2018年4月14日 | カテゴリー:KAKERECO DISC GUIDE,世界のロック探求ナビ
スタッフ増田です。毎月更新される「カケレコセレクト100」よりスタッフが一押しの作品をご紹介する【KAKERECO DISC GUIDE】。
今回ご紹介するのは、我らが日本が71年に生み出した名盤、LOVE LIVE LIFE + ONEの『LOVE WILL MAKE A BETTER YOU』です。
まずはこちらのタイトル・トラック「Love Will Make A Better You」をお聴き下さい。
な……なんというアグレッシブさ。ファンキーかつ硬質なグルーヴ、ノイジーでソリッドに切り込むギター、さらに驚くべきは獣のごとくワイルドで攻撃性むき出しのシャウトを連発するヴォーカル。
この凄いヴォーカルは一体誰!?ダモ鈴木!?ジョー山中!?
実はこのヴォーカル、ご存じ布施明。「シクラメンのかほり」「君は薔薇より美しい」でおなじみの布施明です。この日本歌謡のしっとりとした歌唱と、上のファンキーで尖ったヴォーカル、同一人物とは思えませんよね……。
このLOVE LIVE LIFE + ONE(以下、LLL+1)は、日本のキング・レコードが70年代に企画した「NEWS(ニュー・エモーショナル・ワーク・シリーズ)」の中の一枚としてリリースされた作品。
当時キング・レコードは先鋭的なジャズ作品のリリースに力を入れており、中でもこのNEWSはジャズ・ファンクやジャズ・ロックなど、「ジャズの新しいムーヴメント」に焦点を当てたシリーズだったようです。
NEWSは尺八奏者・村岡実による『バンブー』、猪俣猛サウンド・リミテッドの『イノセント・カノン』など日本ジャズ史に残る革新的な作品を多く生み出しましたが、このLLL+1もまた日本トップクラスのミュージシャンを揃え、ジャズ~サイケ~ロックの狭間を切り開いて行った歴史的作品と言えるでしょう。
メンバーは以下の通り。
フード・ブレインなどで名高いキーボディストの柳田ヒロ、彼と並んで日本のニューロックを支えた水谷公生、そして市原宏祐、横田年昭など日本を代表するジャズ・ミュージシャンたち。そしてバンド名の「+1」は布施明のこと。
当時すでにトップ歌手だった彼がこのセッションに参加した理由は謎に包まれていますが、こういったアグレッシヴな歌唱をこなせるヴォーカリストは当時の日本では相当少なかったとか。彼のこれほどまでにロックな歌唱を聴ける作品も他にそうそうなく、その点でも非常に稀有な一枚と言えます。
もちろんヴォーカルだけでなく演奏の強度も日本有数。アルバムのA面を占めるのは18分の大曲「The Question Mark」。
静寂の中、禅問答のように「問い」を語り掛けるヴォーカル。研ぎ澄まされた刀のように鋭く、強靭なインプロヴィゼーションを繰り出す水谷公生のギター。雅楽のように緻密なパーカッション。そこへベースやサックス、フルートも加わり、暴力性と緊張感を増してゆくアンサンブル。張りつめたテンション、理性と狂気のせめぎ合い、殺気すら感じる各楽器の応酬に息を吞むばかりです。
こちらは美しいストリングスやダイナミックなホーン・セクションをフィーチャーした躍動感溢れるシンフォニックなナンバーですが、華やかさというよりは時代劇映画のような寂寥感が漂っていて独特。激しくエネルギッシュなインプロを繰り広げるフルートも、まるで尺八のような無骨さ。男らしく雄大に歌い上げるヴォーカルがサウンドとマッチしています。
アヴァンギャルドさ、フリー・ジャズ的インプロヴィゼーション、尖ったギター・サウンドなどからキング・クリムゾンやCANと比較されるLLL+1。しかしながら彼らの演奏には、前述の二つとはまた違った独特の緊張感が漂っています。それは恐らく邦楽や雅楽に通ずる「間」と「静寂」から来るもの。
『太陽と戦慄』でアジアの民族音楽を取り入れたキング・クリムゾンとも、日本人ヴォーカリスト・ダモ鈴木を起用したCANとも異なり、日本という東洋の伝統に通ずるアヴァンギャルドさを有するLLL+1。まさしく日本が世界に誇るべきプログレッシヴ・ジャズ・ロックと言える傑作です。
水谷公生(g)、柳田ヒロ(key)、布施明(vo)、市原宏祐(sax/flute)などによるグループ。71年作。頭に浮かんだのが、KING CRIMSON「太陽と戦慄」 meets CAN「EGE BAMYASI」。剥き出しの攻撃性、破壊的なエネルギー、硬質なグルーヴ、ぶっ壊れているようで整合性が感じられる熱くクールな音質。暴力性と理性が絶妙にバランスした圧倒的に緊張感溢れるサウンドを聴かせています。しかも驚くべきは、クリムゾンよりもカンよりも先にリリースされていること。日本のジャズ・ロック/プログレの歴史的傑作。これはぶっ飛びます。
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