2015年3月24日 | カテゴリー:MEET THE SONGS,世界のロック探求ナビ
キング・クリムゾンが『レッド』をリリースしてプログレッシヴ・ロック・ムーヴメントが一つの時代を終えた1974年の翌年となる75年にリリースされたニッチ&プログレッシヴなブリティッシュ・ポップ名作、ケストレルの唯一作『ケストレル』をピックアップいたしましょう。
バンドの結成は1971年半ば。後にミック・ロンソンの後釜としてSPIDERS FROM MARSに加入し、その後はGOLDIEでも活躍したギタリストDave Blackを中心に英北東部はウィットリーベイにて結成されました。メンバーチェンジを繰り返しながらバンド活動を続け、キューブ・レコーズと契約し、75年にリリースされたデビュー作が『ケストレル』です。
全8曲中の7曲を作曲したソングライティングの中心でもあるDave Blackとともにバンドの要と言えるのが、バンドの中で唯一の音大出身者で、音楽理論やジャズにも精通したキーボード奏者のJohn Cook。Dave Blackによるポップなメロディ・センスと躍動感あるギター、そこに、John Cookによる洗練されたコード進行などアレンジの妙味とジャズのエッセンスが加わり、化学反応を起こした結果、彼らならではの「ポップ」で「プログレッシヴ」なケストラル・サウンドが生まれました。
Dave Black: ギター、ヴォーカル
John Cook: キーボード、ギター
Tom Knowles: リード・ヴォーカル
Fenwick Moir: ベース
Dave Whitaker(元GINHOUSE): ドラム
Aメロ→Bメロ→サビという単純な構成からはみ出た、まるで連想ゲームのようにめくるめく展開していく歌メロと、その間を、テンション・コードや複雑な転調を織り交ぜつつも奇抜さはなく、流れるように滑らかにつないでいく洗練されたアンサンブル。そんな彼らの魅力がつまったのが、オープニングを飾る彼らの代表曲と言える「Acrobat」です。
メロトロンがたなびき、10ccの「I’m Not In Love」を彷彿させるような淡い幻想性とともに幕を開けますが、いきなり「ヒュルヒュルと振りかかる」なんて形容できそうなリードギターが突拍子もなく切れ込むとともに一気に熱を帯びる冒頭の30秒からキてます。
イエスのクリス・スクワイアばりにゴリゴリとアタック感の強いトーンでハード・エッジなダイナミズムを生むベースもカッコ良いし、たなびくハモンド・オルガンの英国的陰影もいい感じだし、ジェントル&スモーキーないかにも英国ロックといえるヴォーカルとポップな中にも「気品」のあるメロディも素晴らしい。
いきなりエレピのジャジーなソロに展開したり、スティーヴ・ハウばりのスリリングなオブリガードが一閃したり、クラヴィネットがファンキーにロールしたり、色々なエッセンスを取り込みつつも、全体として「端正」といえるサウンドに仕立て上げるセンスはありそうでない感じで、ケストレルならではでしょう。
下降していく美しいコード進行、そこに優しく紡がれている美しいメロディが絶品な2曲目「Wind Cloud」、FOCUS「Sylvia」ばりのギター・リフが気持ちよすぎる躍動感いっぱいの3曲目「I Believe You」と続き、その次の4曲目がこれまた名曲。
艶やかなトーンのしとやかに奏でられるピアノ、米国のシカゴも彷彿させるドラマティックでいてジャズ&ソウルのエッセンスも感じる歌メロ、堂々としたヴォーカル。控えめながらアンサンブルに奥行きと広がりを生むアルペジオが印象的なギターもまたセンス抜群です。
サビのメロディもドラマティックで、何かのCMにでも使われたら注目されそう。
さらに何と言っても魅力的なのが後半に溢れだすメロトロン。圧倒的なほどにドラマティック。細かなリズムチェンジとともに半音ずつ上昇していくさりげないけど小気味いいアレンジも洗練されてるし、メロディ、演奏、アレンジともに文句なしにプロフェッショナル。
この作品をプログレッシヴ・ロック・ファン垂涎にしているのがメロトロンの使用ですが、これでもかと溢れだすのが「Acrobat」と並ぶ彼らが誇る名曲で、ラストを飾る「August Carol」。
洒落たコード進行のギター・カッティング、幻想的なハモンド・オルガン、ゴリゴリとアグレッシヴなベースが生み出すケストレルならではの躍動感溢れるプログレッシヴ・ポップではじまり、ハモるツイン・ヴォーカルが大円団のようにドラマティックにサビを歌い上げ、感動に浸っていると、突如、幕を引き、一瞬の静寂へ。パーカッションの連打で再び静かに幕があがると、「栄光のプログレッシヴ・ロック・ムーヴメントよもう一度」と言わんばかりに豪快にメロトロンが鳴り響き、目頭が熱くなります。
いよいよ後半に向かい、まるでイタリアン・ロックのように神々しいほどのコーラス・ワークもそこに被さってきて、ラストは、ロングトーンの伸びやかで揺れ幅の大きいチョーキングが実に官能的なギター・ソロで最高潮へと上り詰めます。こ、これは、たまらない・・・。
これほどまでに素晴らしい作品ながら、やはりプログレ・ムーヴメントが終焉を迎えた75年という時代だからか売れなかったようで、Dave Blackがスパイダース・オブ・マーズに加入することになり解散。残念ながら本作のみがケストレルの作品となってしまいました。
75年だから売れなかったかもしれませんが、75年だからこそ、この音の「洗練」に到達したとも言えるでしょう。
変幻自在なのに鋭角さはなく、さりげなく「端正なポップ」へとまとめあげる大人な音楽センスが行き届いた愛すべきプログレッシヴ・ポップの名作です。
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