2021年8月11日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
タグ: プログレ
2019年にデジタル版、2020年にCDでもリリースされた最新タイトル『ZAPECHNYJ RAJ(PARADISE BEHIND THE STOVE)』が素晴らしかった、ロシアのプログレ・グループLITTLE TRAGEDIESを特集いたしましょう。
LOST WORLD BANDと並んで90年代~00年代のロシアン・プログレ・シーンを牽引する存在であり、ユーロ全体で見ても屈指と言える名グループですね!
結成から順番に作品を振り返ってまいりましょう。
あのチャイコフスキーも輩出したサンクトペテルブルク音楽院で学んだ作曲家/Key奏者のGennady Ilyinにより94年に結成。出身地である、ロシア南西に位置するウクライナ国境付近の町クルスクを拠点に活動をスタートします。
結成から2000年まではトリオ編成で活動。
Gennady Ilyin(Key/Vo)
Yuri Skripkin(dr)
Oleg Babynin(b)
最初の録音は、97年。Gennadyがパリを訪ずれた際、インスピレーションに打たれて『PARIS SYMPHONY』を作曲。97年にモスクワのスタジオで録音します。これは当時はリリースされなかったものの、08年に仏MUSEAが発掘リリースします。
97年末から98年はじめの1ヶ月間、少女のクリスマスでの冒険をテーマにしたお伽噺のバレエ『MAGIC SHOP』を作曲。これは当時はライヴで何度か演奏されたのみでレコーディングはされなかったものの、10年後の08年、レコーディングを行い、公式サイトでダウンロード公開された後、バンド自主制作でリリースされます。
98年~99年には、Gennadyのソロとして『SUN OF SPIRIT』と『PORCELAIN PAVILION』を録音。この音源は、LITTLE TRAGEDIES名義で、BOHEMEレーベルより発売されます。
どちらの作品も、荘厳なストリング・シンセやチャーチ・オルガン、格調高いピアノ、コロコロとしたファンタスティックなムーグまで、多彩なキーボード・サウンドに彩られたクラシカル・プログレを展開。
ロマンティックな旋律から近現代クラシックの艶やかで煌びやかな旋律まで、さすがはクラシックを本格的に学んだGennady Ilyinのコンポーザーとしての才能がきらめいています。
ギターが一部参加している以外は、リズムも含めて全てキーボードによる多重演奏となっていますが、そうとは思えない音の躍動感と緻密なアレンジが特筆。
モダンでヘヴィなリズムセクションとギターが疾走する後の作品とは異なり、Gennadyの「私小説」と言えるプライヴェートな手触りの愛すべき作品です。
00年、ギターとSAX奏者が加わり、5人編成となり、ソロ・プロジェクトからいよいよバンドへと飛躍を遂げます。
Alexander Malakhovsky(g)
Aleksey Bildin(sax)
03年、5人編成のバンドにて『RETURN』をレコーディング。仏MUSEA/露MALSと契約し、世界デビューを果たします。『RETURN』は、『SUN~』『PORCELAIN~』に続く、ロシアの詩人ニコライ・グミリョフの詩をモチーフにした三部作の最終章。
メタリックにザクザクとリズムを刻む硬質なギターが加わり、モダンなヘヴィネスとヴィンテージなキーボードによるクラシカルなエッセンスとの対比が圧倒的な推進力を生むLITTLE TRAGEDIESサウンドが完成。
東欧ハンガリーの雄、AFTER CRYINGにも比肩するサウンドで一気にプログレ・ファンの話題をさらった出世作となりました。
06年、2枚組コンセプト作『NEW FAUST』、『SIX SENSE』、07年『CHINESE SONGS』をリリース。』
ゲーテの戯曲『ファウスト』の新たに解釈というコンセプトを反映した重々しく荘厳なサウンドが印象的。
前作までに特徴的だったファンファーレのように祝祭ムードに溢れた躍動感あるフレーズとともに、本作では、人間の深遠をえぐりだすような、けたたましくもダークなフレーズが満載。前作にも増して疾走感みなぎるヘヴィ・メタリックなギター&ドラムも特筆で、圧倒的な音圧とダイナミズムで駆け抜けます。
「静」と「動」のスペクタクルな対比で聴き手のエモーションをこれでもかと鷲づかみにするクラシカル・プログレ第一級の作品。
荘厳&ヘヴィだった前作に対し、煌びやかなトーンで高らかに鳴るシンセや流麗なピアノなどを中心とするロマンティシズムやリリシズム溢れる明るく柔らかなサウンドが印象的な作品。
切ない叙情や歌の持つドラマを際立たせる緻密なキメのアンサンブルは、『TRICK OF THE TAIL』あたりのGENESISのファンにもたまらないでしょう。
ノコライ・グミリョフなどロシアの詩人による詩をモチーフに作品を作っていた彼らが、中国の漢詩をモチーフに挑んだ作品。
それにしても、06年には、2枚組の大作に加えて、もう一枚をリリースし、さらに翌年にもう一枚をリリース・・・。
とめどないGennady Ilyinの創造の泉にはただただ圧倒されるばかり。
08年、再び、ニコライ・グミリョフの詩をモチーフにしたコンセプト作『CROSS』をリリース。
豊穣なロシア近現代クラシックに根ざしたキーボード・ワークとメタリックなギター&リズム隊による対比によるダイナミックなサウンドは本作でも健在ですが、『NEW FAUST』あたりの硬質なサウンドと比べると、だいぶヴィンテージ側に振れて、マイルドに一体感溢れるサウンドとなっている印象。
イタリアのレ・オルメや東欧のソラリスあたりのユーロ・キーボード・ロックのファンが何か新鋭を聞いてみたい、という時に最適と言える、ヴィンテージ・スタイルの一枚と言えるでしょう。
11年には、09年にレコーディングしていた『OBSESSED』をリリース。
彼らの持つロマンティシズム香るリリシズムを最大化したような陽光に包まれたファンタスティックな楽曲が魅力的。
美しい詩情をドラマティックに彩る、ここぞで炸裂するメタリックなギターとドラムによるアクセントも健在で、ファンタスティックかつ壮大な傑作!
