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LOCANDA DELLE FATE 『Force Le Lucciole Non Si Amano Piu 妖精』 – ユーロ・ロック周遊日記 –

音楽シーンが壮大なプログレッシヴ・ロックから初期衝動的なパンク/ニューウェイブへと移り変わっていく70年代後半に残された、栄光のイタリアン・シンフォニック・ロックの最後の輝きと言える作品が、LOCANDA DELLE FATEが77年に残した唯一のアルバム『Force Le Lucciole Non Si Amano Piu 妖精』。

バンドの出身は、イタリア共和国北西部に位置し、アルプス山脈南西麓に広がるピエモンテ州の都市アスティ。彼らのサウンドの特徴である、透明感あるリリシズムや緻密さや気品は、彼らがアスティ出身ということも関係しているでしょう。ジャケットからして、情熱のイタリアン・ロックのイメージとは異なるクリアで幻想的なイメージですが、きっとアスティの歴史が育んだ風土がその音の中に息づいているはずです。

バンドの起源は、何とR&Bグループ。解散したR&Bグループのメンバーだった3人、Oscar Mazzoglio(Key)、Luciano Boero(B)、Giorgio Gardino(Dr)のトリオ編成でスタートしました。

Oscar Mazzoglio(Key)
Luciano Boero(B)
Giorgio Gardino(Dr)

当時のレパートリーは、何と英米で人気だったハード・ロックやブラス・ロック。レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、ブラック・サバスをはじめ、ブラッド・スウェット&ティアーズやシカゴなどをカヴァーしていたようです。このバンドの魅力として切れ味鋭いリズム・セクションが挙げられますが、BS&Tやシカゴで印象的なR&B~ジャズ由来のシャープなグルーヴ感が根っことしてあるんですね。なるほど、納得。

その後、『妖精』で作曲面をリードする3人、Alberto Gaviglio(g)、Michele Conta(Key)、Ezio Vevey(G & Flute)が加わり、6人編成となり、プログレッシヴ・ロック・バンドへと大きく舵を切ります。バンドの最後のピースとして、ヴォーカルのLeonardo Sassoが加わってラインナップが完成。バンドはいったんライヴ活動をストップし、スタジオに篭もり、1年間をかけて作曲に専念します。出来上がったデモ・テープが、何とあのヴァンゲリスの弟Nico Papathanassiouに気に入られ、彼のプロデュースで録音されたデビュー作が『妖精』です。

Alberto Gaviglio(g)
Michele Conta(Key)
Ezio Vevey(G & Flute)
Oscar Mazzoglio(Key)
Luciano Boero(B)
Giorgio Gardino(Dr)
Leonardo Sasso(Vo)

アルバムのオープニングを飾るのは、彼らの代表曲であり、イタリアン・シンフォニック・ロックの中でも屈指の名曲と言える「A Volte Un Instante Di Quiete」。冒頭から、つややかで透明感あるトーンのピアノによるクラシカルで流麗なフレーズが溢れ、そこにスティーヴ・ハケットの影響を感じさせる繊細なタッチながらスリリングなギターが続き、シャープなリズム・セクションもボトムを支えて、あぁ、ただただ圧巻!どこまでも見渡せるような透明度の高い音の数々、そこからくっきりと浮かび上がる幻想世界。何というイントロ。ハモンドもかぶさってくるわ、フルートも入ってくるは、ジェネシスと初期P.F.M.の最良の瞬間が合わさったような、なんて言っても過言ではないアンサンブルに驚きます。彼らの出自から分かるように、ジェネシスやP.F.M.のフォロワーではなく、R&B時代から技術と音を磨き上げた「ベテラン」と言える経験と実力があるわけで、しかも、その実力にも関わらず表舞台とはずっと縁がなかったわけで、ようやく作品として世に出せるという喜びが溢れた渾身のアンサンブルに胸が熱くなります。それにしても、リズム・セクションの充実ぶりは凄い。クリムゾン1stでのマイケル・ジャイルズや、初期P.F.M.でのフランツ・ディ・チョッチョにも比肩すると言える素晴らしさ。ただただ至福。

