2021年5月27日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
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こんにちは。
スタッフ佐藤です。
以前の記事では、フィンランドのみならず北欧ロックを代表するギタリストJukka Tolonenについてご紹介いたしました。
今回は、60年代末~70年代前半にかけて彼が率いたロック・バンドTASAVALLAN PRESIDENTTIにフォーカスしていきたいと思います!
5年という短い活動期間ながら、WIGWAMと並びフィンランド・ロックを象徴するグループとなった彼らのサウンドに迫ってまいりましょう。
まずはJukka Tolonen特集でも触れた、フィンランド出身ミュージシャンの特色について探ってみたいと思います。
フィンランドには、700年以上にわたる「抑圧」の歴史があります。13世紀から19世紀初頭まではスウェーデンに、それから20世紀初頭まではロシアによる統治を受けました。
独立の機運が高まってきていた1899年、同国の大音楽家シベリウスによる交響詩「フィンランディア」が発表されます。民族意識の覚醒を促すために作曲された交響詩で、フィンランドの人々に民族の誇りと自信をもたらし、自国の文化と伝統の尊さを実感させました。そして1917年、ついにフィンランド王国として念願の独立を果たしたのです。
「抑圧」の歴史に「民族意識の高揚」をもって抗い、独立を勝ち取ったフィンランド国民。その意識は、音楽において民族音楽を尊重する姿勢に現れています。
その点で、北欧諸国の中でもフィンランドは特に民族音楽と深く結びついたサウンドを鳴らすミュージシャンが多いのが特徴。
今回取り上げるTASAVALLAN PRESIDENTTIもまた、英国ロックに影響を受けつつも、フィンランドのトラッド・ミュージックを下地に持つサウンドを提示し、フィンランドのトップ・グループへと上り詰めたのです。
弱冠15歳でArto Sotavalta & Roguesの一員としてレコード・デビューを果たし、その後バンドHELPで活動していたギタリストJukka Tolonenと、同じくHELPのドラマーだったVesa Aaltonenを中心に、1969年TASAVALLAN PRESIDENTTIは結成されます。「共和国大統領」を意味するバンド名は、新聞の見出しからインスピレーションを得て名づけられました。
他のメンバーは、ベーシストMans Groundstroemと英国人シンガーFrank Robsonがブルース・ロック・バンドBLUES SECTIONの元メンバー、フルート/サックスのJuhani Aaltonenは60年代半ばから活動するジャズ・ミュージシャンという経歴の持ち主。
69年といえば、英国シーンではTRAFFIC、COLOSSEUM、JETHRO TULLなどジャズやブルースをベースにしたロック・バンド達が活躍していた時期にあたります。メンバー選びからも実際のサウンドからも、英国シーンに呼応するブルースやジャズを取り込んだロック・サウンドを打ち出そうとしたことがうかがえます。
彼らは、66年設立のLOVEレコードと契約し、同年に1st『TASAVALLAN PRESIDENTTI』でデビュー。LOVEレコード設立者の一人Otto Donnerプロデュースのもと制作された本作から「I Love You Teddy Bear」がラジオ・オンエアを通してヒットし、バンドの第一歩は成功を収めました。
1stリリース後に管楽器担当がJuhani AaltonenからPekka Poyryに交代。Pekkaもまたジャズ・シーンで60年代より活躍してきた名手でした。1970年、その年に始まり現在まで続く同国の代表的ロック・フェスRUISROCK FESTIVALで好演を披露したことで、期待のニューカマーとして注目される存在になります。
バンドの転機は同年に訪れます。首都ヘルシンキでライヴをしていたところを、大物コンポーザー/ミュージシャンBob Azzamの目に留まり、スウェーデンでレコードを出さないか?と提案を受けたのです。フィンランドよりも大きな音楽マーケットが広がるスウェーデンでのデビューに向け、Azzamを通じスウェーデンのColumbiaと契約した彼らは、2ndアルバム『Tasavallan Presidentti(II)』を制作。71年にアルバムはリリースされます。Azzamが感銘を受けた1stのヒット曲「I Love You Teddy Bear」の再録も含む本作は、スウェーデンで好調なセールスを記録、これを機にバンドはスウェーデンでの活動に軸足を移します。
2nd以降、Jukka Tolonenはジャズや実験的要素を含む複雑な曲作りに傾倒します。そこにブルース・ロック志向だったヴォーカリストのFrank Robsonが反発。バンドを脱退してしまいます。後任にはHELP時代にJukkaのバンドメイトだったEero Raittinenが収まりました。
バンドはスウェーデンやフィンランドで精力的なライヴ活動をおこなう傍ら、マーキークラブやキャバーンクラブでのステージも含む英国ツアーも敢行、本場英国でも評判を高めていきます。
