勤めていたWOWOWエンタテインメント退社、レーベル閉鎖に伴い、KING CRIMSON関連作品を発売する新レーベル、DGMディストリビューション・ジャパン設立作業で一杯一杯状態が続いております。会社立ち上げ作業の傍ら、新レーベルからの最初のリリースとなる『Exposure』ボックスの恒例の日本アセンブル盤制作作業が重なりいやぁ、やること多すぎ。本来なら先週ブログ更新だったのを思わずすっ飛ばしてしまいました。申し訳ありません。
退社に伴い、制約がなくなりましたので連休前にブログをスタート、5月末からオフィシャル・ウェブショップ開設、6月1日目標でオフィシャル・ホームページ始動に向け準備中です。
『Exposure』ボックスはこれまでのCRIMSONアニヴァーサリー・ボックス同様、ディスクユニオンさんと5月末開始準備中の弊社ウェブショップのみの取り扱いとなりますが、25CD、3DVD、4Blu-rayとボックス・シリーズ最大スケールを誇る巨大(箱の大きさは同じだけど)なコレクションとなります。
『Exposure』は2006年に1979年オリジナル発売時のマスター(ファースト・エディション)とディシプリンKCが活動していた1983年に79年のオリジナル版では使用されなかったダリル・ホールのヴォーカルを3曲復活させリミックスしたサード・エディションを合体させたものが発表されていますが、今回久々の再登場となります。
核となるのはアニヴァーサリー・ボックス・シリーズではお馴染みのスティーヴン・ウイルソンによるステレオ、5.1ch、ドルビー・アトモスで収録されるオリジナル・マルチトラック・テープからの新ミックス(フォース・エディション)。パンク、ニューウェーヴ、ファンクの嵐が吹き荒れるニューヨーク・アンダーグラウンドに降り立った巴里のアメリカ人じゃなくてニューヨークのイギリス人(ボックスについてくる毎度の英文カラーブックレットの表紙をめくると最初のページにあるおそらくヴィレッジ辺り、ニューヨークのダウンタウンの通りに立つ若き日の大先生の写真。キッチリとアイロンかけたフレアーっぽいジーンズに白のワイシャツ袖まくり第二ボタンまでオープンで極細黒ネクタイ、左手には当時のメインギター、黒のギブソン・レスポール・カスタムが入ったハードケース、右肩には当時使用していたピート・コーニッシュのペダル・ボードが入っているんでしょうか大きな長方形のショルダーバッグ。多分、当時住んでいたフラットからスタジオに向かう時に撮られた写真を見るとまさにそんな感じです)ポップ・カルチャーの坩堝ニューヨークに突然現れたスクエアなブリティッシュ・アクセントで喋るけど感覚はぶっ飛んでいる英国人セレブがニューヨーク・アンダーグラウンド・シーンからどのような影響を受け、また逆に与えたのかがパキッと分かる尖ったニュー・ミックスは、流石にやり尽くした感があり手詰まり感があった前作『1969』ボックスの『宮殿』新ミックスから一転、スティーヴン・ウイルソンどうもありがとうとガッツポーズが出る上出来版です。
年代的には『The Road To Red』と『On (And Off )The Road』の間に位置する時期の音源集なのですが、メジャー・リーグ・ポップ・ミュージックへの挑戦を試みたMOR3部作、フリップ版ニューウェーヴ・バンド、THE LEAGUE OF GENTLEMEN、現在のサウンドスケープに繋がるフリッパートロニクスがこの時期大きな発展を遂げたことが全部分かる仕組みなっています。これまでこの時期の音源はそれなりに出ていましたが、旧フォーマットの『Exposure』、フリッパートロニクス作品、THE LEAGUE OF GENTLEMENを聴いただけではイマイチ分かりにくかった『Red』から『Discipline』への変貌の過程を総ざらいした内容になっています。
考えて見ると、大先生が今回の『Exposure』ボックスの収められた音源を作っていた裏でアルバム『Red』の制作を支えた残りのふたり、ウェットン、ブルフォードはUKをやっていたわけです。そことの対比も興味深い意味深な内容を含んだコレクション・ボックスになっている点も是非ご注目ください。
さて、レーベル立ち上げ作業を続けているうちに、CDビジネス本当に辛くなってきているのが実感としてのしかかってきています。90年代ユニバーサル・ミュージックで働いていた時、クラシックのアルバムとか初回イニシャルが300とか400しか付かないものが結構あって、大丈夫なの?それって感じだったのですが、今はそれが我が身に降りかかってきています。イニシャルとライフ(契約期間内の総売上)が著しく減少すると製造コストが反比例して思い切り跳ね上がるわけです。各社、印刷経費削減のため安いオンデマンド印刷に切り替えたり、ディスクのプレスを国内プレスから格安のアジア諸国に切り替えたりしてコストの削減を図っているのですが、DGM本社は真逆なことをDGMジャパンに要求しているわけです。つまり、SHM-CD、HQCD、MQACDなどの高品質素材版やハイレゾ再生可能CDフォーマットを標準として、輸入盤との住み分けを図って欲しいと要求されているわけです。WOWエンタはそれでも結構頑張ってきた方だと思うのですが、それでも年々数値が上昇して行く返品が重くのしかかり、健全な運営が続けられる状況ではなくなってしまったし、TV局の傘下レーベルとCRIMSONの取り合わせもチグハグ感がねぇ・・・。CRIMSONおよそTV向きじゃないもんねぇ。
