2020年4月17日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
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こんにちは。
スタッフ佐藤です。
今回は、フィンランド出身のギタリストJukka Tolonenの魅力に迫ってまいります。
まずは、彼が属する北欧のロック・シーンにある程度共通して見いだせる魅力を挙げてみましょう。
といった要素が思い浮かべられるのではないでしょうか。
今回取り上げるフィンランドのギタリストJukka Tolonenは、それら全ての要素をハイレベルに満たした、まさに「ミスター北欧ロック・ギタリスト」と呼ぶべき存在です。
そんな彼について迫る前に、フィンランドという国のことに簡単に触れてみたいと思います。13世紀から約600年にわたって隣国スウェーデン王国によって統治され、その後100年以上を帝政ロシア統治下に置かれたフィンランドの歴史は、中世以降つねに「抑圧」と共にありました。
帝政ロシア統治下にあった19世紀末のフィンランドにおいて、民族覚醒と独立を大きく促したのが、フィンランドのみならず近代北欧を代表する大音楽家シベリウスです。独立の機運の高まりを受けロシアが圧力を強める中、1899年にシベリウスが発表した交響詩「フィンランディア」は、フィンランドの国民運動の中心を担うとともに、フィンランドの人々に民族の誇りと自信をもたらし、自国の文化と伝統の尊さを実感させました。そして1917年、ついにフィンランド王国として念願の独立を果たしたのです。
シベリウスはフィンランドを独立へ導いた英雄の一人として、音楽家という枠を超えてフィンランド国民から尊敬を集める存在となっています。ユーロ導入以前の100マルッカ紙幣に彼の肖像が描かれていたことも象徴的です。
700年以上続いた「抑圧」の歴史に「民族意識の高揚」をもって抗い、独立を勝ち取ったフィンランド国民にとって、自国の文化を誇り守り続けていこうという思いが他国に比べ強いであろうことは想像に難くありません。
それが音楽家であれば、自国の民族音楽が創作の基盤としてゆるぎなく存在するのは、ごく自然なことであると言えるでしょう。
その点でフィンランドは、民族音楽が根付く北欧にあっても特にその傾向が強い国であると見ることができます。
そんなフィンランドの民族音楽にも触れておくと、フィンランドの民間説話を集め編纂された全50章からなる民族叙事詩「カレワラ」を題材にしたものが最も知られます。代表的な民族楽器が最大40弦のものまでがある琴のような弦楽器カンテレで、「カレワラ」の物語を弾き語るスタイルが最も一般的。その神秘的な旋律はロックやポップス、メタルなどにもごく普通に取り入れられています。
またフィンランドは人口に比して世界的な音楽家の数が非常に多いことが知られますが、それは国中に子供のための音楽学校Musiikkiopistoがあり、幼少より音楽、特にクラシックを学ぶチャンスが非常に多いという要因も影響しています。そこでは最初の和音の勉強を5弦カンテレを使いおこなうのが決まりとなっており、クラシックと民族音楽の自然な結びつきも感じることができます。
そんなフィンランドのミュージシャンの素養を踏まえつつ、ここからはJukka Tolonenが参加した作品をいくつか取り上げながら、北欧ロックを代表するギタリストたる所以を紐解いていきましょう。
1952年に生まれ、6歳からギターを手にする11歳まではピアノを学んでおりクラシックに親しみます。それからはギタリストとして活動を始め、14歳でバンドに加入、弱冠15歳だった67年にはArto Sotavalta & Roguesの一員としてシングルをリリースするなど、早熟ぶりを発揮。
そのシングルB面「Lady Jane」で聴けるギター演奏は、かつてクラシックを学んだ事とも結びつく繊細な表現力と流れるように端正な音運びが見事で、15歳という年齢を考えても卓越したものがあります。「職人気質なテクニック」の基礎を早くもここに見ることができます。
ちなみに彼がギターを始めた1963年は、ビートルズがデビューした年。幼少に培ったクラシックの基礎に、英国のビート・バンドやクラプトンなどブルース・バンドやマイルスなどのジャズをリアルタイムに分け隔てなく聴き吸収しながら、スタイルを作り上げていったのではないでしょうか。のちのTASAVALLAN PRESIDENTTIの作品で聴ける彼のギターからはそんな流れが想像されます。
