2017年8月15日 | カテゴリー:ライヴ・レポート,世界のロック探求ナビ
タグ: プログレ
スタッフ佐藤です。
8月12日と13日にクラブチッタ川崎で行われた、「ザ・ベスト・オブ・イタリアン・ロック VOL.5,6」を観てきました!
今回出演したのは、セミラミス、ラッコマンダータ・リチェヴータ・リトルノ、デリリウムの3バンド。
いずれも70年代に名作を残し一度は解散、近年若手メンバーを加えて再結成を果たし活動を続けている現役バンドです。
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8月12日と13日にクラブチッタ川崎で開催される、「ザ・ベスト・オブ・イタリアン・ロック VOL.5,6」に出演する、SEMIRAMIS、DELIRIUM、RACCOMANDATA RICEVUTA DI RITORNOの3バンドを特集!
1日目は第1部にセミラミス、第2部にデリリウム、2日目は第1部にラッコマンダータ・リチェヴュータ・リトルノ、第2部にデリリウムが出演しました。
今回は3バンドとも70年代のオリジナル・アルバムの全曲演奏をメインとするステージを披露!
イタリアン・ロック・ファンにとってはたまらない内容となったフェスの模様をお伝えいたします!
初日第1部に登場したのがセミラミス。
再結成後のバンドに参加していたオリジナル・メンバーの一人で、今回の来日公演にも出演予定だったキーボードのマウリツィオ・ザリッロ氏が7月8日に惜しくも死去したことを受け、彼への追悼の意も込められたステージとなりました。
ザリッロ氏の写真と追悼の言葉がスクリーンに映されたあと、唯一作『DEDICATO A FRAZZ』の全曲演奏がスタートします。
アルバム全曲演奏は、各曲間に書き下ろしと思われる詩の朗読を交えながら進行していくスタイル。
スクリーンに日本語訳が映し出されているものの詩の内容はかなり難解なものだったのですが、
その難解さがかえって彼らのダークかつ神秘的な世界観を持つサウンドを際立たせているように感じられ、雰囲気は抜群です。
サイレンのように不穏なシンセと瑞々しく響くアコギ、対照的な音色が同時に鳴らされ、朗々と歌い出すヴォーカルとともに徐々に緊張感を高めていくオリジナル通りのオープニング。そしてえぐるように鋭角的なエレキギターが切り込んでくると、ダイナミックな全体演奏へとなだれ込みます。オルガンも荒々しく唸りを上げ、伊ヘヴィ・プログレ特有の邪悪さを滲ませたこれぞセミラミス、というサウンドが炸裂!
まずオリジナル・メンバーのドラマー、パオロ・エンファンツァが叩き出すリズムのパワーがとにかく半端ではありません!当時16~18歳の学生によって結成されたバンドなので、オリジナル・メンバーの年齢も他の伊バンドよりはやや若いですが、それでも60はゆうに超えてます。さすが現役バンド、ライヴということを差し引いてもオリジナルよりずっとヘヴィな演奏に開始早々に圧倒されます。
そんなメンバーの中で特にセミラミスらしさを感じさせてくれたのが、非オリジナル・メンバーながらセンターポジションでヴォーカルとアコギを務め演奏の要を担っていたヴィート・アルディート。
特に声量豊かなヴォーカルはイタリアン・ロック然とした朗々と情熱的な歌唱が素晴らしく、伊バンドならではの「歌」の魅力をたっぷりと味わわせてくれます。
調べるともともとはカンタゥトーレとして活動していたヴォーカルに定評のあるベテランミュージシャンらしく、あの歌の素晴らしさもなるほど納得です。