3年ぶりのリリースとなった14年作が『AT NIGHTS』がまた素晴らしい作品でした。
オープニング・ナンバーで聴ける、メタリックにザクザクとリフを刻むギターと逞しいドラムをバックに、けたたましく鳴り響くテクニカル&クラシカルなムーグ・シンセの突き抜けたリード!これは、『NEW FAUST』で印象的だった「静」と「動」の鮮烈な対比の再現!
2曲目での格調高く流麗なピアノが彩る気品いっぱいのロマンティックなヴォーカル・ナンバーも秀逸だし、その後も、ロシア的哀感たっぷりのナンバーや、オランダのトレースをHR/HMなダイナミズムで二倍速にしたようなナンバーや、タンゴも飛び出すナンバーなど、彼らの持つ魅力がこれでもかとつまった、活動20年の集大成と言える傑作と言えるでしょう。
文句なしにここまでの最高傑作!
そして5年の沈黙を経てリリースされたのが、最新タイトルとなるこちらです!
彼らがたびたび題材としてきた詩作品ですが、本作も20世紀初頭に活動した自国の詩人Nikolai Alekseevich KlyuevやSergei Alexandrovichの作品をモチーフに制作されたコンセプト・アルバムです。
ダイナミックなうねりを伴い押し寄せる怒涛のシンセサイザーと輝かしい管楽器隊がスリリングに絡み合いながら突き進む演奏は、ずばりハンガリーのSOLARISにも比肩するエネルギーと迫力!
一点して女性ソプラノヴォーカルが入る静謐なパートでのオペラ作品のように荘厳で張り詰めた空気感は、いかにもロシアのバンドという感じ。
熱っぽく畳みかけるダイナミズムたっぷりのパートと物悲しく静謐に描かれるクラシカルなパートとの鮮やかな対比が見事すぎる名品です。
試聴は下記ページで可能です!
https://littletragedies.com/music/
今や四半世紀を超える活動歴を誇るベテラン・バンドとなったLITTLE TRAGEDIES。作品を重ねるごとに本格的なクラシックの素養をベースにしたその荘厳にして熱量もみなぎる孤高の音楽性はますます磨き上げられていっている印象です。
早くも次にはどんな作品を出してくるのか楽しみですね!
【関連記事】
LITTLE TRAGEDIESとLOST WORLDを双頭に、豊かなクラシック音楽の土壌に根ざしたダイナミックかつ格調高いプログレ・グループが続々と登場しているロシアのプログレ新鋭シーンを特集!
ロシア南西でウクライナに近い町、クルスク出身。あのチャイコフスキーも輩出したサンクトペテルブルク音楽院で学んだ作曲家/Key奏者のGennady Ilyinにより94年に結成された90年代以降のロシア・プログレ・シーンを代表するキーボード・プログレ・バンド。08年作。豊穣なロシア近現代クラシックに根ざしたキーボード・ワークとメタリックなギター&リズム隊による対比によるダイナミックなサウンドは本作でも健在ですが、00年代はじめの硬質なサウンドと比べると、だいぶヴィンテージ側に振れて、マイルドに一体感溢れるサウンドとなっている印象。独特の語感を持つロシア語のヴォーカルなど、ロシアならではの哀感も特徴で、ハンガリーのソラリスに通じるような、垢抜けなさもまた魅力。イタリアのレ・オルメや東欧のソラリスあたりのユーロ・キーボード・ロックのファンが何か新鋭を聞いてみたい、という時に最適な一枚と言えるでしょう。
ロシア南西でウクライナに近い町、クルスク出身。あのチャイコフスキーも輩出したサンクトペテルブルク音楽院で学んだ作曲家/Key奏者のGennady Ilyinにより94年に結成された90年代以降のロシア・プログレ・シーンを代表するキーボード・プログレ・バンド。2011年作。彼らの楽曲は大きく、ロシア近現代クラシックにHR/HMのダイナミズムを注入した鮮烈な曲と、ロマンティシズム香るリリカルな曲とに分けられますが、本作は、後者のリリカルな楽曲が多くを占めている印象。イントロから溢れだす、ギターとキーボードのユニゾンで奏でられる、まるでキャメルのような伸びやかなロング・トーンのメロディアスなフレーズ。そして、ロシア語によるシアトリカルなヴォーカルにより歌われるリリカルなメロディとそれを格調高く彩る流麗なピアノ。まるでトレースのようにコロコロとカラフルな音色のキーボードが転がるファンタスティックなパートも良いし、終始、陽光に包まれたようなアンサンブルに満ち溢れています。美しい詩情をドラマティックに彩る、ここぞで炸裂するメタリックなギターとドラムによるアクセントも印象的。ファンタスティックかつ壮大な傑作!