1969年に、JukkaとドラマーのVesa Aaltonenが中心となりバンドTASAVALLAN PRESIDENTTIを結成します。2人以外のバンドメンバーは、ベーシストとシンガーがブルース・ロック・バンドBLUES SECTIONの元メンバー、フルート/サックスのJuhani Aaltonenは60年代半ばから活動するジャズ・ミュージシャンでした。
英国シーンではCOLOSSEUM、TRAFFIC、JETHRO TULLなどジャズやブルースを基礎にしたロック・バンド達が活躍していた時期にあたり、メンバー選びからも実際のサウンドからも、英国シーンに呼応するブルースやジャズを取り込んだロック・サウンドを打ち出そうとした構想をがうかがえます。
69年に1st『TASAVALLAN PRESIDENTTI』、70年にはSSWのPekka Strengとコラボした『MAGNEETTIEHEN KUOLEMA』をリリース。各地での精力的なライヴ活動や、フィンランドのロック・フェス「RUISROCK FESTIVAL」での好演が大物ソングライター/シンガーBob Azzamの目に留まり、71年に彼のプロデュースでスウェーデンのColumbiaから2nd『II』がリリースされる運びとなります。
ここでは、最もTASAVALLAN PRESIDENTTIというバンドの本質が表れたその2ndをピックアップしましょう。
賑やかにかき鳴らすアコースティック・ギターと流麗なフルート、小気味よいパーカッションらが織りなすトラッド・ミュージック、フリーキーに吹き鳴らすサックスがもたらすジャズ要素、ヴォーカルのブルージーでワイルドな歌いっぷり。そして、それらをすべての要素を含んで全編を駆け巡るのがJukkaのギターです。
ブルース由来のルーズなフレーズをグッとタメを効かせて弾いたと思ったら、サイケがかったトーンでせわしなく疾走をはじめ、一転流麗なジャズ・スタイルでしっとり聴かせる、まさしく変幻自在なギターワークが痛快無比。
一方で、まるでカンテレを爪弾くように繊細なタッチのアコギとフルートの響きがフィンランドの神秘的な森をイメージさせるナンバーからは、トラッド・ミュージックの豊かな素地も感じることができます。
TASAVALLAN PRESIDENTTIでの活動の傍ら、70年代フィンランド・ロック最大のビッグネームであるWIGWAMの70年作『TOMBSTONE VALENTINE』と71年作『FAIRYPORT』にゲストとして参加しています。
『FAIRYPORT』より、彼の参加曲「Rave Up For The Roadies」を聴いてみましょう。
同年のTASAVALLAN PRESIDENTTIの2ndとは異なり、ハード・ロック的と言える激しいプレイに耳を奪われます。ただそんな中でも、不意にジャズのスケールで駆け上がっていったり、民族音楽調の愛らしいフレーズを織り交ぜたりと、やはりいろんなフレイヴァーが溶け合ったギター・サウンドであることがわかりますよね。
上記2作品と同じ71年にソロ・デビューも果たしているJukka。本作で聴けるのは「ジャズと民族音楽のミックス」。サイケやブルースの要素はなくなり、ジャズの奏法を大幅に取り入れた音数多くスリリングなジャズ・ロックをベースにしています。そこにアコースティック・ギターや管楽器群が哀愁のフレーズを奏でる民族音楽の要素を絡ませたサウンドを提示。ジャズ由来のクールさと民族音楽の躍動感が見事に一体となった名盤です。
同年のあいだにここまで多彩にスタイルを変えられるギタリストはそうはいないはずです。
そして、前作の1stソロで見せた本格的なジャズのスタイルをフュージョン的滑らかさも加えてより磨き上げた結果、自身のプレイ・スタイルを遂に完成させたと言えるのが、73年の2ndソロ『SUMMER GAMES』。
せわしないまでに弾きまくっていた71年頃の作品とは打って変わって、民族音楽を咀嚼した躍動感と気品を備えたフレーズを、洗練されたジャズ/フュージョン・タッチの演奏で淀みなく紡いでいくこのスタイル。
最初に挙げた北欧ロック3つの要素が完全に一つとなった珠玉のギタープレイと言うことができるのではないでしょうか。
本作以降も、民族音楽のフレーズを下地にしたジャズ/フュージョン的スタイルで数多くの名作をリリースするJukka。アルバムをフィンランドのチャート6位に送り込んだり、ラジオでの放送回数で年間トップを達成したりと、フィンランドの国民的ギタリストの地位を確立しました。
「ミスター北欧ロック・ギタリスト」Jukka Tolonenの魅力、味わっていただけたでしょうか。