そのヴィートが弾く一音一音がキラキラと輝くようなアコースティックギターの調べをメインに展開する、地中海の風景が見えてきそうな美しいパートに聴き入っていると、前触れなくハード・ロック的破壊力でなぎ倒すヘヴィで混沌としたパートに突入。オリジナルを知っているので一応わかってはいるのですが、この「静」と「動」を瞬時に切り替えるバンドの一体感あるプレイは本当に見事で、くるぞくるぞ~という感じでワクワクしながら展開を楽しみました。
ヘヴィな場面では若手ギタリスト、アントニオ・トラーパニによるHR寄りのテクニカルなプレイを軸に、エネルギッシュな演奏が音塊となって迫ってきます。
アコースティックで美しいパートとヘヴィになぎ倒すような激しいパートが複雑に入り組み作り上げられるサウンドがセミラミスの特徴と言えますが、ハード・ロック調のパートが現代的なヘヴィネスを得て一層パワーアップした分、そのダイナミズムが一層緊張感と迫力を持って向かってくるんですよね。
オリジナル・アルバムのリリースから45年。今これほどの演奏であの名盤を聴くことができるとは思いませんでした。
曲ごとにアルバムの内ジャケットに描かれたイラストのキャラクターがスクリーン上に映し出され、視覚的にもアルバムの世界を堪能できるようになっていたのも心憎い演出です。
終盤、一瞬暗転したステージが明るくなると、突如内ジャケの左端に描かれている青と白の服を着せられたマネキンが上から吊るされていてビビります。
黒い肌に赤毛だったのでこれがどうやらFRAZZ(ジャケの男性?)らしく、彼が肉体的な死を迎えたことを表現する演出だった模様。
最後は、セミラミスの新たなスタートを意味する新曲を披露して終幕。
エレキギターが派手に活躍するかなり現代ハードロック調のナンバーでしたが、セミラミス独特の神秘的な旋律も散りばめられていて、アルバムの世界観ともしっかり繋がっているように感じられました。
マウリツィオ・ザリッロという中心メンバーを失った直後でしたが、それを感じさせない熱気溢れる素晴らしいステージを見せてくれたと思います。
新曲も披露してくれたので、ここはぜひ半世紀越しの新作も期待したいところ!
2日目の第1部で観客を熱狂させたのが、RRR(ラッコマンダータ・リチェヴータ・リトルノ)です。
オリジナル・メンバーは6人中2人ですが、ヴォーカリストにしてステージパフォーマー、ルチアーノ・レゴーリの存在感に終始圧倒されたステージでした。
メインとなるのは、72年リリースの1作目『PER…UN MONDO DI CRISTALLO』の全曲演奏。
バロック音楽そのものの荘厳なオルガン独奏に続き、アコギとフルートが枯れた哀愁を滲ませる導入部。
そこにいきなり嵐のように吹き荒れるヘヴィ・アンサンブルがなだれ込んでくるオリジナル同様のスタートに期待が高まります。
不穏な反復リズムとミステリアスに響くアコギをバックにいよいよ歌い始めるルチアーノ。
アルバムでも印象的なルチアーノによる張りのあるハイトーン・ヴォーカルが健在かが気になるところでしたが、
第一声を聴いた時点でその心配がまったくもって杞憂だったことを思い知ります。
白い軍服風をコスチュームを纏い右目周辺に眼帯のような黒いフェイスペイントを施したルチアーノは、少しオペラがかったような厳かな歌唱とイアン・ギランっぽく絞り出す強烈なシャウトを駆使し、声を目いっぱい張り上げてシアトリカルに歌い上げます。
ヴォーカルの放つエネルギーはむしろ往年よりパワーアップしているくらいで、フロントマンとしての存在感はとにかく圧巻の一言!