フィンランドでの活動はLOVEレコード所属、スウェーデンでの活動は移籍したSONETレコード所属としていた彼らは、両レーベルが共同で関わり制作された3rd『Lambertland』を73年にリリース。ソロ活動を通じ作曲能力をメキメキと伸ばしたJukka主導でジャズ要素や実験的な要素を増した本作はフィンランドでチャート7位を記録、ついに英国でもリリースされ、耳の肥えた評論家にも絶賛を受けました。
74年に4thアルバム『Milky Way Moses』を発表。本作はフィンランドとイギリスに加え、カナダ、ドイツ、そしてアメリカでもリリースされ、とうとう彼らのサウンドが世界で聴かれることになりました。しかしベーシストが脱退したバンドは分裂状態に陥り、スウェーデンでのツアーを終えると、同年にあえなく解散を迎えます。
世界での大きな商業的成功こそなかったものの、わずか5年間の活動で、彼らの音楽は世界を認めさせるに至ったのです。
ここからは、各アルバムを聴きながらサウンドの変遷を辿っていきましょう。
彼らの音楽性は、
①Jukka Tolonen覚醒前「フィンランドのトラッド」+「英国シーン影響下のブルース・ロック」と言える1st&2nd
②Jukka Tolonen覚醒後「フィンランドのトラッド」+「アヴァンギャルドなジャズ・ロック」と言える3rd&4th
に大きく分けられます。
ブルース・ロック畑の2人Mans GroundstroemとFrank Robsonが曲作りを主導していた前半期と、Jukka Tolonenが台頭しジャズや実験要素を取り込んでプログレ度を高めた後半期で、サウンドがかなり変わっているのがポイントと言えるでしょう。
フルートとアコギがデリケートに寄り添う「森と湖の国」のイメージ通りのトラッド・アンサンブルに、突如熱っぽく切り込んでくるブルージーなギター!まさに彼らが目指した方向性を象徴するオープニングと言えるでしょう。
英国人シンガーRobsonのヴォーカル・スタイルからも、R&Bの要素を含むルーズなアンサンブルからもTRAFFICからの影響が強く感じられます。
Jukka Tolonenのギターもまた、デイヴ・メイソンのようなブルージーでコシのあるプレイを軸に縦横無尽なプレイを披露。
前作のナンバー3曲の再録を含んだスウェーデンでのデビュー作となる2ndアルバム。
賑やかにかき鳴らすアコースティック・ギターと流麗なフルート、小気味よいパーカッションらが織りなすトラッド・ミュージック、フリーキーに吹き鳴らすサックスがもたらすジャズ要素、ヴォーカルのブルージーでワイルドな歌いっぷり。そして、それらをすべての要素を含んで全編を駆け巡るのがJukkaのギターです。
ブルース由来のルーズなフレーズをグッとタメを効かせて弾いたと思ったら、サイケがかったトーンでせわしなく疾走をはじめ、一転流麗なジャズ・スタイルでしっとり聴かせる、まさしく変幻自在なギターワークが痛快無比。
一方で、まるで民族楽器カンテレを爪弾くように繊細なタッチのアコギとフルートの響きがフィンランドの神秘的な自然風景をイメージさせるナンバーからは、やはりトラッド・ミュージックの豊かな素地も感じることができます。
ギタリストJukka Tolonenがコンポーザーとして覚醒し、全曲の作曲を手掛けた3rdアルバム。
ブルージーなルーズさは一切なくなり、目まぐるしく緻密に展開するアーティスティックなジャズ・ロックを聴かせます。同一バンドとは思えぬほどの変貌ぶりに驚くかもしれません。
その緻密さと対比するように、幻想的なフルートやアコースティック・ギターのプレイ、そして民族音楽から引用されたと思われるフレーズも数多く散りばめられており、自分たちのルーツは揺るぎなく存在しているのも特筆。
本作で聴けるサウンドの背景には、Jukkaが前年の71年にソロ・デビューを果たしていることが関係していると考えられます。その作風はまさに「ジャズと民族音楽のミックス」で、その路線での作曲で感じた手応えを、バンドにフィードバックさせた形となっているのではないでしょうか。
ギターとサックスがユニゾンしながら、狂騒的とも言えるほどに鋭くハイテンションに畳みかけるアンサンブルは、スウェーデンのアヴァン・ロック・バンドSamla Mammas Mannaも彷彿させるものがあります。
「北欧のロック」のイメージに重なる、ジャジーでシャープで緻密でアーティスティックな名盤です。
この4thも前作を引き継ぐジャズ・ロック・スタイルですが、ハイテンションだった前作からすると、ポップさすらあるリラックスしたサウンドが印象的。
この変化もおそらくJukkaのソロワークと密接に関連していて、73年にリリースされた2ndソロ『Summer Games』における民族音楽を咀嚼した躍動感と気品を備えたフレーズを、洗練されたジャズ/フュージョン・タッチで淀みなく紡いでいくスタイルに非常に通じているのです。
本作の頃にはJukkaがバンド内で大きな位置を占めるようになっており、他メンバーの不満を買った結果のベーシスト脱退だったと云われていますが、彼のソロと同一化した結果としての解散であったならば、それは必然だったのかもしれません。
フィンランド最高のロック・バンドの一つTASAVALLAN PRESIDENTTIの魅力を感じていただけたでしょうか。2019年には2ndと3rdがリイシュー、未発表だったライヴ・アルバムも発掘された彼らに、この機会にご注目いただければ幸いです!