北欧のギタリストとしてロイネ・ストルトにも比肩する才能を持つ、もっともっと評価されるべき名ギタリストだと思います。
北欧を代表するギタリストJUKKA TOLONENを中心に結成されたフィンランドのジャズ・ロック・グループが、72年に残した未発表ライヴ音源を収録した19年リリース作。同年リリースの3rd『Lambertland』のナンバーが中心で、どこまでも奔放なようでいて一音一音にデリケートな感性も滲ませたJukka Tolonenの素晴らしいギターワークが存分に味わえます。オリジナル通りの演奏はそこそこに、スリリングなインプロヴィゼーションへとなだれ込んでいく演奏が聴き物で、スタジオ盤以上に手数多く暴れるハードなドラム、サイケ/ブルース/ジャズを混ぜ合わせシャープにフレーズを繰り出すギター、ジャジーなサックスにクラシカルで妖艶なフルート、そしてソウル色のあるヴォーカルと、いろんなジャンルを混合しながらも、ごった煮感は一切なくあくまで洗練された聴き心地なのが凄いです。スタジオ作品だけでは堪能しきれない、このバンドの懐の深さが垣間見れる音源となっています。
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北欧を代表するギタリストJUKKA TOLONEN率いるグループ。69年作の1st。TRAFFICからの影響が感じられるサイケデリックなブルース・ロック。スティーヴ・ウィンウッドにそっくりなブルージーなヴォーカル、デイヴ・メイスンやクラプトンに引けを取らない雄弁なギター、ジャジーにむせび泣くフルート&サックスによるスケールの大きなサウンドは、驚くほどの完成度。60年代後期の英サイケ/ブルース・ロックの名作と比べても全く遜色ない名作。
北欧を代表するギタリスト、JUKKA TOLONENを中心にフィンランドで結成されたグループ。72年作の3rdアルバム。初期はTRAFFICタイプのサウンドでしたが、徐々にジャズの度合いを増し、本作で聴けるのは、ギター、サックス、フルートが次々にスリリングなフレーズで畳み掛けるテンション溢れるジャズ・ロック。テクニック、アレンジ能力ともかなりハイ・レベル。ジャズ・ロックの知られざる傑作でしょう。
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19年デジタル・リマスター、ボーナストラック2曲
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天才ギタリストJukka Tolonenを中心とするフィンランドのプログレ/ジャズ・ロック・バンド、最終作となった74年4thアルバム。本作は自国フィンランドのみならず英国、カナダ、ドイツ、アメリカなど世界各国でリリースされた一枚で、それに恥じぬ高い完成度のジャズ・ロックを聴かせてくれます。前作『LAMBERTLAND』でアヴァンギャルドさとクリアな北欧幻想が入り混じる個性的なジャズ・ロックを創出した彼らでしたが、本作ではそこにWIGWAMにも通じるポップなメロディを加味。ジャズ、ブルース、サイケとクルクル表情を変える変幻自在なギターを軸に舞うようなサックスも交え奔放な音の交歓が繰り広げられるサウンドは、『FAIRYPORT』『BEING』あたりがお気に入りという方なら堪らないでしょう。本作リリース後にベーシストが脱退したバンドは分裂状態に陥り、スウェーデンでのツアーを終えると、同年にあえなく解散。この先のサウンドが聴いてみたかったと思わずにはいられない充実作!
北欧を代表するギタリストJUKKA TOLONENを中心に結成されたフィンランドのジャズ・ロック・グループ。71年リリースの2ndアルバム。終始エネルギッシュに駆け抜ける一曲目から名曲!小気味よいパーカッションを絡めたリズムと賑やかにかき鳴らすアコギ、テンションMAXで吹き鳴らすサックスらがひた走るイタリアン・ロックにも通じる祝祭感に満ちたアンサンブルに、JUKKA TOLONENのサイケとブルースを折衷した奔放なフレージングのギターワークが乗るこのスリリングさと言ったらありません。他の曲では、フルートの響きが北欧の神秘的な森をイメージさせるトラッド・ロックや、芳醇な鳴りのオルガンとブルージーな深みを帯びたギターのコンビが堪らないTRAFFICタイプのブルース・ロックなど多彩に聴かせます。ソロ・ミュージシャンとしても成功するJUKKA TOLONENの才覚が炸裂している名盤です。
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