2017年10月20日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
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ハットフィールド&ノースやナショナル・ヘルスでの活動で知られるギタリスト、フィル・ミラー氏が10月18日お亡くなりになりました。68歳でした。
決してひけらかすことはないものの流麗かつ卓越したギター・テクニックで、カンタベリー・シーンにおける数々の重要バンドを支えてきたフィル・ミラー氏。
もちろんギタリストとしてのみならず、彼のコンポーザーとしての才能もカンタベリー・ロックにおいて欠かせぬものといえるでしょう。
今回は追悼の意を込めて、そんな彼の手掛けた名曲を振り返ってみたいと思います。
フィルのキャリアの出発点とも言えるのが、フィルの兄スティーブ・ミラーが結成したブルース・バンドを前身とするこのDELIVERY。
フィルの幼少期からの友人であり、生涯に渡って数々のバンドで共に活躍し続けた相棒的存在のピップ・パイルをはじめ、後にカンタベリー・シーンを築く主要ミュージシャンも多数参加しています。
英国のジャニスと評される女性シンガー、キャロル・グライムスの代表作でもある本作ですが、オリジナル盤全8曲のうちなんとフィルの作詞作曲が約半数を占めており、既にその才能が遺憾なく発揮されていて驚き。
グルーヴィーでパワフルなジャズ・ロックを軸としつつ、後のカンタベリー・サウンドに通ずる繊細なフィルのギターを堪能できる「Home Made Ruin」をお聴きください。
『FOOLS MEETING』の翌年、ドラマーのピップ・パイルがGONG加入の為DELIVERYを脱退。
そしてフィルもソフト・マシーンを脱退したロバート・ワイアットに誘われ、MATCHING MOLEに加入することとなります。
音楽性の行き違いによりソフト・マシーンを脱退したロバート・ワイアットによって結成されたMATCHING MOLE。
緻密で技巧的な中に暖かみを備えたユーモアあふれるサウンドが見事で、カンタベリー・ロックを代表する一枚と言っても過言ではないでしょう。
ほとんどの楽曲はワイアットによるものですが、アルバムの真ん中に位置する「Part of the Dance」のみフィル作。
フィルのメロウなアルペジオとデイヴ・シンクレアの淡いオルガンによる不協和音のようでどこか優しげなイントロに始まり、突如強靭なユニゾンによってスリリングなインプロヴィゼーションへ雪崩れ込む、アルバムの中でもとりわけ強烈な個性を放つ一曲。
インプロ中心とはいえ、当時若干22、3歳にしてここまで複雑な楽曲を手掛けるとは……恐るべき才能です。
さてピップ・パイルとフィル・ミラーが脱退してしまったデリヴァリーですが、CARAVAN加入時に意気投合したスティーブ・ミラーとリチャード・シンクレアを主導として72年に再結集。
スティーブはアルバム・デビュー前に脱退してしまいますが、代わりにキーボーディストのデイヴ・スチュアートを迎え、ハットフィールド&ノースと名前を変えて発展していくこととなります。
緻密なジャズ・ロックと幻想的なポップ・サウンドが巧みなバランスの上に共存し、カンタベリー・ロックの中でも最高傑作として挙げられることの多い第二作。
全ての楽曲がアルバムを通して一つの流れのように見事な統一感の上に成り立っていますが、それぞれの曲を各メンバーが持ち寄っており、フィルのクレジットは「Lounging There Trying」とこの「Underdub」。
ラテン・テイストの明るいリズムに軽やかなギターと硬質なベースが乗り、その上をスチュアートの甘やかなエレピとジミー・ハスティングの愛らしいフルートのユニゾンが舞ってゆく、美しくしなやかなアンサンブル。
フュージョン的な力強さと優美で流麗な繊細さ、そしてポップなコミカルさが融合した、フィルらしいユニークなサウンドを心ゆくまで堪能できます。
ハットフィールド&ノースのキーボード・オーディションに不合格となったアラン・ガウエンが結成したギルガメッシュ。
そんなギルガメッシュとハットフィールド&ノースのメンバーが合流して75年に結成されたナショナル・ヘルスは、まさにカンタベリー・シーンを代表するメンバーが結集した夢のオールスター・バンドでした。
ナショナル・ヘルスの第一作ではデイヴ・スチュアートのコンポージングによる大曲が全編を占めていますが、第二作『OF QUEUES AND CURES』ではハットフィールド時代と同じく様々なメンバーが作曲を担当しています。そんな本作では「Dreams Wide Awake」がフィルの作。
強烈なベースの変拍子リフの上をテクニカルなギターがひたすらに目まぐるしく駆るハードなパートから、滑り込むように流麗なカンタベリー・タッチに移り変わってゆく展開が非常にユニーク。
スチュアートによるおなじみのトーンのオルガンとフィルの鋭いギター、元ヘンリー・カウのジョン・グリーヴスによる激しいベースに嵐のようなパイルのドラム……。
四つ巴とも言うべきインプロヴィゼーションの応酬は息を呑むようにスリリングながら、軟体動物のようにコロコロと移り変わる音のコミカルさやエキゾチックでキャッチーなフレーズなど遊び心もふんだんに盛り込まれていて、聴き応え満点の一曲です。
カンタベリー・サウンドの完成形を打ち出したと言えるナショナル・ヘルスですが、リーダーシップを握っていたスチュアートの脱退やアラン・ガウエンの病気療養に伴い80年に解散。81年に白血病でこの世を去ったアラン・ガウエン追悼のため一時的に再結成するも、活動は続きませんでした。
そんなハットフィールド&ノース、そしてナショナル・ヘルスの脈流を継いだのが、フィル・ミラーがピップ・パイルやサックスのエルトン・ディーンと共に82年に結成したイン・カフーツ。
よりインプロヴィゼーション・ジャズに接近した作風ではありますが、その中にも暖かく親しみやすいカンタベリーの息吹を感じさせ、テクニカルながら非常に安心感のあるサウンドを聴かせてくれます。
イン・カフーツ名義での活動は近年に至るまで継続的に続いており、彼の強い音楽への情熱と愛情を窺い知ることができますね。
高い技術力を持ちつつも人情味あふれる暖かなギター・タッチで、生涯の相棒ピップ・パイルと共に個性あふれるカンタベリー・サウンドを創り上げてきたフィル・ミラー氏。
彼の功績に敬意を表し、心よりご冥福をお祈りいたします。
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