ここを打破して厳しい状況の中でも従来のクオリティを維持するべくDGMはインディーズの道を行くということになり、再びなんでも自分でやる超人件費削減、家賃やら固定費を最大限にカットするなど大ナタを振るってもそれでもキツイ状況に変わりない。
きついの分かっているんだし、マーケットの収縮も認識しているのに、アーティスト印税の値下げとかは1mmも言わないDGM本社はほとんど「東インド会社アジア地区老齢年金強制徴収機構」みたいなものだけど、大先生がこれから先もやりたいことやってアーティスト人生を全うするために利益は少なくともこれからもCD、DVD、BDを売り続けるわけだね。
アナログはやりたいんだけど、輸入以外NGってことなんであんまり手を出したくないのね。個人的にこの程度のアナログ盤だったらCDでも十分じゃん、って思っちゃうわけです。ちゃんとしたマスター供給してくれて国内プレスが可能だったら考慮したいですけれど、販売価格はかなり高くなってしまうでしょうね。
さて、関係あるようで関係ない話をダラダラと書いてしまいました。4月**日は誕生日でした。64歳。大昔、中学生の時LP2枚買ったら当時ワーナー・パイオニアが作ったモノクロのポスター・セットをいただきましてね。5枚か6枚がセットになったやつで、THE ROLLING STONES、LED ZEPPELINの他CSN&Yもあったかなぁ、他がなんだったか思い出せないんですがその中に2000年代までポスター・カレンダーがあって、中坊の僕はそれを部屋に貼って、なんて遠い未来なんだろうと思っていたのですが、今やそれも過去だもんねぇ。きっと64歳になった音楽ファンは誰もが思うんだろうけど、THE BEATLESの「When I’m Sixty-Four」あの頃は実感なかったんだけどねぇ。まぁ、いいや。
誕生日当日、突然、銀座アスターのアスター麺が無性に食べたくなりましてね。食べにきました。それなりに高い汁麺で、1700円とかそんな感じ。見た目はあんまり餡かけが強くない広東麺風でほんのりオイスターソースの風味が効いているのが特徴。久々に食べたらやはりうまかった。食べ物の話をしていても仕方がないよね。4月11日はガッツ・ポーズの日だったそうです。1974(昭和49)年のこの日、東京・日大講堂で行われた「ボクシングWBCライト級タイトルマッチ」で挑戦者のガッツ石松がチャンピオンのロドルフォ・ゴンザレス(メキシコ)に見事KO勝ち。この時ガッツ石松がコーナーポストに登って両腕つきあげるポーズをマスコミが「ガッツ・ポーズ」と喧伝。だいたい両腕突き上げて歓喜を表現するポーズは昔からあったわけですが、この時からガッツ・ポーズとなったそうです。
今回は個人的キーボード・ロック(主にオルガン)のガッツ・ポーズ案件をいくつか出して行こうと思います。
まず、ツイン・キーボードが売りだったRARE BIRDのオルガン担当、グラハム・フィールドとグレッグ・レイクも在籍していたSHY LIMBS出身のギター、ベース兼ヴォーカリスト、アラン・バリー、同じくSHY LIMBS出身でKING CRIMSONを経由して合流したドラムのアンドリュー・マカロックによるキーボード・トリオ、FIELDS。グラハム・フィールド版EL&Pと言ってもよいサウンドを持ったバンド。リアル・タイムでは英CBSからアルバムを1枚発表しただけで終わった短命バンドだったが、アラン・バリーがSUPERTRAMPの1stに参加したフランク・ファレルに交代して制作を開始したもののお蔵入りした音源が2015年に『Contrasts』というタイトルで発掘音源として発表されています。
思わずガッツ・ポーズはオリジナル・メンバーによる1stアルバムの1曲め「A Friend Of Mine」。重く歪んだオルガン・サウンドから立ち上がり、歯切れよいベースに導かれフィールド指が回りまくる流麗なイントロ部への展開はまさに「よっしゃー!」という上出来オルガン・ロック。これが約1分半続いてバロック風メロディを持つヴォーカル部分へ引き継がれていくのだが、このヴォーカル部分も上出来。ヴォーカル・パートの中間にイントロで提示したオルガン・パートを再び挿入したフィールドのソロ・パートが出てくるのだがこれが上昇音階をうまくからめた開放感溢れるものでここも上出来! 非常によくできたオープニング曲に期待は膨らむのだが、曲が進むにつれ雲行きが怪しくなっていく。ヘヴィなキーボード・ロック曲を持ち込んだフィールドとPROCOL HARUMなどに通じるクラシカルなメロディラインとR&Bテイストを合体させたアラン・バリー主体楽曲の収まりがあんまりよろしくない雰囲気。
