2010年11月19日 | カテゴリー:-
タグ:
スタッフ佐藤です。
KAKERECO DISC GUIDE、今回はイギリスの女性フォーク・シンガーJanet Jonesが72年に発表した1stアルバム『SING TO ME LADY』を取り上げたいと思います。
イギリス本土のほぼ中央に位置するウェスト・ヨークシャー州キースリー。The Whoの名ライヴアルバムが録音されたリーズ大学の所在地リーズから西へ十数キロほどの場所にあり、青々とした田園がなだらかに続くイギリス片田舎のイメージそのままの風景が広がる町です。
そのキースリーで1945年に生まれ、貧困に見舞われながらも父の影響で幼少より歌と詩に親しみながら成長したJanet。20代前半でギターを学び始め、60年代末ごろには地元のフォーク・クラブや祭りの場などで演奏活動を行うようになります。
当時彼女の本職は教師で、日中は教鞭を執って過ごし、夜にフォーク・クラブやイベントでミュージシャンとして演奏する日々を送っていたようです。
そんな彼女に転機が訪れたのが1971年。ノース・ヨークシャーで開催されたデイルス・ナショナル・フォーク・コンテストのフィメールシンガー部門に出場し、ボブ・ディランの「明日は遠く(Tomorrow Is A Long Time)」を歌ったJanetは見事優勝を果たします。さらにその実績を買われ、レコードデビューする運びとなるのです。
翌72年、同年設立されたばかりのフォーク・レーベルMIDAS RECORDSよりリリースされたのが、デビューアルバム『Sing To Me Lady』です。ちなみにこのMIDAS RECORDS、FOLKAL POINTやGALLERYなど英マイナー・フォークの人気盤を残した伝説的レーベルとして現在では知られています。
そうして1972年に発表されたJanet Jonesのデビュー作『Sing To Me Lady』。オリジナル曲の他に、「Old Pendle」「Amazing Grace」などの英国トラッド・ソング、カナダのSSWレナード・コーエンやバフィ・セント=メリーのカバーなど12曲が収められています。
まず特徴として挙げられるのが、Janetによるアン・ブリッグスを彷彿させる清楚さの中にほのかな温かみが宿った歌声。歌自体はやや抑揚に乏しい印象で正直特別に上手いわけではないのですが、真面目に一所懸命歌う様子が伝わってくるようで、そのひたむきさが聴く者の胸を静かに揺さぶります。
イギリス片田舎の景色が浮かぶような演奏も魅力で、彼女自身のアコースティックギターに加え、バンジョー、ベース、ハーモニウムなどが彩る牧歌的なサウンドは、いかにも英国フォーク然とした素朴で端正な味わいに溢れたもの。飾らないシンプルに徹した演奏が、Janetの歌をさりげなく引き立てています。
アルバム冒頭を飾る、瑞々しい歌声が耳に心地よいアカペラ曲。イギリスのフォーク・シンガーRay Fisherのカバー。
11世紀に在位したイングランド王ウィリアム1世をテーマにした自作曲。自身のアコギ弾き語りに物悲しい旋律を弾くセカンドギターが絡むメランコリックな一曲で、トラッド・ナンバーと言われても納得してしまう風格があります。
アルバムのタイトル・ナンバーで、本作中最も明るい響きを持つ一曲。煌びやかなアコギに乗って伸びやかに歌うJanetも素晴らしいですが、アンサンブルを密かに支えるベース、朗らかなバンジョーの音色もいい味出してます。
カナダが誇る名SSWにして詩人/作家レナード・コーエンのカバー。原曲での気だるげな雰囲気は小川のせせらぎのような清冽さに置き換わっていますが、全く違和感なく英国らしいフォーク・ソングに仕立てていて素晴らしいです。
デビューアルバム『Sing To Me Lady』発表から2年後の1974年に2ndアルバム『Janet Jones』を発表します。この作品はほとんどがカバー曲で構成された実質カバーアルバムとなっていて、彼女にとって大事な曲であるボブ・ディラン『明日は遠く』も収録された一枚。さらに2年後の1976年にEP『A Fresh Wind Waves』を発表。これは『嵐が丘』で有名なヨークシャー出身作家エミリー・ブロンテの詩に音楽を付けた作品で、本作の制作は彼女がミュージシャンとして長年抱き続けた目標でもありました。
その後70年代後半にJanetは結婚して3児の母親となり、リーズに移り住んでからは教職にも復帰していますが、ライヴ活動は定期的に続けており、時にはヨーロッパでライヴを行う機会もあったようです。
さらに2011年には、76年のEP『A Fresh Wind Waves』に収録されなかったチェロパートのスコアが発見され、新規録音されたチェロパートを加えリマスターが施された『A Fresh Wind Waves』をリリースするなど、晩年まで音楽活動への熱意が衰えることはありませんでした。
そんな彼女ですが、2017年に72歳で逝去されています。
一人でも多くの方に、このどこまでも素朴で優しい音楽が届くことを願ってやみません…。
教師をしながら歌を歌っていた英国の女性SSW。FOLKAL POINTやGALLERYをリリースしたMIDASより72年にリリースされたデビュー作。清楚さの中に、少しだけハッとするようなまどろみ感のある歌声は、いかにも英国然としています。ギターやベースやバンジョーやハーモニウム奏者が参加していて、緊張感ある音を含んだ2本のアコギのアルペジオが幻想的にからみあうアンサンブルなど、MELLOW CANDLEも彷彿させます。英フィメール・フォークのファンは必聴の逸品です。
教師をしながら歌を歌っていた英国の女性SSW。72年のデビュー作と同じく、FOLKAL POINTやGALLERYをリリースしたMIDASよりリリースされた74年作の2ndアルバム。清楚さの中に、凛とした感じもある美しい歌声、そして心にスッと染みこむ流麗な演奏。ほとんどがカバー曲で構成されていますが、サイモン&ガーファンクルの1stあたりのリリカルな小曲を英フィメール・フォークに仕立てたような印象があって、すごく良い感じ。切々と紡がれるアコギのアルペジオ、そこに、静かに寄り添う抑制されたトーンのエレキのアルペジオも素晴らしいです。繊細かつリリカルなエレキのリードも泣けるなぁ。これは英フォーク・ファンは必聴!
コメントをシェアしよう!
カケレコのWebマガジン
60/70年代ロックのニュース/探求情報発信中!