時にメロウに時にハードに、ドラマ性に溢れた楽曲展開と、GENESIS譲りのファンタジックなサウンドメイクが魅力のポンプ・ロックをテーマに、ポンプの創始者イギリスのMARILLIONによる第3作『MISPLACED CHILDHOOD』と、そのポンプ・ロックを発展させ独自のシンフォニック・サウンドに練り上げた英新鋭BIG BIG TRAINによる09年作『UNDERFALL YARD』をご紹介してまいります。
70年代初頭にプログレッシヴ・ロックというジャンルを築き上げたバンドの一つにGENESISがありました。フロントマンのPETER GABRIELによるシアトリカルなヴォーカル・パフォーマンスと、英国らしい格調高さと優美なファンタジーに溢れた演奏を特徴とし、中でもドラマーのPHIL COLLINS主導のもとポップな路線を歩み始める以前の70年代初~中期の作品群は、世界中のプログレ・バンドのサウンドに多大なる影響を与えるものでした。
そんなプログレが衰退を迎えた70年代末期から80年代のイギリスに台頭したのが、その初期GENESISの音楽性を継承したファンタジックかつドラマティックなサウンドを聴かせる、いわゆるポンプ・ロック勢です。
POMP=壮麗、華麗という名を冠したそのサウンドは、70年代プログレに顕著だった他の様々なジャンルと融合し新たなサウンドを生み出すという先鋭的な姿勢が幾分失われてはいたものの、ロックそのものが不毛であったと言われる80年代に、プログレッシヴ・ロックの灯を90年代~現在へと繋ぎとめたという点で重要な役割を果たしたと言えます。そのポンプ・ロックの創始者と呼ぶべきグループがMARILLIONです。
当時英米を中心に数多く生まれたGENESISフォロワーと彼らを大きく分かつのが、GENESISのファンタジックかつドラマティックなサウンドと叙情溢れるメロディを抽出・発展させ、ジェネシス的でありながらもそこからひとつの新たな音楽性を作り上げた点だと考えられます。
それによりGENESISフォロワーとは別にMARILLIONフォロワーが続々と登場してきたのが、ポンプ・ロック・シーンが形成される要因となったと言えるのではないでしょうか。そのあたりは彼らの85年発表の第3作『MISPLACE CHILDHOOD』からのこの一曲をお聴きいただければお分かりいただけるかと思います。
STEVE HACKETT直系のエモーショナルにゆらめくギター・フレーズやGABRIELを強く意識したヴォーカル・スタイルなど、一聴するとGENESISそのものかと思ってしまうのですが(画像のビジュアルなんてモロですが)、ヴォーカルの表現力を生かしてドラマティックに展開する曲構成、中盤以降のひたすらエモーショナルに泣くギター・ソロなどは彼らの音楽の独自性とハイレベルな演出力を示すもの。やはり当時数多存在したGENESISフォロワーたちとは一線を画する、後の時代まで引き継がれていく流れを生み出す要素を持ったバンドだということが実感できる一曲ですよね。
MARILLIONは次作でGABRIEL調の歌声を持つ看板ヴォーカリストFISHが脱退、89年には新ヴォーカリストSTEVE HOGARTHを迎えて活動を続けます。HOGARTHの適度にハスキーな声質と深みのある歌唱も実に素晴らしいもので、95年の傑作コンセプト・アルバム『BRAVE』を始めとして、数々の力作を生み出してきました。結成から35年に届こうかという現在でもその音楽的感性は変わらず瑞々しく鋭敏もので、ライヴ活動を中心としながらもコンスタントに力作をリリースし続けています。今後の活動にも期待したいところですよね。
さて、それでは新鋭の紹介へとまいりましょう。英国の新鋭BIG BIG TRAINの09年作『UNDERFALL YARD』です。
新鋭とは言いましたが、90年結成のグループで既に四半世紀の活動歴を誇るベテランバンド。最初期よりポンプ・ロックからの流れを引き継ぐシンフォニック・サウンドを持ち味としていた彼らですが、00年代以降の作品からはYES、GENESISなど70年代プログレからの直接的な影響を感じさせるサウンドメイクが前に出てくるようになり、近作でのヴィンテージとモダンが絶妙に調和したオリジナリティの高いシンフォニック・ロックを完成させるに至りました。