それぞれの曲はかなり完成度が高く、今聴いてもかなり高い満足感が得られるのだが、全体は幕の内弁当的レイアウトでどこに眼をやれば良いのか迷ってしまう感じなのだ。
キーボード・トリオだけどEL&Pとは違う方向を目指すんだといった気負いみたいなものが先走り、あれもこれもと要素盛り込みすぎた印象が強いんですね。
A Friend Of Mine
幻の2ndアルバムといった触れ込みで出た『Contrasts』は完成形には程遠く、フィールドのプレイは随所に光るものがあるのだが、脱退したバリーの後任フランク・ファレルはプレイアビリティ面、作曲面共にバリーには及ばず、幻の2ndアルバムじゃなくて実はほとんどデモ段階みたいな曲が多く全体の印象はいまひとつ。バリーが持ち込んだものが抜けたのでオルガン・ロックとしては1stよりも焦点が絞り込まれた印象はあるのだが、ベースが凡庸で全体の疾走感は1stから後退傾向。まぁ、1stだけ持っていれば良いのかって感じになるのだけど、これまで別個で出ていた2作品が今年の頭に『Feeling Free』というタイトルでワンパックとなって再発されました。これ、値段設定が手頃でほぼ1枚分の値段で両方ゲットできるお得なパッケージ。アルバム全体の整合感には問題あるけど、1曲1曲はよくできている1stを買う感覚で両方聴けるのでオススメです。カケレコでも新品CDのページで売ってます。
FIELDSもその影響をモロに受けたバンドだったわけだけど70年代のキーボード・プログレ界のビッグ・バンはEL&Pの1stアルバムによってもたらされたと言っても過言ではないでしょう。ブライアン・オーガーもそのひとり。昔、オーガーのカタログ再発をした時にインタビューした時彼が語っていたのですが、彼、キース・エマーソンに発売前に完成したばかりの1stアルバムを聴かせてもらったのだそうです。同じキーボード・プレイヤーとして強い衝撃を受けたんだそうです。ブライアン・オーガーはジュリー・ドリスコールと組んでモッド・ジャズ・シーンを牽引したTRINITYで一世を風靡した後、ISOTOPE、ソロで人気を博したゲイリー・ボイルとも組みましたが、プログレというよりもジャズ・フュージョン寄りのサウンド指向だったわけですが、彼もEL&Pシンドロームの影響を受けた作品を1枚作っています。
OBLIVION EXPRESS、1971年発表の1stアルバム『Brian Auger’s Oblivion Express』。OBLIVION EXPRESSは2nd以降メローなサウンド指向を見せたり、フリー・ソウル系のリスナーから支持を得るサウンドを確立していくわけですが、この『Brian Auger’s Oblivion Express』はとことんヘヴィなキーボード・ロック・サウンドを聴かせます。間違いなくキース・エマーソン、EL&Pに影響を受け、一方で当時、ジャズ・シーンで大きな注目を集めていたジョン・マクラフリンも在籍していたトニー・ウイリアムスのLIFETIMEからも影響を受けその影響を合体させ完成させたのが『Brian Auger’s Oblivion Express』でした。
前後のリリース作品と合わせて聴くとこれ1枚が完全に浮いている剛腕ジャズ・ロック・サウンドもEL&Pシンドロームの中から生まれた作品だったのでした。
Total Eclipse
そのビックバンをひきおこしたEL&Pの1stアルバムは様々なフォーマットで出ていますが、2012年にスティーヴン・ウイルソンが新規ミックスを担当した2CD+DVDオーディオ版パッケージは当時、また出したのみたいなちょいとアゲインストな空気が流れ、パスしちゃった人も多いんじゃなかと思いますが、2012ウイルソン・ミックスはオリジナル・フォーマットには未収録の「Rave Up」が追加されている他、「Knife Edge」の後半部分もオリジナルと異なるヴァージョンが収録されているなどコレクション価値が高いパッケージとなっています。久々に聴き直してみると、FIELDS同様、エマーソンとグレッグ・レイクの個性って結構かけ離れているのが見て取れるのですが、こちらは幕の内弁当的ディスプレイにならずに見事に融合させている点が凄みでしょうね。プロデュース能力の差がでているように思いますし、THE NICEと違って僕だじゃないバンドなんだとレイクにもカール・パーマーにも存分にスポットが当たる作りになっているにも関わらず、キース・エマーソンがぶっちぎりで目立つ。コレを聴いたキーボーダーはどえらい衝撃を受けたことは想像に難くないでしょう。ヴォーカリストかギタリストじゃなければスターたりえないロック・シーンの不文律を一発粉砕作品だったわけですから。久々に聴いてみてその凄さを再認識しました。それを思うとやはりキース・エマーソンの不在は寂しいですね。
Knife-Edge (With Extended Outro) (Steven Wilson’s 2012 Stereo Mix)
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