T1: 「A Volte Un Instante Di Quiete」

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2曲目のタイトル・トラック「Force Le Lucciole Non Si Amano Piu」で、いよいよヴォーカルLeonardo Sassoが登場。美麗なアンサンブルとは対照的に、カンツォーネやオペラの国イタリアならではの情熱的で哀愁に満ちた歌声が特徴で、バンコのヴォーカリスト、ジャコモを彷彿させます。アンサンブルの緻密さと「歌」の持つパッションとの対比が生むダイナミズムというか生命感がこのバンドの希有な魅力と言えるでしょう。もし繊細な美声のヴォーカルだったとしたら、これほどの震えるほどの感動はきっとなかったはずです。そして、ヴォーカルとともにもう一つ特長的なのがフルート。軽やかに舞うフルートから放たれる叙情性はキャメルにも負けていません。9分を超える大曲ですが、めくるめくキメのパートの連続で、まるでジェネシス、キャメル、P.F.M、バンコを濃縮したような極上のアンサンブルが続きます。ルネッサンス~バロックの歴史と文化が確かに息づく気品とエネルギー。1曲目から2曲目へと続く16分間は、シンフォニック・ロックが生んだ最上級の時間と言えるはずです。

T2: 「Force Le Lucciole Non Si Amano Piu」

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3曲目以降も佳曲がずらり。ヴァイオリン奏法によるゆらゆらと独特なトーンのリード・ギター、軽やかにたゆたうムーグ・シンセ、光の揺らめきのように煌めくリズム隊による浮遊感と幻想性と清涼感とが絶妙にバランスした3曲目「Profumo Di Calla Bianca」はイル・ヴォーロにも負けない「音を描く」センスを感じさせるし、バンコばりに春爛漫な「歌」が溢れる4曲目「Cercando Un Nuovo Confine」はただただ感動的だし、「歌」のパートとテクニカルなパートとをつんのめるような変拍子のキメで鮮やかにつなげていく5曲目「Sogno Di Estunno」は1曲目と同じくプログレ・ファン歓喜間違いなしだし、イ・プーやタイ・フォンにも負けない繊細な美メロたっぷりの6曲目「Non Chiudere A Chiave Le Stelle」も泣けるし、メロディとドラマを愛するプログレ・ファンにとって至福と言える楽曲が続きます。

T6: 「Non Chiudere A Chiave Le Stelle」

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そして、最後を飾るのがイタリアならではの詩情溢れる「歌」と1曲目にも負けない器楽性とが見事に同居した、彼らにしか描けないシンフォニック・ロックの名曲「Vendesi Saggezza」。軽やかに流れていくピアノ、霧のように幻想的にたなびくシンセ、ロマンと気品に溢れるハープシコードやビブラフォン、その上に降り注ぐ陽光のように柔らかでまばゆい「歌」。「歓喜」というキーワードがぴったりの演奏と歌にただただ心躍るばかり。場面の展開をドラマティックに演出するキメのパートの切れ味もジェネシスやジェントル・ジャイアントに一歩も引けをとっていません。そして、「麗しの」という形容がぴったりのピアノに導かれ、1曲目のテーマがリフレインされ、感動のフィナーレを向かえます。なんという構成美。ただただ華麗。

T7: 「Vendesi Saggezza」

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圧倒的な完成度にも関わらず、「シンフォニック・ロック」にとっての逆風の中、人知れずにシーンの片隅に置き忘れられてしまった、でもそんな時代が生んだ悲劇がプログレ・ファンの心をグッととらえて離さない愛すべき一枚。その点では、同年にリリースされた英国プログレの名作、イングランド『ガーデン・シェッド』とともに、プログレッシヴ・ロックがシーンに放った華麗なる最後の一撃として永遠にプログレ・ファンに記憶されることでしょう。聴き手のロマンを永遠にかきたて続ける、イタリアのみならずユーロが誇るシンフォニック・ロック大傑作です。


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