中世的ロマンが匂い立つバロックなプログレをテーマに、オランダのみならずプログレッシヴ・ロックというジャンルを代表するバンドと言えるFOCUSの74年作『HAMBURGER CONTERTO』と、イタリアより現れた現在大注目の新鋭BAROCK PROJECTの12年作3rd『COFFEE IN NEUKOLLN』をご紹介いたします。
バロックという言葉に対して、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。中世ヨーロッパ的な格調高さ、どっしりとした重みを持つ荘厳さなどを想像されるのではないかと思います。その意味でプログレにおける「クラシカル」という言葉に近い意味を持ちながらも、どこか異なるニュアンスを持っていると言えるのではないでしょうか。
そもそもバロック(BAROQUE)とは、16世紀末~17世紀の初頭にイタリアを中心としてヨーロッパ中に広まった芸術・文化の様式のことで、誇張的表現や劇的な効果を用いた壮大かつ華美な表現が特徴であるそうです。
その点でもプログレとは比較的相性がいいものであるように思われますが、意外にこの路線で活動するプログレ・バンドは当時より少なかったように感じられます。そんな中でプログレ全盛期である70年代初頭に、オランダから登場したのがFOCUSです。
超絶的な速弾きから一度聴いたら忘れられないメロディアスなフレーズまでを自在に弾きこなす名ギタリストJAN AKKERMANと、キーボードにフルート、おまけにヨーデル・ヴォイスまでを操るマルチ・プレーヤーTHIJS VAN LEERという双頭を擁するバンドで、その特異性と普遍性が見事バランスした独自のサウンドにより世界的な成功を収めました。
そのサウンドとは、エッジの立ったギターが縦横無尽に暴れ回る、痛快極まるテクニカル・ハード・ロックに始まり、叙情味あふれる流麗なフルートが美しいクラシカル・アンサンブル、欧州的な翳りを感じさせるジャジーなアンサンブル、そしてオルガンと古楽器のリュートにより織り成される格調高いバロック調のアンサンブルなどまさに何でもありで繰り広げられる、ある種プログレの究極形呼んでも良いもの。
そのバロック要素が最もよく現れた彼らの作品が、74年リリースの『HAMBURGER CONCERTO』です。では、本作より聴き手を一気に中世へとタイムスリップさせてくれる、このオープニング・ナンバーをお聴きいただきましょう。
AKKERMANによるリュートが見事な一曲です。アコギとは一味違う、マイルドできらびやかな響きがたまらないですよね。目を瞑れば広がるのは、中世ヨーロッパの街並み・・。
続いては彼らの持つ音楽性のすべてを注ぎ込んで繰り広げられるこちらの大作をお聴きいただきたいと思います。
冒頭の、オルガンに導かれて壮大に展開していくアンサンブルで早くもバロックな味わい深さを堪能できますね。そこにロック的ダイナミズムも加わり、FOCUSならではの世界観が築き上げられていきます。プログレに長尺曲数あれど、これほどに20分という時間が短く感じられる楽曲も珍しいのではないでしょうか。それだけ無駄のない構築性とスリリングな演奏が冴えに冴える名曲となっています。
FOCUSは76年にAKKERMANが脱退、78年に解散します。しかし00年以降にはTHIJSを中心に若手ミュージシャンを起用して再結成し、現在も活動中です。近作も、全盛期に匹敵するクオリティーの楽曲に、THIJSのオルガン&フルートもたっぷりと楽しめる力作ですので、是非聴いてみていただきたいと思います。
さて、それでは続いて新鋭にまいりましょう。FOCUSほどにテクニカルかつエキセントリックなバンドはそうそういるものでもありませんが、バロックな音楽性を持つプログレ・バンドということで近年人気を博している、バロックの本場イタリアから登場した新鋭をご紹介いたしましょう。その名もずばりBAROCK PROJECTです。
BAROCK PROJECTは04年に活動を開始したイタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ。キーボーディストであるLuca Zabbiniのプロジェクト・バンドとして発足し、12年現在までに3枚の作品をリリースしています。
彼らは、07年のアルバムデビュー以前より精力的にライヴ活動を行っており、後の作品にも影響が色濃く現れているELPやGENESIS、自国のバンドではNEW TROLLSなど70年代プログレの楽曲を卓越した演奏力でカヴァーしています。
そんな彼らが12年にリリースした第3作『COFFEE IN NEUKOLLN』は、PFMやELPなど70年代の名バンドたちをモダンな質感で蘇らせたようなキーボード・シンフォ・サウンドに厳かで格調高いバロックなエッセンスを取り入れた独自の音楽性が極まった、近年のハイレベルなイタリア新鋭たちの中にあっても屈指と言うべき傑作。では本作よりこちらの一曲をどうぞ。
冒頭から、ストリングス、ピアノ、管楽器らが優雅に絡む、これぞバロック!と言いたくなる厳かなアンサンブルを聴かせてくれていますね。そしてそこに乗る情緒豊かな美声男性ヴォーカルが、ドラマティックにメロディを歌い上げます。
