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スタッフ佐藤の、コレ好きなんですよ。第二十五回 ダニー・カーワン『セカンド・チャプター』

本連載では随分のご無沙汰となります、カケレコ・スタッフ佐藤です。

「スタッフ佐藤の、コレ好きなんですよ。」は、一般的にはあまり注目を集めることのない作品ながら「実は良い作品なんだけどなぁ、もっと聴かれてほしいなぁ。」とスタッフ佐藤が日頃から感じている、愛して止まない作品たちを取り上げてご紹介していこうというコーナー。

今回取り上げたいのは、ダニー・カーワンの『セカンド・チャプター』です。

以前、栄光と転落を経験したロック・ミュージシャンとしてピーター・フランプトンを取り上げたことがありました。

フランプトン氏はそんな苦節を経ながらも現在でも元気に活動しているのですが、今回ご紹介するダニー・カーワンは、精神に不調を来たしたことで80年頃に活動を休止して以降、遂に再浮上することなく音楽シーンからドロップアウトしてしまったミュージシャンです。



彼の名を世に知らしめたのがご存知フリートウッド・マックとしての活動。マックと言えばスティーヴィー・ニックスやリンジー・バッキンガムが中心となった70年代中期からのポップ・ロック時代が最も親しまれていると思いますが、聴いていてうおーーっと思わず拳を握ってしまうようなカッコいいブルース・ロックを演っていた初期マックがスタッフ佐藤は一番好きだったりします。

特に「レジェンド」ピーター・グリーンを筆頭に3人のギタリストが在籍した68年~70年ごろのマックは、シカゴに赴きオーティス・スパンやウィリー・ディクソンら本場のブルースマンたちとのセッションを経験するなど、ブルース・ロック・バンドとして最も成熟したサウンドを聴かせていました。

そんなトリプル・ギタリストの一角を弱冠18歳で担ったのが、グリーン本人よりマックへの参加を打診されたダニー・カーワンです。

若くしてギターの腕前はグリーンにも匹敵するものだったと云われる彼。ブロンドヘアと美青年と言っていい端正な顔立ちは、ややむさ苦しいバンドメンバーたちの中では一際目を引くものだったのではないでしょうか。

その上、69年以降はアルバムの半数近くの作曲を手がけるようになるなど、コンポーザーとしての才覚も徐々に発揮されていきます。フォーク・タッチも交えたブリティッシュ・ロック然とした哀愁と叙情を漂わせる彼の曲は、当時続々と登場していた数多のブリティッシュ・ブルース・ロック・バンドとは一味違う魅力を放つことに一役買っていたのは間違いないと思います。

まさに演奏技術・作曲能力・ルックスの良さと三拍子そろったロックスターになれるポテンシャルを十分に秘めたミュージシャンだったと言えるでしょう。



しかし、70年代に入るとグリーンと第二のギタリストだったジェレミー・スペンサーが相次いで脱退、これまで先輩ギタリストたちの背中を見ながら実力を伸ばしてきたカーワンは、突如としてフロントマンを任されることになります。

当時21歳、後の全盛期ほどではないにしろ英国でも有数の人気バンドになりつつあったマックの舵取りを担うことへのプレッシャーは、彼を酒やドラッグへと誘うことになりました。

それも災いしてか、新たに加入したギタリスト/コンポーザーのボブ・ウェルチとの衝突や、リーダーのミック・フリートウッドに対する不遜な言動などが原因となって、73年、ついに彼はバンドを解雇されてしまいます。

そんなマックからの別離より2年を経た75年に彼がリリースしたのが、今回ご紹介する『セカンド・チャプター』。「第2章」を意味するタイトルをこの1stソロに付けたのは、マックというバンドとの決別を象徴するものだと捉えていいでしょう。

その中身ですが、ロック/フォーク/トラッド/カントリーなど多彩な曲調を配した中にも英国的な気品を漂わせる作風が何より印象的。自身のギタープレイを含め派手な音はほとんど登場しないのですが、決してバリバリとは主張しない演奏とやや線の細めな歌声がかえっていい味を出している、手作り感満載の本当に愛すべきブリティッシュ・ロックの逸品に仕上がっているんです。

どの曲も素晴らしいのですが、個人的にオープニングからの3曲の流れがたまらなく好きです。

1.Ram Jam City

カントリー・タッチの賑々しいサウンドを聴かせるオープニングナンバー。曲調はカラッと明るいのですが、彼が歌いだすとどこか哀愁のようなものが滲み出てくる気がします。

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2.odds and ends

オリジナル・バージョンがなかったので、初期テイクの動画でお聴きください。転がるような軽快なピアノが印象的な愛らしい小曲ですよね。凝ったことは全然していないのですが、それゆえに曲の素朴な良さが伝わってくるんですよね。

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3.Hot Summer Days

英国然とした哀感が漂うロマンティックなバラードナンバー。サビでは優雅なストリングスが寄り添いますが、あくまでホームメイドな手触りに仕上がっているのが彼らしいところ。短いながらも温かみあるギターソロがとても味わい深いです。

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本作ののち、70年代のあいだに2枚のアルバムを発表したカーワンですが、80年ごろに精神を病んでしまったことで活動休止状態に陥ってしまいます。そしてそれ以後、今もって彼が音楽シーンに姿を見せたことはありません。

悲しいことに、90年代初頭、彼の姿がロンドンのホームレス救護所にあったことが報じられたのは有名な話です。

将来を有望視された才気みなぎるギタリストが一転して孤独の淵へ。ここにもロック・ミュージシャンの一つの栄光と転落を見ることが出来るのかもしれません。


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