カンタベリー・ロックの最高峰HATFIELD & THE NORTHの2nd『ROTTERS CLUB』と、フランスより登場した新鋭ジャズ・ロック・グループL’OEIL DU SOURDの09年デビュー作『UN?』をご紹介いたします。
プログレ全盛期の70年代初頭は、イギリスを中心に独自のスタイルを持ったプログレ・バンドが多く生まれた時期でした。
そんな中で、イギリスはカンタベリー出身のミュージシャンを中心として生じたのが、カンタベリー・ロックと総称される一派です。その音楽性はエレピやオルガンを中心に据えた流麗かつ繊細そして洒脱さに溢れた、他のどのブリティッシュ・プログレとも異なる芳醇な味わいを持つジャズ・ロック。
カンタベリー・ロックは64年に結成されたWILDE FLOWERSというバンドを源流に持ちます。ROBERT WAYATT、DAVID ALLEN、BRIANとHUGHのHOPPER兄弟、KEVIN AYERS、RICHARD SINCLAIR、DAVE SINCLAIR、PYE HASTINGS、RICHARD COUGHLANなど、のちにそれぞれSOFT MACHINE、CARAVANのメンバーとなる人物たちで構成されたバンドで、その両バンドを中心として共通の音楽性を持つバンドたちが思い思いの活動を展開し、カンタベリー・ロックの人脈が築かれていきました。
今回取り上げるHATFIELD&THE NORTHは、KHANやEGGなどのグループで才気みなぎるプレイを披露していたキーボード奏者DAVE STEWART、MATCHNG MOLEのギタリストPHIL MILLER、GONG出身の名ドラマーPIP PYLE、そしてカンタベリーの顔とも言えるバンドCARAVANでベース/ヴォーカルを務めたRICHARD SINCLAIRらによって結成された、カンタベリー・ロック界のスーパー・バンドと言うべきグループです。
75年発表の第2作「ROTTERS CLUB」は、躍動感とクールさがバランスしたリズム隊にオルガン、エレピ、シンセを使い分けファンタスティックな情景を描き出すキーボード、ジャジーな敏捷性に富むギター、そして気品溢れる英国紳士を思わせるヴォーカルらが、これ以上ないという絶妙な呼吸で繰り広げる温かみに溢れたジャズ・ロックの大名作。
英国らしいユーモアや遊び心も満載で、まさにカンタベリー・ロックの粋を集めたサウンドと言えます。ではそのあたりがよくわかるこの2曲をお聴きいただきましょう。
ジャズ・ロックと言うにはあまりにもしなやかで人懐っこい演奏とメロディ。それでいて淡々としたクールな表情やテクニカルなソロの応酬もバッチリ決まっていて、渦を巻くように聴き手をその魅力へと引きこむ。これぞカンタベリー・ロックの真髄ですよね。数あるカンタベリー・ロック作品の中でもNO.1に挙げられることが多いのも納得の、カンタベリー・ロックらしさ溢れる一枚です。
とは言え、他にもALAN GOWEN率いるGILGAMESH、HATFIELD解散後にそのほとんどのメンバーが参加したNATIONAL HEALTHなどHATFIELDと比較してもいずれ劣らぬ実力を持ったグループがカンタベリー・シーンにはひしめいており、どのバンドから聴いてもカンタベリー・サウンドの魅力にずぶずぶとはまり込んでいくこと間違いなしの名盤揃い。
つくづくカンタベリー・シーンのミュージシャンたちの才能の豊かさには唸らずにはいられません。
さて、英国ならではのサウンドというイメージが強いカンタベリー・ロックですが、ユーロロック圏にはこのカンタベリー・ロックからの影響を受けたプログレ・バンドが意外にも数多く存在します。
今回はその中からフランスの新鋭ジャズ・ロック・バンドL’OEIL DU SOURDによる09年のデビュー作『UN?』を取り上げましょう。まずはこちらの2曲をどうぞ。
KING CRIMSON的な重みのあるトーンにGONGを思わせるハイテンションなアンサンブル、吹き荒れるサックス、そしてフランスのバンドらしい耽美な響きを持つヴァイオリンなど実に様々な要素が混在していますが、そんな中にあっても、しなやかに緩急を操るリズム隊やエレピの揺らめくような音色など、音の端々にカンタベリー・ロックからの影響を感じさせます。
特に2曲目のほうは、実際にカンタベリーのバンドがやっていてもおかしくないような瑞々しさと英国的情緒を感じさせる一曲。逆にユーロロック特有のエキゾチックな色合いが何ともいい味付けになっており、フランス版カンタベリー・ロックという聴き方をしても十分に楽しめるように思います。ここまで完成度が高いと、この路線に特化した作品を聴いてみたい気もしますよね。
今回はカンタベリー・ロックをテーマにお送りしてまいりましたが、いかがだったでしょうか。現代に至ってもなお留まることなく世界中に拡散していくカンタベリーの精神。今後もあっと驚くような国から、あっと驚くようなカンタベリーな傑作が生まれるかもしれませんね!
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