やがてヘヴィーに歪んだギターとともに、ダイナミズムいっぱいのドラムスが加わり演奏は熱を帯びていきます。ヴォーカルもより情熱的な歌唱へと変化。いやー、たまりませんね。展開としては王道中の王道なんですが、その王道を見事に貫き通す、説得力のある堂々たる演奏に思わず感動。
QUEENにも匹敵するドラマ性と高揚感をもたらしてくれるサウンドが見事な一曲です。
バロック(BAROQUE)とロック(ROCK)を掛けたものと思われるバンド名も、彼らの意気込みを表しているようで頼もしい限りですよね。バロック由来の厳かさとキャッチーでドラマティックなメロディーの融合という前例のない試みを今後も追求していってほしいものです。
今回はバロックなプログレをテーマにお送りしてまいりました。いわゆるクラシカル・プログレとは一味違う、壮麗さと典雅さを持ったバロッキーなプログレ・バンドが、BAROCK PROECTの活躍によって広がっていくことを期待したいところです。
オランダのプログレッシヴ・ロックバンドFocusの2作目です。キーボーディスト兼ヴォーカリストのThijs Van LeerとギタリストのJan Akkermanがバンドの顔なわけですが、ヨーデルを取り込んだ一種形容できないLeerのスタイルと、カミソリの様に硬質でありながら最高にキャッチーなAkkermanのギタープレイが絡み合って不思議な高揚感が独自のハード・ジャズ・ロックでありながらそれ一辺倒にはならずに、優雅でメロウな曲も創作でき る何とも稀有な存在!一度嵌ったら、抜け出せない魔的な魅力を放った作品です。1曲目の「Hocus Pocus」は、ハードでキャッチーなギターリフと変てこなヨーデル風スキャットが炸裂しています。2曲目以降は打って変わって叙情的な作品が続きます。ヨーロッパの香り漂う佳品ぞろいです。 そして最後に23分の組曲「Eruption」で締めくくりとなりますが、これはもう鳥肌ものの名曲。まだフュージョンというジャンルが世に出る前からロック、ジャズ、クラシックを融合したクロスオーヴァー・サウンドを作り出していたのは特筆に価します。
ロンドンのレインボー・シアターにおける伝説のライヴを収録したフォーカス唯一のライヴ・アルバム。73年作。
紙ジャケット仕様、K2 HD MASTERING、解説元から無し、定価1429+税
盤質:無傷/小傷
状態:良好
帯有
小さい圧痕あり
クラシック音楽やキース・エマーソンに影響を受けたキーボード奏者&コンポーザーのLuca Zabbini率いるグループ。Luca自身がこれまでの最高傑作と評する2015年作4thアルバム。新たなドラマーとギタリストを迎え4人編成となっており、ゲストとして、なんとあのニュー・トロルスのVittorio De Scalziが3曲目に参加して録音されています。爽快なアカペラの多声コーラス・ワークではじまり、アコギとエレキによる弾むようなバッキング、透明感あるリリカルなピアノ、ファンタスティックなキーボードが豊かに広がるアンサンブルの何と素晴らしいこと!このオープニングを聴いて、ムーン・サファリを思い出すリスナーはきっと多いはず。前のめりに突っかかるようなリズムのキメとともに、ハモンド・オルガンがうねりを上げるところは、往年のプログレのDNAを継ぐ幻想性とともに、現代的なエッジが絶妙にバランスしててカッコ良いし、ガツンと歪んだギターとハモンドが突っ走るところなんかは70年代ハード・ロックも継いでてグッとくるし、管楽器風のトーンのキーボードが高らかに鳴り響いたかと思うとクラシックそのままの流麗なピアノが流れてメロディアスなパートにスイッチしたり、溢れんばかりのアイデアとそれを軽々とこなす演奏も特筆ものだし、すごいワクワク感いっぱい。EL&Pやジェスロ・タルへの愛情たっぷりなパートなんかもニンマリだし、往年のプログレ・ファンにも激レコメンド。前作も素晴らしい出来でしたが、さらに突き抜けた傑作!
紙ジャケット仕様、SHM-CD、ボーナス・ディスク付きの2枚組、定価3200+税
盤質:無傷/小傷
状態:良好
帯有
天才キーボーディストと呼んで差し支えないLuca Zabbini率いる、現イタリアン・プログレ屈指の人気グループによる24年作!冒頭トランペットが勇壮に鳴り響いたと思ったら、突如唸りを上げるハモンド・オルガンを合図に、クラシカルな絢爛さとスタイリッシュなポップネスを纏って疾走し始めるアンサンブル。もうこの導入部の時点で傑作の匂いがプンプンしてきます。ヴォーカルが歌い上げるメロディも、いつもながらプログレを聴いている事を忘れそうなくらいにキャッチーで素晴らしいです。ビシビシとタイトに刻まれるリズム、クラシカルなフレーズを華麗に弾きこなすキーボード、強度抜群のヘヴィなギター、ここぞで涼風を運ぶフルート。各楽器が緻密に組み上げられていくような演奏なのですが、全体としては極めてスムーズな流れが感じられ、小難しさを一切感じさせないのが彼らの魅力です。そんな中でも、随所で飛び出してくるLuca Zabbiniの才気みなぎるオルガンの速弾き、そしてクラシックのバックボーンを発揮した劇的なピアノは、一際輝きを放っていてずばり一級品。キャッチーなプログレの最右翼として、MOON SAFARIと並べたい名バンドによる快作!
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