2016年5月26日 | カテゴリー:ユーロ・ロック周遊日記
タグ: プログレ
ゴブリンが76年にリリースした2nd『ローラー』をピックアップいたしましょう。
ゴブリンと言えば、ダリオ・アルジェント監督のホラー映画『サスペリア』をはじめとするサウンド・トラックで有名で、数多くのサントラ作品があって、「何から聴けば良いのか分からない」「サントラは苦手」など、これまで聴かず嫌いだったプログレ・ファンも居るでしょう。
そんなリスナーにまずオススメの作品が76年作の『ローラー』。70年代にサントラではない作品を2枚リリースしているのですが、それが『ローラー』と78年作の『マークの幻想の旅』なのです。70年代の活動を整理いたしましょう。
<1> 75年作『サスペリア2~赤い深淵』 – サントラ
<2> 77年作『ローラー』
<3> 77年作『サスペリア』 – サントラ
<4> 78年作『マークの幻想の旅』 – 唯一のヴォーカル作品
<5> 78年作『ゾンビ』 – サントラ
1stなのに『サスペリア 2』で、その2年後の3rdが『サスペリア』!実にややこしいですね。日本では映画『サスペリア』が本国イタリアとほぼ同時に上映されてヒットし、そのサントラの3rdがまずリリースされ、『サスペリア』のヒットを受けて『サスペリア2』として『赤い深淵』が上映されたため、本国でのリリース順と日本でのリリース順が異なってしまっているわけです。
そんなサントラ2枚の間にリリースされた作品が『ローラー』で、サントラでは表現できない、ロック・バンドとしてのダイナミズムと叙情性がつまったプログレッシヴ・ロック作品に仕上がっているのが特徴です。というのも、そもそも彼らはサントラのために結成されたわけではないんですよね。
ゴブリンの起源は、クラウディオ・シモネッティ(Key)とマッシモ・モランテ(G)が72年に結成したバンド、オリヴァーなのですが、友人のツテで、イエスやEL&Pやジェントル・ジャイアントを手がけた大物プロデューサーのEddie Offordとコンタクトを取ることに成功し、なんと渡英を果たします。ロンドンを中心に精力的に活動したものの、肝心のEdiie Offordがイエスのツアーで多忙を極め、レコーディングの見通しがたたなくなり、イタリアへの帰国を余儀なくされてしまいます。
イタリアに戻った彼らは、元ルウォヴォ・ディ・コロンボのヴォーカルを迎えてチェリー・ファイヴと改名。アルバムを録音したものの、レーベルが見つからなかったのか、リリースされずお蔵入りとなってしまいました。なお、その音源は、ゴブリンとしてのヒットを受けて、76年にリリースされます。
チェリー・ファイヴの音源を聴くと、ブリティッシュ・プログレからの影響、特にイエスからの影響が色濃くて、サントラでの音との乖離に驚きます。彼らのミュージシャンとしての原点には「英国プログレ」があり、サントラでは出しきれない「プログレッシヴ・ロック・バンド」としての自負が詰まった作品が『ローラー』と言えるでしょう。
そんな「プログレッシヴ・ロック」な楽曲の中でも特にプログレ・ファンに人気の高い曲がオープニングを飾るタイトル・トラックの「ローラー」と5曲目のバンド名を冠した「ゴブリン」。
1曲目「ローラー」を聴いてまず驚くのはリズム・セクションの切れ味。まるで叩きつけるような重くエッジの効いたトーンでダイナミックに動きまわるベースの存在感がまず凄い。そして、初期クリムゾンでのマイケル・ジャイルスやP.F.M.のフランツ・ディ・チョッチョにも比肩しうるシャープかつふくよかなドラミング。本作から、ジャズ~フュージョン・ロックの名バンドETNAで活躍したドラマーAgostino Marangoloが参加しているんですが、彼の貢献度は高く、アンサンブルのキレが格段に増した印象です。イタリアン・ロック・バンドには素晴らしいリズム隊がたくさん居ますが、その中でも屈指と言えるコンビと言えるでしょう。
そんな屈強なリズム隊の上で繰り広げられるイタリアらしい荘厳なアンサンブルもまた出色。サントラで培ったキーボードのミニマルなフレーズが醸す緊張感、まるでバロック建築の教会が眼前に迫ってくるように鳴り響くハモンド・オルガンによる荘厳さ、そして、エモーションがはちきれんばかりのチョーキングに痺れるイタリアらしい先鋭的なエレクトリック・ギターによるダイナミズム。「英国プログレ」を完璧に咀嚼し、イタリアならではの壮大なシンフォニック・ハード・ロックへと見事に昇華しています。5分弱の中にドラマが詰まった文句なしの名曲です。