北欧を代表するギタリストJUKKA TOLONENを中心に結成されたフィンランドのジャズ・ロック・グループが、72年に残した未発表ライヴ音源を収録した19年リリース作。同年リリースの3rd『Lambertland』のナンバーが中心で、どこまでも奔放なようでいて一音一音にデリケートな感性も滲ませたJukka Tolonenの素晴らしいギターワークが存分に味わえます。オリジナル通りの演奏はそこそこに、スリリングなインプロヴィゼーションへとなだれ込んでいく演奏が聴き物で、スタジオ盤以上に手数多く暴れるハードなドラム、サイケ/ブルース/ジャズを混ぜ合わせシャープにフレーズを繰り出すギター、ジャジーなサックスにクラシカルで妖艶なフルート、そしてソウル色のあるヴォーカルと、いろんなジャンルを混合しながらも、ごった煮感は一切なくあくまで洗練された聴き心地なのが凄いです。スタジオ作品だけでは堪能しきれない、このバンドの懐の深さが垣間見れる音源となっています。
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北欧を代表するギタリストJUKKA TOLONEN率いるグループ。69年作の1st。TRAFFICからの影響が感じられるサイケデリックなブルース・ロック。スティーヴ・ウィンウッドにそっくりなブルージーなヴォーカル、デイヴ・メイスンやクラプトンに引けを取らない雄弁なギター、ジャジーにむせび泣くフルート&サックスによるスケールの大きなサウンドは、驚くほどの完成度。60年代後期の英サイケ/ブルース・ロックの名作と比べても全く遜色ない名作。
北欧を代表するギタリスト、JUKKA TOLONENを中心にフィンランドで結成されたグループ。72年作の3rdアルバム。初期はTRAFFICタイプのサウンドでしたが、徐々にジャズの度合いを増し、本作で聴けるのは、ギター、サックス、フルートが次々にスリリングなフレーズで畳み掛けるテンション溢れるジャズ・ロック。テクニック、アレンジ能力ともかなりハイ・レベル。ジャズ・ロックの知られざる傑作でしょう。
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19年デジタル・リマスター、ボーナストラック2曲
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天才ギタリストJukka Tolonenを中心とするフィンランドのプログレ/ジャズ・ロック・バンド、最終作となった74年4thアルバム。本作は自国フィンランドのみならず英国、カナダ、ドイツ、アメリカなど世界各国でリリースされた一枚で、それに恥じぬ高い完成度のジャズ・ロックを聴かせてくれます。前作『LAMBERTLAND』でアヴァンギャルドさとクリアな北欧幻想が入り混じる個性的なジャズ・ロックを創出した彼らでしたが、本作ではそこにWIGWAMにも通じるポップなメロディを加味。ジャズ、ブルース、サイケとクルクル表情を変える変幻自在なギターを軸に舞うようなサックスも交え奔放な音の交歓が繰り広げられるサウンドは、『FAIRYPORT』『BEING』あたりがお気に入りという方なら堪らないでしょう。本作リリース後にベーシストが脱退したバンドは分裂状態に陥り、スウェーデンでのツアーを終えると、同年にあえなく解散。この先のサウンドが聴いてみたかったと思わずにはいられない充実作!
北欧を代表するギタリストJUKKA TOLONENを中心に結成されたフィンランドのジャズ・ロック・グループ。71年リリースの2ndアルバム。終始エネルギッシュに駆け抜ける一曲目から名曲!小気味よいパーカッションを絡めたリズムと賑やかにかき鳴らすアコギ、テンションMAXで吹き鳴らすサックスらがひた走るイタリアン・ロックにも通じる祝祭感に満ちたアンサンブルに、JUKKA TOLONENのサイケとブルースを折衷した奔放なフレージングのギターワークが乗るこのスリリングさと言ったらありません。他の曲では、フルートの響きが北欧の神秘的な森をイメージさせるトラッド・ロックや、芳醇な鳴りのオルガンとブルージーな深みを帯びたギターのコンビが堪らないTRAFFICタイプのブルース・ロックなど多彩に聴かせます。ソロ・ミュージシャンとしても成功するJUKKA TOLONENの才覚が炸裂している名盤です。
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