ある種のカリスマ性すら感じさせるパフォーマンスに片時も目が離せません。
彼らも「静」と「動」を劇的に対比させて構築的に聴かせるセミラミスと似た作風ですが、ヴォーカルがハード・ロックをルーツに持つシンガーのため、カンタゥトーレ的な正統派イタリアン・ロック・ヴォーカルだったセミラミスとは全く違う印象を与えます。
と思うと一転してフォークタッチのリリカルで牧歌的なパートでは、ケレン味のない伸びやかな歌声を披露。狂気すら見え隠れしたさっきまでの彼とは別人のよう。多彩な表現力を駆使した振れ幅の大きいパフォーマンスで、シアトリカル・ヴォーカルの真髄を味わわせてくれます。
生で聴いていて気づいたのが、ジャズの要素も意外と多く散りばめられている点。アコギ&リリカルなフルートを中心とするフォーキーなパートと、エレキギター&激しいフルートが疾走するハード・ロックなパートをメインとしつつも、本格的なジャズの素養を持つドラムとフルート奏者が操るサックス、若手メンバー2人が牽引するジャジーなエッセンスが加わることにより、演奏に豊かな表情を生んでいるように感じました。
人物を描いた西洋絵画が次々とスライド投影されていき、ステージをアーティスティックに彩っていたのも印象的でした。
怪しくも美しい、どこか謎めいた魅力を放出するアルバムの内容を見事に再現してくれました。というか再現を越えてかなりグレードアップしていましたね!
アルバム全曲演奏のあとは、2010年作2nd『IL PITTORE VOLANTE』からの曲も演奏してくれましたよ。
ルチアーノはここでは顔の右半分を覆う仮面を付けて登場。
「Il Cambiamento」を筆頭に、1stよりもぐっとハード・ロック色を強めたサウンドで、今度はロバート・プラントばりのコシのあるシャウト・ヴォーカルが炸裂。
マイクスタンドを振り回しながら歌う姿もハード・ロック・シンガー然としていてお見事です。
そしたら最後はまさかのレッド・ツェッペリン「Baby I’m Gonna Leave You」のカバーで仰天!
ヴォーカルに相当な実力が要求されるナンバーだと思いますが、その点ルチアーノは問題なし。
プラントのオリジナルを踏襲するエモーショナルなシャウト・ヴォーカルが次々と決まって会場も大興奮。
いや~、ルチアーノ・レゴーリがこんなにもカリスマ性みなぎるシンガーだったとは…。
当時これだけのパフォーマンスを披露していたら、オザンナ並みの大物になってたんじゃないかなと思ってしまう圧倒的なステージでした。
これは次回作にも期待大です!
そして2日間にわたって第2部メイン・アクトを務めたのがデリリウムです。
1日目は2ndアルバム『LO SCEMO E IL VILLAGGIO』の全曲演奏、2日目は3rdアルバム『DELIRIUM III』の全曲演奏、その他1stや最新15年作からのナンバーも披露。
何と言っても目を引くのが、サラサラの真っ白な髪をなびかせる黄金期メンバーのフルート/サックス奏者マーティン・グライス!イアン・アンダーソンばりの激しいトーキング・フルート(?)、デヴィッド・ジャクソンに匹敵する重量感のあるブロウで荒々しく吹き鳴らすテナーサックスをメインに、ギターとともに演奏をリードします。サックスを首から提げた状態でフルートを構える姿がカッコよすぎ!
ラ・マスケラ・ディ・セラで活躍するヴォーカリスト、アレッサンドロ・コルヴァーリャも彼に負けない存在感を放っていて、まるでオリジナル・メンバーのようにフロントで堂々たるヴォーカルを披露します。実にイタリアン・プログレらしいダミ声が独特の邪悪さを醸し出すヴォーカルスタイルは、RRRのルチアーノとはまた一味違う魅力を持っていて痺れたなぁ~。乱れた白髪ロングヘアとあまり血色の良くない顔色(ライトの加減かもですが)などやや不健康そうな見た目もロック・ミュージシャン然とした感じで(?)こっちもカッコいい!
圧巻だったのは2日目『DELIRIUM III』の全曲演奏。フルート、ソプラノサックス、テナーサックス、バリトンサックスをステージ上に並べ、次々と持ち替えながらプレイするマーティンが凄すぎました。特にバリトンサックスは見せ場の一つで、床に固定した状態で抱えるようにして吹いていたのですが、地面に響くような豊かな低音にステージから比較的離れた席だったにもかかわらずゾクゾク~ときました。バリサクを聴いたのは昔姉の吹奏楽コンクールを見に行って以来、ソロで聴いたのは初めてだったのですが、見た目も音も凄い存在感でした~。
若手メンバーではミケーレ・クザートのギターが特に素晴らしく、各所でたっぷりフィーチャーされたソロでは抜群のテクニックと表現力でマーティンのフルート&サックスとスリリングかつ熱く渡り合います。マーティンのサックスとのコミカルな掛け合いやソロバトルなど聞き所も満載で楽しかった~。
両日で披露したハイライトの一つ、印象的なサビのフレーズが頭から離れない「Theme One」も大変盛り上がったナンバー。
ジャジーで滑らかなサックスソロからクラシカルなキーボードソロを経て、いよいよサックスがリードする堂々たるテーマが立ち上がってきます。
ちょっとソフト・マシーンも彷彿させる渋カッコいいフレーズに痺れましたー!