そしてもう一つの人気曲がバンド名を冠した「ゴブリン」。11分を超える大作であり、ゴブリンのプログレッシヴ・ロック・バンドとしての名刺代わりと言える代表曲です。マイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」を彷彿させる静謐かつ緊張感に満ちたミニマル・フレーズで幕を開け、キング・クリムゾンの「エピタフ」を思わせるアコギのアルペジオに導かれ、少しずつ増していく叙情。そして、そんな叙情を増幅するかのように高らかに鳴り響くムーグ・シンセによる印象的なテーマのメロディ!「緊張」と「叙情」とがメンバーの卓越したテクニックとバンドとしての構成力によりこれでも増幅され、聴き手を飲み込む、まさに「圧巻」といえるイントロと言えるでしょう。
エモーションを解き放ったかのように直情的な早弾きフレーズで畳み掛けるギター・ソロ・パート、ハモンド・オルガンが鳴り響きつつも音が澄み渡るような、そんな宗教的な厳格さを感じさせるパート、エレピが敷き詰められるイマジネーション豊かなパートなど、「静」と「動」の対比鮮やかに進んでいき、ダイナミズム溢れる後半へと曲は突入していきます。ファンキーなクラヴィネット、ギターの高速カッティング、圧倒的な手数のシャープ極まるドラムによるテクニカルなフュージョン・ロック・アンサンブルで畳み掛け、これでもかと聴き手に迫り来た後、再び高らかに鳴り響くムーグ・シンセによるテーマのメロディ!イントロからフィナーレまで、どこを切り取ってもゴブリンというバンドならではの魅力が詰まった文句なしの名曲です。
バンドのブレインのKey奏者クラウディオ・シモネッティは、著名な映像作曲家エンリコ・シモネッティを父に持ち、幼少期からクラシック等の英才教育を受けたサラブレットですが、そんな彼の血と、英国での武者修行で身につけたロック・バンドとしての野性味、悠久の歴史を持つイタリアという地から沸き立つエネルギー、そして、メンバーの圧倒的なテクニックが結びついた、まさに彼らでしか生み出し得ない「プログレッシヴ・ロック」を記録した孤高の傑作です。
ゴブリンの記念すべきデビュー・アルバムと75年作で、ダリオ・アルジェント監督の映画『赤い深淵 サルペリア2』のサウンドトラック。オープニングを飾るタイトル・トラックは、同時期にヒットしていたマイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」を彷彿させるミニマルなキーボード・フレーズを軸に、イタリアらしいそそり立つように荘厳なハモンド・オルガンとシャープなドラムが冴え渡る代表曲。イタリアのヒット・チャートで52週間に渡りチャート・インを続け、イタリアだけで300万枚を売り上げた名作。
イタリアン・シンフォニック・ロックの代表格バンドの76年2nd。デビュー作「Profondo Rosso」での成功を足がかりにした、いわゆる「サントラではない」Goblinのオリジナルアルバムデビュー作である本作は、彼らが恐怖映画のサントラの枠にとらわれずに普遍的なロックの名盤を作り上げた、奇跡の1枚です。前作からドラマーが交代、キーボーディストの新加入、とマイナーチェンジを行い、Goblinの歴史上最強のラインナップで作り上げられた作品ですが、もちろんGoblin節とも言える緊張感溢れるバンドサウンドと恐怖のメロディーラインは健在であり、イタリアンロックの名盤ということが出来るでしょう。
イタリアン・シンフォニック・ロックの代表格バンドの78年4th。それまでインスト路線を貫いてきたわけですが、本作では初めてボーカルナンバーも配置され、およそGoblinのイメージとは遠い、とてもファンタジックなコンセプトアルバムとなっています。「Goblin=サスペリア」、「Goblin=サントラ」というのはもはや常識なわけですが、数は少ないながらサントラではない、いわゆる「オリジナルアルバム」も残しており、その貴重な1枚が本作と言うわけです。ビシバシにキメるリズム隊、そして、恐怖ではなく優美なファンタジーを描かせても超一流の表現が出来てしまう、引き出しが多すぎるClaudio Simonettiのキーボードがやはり圧巻。ボーカルを取り入れたことに対する賛否両論は、それだけバンドとしてのまとまりに隙が無いことの、なによりの証です。テクニカルさを駆使したシンフォニックロックとして最高の出来であり、Goblinの新たな一面を垣間見ることの出来る名盤。
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