2016年9月9日 | カテゴリー:リスナー寄稿記事,世界のロック探求ナビ
タグ: プログレ
寄稿:ike333さん
名盤といわれるものは何度もリマスターされて高音質なCD(紙ジャケ、SACD、HDCD、SHM-CD、Blu-rayなどなど)として発売されています。そうしたなか、私は、プログレの超名盤であるYesの『Close to the edge』紙ジャケ(SHM-CD)盤を聴いていて、ふと、本当にこれが高音質なのだろうかと思うようになりました。聴いていて何故かとても違和感があるのです。そこで、一日かけて、手持ちの『Close to the edge』のレコード、CDを片端から聴き比べることとしました。そして、どれが聴いて心地よいか、最もYesのオリジナルに近いと感じるCDはどれかを検討してみました。
聴き比べた音源は下記のレコード6枚、CD6枚です。
CDは、リマスターを行った人も記します。
1 UK盤 ATLANTIC K50012 マトリックスA1/B1 (1972) |
2 UK盤 ATLANTIC K50012 マトリックスA3/B3 (1972) |
3 US盤 ATLANTIC SD7244 マトリックス 19A/20A (1972) |
4 US盤 ATLANTIC SD7244 マトリックス 19B/20B (1972) |
5 JP盤 ワーナー・パイオニアP-8274A (1972) |
6 JP盤 ワーナー・パイオニア P-6526A ‘1978) (10周年記念盤) |
7 JP盤 ワーナー・パイオニア 20P2-2053 (1988) | Barry Diament (Atlantic Studios) |
8 JP盤 east west Japan AMCY-2732 (1998) (HDCD) | 記載なし |
9 US盤 Rhino R2 73790 (2003) | Dan Hersch & Bill Inglot (Digprep) |
10 JP盤 ワーナー・パイオニア WPCR-13516 (2009) (SHM-CD) | Isao Kikuchi |
11 US盤 Audio Fidelity AFZ 147 (2012)(SACD) | Steve Hoffman (Stephen Marsh Mastering) |
12 US盤 Panegyric GYRBD50012 (2013) (CD/Blu-ray) | Steve Wilson(Porcupine Tree):mix / Neil Wilkins:flat master transfer |
(注)10のリマスターは9のRhino盤を音源にさらにリマスターしたもの。10の紙ジャケ限定盤でないプラケース通常盤はWPCR-75495。
順番にレコードを聴き比べる(ピュアコンポーネントを使用)と、同じマスターテープ、同じ型番でも大分印象が違います。英国盤と米国盤、日本盤の違いですが:日本盤は、どうも低音が若干ブーミーな印象かつ高音が強く、また、Bill Brufordのスネアの音などがシャキッとせず微妙にピントが合わない感じがします。
米国盤3はAtlantic社Presswell Records工場製の極初期盤ですがChris Squireのベースが明確にブリブリ鳴り、全体的に、ラウドな印象、4同社Specialty records工場製の極初期盤はもう少し大人しめ、そして英国盤は極初期盤である1が後発原版を用いた2よりも音圧が圧倒的に高く、しかもBrufordのスネアの音もSquireのリッケンバッカーも締まっていて、きれいに鳴ると感じられます。
レコードはカッティングのときのディレクターやエンジニアのセンスや考え方によって音が変化するのだそうですが、日本盤のいわゆるドンシャリ傾向はディレクターの意向だそうです。これをどう解釈するかですが、日本は家が狭いし小さいコンポで聴くからドンシャリで中央定位?なのかなあと思いました。一方、米国は広い家で聴くからステレオ感も強い?、英国は伝統的に丁寧なつくり?と考えればよいのでしょうか。
さて、CDの違いを聴いていくにあたり、英国盤レコードと米国盤レコードのどちらを基本と考えるか、Atlantic社は米国の会社で、Yesは英国のバンドであるため悩ましいところですが、やはり英国盤の極初期版の音の繊細さと音圧の同時達成された素晴らしさが耳を惹きますので、これをオリジナルと考えるべきとしました。
さて、CDの比較です。CDのデータをPCに取り込んで、音の解析ソフトを用いて音の信号電圧の変化を比較してみました。
図は、アルバム1曲目のClose to the edgeの導入部分(効果音から演奏開始する部分)です。オリジナル・レコード1は効果音部分でリニアに音の信号電圧が高まります。これに比して、8日本盤 (1998 HDCD)、9US RHINO盤 (2003)、10日本盤 (2009 SHM-CD)は効果音部分ですでにコブのようなところがみられ、オリジナルとは異なっているように見えます。