ロシア南西でウクライナに近い町、クルスク出身。あのチャイコフスキーも輩出したサンクトペテルブルク音楽院で学んだ作曲家/Key奏者のGennady Ilyinにより94年に結成された90年代以降のロシア・プログレ・シーンを代表するキーボード・プログレ・バンド。トリオで活動をスタートし、00年にギタリストとサックス奏者が加入。5人編成で録音された初のアルバムとなった05年作。キース・エマーソン譲りのテクニカルかつアグレッシヴなキーボードはそのままに、鋭角なフレーズで畳みかけるモダンでメタリックなギターが加わり、バンドの持つ演奏の強度が今まで以上に引き出され、かなりスケールアップしています。ヘヴィなパートとの対比でクラシックそのままの優雅なパートも今まで以上に艶やかに響いて印象的。ワールドワイドにその実力を知らしめたバンドの出世作となった傑作。
本格的な音楽教育を受け、交響曲も書けるほどにクラシックに精通したKey奏者&コンポーザーのGennady Ilyinを中心に、ロシア南西部のウクライナ国境に近い町クルスクで結成された新鋭プログレ・グループ。2014年リリースの恐らく9枚目。エネルギッシュかつ流麗に鳴らされるムーグのリード、そこに時にユニゾンで超絶的に合わせ、時に単独で鳴り響くハモンド。オープニングから躍動するヴィンテージ・キーボードのスリリングな演奏に言葉を失います。タイトかつアグレッシヴなリズム隊とエッジの立ったギターのリフによるロック的ダイナミズムも印象的で、EL&Pをモダンなヘヴィネスでアップデートしたような重厚極まるキーボード・プログレを基調に、クラシック直系の華麗なキメのパートを挟みつつ、これでもかとドラマティックに展開していきます。一転して、音が瑞々しく響く格調高いピアノによる静謐なパート、管楽器が豊かに鳴るロマンティシズム溢れるパートも絶品ですし、ロシア語によるエモーショナルかつ演劇的なヴォーカルか醸すもの悲しさも特筆。「静」と「動」の鮮烈な対比。LOST WORLDと並ぶ現代ロシア・プログレ屈指のグループによる渾身の大傑作です。
LOST WORLDとともに現在のロシアを代表するシンフォ・バンド、99年録音作。『SUN OF SPIRIT』同様、LITTLE TRAGEDIE名義ではあるものの実質的にはキーボーディストGENNADY ILYINのソロ作品。ギタリストの参加を除いてキーボードの多重演奏のみによる演奏という点は『SUN OF SPIRIT』と変わらないものの、純クラシカルな印象が強かった前作と比べ、こちらは打ち込みリズムを大きく取り入れ、よりロックらしい躍動感が感じられるバンド・アンサンブル的な音作りがされているのが特徴。後のバンドとしてのLITTLE TRAGEDIESのサウンドにぐっと近づいています。荘厳なシンセやオルガンが鳴り響く中を、ギターがヘヴィに切れ込んでくる場面などはまさにLT!ドラマティックに歌い込むロシア語ヴォーカルもすばらしい。硬質な音使いとクラシカルな優雅さが絶妙にバランスした音楽性は、まさにロシアという国からイメージされる音そのもの。LT前夜という位置づけにとどまらない、素晴らしい完成度を誇る一枚です。
ロシア南西でウクライナに近い町、クルスク出身。あのチャイコフスキーも輩出したサンクトペテルブルク音楽院で学んだ作曲家/Key奏者のGennady Ilyinにより94年に結成された90年代以降のロシア・プログレ・シーンを代表するキーボード・プログレ・バンド。97年にGennadyがパリを訪れた際にインスピレーションに打たれて作曲&録音したバンド初録音作品ながら、当時はリリースされなかった幻の作品。当時は、ギターレスのキーボードトリオ編成で、00年にギターが加わって以降のモダンなヘヴィネスを持った作品に比べ、ヴィンテージなサウンドが特徴です。キース・エマーソンゆずりのけたたましいムーグ・シンセを中心とする、クラシカルな気品とともに暗黒の攻撃性に満ちたダイナミックなキーボード・プログレが印象的。なぜこのクオリティで、どこからも当時リリースされなかったのか・・・。実質デビュー作といえる、若きGennadyの溢れんばかりの才気がつまった名作!
コメントをシェアしよう!
カケレコのWebマガジン
60/70年代ロックのニュース/探求情報発信中!