクラウト・ロック・グループCANは、69年のデビュー・アルバム『Monster Movie』を発表後、映画のサウンドトラックとして製作された楽曲を集めた70年作『Soundtracks』をリリースしています。中でも、Roland Klick監督による「Deadlock」に提供された3曲には「Tango Whiskyman」と題された楽曲が含まれており、メロディー・ラインこそポピュラリティーに富んだ印象を受けるものの、その後の傑作を予感させるCAN独自のクラウト・ロック・サウンドが既に芽吹き始めています。
ジャーマン・エレクトロの大御所グループであるASH RA TEMPELが73年にリリースした『Starring Rosi』には、彼らならではの不思議なタンゴ楽曲「Cosmic Tango」が収録されています。ベーシストHartmut Enkeが脱退した本作は、タイトルが示す通り、中心メンバーであるギタリストManuel GottschingのパートナーRosi Mullerがフューチャーされていますが、「Cosmic Tango」では、クラウト・ロック作品のエンジニアとして名を馳せたDieter DierksのエンジニアリングによってRosi Mullerのヴォイスに過剰なまでのエフェクト処理が施されており、まさにコズミックなサウンドとなっています。なお本作には、ジャーマン・シンフォニック・ロック・グループWALLENSTEINからドラマーHarald Grosskopfも参加しています。
国際共通語「エスペラント」をグループ名に冠した多国籍グループESPERANTOは、75年にサード・アルバム『Last Tango』をリリースしました。THE BEATLESが66年に発表した名盤『Revolver』に収められた「Eleanor Rigby」のカバーで幕を開ける本作には、タンゴから影響を受けたタイトル楽曲が収録されています。ESPERANTOはヴァイオリン奏者やチェロ奏者を擁する変則的なメンバー編成のグループですが、弦楽器奏者の存在がタンゴの音楽性と絶妙なマッチングを見せています。
プログレッシブ・ロック・グループWIGWAMのベーシストとしてシーンに登場し、MADE IN SWEDENなどを経てフィンランドの国民的な作曲家としてその名が知られることになったPekka Pohjolaは、82年に『Urban Tango』を発表しました。アルバムのオープニングには「Imppu’s Tango」と名付けられた楽曲が収められているのですが、Pekka Pohjolaの手に掛かれば、個性の強いタンゴの音楽性ですらここまで形を変えてしまうのです。Pekka Pohjolaが、いかにオリジナリティーに溢れたミュージシャンであったかが理解出来ることでしょう。
女性アコーディオン奏者Catharina Backmanを擁するスウェーデンのチェンバー・ロック・グループKATZEN KAPELLは94年にアルバム・デビューを果たし、世界中のプログレッシブ・ロック・ファンから高い評価を獲得しました。彼らのデビュー・アルバム『Katzen Kapell』には「Hurobas Tango」と題された楽曲が収められていますが、その他の収録楽曲にもタンゴからの影響が感じられます。KATZEN KAPELLはチェンバー・ロック・グループという特性もあってか変則的なメンバー編成であり、アコーディオン奏者に加えてヴァイオリンやヴィオラを扱う弦楽器奏者、そしてヴィブラフォンやマレットを扱う打楽器奏者が在籍している点がユニークです。
90年代以降のプログレッシブ・ロック・シーンを代表するスウェーデンのTHE FLOWER KINGSでベーシストを務めるJonas Reingoldが発足させたのがKARMAKANICです。2004年にリリースされた彼らのセカンド・アルバム『Wheel Of Life』には、タンゴからの影響をプログレッシブ・ロックに昇華したテクニカルな楽曲「Do U Tango?」が収録されました。Jonas Reingoldによる超絶的なベース・プレイが大きくフューチャーされた楽曲となっています。
タンゴの音楽性を織り込んだ77年作『Pinta Tu Aldea』で知られているのが、アルゼンチンのキーボード・トリオALASです。2006年に発表された『Mimame Bandoneon』はグループの再始動作であり、オリジナル・メンバーに加えてギタリストMartin Morettoが新加入、そしてブエノスアイレス出身のバンドネオン奏者Daniel Binelliを全編にフューチャーした作品となっています。70年代に発表されたアルバムからのセルフ・カバーも多く収録されているため、よりタンゴ・テイストを強く押し出した本作との聴き比べも興味深いことでしょう。
タンゴとプログレッシブ・ロックの融合をキーワードとするPAMPA TRASHのメンバーであるバンドネオン奏者Nicolas Tognolaは、同郷プログレッシブ・ロック・グループHOJARASCOにも名を連ねています。HOJARASCOは、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、そしてコントラバス奏者を擁する9人編成の大所帯グループであり、PAMPA TRASHと同じようにNicolas Tognolaの存在感が際立つタンゴ・サウンドを展開します。しかし、バンド編成のPAMPA TRASHとは異なり弦楽器奏者を生かしたチェンバー・ロックの色合いが強いことが特徴でしょう。
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元WALLECE COLLECTIONの人ヴァイオリニストRaymond Vincentを中心に結成されたイギリスのプログレッシブ・ロックグループによる75年3rd。THE BEATLESの楽曲「Eleanor Rigby」の凄まじいカバーから幕を開ける本作は、2ndと並び彼らの代表作と言われる1枚。その内容は、デビュー作である「Rock Orchestra」の作風への回帰が伺えるサウンドであり、ボーカルに比重を置いたデビュー作のポップ感と聴きやすさに、前作のプログレッシブ・ロック的な緊張感を加えたような、集大成と言えるサウンドを提示しています。
SACD/CDハイブリッド、デジタル・リマスター、特殊プラケース仕様
盤質:傷あり
状態:良好
ケース不良、ケースに若干ヒビあり
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