2023年8月18日 | カテゴリー:ユーロ・ロック周遊日記,世界のロック探求ナビ
名盤からディープな作品、そして注目の新鋭まで、ユーロ諸国で誕生した様々なプログレ/ロック名作を掘り下げていく「ユーロ・ロック周遊日記」。
本日は、イタリアを代表するプログレ・バンドであるBANCO DEL MUTUO SOCCORSOに影響を受けた期待の新鋭をご紹介します!
PREMIATA FORNERIA MARCONIと共にイタリアン・プログレの象徴的なアーティストとして知られるBANCO DEL MUTUO SOCCORSO。
Vittorio NocenziとGianni Nocenzi兄弟のツイン・キーボードによるキーボード・オーケストレーション、そしてグループの顔と言えるFrancesco Di Giacomoのパワフルなカンツォーネを特色とし、前述のPREMIATA FORNERIA MARCONIに次いでワールドワイド・デビューを遂げました。
L’ Abero del Pane (The Bread Tree)
彼らが1970年代に発表した『バンコ・ファースト』、『ダーウィン』、『自由への扉』、同名映画のサウンドトラック『赤いカーネーション』、『最後の晩餐』、ローマ音楽家組合管弦楽団と共演した『ディ・テッラ』、『春の歌』、そしてワールドワイド・デビュー盤である75年の『イタリアの輝き – バンコ登場』といった作品たちはすべてイタリアン・プログレの必聴作!
およそ半世紀前の作品でありながら、それぞれのアルバムが現在もなお再発され続け、音楽ファンを楽しませ続けています。
I ruderi del gulag
2014年、バンドはCLUB CITTA’での来日公演直前にFrancesco Di Giacomoが交通事故により急逝、さらに翌15年にはギタリストRodolfo Malteseが病死という不幸に見舞われます。
この悲しい報せに対し、世界中のプログレ・リスナーたちから追悼のメッセージが寄せられました。
その後、新たなメンバーを迎えた彼らは、2019年に25年ぶりのスタジオ・アルバム『トランシベリアーナ~シベリア横断、人生の旅路』、さらに22年には『オルランド~愛のかたち』を発表し、イタリアン・プログレの重鎮として活動を継続させています。
プログレッシヴ・ロックの中では比較的早い時期に出合うであろうBANCO DEL MUTUO SOCCORSOの作品群ですが、特に1972年に発表されたデビュー・アルバム『バンコ・ファースト』のジャケットは強烈なインパクトですよね!
「壷型の貯金箱」がデザインされたパッケージは、プログレッシヴ・ロックの様々な変形ジャケット中でも群を抜いて奇抜なアイディア。
しかし、バンド名が「共済銀行」というイタリア語から来ていると聞けば、それはそれで意味ありげでカッコ良く見えてくるから不思議です。
(ちなみにPREMIATA FORNERIA MARCONIは、本国でチェーン展開しているパン屋さんから名前を取ったんだとか)
それでは、そんな『バンコ・ファースト』に収められている18分超の大曲「魔術師の園(Il Giardino Del Mago)」を聴いてみましょう!
魔術師の園(Il Giardino Del Mago)
サイケデリック・ロックの残り香を感じさせつつも、ツイン・キーボードの強みを生かしたクラシカルなスタイル、荘厳でありながら妖しさも感じさせるサウンド、そして対比させるように漂う牧歌性。
現在のプログレ・リスナーたちが求める「イタリアン・プログレらしさ」が、高濃度で詰まった傑作ですね!
1972年に『バンコ・ファースト』が発表されてから50年の節目となる2022年、イタリアから注目の新鋭、LIMITE ACQUE SICUREがアルバム・デビューしました。
なんと彼らはトリビュート・グループとして、BANCO DEL MUTUO SOCCORSOの楽曲をレパートリーに活動していた経歴の持ち主。
BANCO DEL MUTUO SOCCORSOのハイ・レベルな楽曲を習得していくうちにオリジナル曲の作曲に目覚め、ついにデビュー・アルバム『Limite Acque Sicure』をリリースしました。
まずは10分を超えるオープニング・ナンバー「Sogno d’Oriente」からどうぞ!
Sogno d’Oriente
しっかりと骨格を作るリズム隊のPaolo BolognesiとFrancesco Gigante、クラシカルに楽曲を彩るキーボーディストAntonello Giovannelli、シンフォニックな楽曲にヘヴィーな味付けを加えつつメロディアスなソロ・フレーズも担うギタリストLuca Trabanelliによるアンサンブルが素晴らしい!
イタリア語のリード・ヴォーカリストAndrea Chendiは、安定した味わい深い歌唱を披露、このあたりの表現力はFrancesco Di Giacomoを通じて磨いていったのでしょう。
加えて、6人編成のLIMITE ACQUE SICUREにはフルートを操るAmbra Bianchiが参加しており、オープニング・ナンバーから軽やかなフルートさばきを披露しています。
本家BANCO DEL MUTUO SOCCORSOも、キーボードのGianni Nocenziが兼任フルート奏者としてクレジットされていました。
次に、4曲目に収められたスロー・テンポな楽曲「Antico mare」もチェックしてみましょう。
Antico mare
激しく技巧的な演奏の合間に訪れる牧歌性は、その緩急が大きいほど胸に沁みますよね。
PREMIATA FORNERIA MARCONIやBANCO DEL MUTUO SOCCORSOから続く、イタリアン・プログレの大きな魅力のひとつではないでしょうか?
こういったバラード曲で聴いてみると、リード・ヴォーカリストAndrea Chendiの歌声はFrancesco Di GiacomoよりLE ORMEのAldo Tagliapietraに近い声質かもしれません。
では最後に、もう1曲ご紹介しましょう!
実は本作には、彼らが敬愛するBANCO DEL MUTUO SOCCORSOのカバー曲がライブ・レコーディングで収録されているんです!
楽曲は、上でご紹介した「魔術師の園(Il Giardino Del Mago)」ですね!
ぜひ、原曲と聴き比べてみてください。
Il Giardino Del Mago (LIMITE ACQUE SICURE)
いかがでしたか?
LIMITE ACQUE SICUREのデビュー・アルバム『Limite Acque Sicure』は、7曲のうち3曲が10分を超える大曲で仕上げられており、とても聴き応えのある内容となっています。
BANCO DEL MUTUO SOCCORSOのファンの方はもちろん、ネオ・プログレの潮流ではないヴィンテージなサウンドを求めるプログレ・リスナーの方にも是非オススメしたい1枚です!
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