09年作『UNDERFALL YARD』は、その点でまさに一皮むけたと言える傑作。では本作からのナンバーをお聴きください♪
英国のバンド特有の格調高さを宿すメロディ、ここぞという場面でアグレッシヴに走りだすキレのある演奏、そしてメロトロンが溢れ出すシンフォニック・ロックなのにゴテゴテとした印象のないスッキリとスマートで理知的にまとめ上げられた楽曲からは、稀有な音楽センスの発露が感じられます。またバックボーンにあるYESやGENESISが露骨に現れてくることがなく、リスペクトの対象としてうまく消化されている点にも好感が持てますよね。メンバーのテクニックも申し分なし!正直文句の付け所が見当たらない素晴らしいバンドです。
90年代以降のプログレシーンはイタリアや北欧などがリードしているのが現状ですが、だからこそ、この英国以外からは絶対に出てこないサウンドを楽しませてくれるBIG BIG TRAINというバンドの存在は非常に貴重だと思います。新鋭ファンのみならず70年代の英国プログレに親しんだファンに方にもきっとニンマリとしていただけるサウンドですので、是非耳を傾けてみて欲しいグループです。
今回はポンプ・ロックをテーマにお送りしてまいりましたが、いかがだったでしょうか。GENESISの影響下でポンプ・ロックというジャンルを作り上げたMARILLIONと、そのポンプ・ロックを下敷きにしつつも70年代的ヴィンテージ感覚を巧みに取り入れたモダン・シンフォニック・ロックを練り上げたBIG BIG TRAIN。彼らを中心として、今後英国のプログレシーンがいったいどのような動きを見せていくのか、是非注目していきたいですね!
ご存知英国プログレ・シーンをリードする人気グループによる23年作。過去楽曲の新録や追加パートを含むリミックス版、未発表のオーケストラ小曲、最新ライヴ音源を収録した全5曲60分という内容です。新録/リミックスは「East Coast Racer」(13年作『ENGLISH ELECTRIC PART TWO』収録)、「Brooklands」(16年作『FOLKLORE』収録)、「Voyager」(19年作『GRAND TOUR』収録)の3曲で、オーケストラも加わって全体的に演奏のダイナミズムが大きく増している印象。21年に逝去したDavid Longdonのヴォーカルはオリジナルのままとなっており、ドラマティックに迫る新たな演奏をバックにして一層の輝きを放ちます。ライヴ音源はPFMでも知られる新ヴォーカリストAlberto Bravinを含む22年公演から収録。落ち着いた温かみある歌唱がBBTのサウンドともしっかりマッチしており注目です。変則的な構成ながら、オリジナル・アルバムと遜色のない聴き応えで楽しませてくれる、さすがBBTと唸らされる一枚に仕上がっています。
名実ともに現ブリティッシュ・プログレを代表するバンド、24年作!21年に長年のフロントマンDavid Longdonを喪った彼らですが、元PFMのAlberto Bravinを新たなヴォーカルに迎え、さらにノルウェーのアート・ロック・バンドDIM GRAYのOskar Holldorffが新キーボーディストとして加入。新ラインナップで制作された初のスタジオ・アルバムとなります。ベテランらしい悠然としたサウンドを土台にベテランとは思えぬ瑞々しい音使いがファンタジックに煌めく1曲目から、揺るぎなきBBTサウンドが展開されていて素晴らしいです。タイトに疾走するリズム・セクション、ただただ輝かしいシンセサイザー、美しく波打つピアノ、芳醇な音色でメロディアスに旋律を紡ぐギター、クラシカルな気品と激情を備えたヴァイオリン。そして落ち着いた温かみある表現とスタイリッシュさの塩梅が絶妙な、BBTサウンドへと見事にマッチした新ヴォーカル。GENESISへの飽くなき憧憬を、映画を観ているかのように圧倒的な映像的描写力で紡ぎ出すスタイルは更に極まっています。結成から34年目にして、また一つ新たなステージにたどり着いたような印象すら抱かせる傑作です。
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