1st収録の「MOVIMENTO I」もオリジナル以上にスリリングに仕立ててあって、ここではふた股にした豊かな顎髭がチャーミングなオリジナル・キーボーディストのエットレ・ヴィーゴが活躍。観客の手拍子に乗ってジャジーに舞うピアノが絶好調でした~。
ライヴの定番らしい「E L’ORA」では、サライのように両手を左右に振りながら観客も一緒に大合唱。この一体感、ライヴの醍醐味ですね。思い出すだけで至福…。
いやはや観客を巻き込んで楽しませるエンターテイメント性という部分では抜きん出たパフォーマンスを見せてくれたデリリウム。
さすが再結成後23年の活動歴を誇るバンド、ライヴの盛り上げ方もバッチリ心得ている印象を受けました。
2日間観ましたが、何度も見たいと思わせる素晴らしいステージでしたねっ!
実際、PFMやアレアあたりと違って3バンドともイタリアン・ロックをある程度聴いているリスナーでなければなかなか辿り着かないバンドだと思うのですが、彼らを知る人ぞ知るバンドにしておくのはあまりに勿体無い!と、そのことを強く実感した大変いいライヴでした!
全員が10代という5人組で73年に残されたデビュー作『Dedicato A Frazz』で知られるイタリアン・プログレの人気バンド。半世紀以上を経て届けられた2024年2ndアルバム!オリジナル・ドラマーPaolo Faenzaを中心に再編されたメンバー構成ですが、その内容は1st譲りの緊張感みなぎるヘヴィ・シンフォと、地中海を感じる伸びやかでメロディアスな音楽性が見事にミックスされた、これぞイタリアン・ロック!と言うべき堪らないサウンド。Paoloと17年ライヴ作の時点でメンバーだったベーシストIvo Miletoによる、どっしりダイナミックに刻むリズム・セクションを土台として、ヘヴィに荒ぶるギターと邪悪な響きのオルガンが時にユニゾンしながら疾走し、ピアノやシンセが妖しく煌めき、ヴォーカルが抜群の表現力で歌い上げます。アコースティック・ギターも重厚なアンサンブルに瑞々しさを加えており特筆。ヴォーカルの声質も文句なしで、イタリアン・ヘヴィ・シンフォ然とした緊張感を伴った歌い回しがまた絶品です。オリジナル・メンバーのPaolo以上に、若手メンバー達がしっかりとSEMIRAMISらしさを生み出していて感動させられます。唯一作が愛聴盤という方のみならず、すべてのイタリアン・ロック・ファンに聴いて欲しい快作に仕上がっています!カケレコメンド!
リリース当時、全曲の作曲を手がけているMichele Zarrilloは若干15歳であり、他メンバーも全員10代であったと言うイタリアのへヴィー・シンフォニック・ロックグループの73年唯一作。変革する社会に対応できなくなったひとりの人間をコンセプトに掲げたトータル・アルバムとなっており、バタバタと暴れるリズム・セクションに荒々しいギター・ワーク、そしてクラシカルなアンサンブルを聴かせるキーボードがイタリアらしい熱気を伝えます。強引に引っ張り変化する展開や多少荒削りで垢抜けない雰囲気は感じるものの、当時の彼らの年齢を考えれば若々しいエネルギーが暴走するサウンドは非常に魅力的なものであり、起伏に富んだスリリングな作品と見ることが出来るでしょう。
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