現に、CDを聴けば分かりますが、これら3枚のアルバムはラウドで高音・低音が強く感じられます。また、周波数成分も比較してみましたが、CDはいずれも程度の差はあるものの高音部分がレコードよりは強調されているのが確認できました(低音成分は低周波を発するレコードのターンテーブルの影響で比較しにくい。)。「Siberian Khatru」の冒頭部分も周波数成分比較などしましたが、結論としては、「危機」冒頭と似たようなものでした。
次に、実際に聴いての感覚で比較(※素人ですし、耳が良いわけではありませんので、あくまでも印象です。またSACDやBlu-rayのプレイヤーはないので、通常のCDとして比較しています。ピュアコンポーネントを使用。)をしてみます。
7日本盤(1988)は、まだCDが市場に出て数年以内の製品であるためデジタル化・リマスター技術が発展途上にあった時代の盤です。素直な音の感じもしますが、音圧も控えめで、まあこんなものかなという印象。
8日本盤 (1998 HDCD)は、(米国盤レコード3の様な低音を含めて)聴きやすい程度のドンシャリが感じられ、Yesの各メンバーのバトルが感じられる迫力も伝わってきます。
9US RHINO盤 (2003)はシャープでラウドな印象です。
10日本盤 (2009 SHM-CD)は、ドンシャリ度、ラウドさが強すぎで、音が耳に刺さってきます。
11US Audio Fidelity盤 (2012 SACD)盤は、音圧が控えめですが、繊細さとそれなりの勢いがあり、かつ暖かい印象。
12 US盤 (2013 CD/Blu-ray)は、音圧が控えめであるものの各楽器やボーカルの分離度が高く、1のレコードで聴こえていなかったものまで聴こえ、何度も危機を聴いてきた耳には新鮮に感じられる、素晴らしいミックスだと思いました。
レコードの持つ迫力を追求すると8日本盤 (1998 HDCD)もよいようにも思われますが、11US Audio Fidelity盤 (2012 SACD)、12 US盤 (2013 CD/Blu-ray)と比較すると音に少しざらっとした感じ(要するにマスター音源に起因するのか音質が少し劣る)があるように思え、英国盤1の持つきれいさ(繊細さ)を追求すると11US Audio Fidelity盤 (2012 SACD)、12 US盤 (2013 CD/Blu-ray)が勝ります。
私は、「Close to the edge」のクライマックスであるPart4(Seasons of man)のバトルが特に好き(ファンは皆ここが好き?)なのですが、ここでのBill Brufordの活躍ぶりを比較するとスネアの音はどちらもスコンと鳴っていて心地よい一方、12 US盤 (2013 CD/Blu-ray)では11US Audio Fidelity盤 (2012 SACD)に比して、キックの迫力がSquireのベースの迫力の奥に引っ込んでいるところが気になりました。
以上から、1英国盤レコードマト1にどれが近いかというと、いずれも特徴が異なり(はっきり言ってどれも違う。)難しい判断になってしまいました。強いて私の好みを言えばマト1にそこそこ近いと思えるものとして、きれいさの点で11US Audio Fidelity盤 (2012 SACD)かなと思いました。なお、ジャケットは10 日本盤 (2009 SHM-CD)が紙質までオリジナルに似せて作られていますので、これに11US Audio Fidelity盤 (2012 SACD)を入れてしまうのが一番近くなるということでしょうか。
ところで、これをミニコンポ、小型モニタースピーカーで鳴らしてみますと、各CDについて、音圧とドンシャリ度以外は、あまり顕著な違いが出てきません。おそらく11US Audio Fidelity盤 (2012 SACD)や12 US盤 (2013 CD/Blu-ray)は音圧控えめのため、Yesに期待する迫力あるバトルの点で9 US RHINO盤 (2003)や8日本盤 (1998 HDCD)に劣ると感じられるかもしれません。
さらに、iPodに非可逆圧縮した音源を入れてiPod附属イヤホンで聴くと10 日本盤 (2009 SHM-CD)が一番迫力ありかつきれいに聴こえる印象がありました。
何度もリマスターされるアルバムのCDは、その都度、音が良いなどといろいろと評価されますが、どのような環境でどのような聴き方をするか、どのようなことを期待するかで大分異なるもの(必ずしも評価の高いものが自分に合うものではなく、意外と旧規格がよかったりする。)であることを改めて感じました。
図 「危機」の冒頭部分の音量変化 (縦軸:出力音の電圧、横軸:時間)
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